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21.晩御飯はミートボールパスタです

7月中になんとか更新できてよかったです

ブクマありがとうございます

本当に励みになってます

 

 

 何かララがひゃっほうしてる。何が何やらどうしちゃったんだろう。くるくる回りながら僕の周囲を飛び回っている。


「ララ、どうしたんだ。ちょっと落ち着いて!」


 僕の声を聞いてピタッと止まりギギギと僕の方へと振り向く。 (もちろんクローズアップ画面になって)


『すいませんなのですマスター。つい嬉しくなってなのです』


 耳まで真っ赤にしてペコペコ謝るララ。さっきとは立場が逆だ。


「何でそんなにテンション上がっちゃったの?ララ」


 ララはワンピースを埃を払うようにパンパン叩くと、右手人差し指を天に掲げ宣言した。


『ララにとっての地上最強の呪文を覚えたからなのです!!』


 は?まだ序盤の序盤で最強の呪文ってどゆこと?

 慌ててメニューを開いてスキル【土魔法】を見てみる。


 Lv1 ストンビット

 Lv2 ストンバレット

 Lv3 グランディグ


 ふむ、このLv3のグランディグって奴か。カーソルを動かして説明文を見てみる。


 呪文:グランディグ

    任意の場所に穴を掘ることが出来る

    大きさはLvに準拠


 穴を掘るのが最強の呪文?ってよく分からんな。

 ララにとって、それが最強なんだろうが。んー。


『これからの戦闘でその真髄を見せるのです!』


 やる気満々なララに水を差すのも悪いと思ったけど仕方がない。


「ララ。残念だけど夜になっちゃうから戻らないと」

『………!のぉっ!!』


 僕の言葉にララはショックを受けたようにホッペに手を当て悶絶する。今日のララはいろんな顔を見せてくれる。僕は思わずホッコリする。


「戦ってもいいけど、夜間帯はモンスターって強くなるんだろ?」

『はいなのです。昼間帯より1.35倍強くなるのです。それに夜だけ現れるモンスターも出てくるのです』


 今のLvなら問題は無いみたいだけど用心にこしたことは無い。青かった空は、赤くオレンジ色に染まってきているゲーム画面とは思えない程とても綺麗だ。

 時刻も6時を過ぎたところだ。ゲームやってると時間が過ぎるのが早いね、


「それじゃ、街に戻って今日はログアウトかな」


 そう呟くとララはガックリ肩を落とし落ち込む。明日も必ずプレイするからと慰め様とした時、姉がいつもの言葉を発してくる。


「キラくん、お腹すいた。ゴハン!」


 仰向けになって僕にそう言ってくる。勢いでたゆんと揺れる。今日の午後はずっと寝転がってたというのに、何て燃費の悪さだ。僕は溜め息を吐きいつもの様に姉に聞く。


「何が食べたい?」

「んーと、“公国の下町パスタ”」

「あ~。あれか……」

「うん!お・ね・が・い」


 寝転がってウィンクされてもあんまり嬉しくもない。

 公国の下町パスタというのは、怪盗の孫という3代目が映画の中でとある国で食べたパスタのことである。沢山のミートボールとミートソースがかけられた大盛りのパスタを競って2人が食べるシーンは有名である。

 

 ネットでは、芸能人の人が自分なりのパスタを作って公開していたように、僕も僕なりのパスタを以前作っていたのだ。それ以来、姉はこのパスタを〝公国の下町パスタ”と呼んでたまに作ってくれとせがんで来る。はぁー。それじゃ作るとしますか。

 と言っても食材は全くないので、また買い出しに行かねばならない。もうあのスーパーで会員カードを作ったほうがいいかもしれない。立ち上がろうとしたが――――そうだったよ。


「サキちゃん起きてよ。ご飯作れないよ?」


 いつの間にやらうつ伏せになって、オデコを僕の太股にグリグリさせてる。スキンシップというより、もはやなんかの病気じゃなかろうか。「んぐ〜〜〜〜っ」と言って何かと葛藤するように、またグリグリしてる。姉よ、はよ起きてください。

 お、その前にログアウトをしておこう。


「ララ。ログアウトするから、今日はここまでな」

『……くっ。わかり―――』


 僕の言葉にララが悔しそうに返事をしようとした時、姉が突然ガバッと起き上がり遮るように話し出す。


「待った。キラくんがご飯作ってる間はあたしがゲームやってるから」


 え?また!?いいのかなぁそれで……。僕の視線の訴えに姉は呑気に答える。


「いーの、いーの。それにララちゃんとお話したいしね」

『なのです!』


 姉の言葉にララが元気を取り戻して返事する。ま、皆がいいならいいのだろう。僕は立ち上がりキッチンに向かおうとすると、姉が呼び止める。


「キラくん、端末出してくんない?ほれほれ」


 言われたとおりに端末を取り出すと、姉が自分の端末を操作して、僕の端末に軽く当ててくるとチャリーンと音がしてくる。


「はい、OK。今までのバイト代と食料費」


 懐中時計型端末のホロウィンドウには5万円の入金が表示されていた。


「ちょっ、多くないない?これ」

「まーいろいろ成果とかあったし、それに………ね☆」


 ここに来る度にご飯を作れってことか。まぁ嫌いじゃないから構わないけど。ねぇ?

 はぁー (幸せが逃げていく)と溜め息を吐いて、キッチンに向かう。

 お昼に使った大鍋を取り出し、水をいっぱいに張りコンロに火を入れる。


「アルデ。火の番を頼む」

『かしこまりました。キラさま』


 エコバッグを手に取り、僕は出掛ける事にする。



   *


 リビングからキラくんを見送った後、ララちゃんへと向き合う。


「進捗状況はどんな感じかな?」

『まだ全体の0.02%といったところなのです』

「そんなもんよねやっぱ、んじゃまずは街に戻るわね」

『了解なのです。サキさま』


 ビシシっと敬礼をするララちゃんに思わずほくそ笑むあたし。ヘッドセットを首にかけてコントローラーを掴む。


「えっと、魔法で戦ってけばいいのよね」

『そうなのです。土はもういーので火か水でお願いなのです』

「風はいいの?」

『風でも問題ないのです。どんどん使ってなのです』

「わかったわ。それじゃ戻りましょ」

『了解なのです』


 街までは未踏破部分を埋めていったけど、幸か不幸かモンスターとは出くわさなかった。ララちゃんはほーっと安堵の息を吐いている。?なんで。キラくんじゃ無いから緊張したのかしら。

 そんな事を思いつつ、足を冒険者ギルドへと向ける。ギルドの中に入るとギルド嬢が笑顔で迎えてくれる。


『いらっしゃいませ。どのような御用件でしょうか?』

「依頼の達成と訓練所を貸して貰える?」

『はい、ギルドカードをお願いします』


 カードを渡し精算をしてもらう。あたしはその様子を画面からじーっと見つめる。ギルド嬢が手続きを終えてカードを返してくる。


『はい。ではホーンドッグとワイルドッグの討伐報酬の900GINになります。訓練所へは右の通路を奥へ進んだ先にございます。ご利用ありがとうございました』


 ぺこりとおじぎをして送り出すギルド嬢。特に何かが変わった感じはしない。ま、ものは試し程度だし気にしすぎもよろしくないだろう。

 あたしは“ヤマト”を操作して左の通路に入り真っ直ぐに進む。右側の階段を通り過ぎてさらに奥へと進む。

 そこは体育館程の広さの運動場のような場所だった。

 すると、初級クエストで説明してくれたガンさんが音もなく現れる。


『ようこそギルド訓練所へ。何の訓練をするのかな?』


 ウィンドウが現れ、訓練メニューが表示される。魔法訓練。ターゲット3つを選択。


『では訓練を始める。終わる時には声を掛けてくれ』


 ガンさんの言葉とともに小部屋に転送され、その5m程先に木人形が3体、地面から湧き上がってくる。

 あたしはさっそくオートアクションプレイの設定を押し、ロックオン複数指定、呪文選択、発動を火、水、風と繰り返して設定を終えて、オートアクションプレイを起動させる。

 すると、木人形に向かって魔法を放ち始める。


「さぁ、じゃチャッチャとはじめますか」


 あたしはミニPCを取り出し、作業開始をララちゃんに告げる。


『了解なのです』



   *



 ほしひとつ、ほしふたつ、ほしみっつ!はつどう。

 ファイヤビットとさけぶとちいさなほのおがきにんぎょうをこうげきする。きにんぎょうのHPを1/3ほどけずる。

 

 ほしひとつ、ほしふたつ、ほしみっつ!はつどう。

 アクアビットとさけぶとちいさなすいてきがきにんぎょうをこうげきする。きにんぎょうのHPを1/3ほどけずる。

 

 ほしひとつ、ほしふたつ、ほしみっつ!はつどう。

 ウィンドリッパとさけぶとちいさなかぜのうずがきにんぎょうをこうげきする。きにんぎょうがひかりのつぶになってきえていった。


 このこうどうをなんどもなんどもくりかえす。やはり、きにんぎょうあいてだとすこしばかりあきがくる。

   ・

   ・

   ・

 しかし、なんどかくりかえしていると“それ”がやってきた。


 ピロコリン

 [火魔法 が Lv2 に なりました]

 [火魔法 の ファイヤバレット を 覚えました]

   ・

   ・

   ・


 ピロコリン

 [水魔法 が Lv2 に なりました]

 [水魔法 の アクアバレット を 覚えました]

   ・

   ・

   ・


 ピロコリン

 [風魔法 が Lv2 に なりました]

 [風魔法 の ウィンドカッタ を 覚えました]


 まほうのLvがあがったようだ。いままでみているだけだったので、じゅもんをえらべるのかやってみる。

 ロックオン。1たいだけえらぶ。じゅもんをえらぶ。できる。よし、おれにもできる。いままでつかってなかったじゅもんをえらぶ。

 

 ほしひとつ、ほしふたつ、ほしみっつ!はつどう。

 ストンビットとさけぶといしのつぶてがきにんぎょうをこうげきする。きにんぎょうのHPを1/2ほどけずる。いったいだけだとダメージりょうがすこしだけふえるようだ。

 

 つぎに、ストンバレット、ファイヤバレット、アクアバレット、ウィンドカッタをつかってみる。それぞれにぎりこぶしぐらいの、いしのかたまり、ひのかたまり、みずのかたまり、そしてかぜのやいばがきにんぎょうをこうげきする。

 

 1たいだとに3/4のダメージ。3たいどうじだと1/2ぐらいのダメージをあたえるみたいだ。

 おれはオートアクションプレイがかいじょされるまで、まほうをくりだしていた。



   *


 そんなことがあったとはつゆ知らず、15分ほどして姉宅に戻った僕はさっそく調理を始めることにする。

 と言っても、パスタを茹でてソースを絡めるだけの至って簡単なものだ。


「アルデ、ありがとう」

『おそれいります』


 湯が沸いた大鍋に再度火を入れて沸騰させる。そこへ塩をガバリと放り込み少しかき混ぜた後、パスタを3袋分投入。


「アルデ。タイムカウント8分で頼む」

『かしこまりました』


 次に中央の魚焼きグリルを引き出し、そこにつくねの串焼きを5本並べて入れてオリーブオイルを垂らし中へ戻して火を入れる。

 ひと串に大きめのつくね団子が3コあるから全部で15コもあれば充分だろう。 (たぶん……)

 そして、大鍋の隣のコンロにフライパンを置いて、オリーブオイルをひいて火をつける。そこにガーリックチップ適当にパラパラ入れる。油が弾けてきた頃に短冊切りにしたベーコンを入れる。今回は野菜を入れない肉祭りだ。

 

 そこにミートソースとデミグラスソースの缶 (350g)を2つ開けてどババと入れる。しばらくしてクツクツいい出したのを見て、魚焼きグリルからつくね串を取り出し、串をはずしてソースへポトポトと落とし入れてソースを絡ませる。


『タイムカウント間もなく8分です』

「おっ、いかんいかん」


 パスタをかき混ぜながら、ピザ用のとろけるチーズをドパッとたっぷりソースへ投入。チーズが溶けてソースの中へ消えていく。ソースにとろみが増していく。ソースとチーズの匂いがたまらなく漂ってくる。

 「むひょ〜」リビングから奇声が聞こえるがスルーする。


『8分経ちました』

「サンキュ。アルデ」


 アルデの声に火を止めて、パスタの煮汁を適当量ソースへ入れて、フライパンにパスタを入れて絡めていく。

 量が量なので、結構大変だ。トングで絡める絡める絡める絡める。よし、ミートボールパスタの完成。棚にあった大きなポール鉢 (何でこんなのが?)を取り出し盛り付ける。取皿2つと別の皿にバターロール10コをのせて今日の晩御飯の出来上がりだ。

 

 そういや高校の授業で“文化の相違と認識の格差”というのをやった時、映像アーカイブのTV番組で“日本のパンはパンじゃない”“パンというのは生活に兆した共にあるもの”とか“柔らかくて毎日食べる気にならない”等とヨーロッパ系の外国人がボロクソ言ったのを、日本の一部のパン業界の人が怒って外国人への不売運動が起こったなんてのがあったな。

 

 その映像アーカイブでは、TV番組で司会者が謝罪会見までしてたのを見た記憶がある。その授業では、自分の文化が必ずしも他の文化と同じとは限らないので認識を持ちなさいとか言ってたな。ようは口は禍の元と僕は思ったのを覚えている。

 パスタの入ったボール鉢を持ってリビングへ。姉はすでにテーブルを片付けて準備をしていた。 (はやっ)

 パスタを置いて、フォークと取皿、パンを持って来る。


「キラくん。粉チー!!」


 ありゃ、いかん忘れてた。キッチンに戻り粉チーズとコップ、冷蔵庫から500mlのビール缶と取り出しリビングへと取って返す。


「おっふ☆キラくんわかってるぅ」


 粉チーズを渡すと、姉はこれでもかとパスタにドバババと振りかける。コップにビールを注ぎ、パスタを取り分けて食べることにする。


「いただきまーす」

「いただきます」


 まずは、つくねという名のミートボールをパクリ、んーソースが絡んでカリカリの表面と中の柔らかなお肉の歯ごたえがなんともいえない味わいを感じさせる。次にパスタにフォークを絡めてパクリ。

 チーズとデミグラスとミートソースが手を取り合いパスタに絡まってえも言われぬハーモニーを奏でている。ケンカしてなくて良かった。

 

 しかし、山盛りに作ったけど食べきれるだろうか。けど、これが“公国の下町パスタ”なのだからしょーがない。あまったらラップして冷蔵庫行きだ。姉は隣で「うまっうまぅ」と犬のようにガツガツ食べてる。あー口の周りがソースだらけ……。

 

 そんな僕の思いは杞憂に終わった。そこには、きれいに空になったボール鉢が置かれていた。姉は口元をティッシュで拭き、お腹を叩いて満足そうに寝転がっていた。2/3以上食べた気もするが大丈夫だろうか。(作っといてなんだけど)

 さてと食器を片付けようとした時、ララの拗ねたような声が聞こえた。


『マスター達ばかりずるいのです!。ララもマスターのお料理が食べたいのです!!」


 いやいや、だから無理だってばさ。ララさん。




 

  


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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