208.キラくんの行動を観察する その35
姉回です
キラくんからのメールが入ってきて、あたしはすぐさま返信する。
色々いろいろイロイロと神経がささくれだっていたものが、ススーっと洗い流されていくのが何とも不思議な感じだ。
どうやら父さんが、あの親族共の事に関してお詫びの品をキラくんのとこへ送ったみたいだった。
そしてリクエスト、何食べる〜〜〜〜〜っ!!
これってアレだよねっ?あの!ゴハン?お風呂?それとも――――ぶふっ!!
ぐふっ!鼻の奥がツンとしてくる。いやいやいやいや!そんな妄想してるばやいじゃない。
何度か深呼吸を繰り返して、我を取り戻してからリクエストを返す。その間コンマ5秒。(嘘)
そして愛車を最短距離でキラくんのアパートへと走らせる。
はいっ!カレナポと肉ドっリっアっ!
あのケチャップくどいスパゲッティに、更にくどいカレーを盛ったくどくどスペシャリテ!(くどいは誉め言葉)
それと、肉とチーズと米の饗宴のドリアはあたしにとっての定番なのだ。
どっちかと言うとソウルフードに近いかもしんない。
料理が壊滅的なあたしに代わって、小っちゃなキラくんが作ってくれた料理だからだ。
母さんが下拵えしてくれた食材を調理しただけなんだけど、それでも小学校低学年のキラくんにとっては大変なものだったと思う。(あたし出来ないし。つーかあんたは料理すんなと母さんに言われた)
なので、この2つの料理は大切であり、魂の食事なのだ。(ちと大袈裟か)
愛車を駐車場に止め、ドアをバタタンと閉めてすかさずアパートへと突進。それこそが今のあたしには最重要の任務なのだ。(変態言うなや)
ドっバァンとドアを開け、キッチンにいたキラくんのお腹へとダイブ!
あぁ、はあ〝あ〝〜………。キラくんのにほい。ふにゅう~~~~~っっ!!
ぐりぐりぐりぐりと頭をすり付けこすり付けていく。
もうね。今回の挨拶回りは神経をすり減らす事ばかりだったのだ。
あの親族共から始まって、変な自意識過剰な男とかセクハラ紛いのおっさんだとか。(わしの愛人にしたるけとか、思わず手が出そうになったわ!いや、出さないよ?すぐ逃げたし)
代替わりするとあーいう二代目三代目が出てくるのは、なんでなのか………。(もちろんそことは完全無欠に切り捨てました。へっへー)
ようは発言には責任を持てって話だ。
そんなこんなでキラくん成分を充填させて、その後は居間で料理ができる合間にビールとFベジ漬物を堪能してると、大皿にたんまりと乗せられたナポリタンとカレー、そして肉ドリアがやってきた。匂いからして尋常じゃない。これは美味いよっ!
あたしはフォークとスプーンを手に取り攻略を開始する。
まずはカレナポ。肉ドリは少し冷まさないと危険なのだ。(特に舌が)
カレナポといっても最初からカレーは盛られてなくて、ナポリタンにカレーを自分の好みの量で調整できるようになっている。
だからこの後は、大皿からナポをトングで取り分けカレーをそこにかけて食べるをひたすら繰り返すだけだ。(あと時々ビールね)
ビールがなくなりそうになってきて、それを見たキラくんが何を飲むか聞いてきたので、あたしはハイボールをお願いする。
カレーとチーズにちょびっとタバスコとケチャップのコラボレーションが口の中でハーモニーを奏で口の中が幸福感に包まれる。はふぅん。
この如何にもなチープ加減が良いのだ。そして美味しい。
そこにキラくんが持ってきてくれた、ハイボールをくぃと煽る。
あ、スモーキーな香りに甘さが湧き立つ感触が口の中で泡とともに踊る。
「ほえっ?これ、どしたのっ!?」
「父さんが送って来たヤツだよ。他にも色々あるみたい」
あたしがウィスキーについて訊ねる、カレナポを食べ始めたキラくんがそんな事を言ってくるのにあたしはすぐ理解する。
これも父さんのお詫びの品かと。
これけっこーお高いヤツだ~と少しだけ機嫌を直しながら一気に飲み干していく。
キラくんにお替りを所望し、あたしは肉ドリアへと取り掛かる。(この辺りから記憶がとっ散らかってる気がする)
肉ドリアを頬張りながら、今回の挨拶回りの愚痴をくだ巻いたような、なかったような?
気づいたら朝で、キラくんのベッドで寝ていたあたしなのだった。
いまだ酔いの醒めない頭でフラフラしながら居間に向かうと、キラくんがいたので挨拶をしてそのまま卓袱台にうつ伏せになる。う~~………昨日はちょい呑み過ぎた。
キラくんが持って来てくれた水をくくっと一気にあおると、次第に意識が浮上してくるのが分かる。
そして朝ゴハンがやってくる頃には完全に回復する。
ゴハンが美味しく食べれるのはいーことだ。
食事しながらキラくんに今日の予定を訊ね、あたしも一緒に行くことを告げる。
食後まったりとした中、テレビをザッピングしてると、朝のジャンケンプライムが始まろうとしていた。
相手は現在人気沸騰中のアナウンサーだ。
まぁイケメンって言われてるみたいだけど、キラくんには負けてるね。ふっふーん。
あたしはリモコンを手にチョキを選択。
昨日までの精神的疲労も酔いも洗い流されすっきりさっぱりだ。
時間が来てジャンケンが始まる。
「くにゅう!おのれイケメンめっ」
結果は相手がグーを出してあたしの負け。
そこにキラくんがやって来て座椅子に座りHMVRDを用意するのを見て、あたしも行動を開始する。
キラくん工房のあたしの部屋に入り椅子に腰掛け、バッグからHMVRDを取り出し装着して起動。
酔いによる異常確認にも弾かれる事なくライドシフトしてVRルームへ。
『おはようございます。あるじ様』
「おはよ~レリィ。さっそくログインするわよ」
『あっ!あるじ様――――』
レリィの慌てたような声を耳にしながら、あたしはゲームへとログインする。
「う゛えぇえっ!?まだ酔ってるぅ………」
醒めたはずの酔いが再びあたしに襲い来る。
いや、どちらかと言うとそんなに酷いものではない。
身体と頭が少しフラフラする程度だ。
………でも、これはちょいきついかも。
これはミラに要相談かも………。うぶっ………。
あたしの状態を見たキラくんに介抱されながら、そういやと思い出す。
確かにあの時は浴びるように呑んだもんねぇ。
そこにロリバ………ショビちゃんがやって来て、呆れた様な笑い声をカラカラ発してくる。誰のせいだと………いかん、これはブーメランになる。
あたしが水を飲んで【酩酊】を回復させてる間、キラくんは武器や防具の店を場所をショビちゃんへと聞いているのが耳に入ってくる。
店ってなんか武器とか買うのかな?
【酩酊】から回復したのであたし達はショビちゃんの家をお暇して、外に出たところでラギくんにどこに行くのか訊ねる。
すると調理の上位スキルを買いにスキルショップと、武器と防具を買いたいとの事でそちらの店に行くのだとか。
なる程なる程、着実にレベルアップしてるみたいだね。ふんふん。
あたしの場合ちょっとだけ、そうほんのちょっとだけチートしてるのでラギくんとLv的にはそう大差はない。
だって仕事もあるから、そうそうログイン出来ない場合もあるのだ。
ラギくんは定期的にログインしてる事を鑑みると、一緒に楽しむ事を前提にすれば致し方がない事でもある。(レイちゃんに土下座したし………)
とは言ってもステの調整とサブスキルのスロット数を増やして貰ったくらいだけど。
でもそれだけでもプレイするのに優位性が上がるのは確かなのだ。
実際変な双子が店員のスキルショップでも【ゴミシリーズ】をコンプできたり、【双小剣】に付随するスキルなんかも手に入れる事ができた。やっふぅである。(ちなみにこの【シリーズ】ものは、全部をスキルスロットに設定すると、1つに統合されたりする。まぁ普通はスロット数の関係でやらないけど)
その後は武器防具屋でラギくんが装備を買って、今は街の中を散策中だ。
時折広場やら小さな公園を通る度、ラギくんがチラチラとアレを見てうむむと唸る。
もちろんあたしはアレが何なのかを知ってる。
気になったラギくんがソレに近づいて鑑定してからあたしに聞いてくる。
もちろんあたしは知らんぷり。知らないよ?
そこにルリちゃんがとやっ!てダイブ。あー………。そして起動。
この仔も一体何なのやら。
ここにあるギミックってそう簡単に起動しないように設定してあったんだけど………はぁ。とりあえずこれもミラに報告しておこう。
よもやこんな形でイベントが始まる事になるとはねぇ。
もうこうなると芋づる式にというか、なし崩し的にイベントが進んで行くだろう事は目に見えるようだ。
まあ、それはそれで塩漬け案件が片付くと思いばいーのかも知れない。(とでも思わないとやってられない)
ラギくんはこの手のイベントは回避する性質だから、あたし達は関与しないだろうし。(逆に変なのには色々巻き込まえてるし)
とりあえずお昼になったので一旦ログアウトとライドシフトをして、お昼ゴハンを頂いてから再度ログイン(地方限定ラーメン美味しゅうございました)
ログインすると案の定PC達が、あちらこちらでうろつき回っているのが目に入ってきた。ウンウン、頑張れ〜………。
適当に街中を歩いていたので方向が分からなくなったところ、ララちゃんのナビで路地を通り抜け冒険者ギルドの近くまであっさりと出る事ができた。(さっすがララちゃん)
そして冒険者ギルドの中へ入ると、ララちゃん達が次々と料理を注文し始める。
ラギくんが武器屋で散財したのを見てたのであたしが出すよって言ったけど、ララちゃん達は躊躇する事なく料理を頼んでいく。
そしてあたしの肩に乗ってきたアトリちゃんが、こしょこしょとお願いをしてくる。
あたしはそれに頷くと、店員へとさらなる注文をして行った。
これが後でめっちゃ助かる事になったりする。
そこにラミィ達がやって来て、ルリちゃんと何やら仲良くアクションをしている。………いつの間にっ!?
ぐぬぬっ、ルリちゃんがラミィにとら………。あぁー………興味なさげにしていたアンリが、ルリちゃんを凝視してラミィへと問い質している。
なんか眼力とか圧力とかが半端なく、ひしひしとこちらに伝わってくる。うん、変態か。
そのアンリはルリちゃんと挨拶を交わすと、その可愛さの為に撃沈する。さもありなん。
何となくこのパーティーメンバーの立ち位置が決まった瞬間かもしれない。
こうしてあたし達は予定通りにカアンセの街からデヴィテスの街へと向かうのであった。
しばらくは特になんの問題もなく街道を進んでいたんだけど、途中ラギくん達の目が異様なほど爛々とし始める。
何かのスイッチ―――って、あ〜分かった、分かった。
要は馬肉が欲しくてはっちゃけたって話だ。
この後はまさに肉祭り状態だった。
馬狩りというか肉狩りの為に、街道を逸れ馬モンスを見つけては倒して西へとラギくん達が突き進む。
あたし達は止める間もなく、仕方なくラギくん達の後を追う。
あたしとラミィは困惑し、アンリはルリちゃんを抱っこしてご満悦。
腰程まである下生えを気にする事もなく、狩る狩る狩る。
ってなんでウリスちゃんってば空中を走っんてんのやら。
結局サーバルぜブリアンを狩るラギくん達のフォローにまわる様に、あたしとラミィは他のモンスターを倒していく。(なんでかドロップに肉が多いのが気になった)
そしてあたしは気づく。ここが侵入不可領域を過ぎてる事に。
本来であれば見えない壁で、PCは阻まれなければならない場所。
それを通り過ぎて進めているのだ。
あたしとラミィがそんな話をしてると、いきなり地面が揺れだして上空にコスプレした巨大なタジマが現れ、アホな事を言ったかと思うとその瞬間足元の地面がなくなり(文字通り)あたし達はその穴へと落下していく。
空は遥か上方へと消え去り、辺りは闇に覆われる。
そしてラミィの叫び声が周囲にこだまし響き渡る。……覚えてるよ、タジマ。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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