206.とある冒険者の境界探索 Side A
俺達は道なき道を腰程まである下草を鉈で切り開きながら進んで行く。
ここは第3サークルエリアと呼ばれる領域のその東の先の先。
いわゆる前人未到の地である。
今までどういった訳かは知らないが、進む事が出来なかったこの先の地がいつの間にか行けるようになった。
なぜそんな事が分かったのかと言えば、とある人物からその情報を得てその地の調査の依頼を請けたからだ。
あのいかにも怪しげなアフロヘアーの男―――バロンに。
あの男はプロロアの街でまだ俺が操主と共に冒険をしていた時、とあるきっかけで知り合った露店の主だ。
あの時も掴みどころのないと感じたが、再び見えた時もやはり飄々と言うかその口調も相まってなんとも胡散臭さ満載の印象だった。
そんなアフロのおっさんの言葉に、俺達は了承して今ここにいるって話だ。
「ヤマトぉ〜〜。ちょ〜ウチ限界す」
パーティーメンバーのエルフのハワナーザが流石に根を上げ、俺へと訴えてくる。
このパーティーで1番VITが低い彼女なら致し方ないだろう。
ってか3時間歩きっぱなしか。
「よし。ちょい休もうか」
「おーらい!」
「はい………」
「うむ。一息つこうぞ」
「はへ〜………」
俺の言葉にメンバー全員が安堵の声を上げる。
その様子に自分に余裕がなかった事を自覚する。すまん。
やれやれ。俺も少しばかり視界が狭まっていたようだ。
俺はメニューを呼び出しホロウィンドウを表示させ、アイテム欄から1つのドアを現出させる。
これはバロンからの依頼を請けた時に、報酬の1つとして受け取ったものだ。
もし相棒や操主がこれを見れば、ど〇でもドアという事だろう。(俺は知らないがそういう物があるらしい)
だがこれはど〇でもドアではない。
「警戒。問題ないか?」
「ああ、周囲1キロに反応なし。大丈夫だよ」
俺がカムラに問うと、人懐っこい笑みを浮かべ少年が問題ない事を伝えてくる。
それを聞き、俺はドアノブを握りガチャリとドアを開ける。
ドアの向こうにはそれなりの広さがある部屋があった。
中央には縦長のローテーブルが1つと、4人掛けのソファーが対面に2つある。
正面と奥の壁にはそれぞれ2つづつのドアがあり、その中は寝台と衣装入れが据え付けられている。(ちなみに正面奥のドアは、調理室と風呂場だ)
ようはど〇でもドアならぬど〇でも部屋という訳だ。(ただどこかの家に繋がっている訳ではなく、ドアの先がこの部屋のようである)
「つっかれた~~………」
バフンっとハワナーザがソファーへと倒れ込む。意識していないんだろうが、少しばかり耳が痛くもある。
「わ、」
「気にすんな。あやつはいつものこっちゃ」
俺が謝罪をしようとすると、トッズモが腰を叩き慰めてくる。
確かにいつもの事ではあるが、………まぁいいか。
「ヤマトぉ~~、ウチお腹空いたぁ~」
ソファーに身体を伏せて足をバタバタさせながらハワナーザが言ってくる。
確かに満腹度もかなり下がってるし、仕方がないか。
俺は装備を外し、身軽になってから調理室へと入る。
ほかの皆もそれぞれ自室へと入って行く。(と言っても男は共用なので、一室をそれぞれ交代で使っている)
調理室へと入り食材を取り出し、フライパンをコンロにおいて作業を始める。
【調理】スキルは持っているがそれ程食指が伸びることなく、いつも使っていたせいなのか“焼く”と“煮る”をやっていたらいつの間にか上限に達してしまった。
なのでそれなりに食べられるものは作れる。だけど上位スキルを取る予定はない。女共が酷すぎるだけだ。
あいつ等に料理を作らせる訳には行かない。あ、なんか手が震える………。
こうして人数分のグランドードーのソテーと、アシタタスパイドの肉団子スープが出来上がる。
この領域のモンスターから出た肉だ。
【鑑識】スキルでは全く問題ない事は分かっているので、試食も兼ねて作ってみたのだ。
「あ、出来た?持ってくー」
「頼む」
カムラが調理室に入ってきて、出来上がった料理を持っていこうと手を伸ばす。
「あ、また作っちゃったね。ヤマっち」
だがその手を止め料理を見回し苦笑しながらカムラが言って来る。
「………あー、スマンな。つい」
どうやらまた無意識に相棒とウリスケの分を余分に作ってしまったようだ。
「いーよ、いーよ。どうせ三人娘が喜んで食べるだろうし。でもさぁ、ララっちとウリっちと別れて良かったん?」
以前からの付き合いであるカムラが、そんな事を言い出す。
良いも悪いもない。あの2人が当たり前の場所に戻ったというだけの必然の話なのだから。
AI達はPCに魅かれてしまう。それがこのゲームでの存在意義でもある。そんな気がするのだ俺は。
だから無意識でつい料理を多めに作ったとしても、それは俺の追慕のようなもので本音ではない。
だから俺はカムラにこう答える。
「ああ、もちろんだ。彼の側にいることがあの2人の幸せなんだからな」
「ふ~ん。でもかーいそーだよねぇ、あの2人。あっちじゃこんな美味いもん食えないだろうしさ」
俺の答えに納得したのかしないのか、気のない返事をしつつ料理を見て言いのける。
それに関して俺は、それはどうだろうと心の中で反論しておく。
きっと、こんな料理より珍しくはるかに美味いものを、操主が作り上げるだろう事は自明の理だからだ。
正直言って俺も食いたいっ!
「むっほ~~~~っ!うまっうまっ!!」
「!!!!!!!!!!っっ!」
「酒ねぇん?」
「はふぅん………。んっ、んんっ!美味しいです、ヤマト!」
ハワナーザが夢中でソテーを頬張り、スープを口にしたサヒィカが目を剥き、トッズモが酒を欲しがる。
リィミーモはなんかあっちの世界に逝った様に恍惚の表情を浮かべている。
そしてカムラは無言で黙々と食べていた。
自分が作ったものを喜んでもらえるのは嬉しくはあるものの、操主が作った料理を思い返すと少しばかり首を傾げる己もいるのだ。
そんなに美味いかなーと。俺個人は思うんだが、それは個々の感想なので俺の感情はここでは差し控えておく事にする。
「ヤマっち~これって何の肉?オレ食べた事ない気がする~」
「ああ、さっき狩ったグランド―ドーとアシタタスパイダだ」
「「「ブ~~~~~~~っっ!!」」」
俺の答えに3人娘が噴出した。………汚いなぁ。
「スバイダって、足いっぱいのっ!?」
「そうだ。美味いだろ?」
「美味いけど、美味いけど~~………」
食わず嫌いは良くないぞハワナーザ。スープを見ながら懊悩するハワナーザを見て俺はそんな事を思った。
食事を終えてから(結局全員完食した)、とりあえずこれ迄手に入れたドロップアイテムの確認をそれぞれ始める。
「ぬは~~~っ!すんごい、すんごい!」
「………うぬ、悪くない」
「ま~ま~かな、うん」
「いやいや、これ異常だぞ!?お前ぇら!」
「まぁそれだけの戦闘でしたし、これぐらいの実入りはあって然るべきではないかと思います………?」
ハワナーザが鼻息荒く、サヒィカが腕を組み(たゆんと盛り上がる)唸り、特に気のないカムラへトッズモの突っ込みにリィミーモが遠い目をして納得の声を上げる。
そう。それだけこの領域は異常だった。
出て来るモンスターの大きさは小は俺達のふた回りはあるもの。
大に至っては、小山と見まごうものばかりだった。
と言うか“ど〇でも部屋”がなかったら、とてもいられる領域ではない。
それを見越しての前払いなんだろう。食えないおっさんだ。
そして俺達は休憩を終えて、改めて探索を開始する。
「ヤマト!早く出して下さい!」
リィミーモがいつになくそわそわして要求してくる。
「そう急かすなよ。よっと、頼むぞ」
俺はメニューを出して1つのアイテムを出して地面へと放る。
するとそれはむくりと上半身を起こして立ち上がり移動を始める。
以前、地下迷宮を探索した時に、宝箱から出たアイテムだ。
テマネキクッキーズと言うその“ダンジョン限定”のアイテムは、ダンジョン内の道案内をしてくれるという便利なものだ。
そう、この領域は一見フィールドの様に見えるものの、一種のダンジョンという訳だ。
下草が腰辺りまで生えてる為テマネキクッキーズの姿は見えないが、カサカサという音を頼りに俺達は時おり出て来るモンスターを倒しながら進んで行った。
まばらに生える木々の間を抜けて、俺達はその場所へと出る。
「フィールドボスかにゃ?」
「ダンジョンボスなんじゃね?」
「ふっ、問題ない。斬るだけ」
「お前ぇー等、少しは緊張感もてや」
「残念です………」
かなりの広さのある剥き出しの土の地面の大地を前に、メンバーがめいめいにそんな事を言い出す。
リィミーモはテマネキクッキーズを食べる気満々だったのか、いささか眉尻を下げる。………はぁ。
「来るぞ」
大質量の何かの落下音を耳にして、俺は空を見上げて警戒を促す。
「はい、では。“アプディール・アタック”“アプディール・ガード”“アプレスト・ファイア”“アプレスト・アクア”“アプレスト・ウィンド”“アプレスト・グラン”」
リィミーモが魔導本を取り出し開くと次々と呪文を唱え始め、全員の攻撃力、防御力アップと魔法耐性の付与魔法が付けられて行く。
「“バインドグラベル”」
次にハワナーザが呪文を唱えると、目の前のフィールド全体の地面に光る魔法陣が描かれすぐ消える。
そしてトッズモが前に歩み出て大振りな盾を構える。
俺も斧を手にトッズモの横に立つ。
『『『『『AaaOho――――――――Nnnn!!!!!』』』』』
5つの雄叫びが空から落下音と共に響き、同時に日が陰るとその巨体が俺達の前に降って来た。
ドドドドドドッ!!という轟音と地響きで、地面が揺れ砂塵が舞い上がる。
『『『『『AoaoaoaoaAOhooOoooo〜〜〜〜〜〜〜〜Nn!!!』』』』』
ビリビリと威圧めいた咆哮が俺達を襲う。が、すでに対処済みだ。
砂煙が収まると、そこには1軒の屋敷と見まごうばかりの巨大な5つの頭を持つ狼のモンスターが、こちらを睥睨するように見下ろしていた。
さて、行こうか。
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