204.こんなんもらいました
その凛とした声の響きに、一瞬周囲にいた人達は動きを止める。
そしてすぐに安堵の表情を見せ始める。
なる程。デヴィテスの街ではさすがに有名人なんだろうな。
以前よりも髪が伸びて、背中辺りまでのゆるふわウェーブ。そしてドレスやワンピースではなくクリームイエローのサーコートの様な服を身にまとい幼さが消え凛々しさがマシマシしている。
その瞳は冷たく男達へと向けていた。
「なんだぁ〜このガキ。てめぇーに用はねぇんだよっ!引っ込んでろやっ!」
時代劇なんかでも見ててよく思うんだけど、なんでこういう三下って強者たるものの雰囲気を感じ取れないのかと。
あの雰囲気を醸し出す彼女に対して、僕なんかはとっても敵う事はないと悟るんだけどなぁ。
「どこの誰かは知りませんが、この街での無法は許しません!そうそうに立ち去りなさい!!」
その絶対的な威圧感に及び腰になりながらも、売り言葉に買い言葉と言った感じで男が言い返す。
「っ!っ邪魔だあって言ってんだろうがっっ!!」
そして彼女へと男が手を振りかざす。いや、それは完全に悪手。
もちろんその手は彼女に届く前にあっさりと阻まれる。
「っ!?」
気づくと壮年男性が男の腕を彼女の前で押し留めて、その腕を握りしめる。ん?どこから現れたんだ、この人は………。
「………貴様、このお方への無礼はすなわち、この街での罪となると分かっていよう。つまり貴様は罪人である」
「………っ!?な、何を言ってやがる!離しやがれっ!てめぇっっ!!ぎゃあっ!」
壮年男性に突き飛ばされた男が尻餅をついて、悪態を吐くも杉にその表情は青褪める事になる。
「貴様等聞けっ!この御方こそはこのデヴィテスの街治長代行であらせられるナチュア・デヴィテス様である。控えるがいいっ、愚弄共がっっ!!」
「ひぃっ!」
「ひぃあわわっ!」
その瞬間、平服に剣を履いただけのその壮年男性から発せられた威迫に5人の男たちは恐れ慄き跪く。
それと同時に周囲にいた人達も片膝をつき頭を垂れていく。(ちょっと感動)
そこに幾人もの鎧をまとった兵士がやって来て、次々と5人を捕縛していった。
あれ?そういや街治長代行って聞こえたけど。んん?
「ここにもいるデス!」
「ぎゃっ!!」
知った声が路地の方から聞こえ、そこからあの胡散臭い男が蹴り出されて広場へと転がり出て来た。
そしてその後ろからいつもの格好のヴァーティさんが現れる。
「ふぉおお………風◯の親分さんなのですっ!」
ララが興奮しなら声を上げる。うん、めっちゃ好きだもんね、87さん。
「くっ、わ、私等に危害を加えると、ロヴィオット家の方々が黙っちゃいませんよ?お嬢さん」
負け惜しみなのか強がりなのかそれとも目算があるのか分からないけど、胡散臭い男―――ウサクサ男がそう言いのける。
ロヴィオットってもしかして西街道で襲って来たゴーレムになったヤツかな?それとあの小憎くんだっけ?
「ロヴィオット?いつの話か知りませんが、現在この街にそのような名のものはおりません。もしその名の者がいて何かを言ってくるのであれば、こちらとしては好都合ですわ」
「えっ、はぁああっっ!?」
ナチュアさんの言葉に、ウサクサ男が目を剥き驚く。
「もちろん断罪します。あのような雑菌共を蔓延らせる事は二度とありません」
ナチュアさんの後ろに立つ壮年男性が、無表情なのに何故か怒りがにじみ出ている感じで言葉を漏らす。拳ギリリと握りしめてるし、こわ………。
「そんな、馬鹿な………あの方が?」
立ち上がりかけたウサクサ男が膝落ち崩れる。やった当事者としてはちょっとだけ居たたまれない気分ではある。
「………どうやら詳しく話を聞く必要がおありのようですね」
ナチュアさんが冷めた視線をウサクサ男に浴びせ次に壮年男性へとその視線を移すと、壮年男性が頷いて兵士へと指示する。
「懇切丁寧にだ。特に念入りに相手しろ」
「「「はっ!」」」
兵士が敬礼をしてウサクサ男を懇切丁寧にきつく縛り上げて、どこかへと連行して行ってしまった。
「これにて~」
「2度目なのです!かんどーなのです!!」
「グッグッグ」
「チャ?」
「2度目?」
アトリがしめの言葉を呟き、ララが興奮の面持ちで声を上げる。ウリスケは腕を組んで納得したように前脚を組んで頷き、ルリと姉は何が何だかって顔で首を傾げていたりする。だよね~。
僕は姉に耳打ちして簡単に説明すると、ああと言う顔をして納得する。
「雨具のお店の人のやつかぁ~。へぇ~あたしも見てみたかったかも」
いやいや。けっこー面倒だったから見なくて正解だと思う。
兵士がウサクサ男を連れて行くと、辺りはざわめきを取り戻し始める。
「ありがとうございました。衛騎士総監。助かりました」
「はっ!では後程。これにて失礼いたします!」
壮年男性――――衛騎士総監と呼ばれた人は、僕の方を感慨深い瞳で見てから目礼して去って行った。あ、ども。
そしてナチュアさんが屋台の前に進み出て話ししてくる。
「ご無沙汰ですラギさん。お元気そうで何よりです」
「お久しぶりです、ナチュアさん」
「お久しぶりデ〜スっ!」
僕達が挨拶を交わすと、ヴァーティさんもやって来て挨拶をしてくる。
「お久しぶりなのです!ララ達も元気なのです!」
「グッグッグ!」
「ひさ〜」
「チャ!」
「どうも〜」
ララ達も挨拶を交わし、ルリはよく分からずも姉も右手をひらひらさせて挨拶をする。
「あら、新しい方ですね。はじめましてナチュア・デヴィテスと申します。よしなに願います」
「ヴァーティと言いますデ〜ス。ナチュア様の護衛をしてるデ〜ス」
「チャ、チャチャチャッ!」
「「?」」
元気に挨拶をするルリを見て、ナチュアさんとヴァーティさんが思わず首を傾げる。
それを見たララが簡単に説明をする。
「ルリさんはマスターの従魔なのです。ウリスケさんと同じと思ってなのです」
「そうですか、分かりました」
「デース!」
え?それで分かるの?………まぁいいけど。とりあえず、まずはお礼は言っとこう。
「ありがとうございました。一昨日から絡まれていたんで、まさかこんな手でやって来るなんて思わなかったんで助かりました」
予感はしてたけど、実際に来るとは考えてなかったし。
「いいえ、お気になさらずに。それよりも屋台が終わりましたらお話したい事がありますので、お時間を戴けますでしょうか?」
「え?話ですか?………まぁ、いいですけど」
僕はナチュアさんの言葉にチラと姉を見ると、軽く頷いたのでそれを了承する。
「では、終わった頃にお迎えに上がらせて頂きます。今はこれには失礼いたします」
「では、また後でデ〜ス!」
ナチュアさんがそう言って振り返り広場から立ち去――ーらずにまた戻って来て注文を始める。
「せっかくなので6本お願いします。3本づつ赤と黒で」
「………かしこま〜!赤と黒3本はいりま〜す!」
まぁ、いいけどね。
料理を受取り、ナチュアさん達が改めて広場を去っていき、ようやくその雰囲気が弛緩して元に―――
「なぁなぁ!あんた等代行様とお知り合いなのか!?」「代行様って何がお好きなのっ!?」「ヴァーt、」「代行様の好きな料理って―――」
のべつまくなしに問い掛けてくる人達に、ララがパパンと手を叩いてあっさりとそれを収めてしまう。
「皆さん落ち着いてなのです!こちらはちょっとしたお知り合いというだけなのです!なので、あの方の詳しいことは全く持って知らないのです!ごめんなさいなのです!」
「グッ!」
「そ〜り〜」
そう言うとペコリとララとウリスケ、アトリが頭を下げる。人のざわめきが消え辺りがしんとする。
『『『『………………』』』』
とりあえず僕も頭を下げておこう。
それを見て、どうやら我に返ったらしい人達が、あってな感じでしばし沈黙する。
バイト先の店長|(別の)から愚痴混じりによく聞かされた事がある。
商売ってのは頭を下げるのが一番大切な事だ。
それは感謝であり、心の姿勢であり、本道であると。
まれに勘違いしたお客が、何やかやと言って“責任”などと追求したりするけど、それは単なる利用者であって客じゃないので、無視しなさいと鼻で笑うように言っていた。
あくまで客と店は対等な存在であって、どちらが上という事はない。
提供するものとそれを享受するものは、ただそれだけの関係なのだと。
僕もなる程な〜とは思ったけど、それはあくまで理想ではある。
多分それこそがその人自身が持っている度量ってやつなんだと、僕は思っていたりする。
そしてデヴィテスの街の人達は利用者ではなくお客様だった。
『『『『悪かった!すまない!』』』』
全員が揃って頭を下げていた。お〜………カスハラじゃなかったようだ。良かったよかった。
「はいっ!ありがとうなのですっ!では販売を再開するのです!」
『『『『おおおぉっ!!』』』』
……‥あっついなぁ。まぁいいけど。
この日も用意した500食が全部捌けてしまったのだった。しかも時間前に。はぁ……‥、しんどかった。
しかも今日で販売を終了すると言ったら、皆が皆悲鳴を上げてきたのだった。いや、そこまでの料理じゃなかろうになぁ………。
ララがなんとか言いくるめて事無きを得たんだけど、どの道商い者ギルドの話さなきゃいけなくなった。(丸投げとも言う)やれやれ。
「ラギくんっ!もっと誇っていーと思うわよ、これって」
姉が慰めるようにそんな事を言ってくる。どこに誇る要素があるのやらと思いっていると、姉が話を続けてくる。
「だって本来だったら見向きもしない下魚を美味しく作っちゃったんだよ。しかも周りの人達はそれを認めてるんだもん、そこはもっと喜ばなきゃ」
「そうなのかな?………」
「そうなのです!マスターの作るものは絶品なのです!」
「グッグッグッ!」
「おるそ〜」
「チャっ!」
僕が肯定とも否定ともつかない言葉を漏らすと、ララがそれに追随しウリスケ、アトリがそれを補填するように声を上げる。まぁルリはそんな感じで。
僕自身の評価なんてのは人並みだと思ってるし、多分周囲もそんな感じだと思ってるんだと考えてたんだけど。どうなんだろう。
姉やララの言葉を聞くと、あるいはとも思わないでもないんだけど………。考え過ぎかな?
広場を後にして屋台を引きながらそんな事を考えていると、商い者ギルドに到着する。
「ラギさん。お迎えに上がりました」
そしてそこには立派な馬車とナチュアさんが待ち構えていたのだった。もしかしてずっと待ってたんだろうか。街治長代行ってそんなに暇だとは思わないんだけど。
屋台を返してそのままナチュアさんに連れられ馬車へと乗り込むと、すぐに馬車が動き始める。
馬車は街中を進みやがて大きな門を抜けて程なく停車する。
「うほぉ………」
「でっかいのです!」
「グッ!」
「あふれい」
「チャ!」
馬車から降りると、荘厳な門構えの前に幾人もの使用人が左右に列を成してこちらを迎えていた。ひぃいい…‥‥。
しょせん小市民の僕からすると、こういう出迎えはちょっとだけ腰が引け気味になるものがあったりする。
でも姉やララ達は、特にその事を気にする事もなく対応していたりする。(まぁ姉は慣れてるし)
そして執事さんに案内されて応接間らしき部屋に案内され、ソファーに座り出されたお茶を飲んでひと息吐くと、ナチュアさんからいきなり頭を下げられてしまう。はぁえっ!?
「この度はこの街で数々のご迷惑をおかけした事、誠に申し訳ございませんでした」
「へ?」
ナチュアさんの謝罪に僕はつい変な声を上げてしまっていた。
そりゃあそうだろう、会っていきなり(ではないが)そんな事を言われれば、混乱しないほうが逆におかしいと思う。
僕が困惑と混乱をナチュアさんに見せると、ナチュアさんは安心したように息を吐いて説明を始める。
「まず、どういう理由で湖にいたのかは存じませんが、この湖での人命救助に関しては無償で行うことが義務付けられています」
あ~………いきなり助けて貰ったと思ったら、金銭要求してきたもんな、あの人。って事はあの人はモグリかなんかなんだろうか?漁業権とかありそうだし。
「はい。ラギさん達を助け金銭を要求した者は、山に住む民で無許可で漁をしていました」
「………………」
もしかして、このゲームの人達ってエスパーばっかなのだろうか。(ララといい)
姉達はふんふんとナチュアさんの話を聞いている。(ちなみにウリスケ、アトリ、ルリはお菓子に夢中だ)
「次に路上で法外な金額を取る修復士を捕縛しました。もう1人は捕え損ねましたが、捕縛した人間がエルフの青年から金銭を受け取ったと自供しています。そしてこの青年はラギさんですね?」
「………ええ、そうです。僕達ですね」
まぁ僕としては不用心だったという教訓を含めて支払ったものだ。というか捕まったんだあの人。
今思い返してみると、あの青年胡散臭かったよなぁ………。
「そして最後はデヴィテスの街の懸案事項であった害なす獣魚の利用法。よもやあんな方法で美味しく食べられるとは思いもよりませんでした」
どうやら商い者ギルドからナチュアさんへと連絡が行き、ああいう状況が作られたみたいだ。やり手だね。
そうしてナチュアさんが手元の小さなベルをチリリリンと鳴らすと、ビシリと執事服を身に纏った青年がやって来て、ナチュアさんの前にそれを置いていく。
「まずはラギさんが支払われてお金を返還させて戴きます。救助時の40000GINと修復士被害の30000GINです。お確かめを」
ナチュアさんが2つの金袋を僕等の前に差し出してくる。
僕は姉と顔を見合わせて互いに頷く。
「サキちゃん、預かってて」
「おっけー、後で精算するね」
僕が受け取ってもいいんだけど、この3日間の売上金を持ってるのでこれ以上はって気分なのだ。(正直もっと安く売ってりゃよかったと思う)
現在僕の手持ちは百万越えであったりする。
絶対死に戻りできない。
「そして先の護衛と今回の件を合わせ、感謝とお礼という事でこちらをお収め下さいませ」
そしてナチュアさんは1枚の紙を僕達の前へと差し出して来た。
「これって………権利書?」
「はい。この街にある別荘の権利書です」
へぇ〜、権利書なんであるんだぁ、と僕はそんな関係ない事を思わず考えてしまったのだった。
いや、え?何?
「権利書っ!?」
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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