200.屋台申請と食材探し
「あっ!それ、いいかもっ!」
「へっ!?」
姉も何を言ってるんでしょうか………。
僕自身料理を作るのは好きでも、他者に評価される事には特に意識を向ける事はあんまりない。
僕が作って美味けりゃいいやというスタンスだ。
だから姉やララ達の過分な評価には、ちょいと首を傾げる事もあったりする。
いやいや、それ程の料理じゃないでしょ?って感じ。
「グッグッグゥ〜〜ッ!」
あれ?ウリスケがぴょんぴょん飛び跳ねて何かを主張してる。
え〜………。僕なら大丈夫って身体で主張してる気がする。
僕は腕を組んでしばし黙考する。
ん〜………皆がそれ程までに評価してくれるのなら、まぁやってみてもいいのかも知れない………のか?
でもな〜、料理物ってあんまり儲からないと思うんだけどなぁ。薄利多売が主だし。
どの道この手の事はやってみないと分からないって部分もある。
せっかくララ達が道を示してくれたんだ。やらないって手はないかな。
「うん、分かったよ。ちょっと頑張ってみるよ」
「やったのです!」
「グッグッグ〜〜〜ッ!」
「お〜」
「チャ?」
「ふっふ〜ん!ラギくんならそう言うと思ったもん!」
皆がきゃわきゃわとそんな感じで囃し立てる。………まぁ、いいけどね。
「で屋台を出すってのはいーけど。どういう手続きがいるの?勝手にやるって訳には行かないよね?」
「もちろんなのです。まずは商い者ギルドに屋台を出す申請をするのです」
僕の疑問にララが的確に答えてくれる。へ〜、商い者ギルドね。
まぁ何事もやってみよ、進んで行けの精神って事かな。
あとはなんの料理を出すかって事になる。
これって結構重要なんだよなぁ………。
食材を滞りなく仕入れ、いかに工程を少なくして提供できるか。それが料理を出す上で必須なのだ。
この辺りはバイトをやって来た上での経験則ってやつだ。
「なので、善は急げでれっつごーなのです」
おーってな感じで右腕を掲げてララが鼓舞してくる。
いや、いーけどね。
「で、どこにあるの?商い者ギルドって」
「どこなのです?」
「グッ?」
「チャ?」
「どこかな?」
ララを始め皆が首を傾げる。
おーい。言い出しっぺんがどうしたんですかっ!?
「マスタ。こち」
アトリが僕の頭を杖で叩いて方向を知らせてくる。
おおぅ、アトリが知ってるのか?
ていっと僕の頭から飛び立って、僕達の前を飛んで先導し始める。
いつもは僕の頭や肩の上でまったりしてるアトリが、今日は珍しく積極的に行動してる。
なんと珍しい。まさにアテンダントをしてるって感じだ。
人の波をすり抜けながら、一軒の建物へと到着する。
「ここ」
と言うやいなやアトリは僕の頭へと戻る。
「はー……ここが」
今まで見てきたどの建物よりも異様というか威圧というか、そんな感じを受ける建物だった。
他の建物と同じく白いのにもかかわらず、がっしりとした3階建てのものだ。
なんとなく気後れをしつつ歩を進める。
入口は開放されていて、その両脇には守衛らしきNPCが立っていて、そこを多くの人間が行き来してる。
「それじゃ、行ってみよ〜」
「なのです」
「グッ」
姉達が建物の圧にも気負う事もなくスタスタと中へと入っていく。
「チャ!」
ルリも臆することなく、守衛の人に手を上げて挨拶してたりする。皆スゲ〜………。
僕も内心の気後れを押し込めながら、中と入って行く。
特に守衛さんにも誰何される事なく中へと入ることができた。
中はそれなりに人がいて、活気に満ちている。
こういう熱気って、正直僕苦手なんだよな〜。
さて姉はと周囲を見やると、なんか女性達に囲まれてるのが見えた。
そして遠巻きに商人らしき男たちがそれを見ている。
何なんでしょ、この状況は…‥…。
流石にあの輪の中に入るのは躊躇われる。
あんなとこに突貫するなど、無謀もいいとこだ。
という訳であっちはスルーするという事で、僕は受付の方へと向かう。(すまん、姉よ)
カアンセの冒険者ギルドと違って変な人はいないようで、数人が並んでいる後ろに加わりしばし待つ。
「商い者ギルドへようこそ。本日はどう言った御用件でしょうか?」
「え〜〜………」
目の前の受付の女性はいかにもなメガネをかけた秘書タイプの人だった。(逆三角のフレームにチェーンがつけられてやつ)
いるんだ。こんな人………。
「初めましてなのです!屋台を出すための手続きを教えて欲しいのです」
「グッ!」
「よろ」
僕が一瞬答えに詰まったのに、ララが真っ先に受付さんへと訊いてくれる。(ありがたい事ですな)
「や、屋台ですか………。は、はい。ええと、屋台で何を売るのでしょうか?」
ララ達の登場に寸の間硬直したものの、すぐに我へと帰りウリスケとアトリをチラ見して屋台についての用途を聞いてくる。
「料理の屋台を出したいのです!」
僕が返事をするより先に、ララが答える。
もうララに全部任せるのがいいかもしれない。
「グッグッグッグ!!」
ウリスケがはよせいや!って感じでテーブルをバンバン叩く。
「ウリスケ………」
チンピラじゃないんだから、やめなさいって。
僕はひょいとウリスケを脇から挟んで抱きかかえる。
「スイマセン………。うちの従魔が」
「いいえ。大丈夫です………」
僕がペコペコ頭を下げると謝ると、何故か頬を赤らめ苦笑してから許してくれる。良かったけど、なぜ赤くなるのか。
「はい、屋台ですね。調理物であれば、1日につき登録料3000GIN、屋台等の設備費代が2000GINとなります」
ぐはっ!しめて5000GIN。更に危機的状況になるって話ですかっ!僕がその金額に思わず躊躇する。
「りょ〜かいでっす!明日から3日間でお願いしますっ!」
「へはっ?」
いつの間にか側に来ていた姉が、そんな事を言い出す。
「サ、サキちゃん、ちょ、まっ」
「かしこまりました。場所はこちらの指定になりますが、よろしいでしょうか?」
「チャ!チャチャチャっ!
「はい。それでいーですっ!」
受付さんに何故かルリが答え、姉が了承する。その時受付さんの口元がニヘリと緩んだ気がしたけど、すぐに鉄面皮へと戻る。ルリつえ〜。
「では、明日から3日間で15000GINになります。前金となりますが、よろしいでしょうか?」
「は〜い。それじゃ、これで」
そう言って姉がメニューを出して、ちょちょいと操作して支払いを済ませてしまう。
あれ〜………、なんか進退窮まった気が………。
「では、こちらが鑑札票になります。明日こちらに来られて時に、鑑札票を見せていただければ用意をさせていただきます」
1枚の木の札をテーブルに置き、ペコリと一礼して僕達へと頭を垂れる。。わー………、これやばくね?
「よ、よろしくお願いしますぅ………」
もう僕にはこう言うしかなかったのだった。
「もーサキちゃん!なんであんな事やったの!?」
商い者ギルドを出てから、僕は思わず姉へと問い質す。
「え〜、どの道やるんだからぁ〜問題ないじゃん?それともラギくんは自信なかったりするの?」
いやいや、端から自信なんてものはないし、そもそも話を聞きに行ったという話のつもりだったんだけど………。解せぬっ!?
姉のその期待に満ち溢れる視線に、僕は溜め息を吐きながら根負けする。
「はぁ………がむばります」
「フッフー、頑張って!」
くふぅ………何もかも分かってて言ってる姉に、僕は堪らず降参する。
であるのなら、僕自身がやれることをやってみるだけだ。
とは言え、これから何をすればいいのやら。
「マスター!まずは食材探しなのですっ!」
ララがテンションアゲアゲに拳をブンブン振りながら言ってくる。
ん〜………食材探しねぇ〜。
湖のものが多く穫れるなら、この街でなら肉系の料理を出せばかなり行けるとは思うけど、手持ちの量に不安があるし3日間ではすぐに尽きてしまうのは自明の理だ。
ならこの街にあるものでとも思うけど、いったい何にすればいいのやらとも悩んでしまう訳で。
「マスター!まずは市場を見て回ってみるのです!」
「グッグッグ――――――ッッ!」
「お~~~っ」
「チャ!」
うん、そうだな。まずは市場調査というは重要だ。何が売っているのか見てみるのは、結構大切な事だ。
「という訳で市場へとレッツラゴー」
姉の姉のひと声で、僕達は港へ向かう事にする。そう言う訳でれいっつらごー。
港の中は商い者ギルドと同様に人で賑わっていた。
どこのト〇スですかと思う様に多くの人間が集って熱気を放っている。
そしてその区画では、湖から陸揚げされた魚介類が所狭しと並べられていた。
その様はまさに圧巻と言っていい程だ。
そして売り手と買い手の掛け声の丁々発止で、次々と魚介が 取引されていた。
「こりゃあ………この中に入るのは正直無理だね」
「ちょっとねぇ~………」
「なのです」
「グゥ」
どうにも互いが互いを認識する前提で取引をしてる様で、ぽっと出の素人がそこに入るのはどう見ても無理無謀というものだった。
僕が市場の中をそんな感慨に更けながら歩いていると、隅っこの方に山となったものが目に入って来た。
なんというか、商品というより廃棄物といった方がしっくりくる積まれ方をしている。
ちょっと気になったので、側を通りがかった男の人に聞いてみる。
「すいません、ちょっといいですか?あそこに積まれてるものって何でしょうか?」
「ん?ああ、ありゃあ下魚さ。この湖で獲れるもんの中で、あれだけは煮ても焼いても食えねぇんでああやって取りあえずあそこに置いてんだ。後で処分するようにな」
じゃあな、と言い捨ててその人は行ってしまう。
「マスター?」
僕がそれを見続けるのに、ララが首を傾げて聞いてくる。
その時僕は、ディセリアさんが口遊んでいた歌を思い出していた。
イカの下足~タコの下足~、あれって何なんだろ?
そう山積みになっているのは、どう見てもイカっぽかったのだ。
中型犬程の大きさのエンペラが楕円形でその下に台形の胴体。足は全部で5本だけど、その太さは大人の腕程で長さは1mくらい、その先っぽには拳大の球体がついている。
まさにゲームならではの不思議生物?だ。
なる程。あれ使えるかな?
僕はそのイカの付近で作業をしている人に近づいて聞いてみる。
「すみません。そこに積んであるヤツって貰う事できますか?」
僕の問い掛けに、その人は目を丸くして首を傾げた。
まぁ、物は試しって事で。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
おかげさまで200話達成しました (T△T)ゞ
ありがとうございます!感謝です! <(_ _)>




