199.お金がなければ稼げばいいじゃない?
あけましておめでとうございます (ー「ー)ゝ
本年もよろしくお願いいたします m(_ _)m
「何を馬鹿な事を言ってるのです!こちらは直してくれなどひと言も言ってないのですっ!」
「グッグッ!」
ララがまっさきに激昂して、ヒゲモジャのおっさんに対して反発しウリスケもそれに同意する様に鳴く。
「チャ〜〜〜〜っっ!」
ルリも僕の肩越しに半目になって相手を睨みつける。どうどう。
「何を言っとる。わしは修理したんじゃ、その代価を支払うのは当然だがな」
「はっ!?あたし頼んでないんですけど?見せろと言ったから見せただけですけどっ!?」
「案内を受けた時点で頼んだ事になるだろうが、そんな事も分からんのか?」
「「はぁああっっ!?」」
このおっさん無茶苦茶である。
言ってる事は正しいんだけど、その行為はあまりにも外れまくってる。
十人が十人ともこれはおかしいと思うんだけど、法とかそれに準ずるものが表に出てくると理屈が感情に勝る事が往々にして出てくることがあったりする。
それは自分達が知らない、いや教えられてない常識の中であまりな矛盾を孕んでいく。
そしてルールを知る者はその抜け道を知悉しそれを利用する。
今のように。
街外れではあるけど、こんな口論を繰り広げれば周囲に人が集まってくる。
理路整然と言葉を振るう姉に対しひたすら行為による対価を求めるという、堂々巡りにちょっとだけ嫌気が差した僕は、姉を止めて支払う事にする。
現実ならともかくゲームでこんな状況にいるのは少し御免だったからだ。
僕はなけなしのお金を支払い、負け惜しみ気味におっさんへと言い放つ。
「あなたの生き方に僕は何も言いたくもないけど、この後はあなたの敵になります。覚悟してください。あとこの事は衛士の人に伝えます」
「………勝手にするがいい。誰もそんなことに耳を貸しやせん」
鼻で笑われた。少しばかり頭にきながら僕達はその場を離れる。
小僧が何を言ってやがると思うだろうけど、それが今の僕の心情だった。
「も〜〜っ!あんなのに払う事なんてないのにっ!!」
「でもさ〜衛士隊呼ぶぞ〜とか強気に言ってたし、あんなのに時間取られるのも勿体無いじゃん」
「………まぁ、そうだけど〜〜〜」
頬を膨らませながら、姉がぶつぶつと何かを言ってる。
たしかにその心情は理解できるし僕も同じ気持ちだけど、せっかく楽しくゲームしてるのに嫌な気持ちになる必要もない。………ないったらない!
これはなんとか気分を入れ替えないとダメだな。うん。
「サキちゃん、一旦ログアウトしよ。ちょっと気分変えたいから」
港への道すがら、僕は姉へと提案する。
「………。そうね、ちょい仕切り直そっか!」
姉は若干肩を竦めて了承してくる。きっと僕の胸の内など分かってるんだろう。
「ララ、ウリスケ、アトリ、ルリ。悪いけど一旦ログアウトするね」
皆には悪いと思うけど、こういうのはタイミングが大事だ。
気持ちを引き摺らないように、新たに気持ちをリセットしないとズルズルと長引いてしまうものだ。
僕自身は滅多にない事だけど、ゲームで悪意を受けてっていうのはやはり嫌なものだから。
「大丈夫なのです。こっちでも対策するのです」
「グッ!」
「おけ」
「チャ」
全員がいい笑顔でサムズアップをしてくる。(アトリだけは杖を掲げる)………いつの間に覚えたのやら。
対策って言っても大した事は出来ないだろう。(多分)と思う事にして僕はログアウトをする。
「じゃあ、また後でね」
「はいなので―――」
周囲とララの姿が消えて、VRルームへと移動する。
「………はぁ〜。くぅう〜〜〜〜つ!口惜しぃい〜〜〜〜〜〜っっ!!」
そして寝転がって口惜しさを言葉に表して右に左にと転がりだす。
そう。もう少しだけ気を付けていれば、こんな目に会う事もなかったのだ。
あの漁師の事はともかく、ヒゲモジャのおっさんにみすみす大金を払う羽目にはならなかったと思う。
あんなの典型的な詐欺の手口なのだ。
子供の頃、散々父さんによもやま話として聞かされていた手口とほとんど同じ物だ。
有無を言わせずにさっと了承も得ずに作業を行い、法外な額の金額を請求する。
シロアリやら耐震強度不足で危険だなどと嘯いて、無理やり契約を結んでしまうなどという。
逆に人ん家のタンスを漁り、目的のものを見つけると安く買い叩くなんてのもある。それも否応なく。
正直、僕の感覚ではどうしてこんな事が人に対して出来るのか甚だ疑問なのだけど、父さんが言うにはそういうものという事だった。
得てしてそういう人間は少なからずいるものだと。
それは生きてきた環境だったり、その人間の本質であったりと様々なのだとか。
よもや現実以外でもそんな事が起こりうるとは。
『マスター、大丈夫なのです?』
「…………」
ピタリと転がるのをやめて、しばし沈黙。
うんうん、みてたよなぁ〜、ララさんは。
増えるね!黒歴史………、はぁ。
「………うん、大丈夫。ちょっと現実にゲームが似ててヘコんだだけだから………」
『了解したのです!』
どうやらララは僕の気持ちを汲んでくれたようでスルーしてくれる。
ありがたや、ありがたや。
この跡ライドシフトして、はへーと息をひとつ吐いてから、夕ゴハンの用意を始める。
キッチンに立ち、さて何を作ろうかと考える。
冷蔵庫にある姉への貢物の豚肉を使ってみようかな。
どの道焼く、煮る、揚げるしかないんだけど。よし!
手早く済ます為に揚げ焼きとしとこう。
フライパンに5mm程に油を敷き、コンロに火をつける。
冷蔵庫からブロック肉を取り出して、薄切り肉へと切り分けてバットに並べたあと、塩コショウで軽く味付けする。
それをビニール袋に入れて、そこに天ブラ粉を入れてから袋を閉じてプーっと息を吹き入れる。
風船のように膨れ上がったそれを両手で押さえて上下左右に振って中の肉を撹拌させていく。
ダバンダバンと中で肉が踊り粉が舞い、やがて表面へと付着していく。
あとはこれを揚げ焼きしていくだけだ。
ビニール袋から取り出した薄切り肉を、温まったフライパンの中へと次々に投入していく。
さほど時間をおかずに肉はじゅわ〜と音を立て始め、油が泡立ってくる。
どうせ姉は僕の倍は食べるのだから、それなりの量を上げ焼きしていく。
揚がった肉は余分な油を落とすため網の上においてしばらく置いておく。
油が落ちるのを待つ間に、丼を出してゴハンをよそってその上に千切りキャベツをドサリと載せる。
さらにその上に焼き上がった竜田揚げをのっけて行く。
これで豚肉の竜田揚げ丼の出来上がりだ。
あとはこの上に好みのソースをかけていく。
副菜にマグカップにコーンスープの素を入れて、お湯を注いでかき混ぜスープを2つ作る。
これからまたゲームにログインするので、少しだけ軽めのものだ。
「待ってました!」
「………………」
僕が居間に出来上がった料理を運ぶと、すでに姉がスタンパッていた。
最近の姉はこんな感じだ。でも、いくらこっそりドアを開けても気が付かない訳ないと思うんだけど………。
やれやれと思いつつ、姉の前に丼とスープ、そしてウスターソース、中濃ソースにマヨネーズを置いていく。(ちなみに姉は10枚のせで、僕は5枚のせだ)
「っらきます!」
姉がぺちんと手を合わせ箸を取り、中濃ソースとマヨネーズをかけて食べ始める。
僕はウスターソースを気持ちばかりかけて、まずはスープを啜る。
うん。コーンスープだ。スープの方も新商品が出れば手に取るんだけど、これは定番ものだ。
さすがにハバネロ青汁スープを買った時は後悔したけど。(と言うかアレを販売しようとしたことがあり得ない。実際)
さて、お次に丼に取り掛かるとする。姉はすでに1/3を食べ終えていた。
竜田揚げを持ち上げパクリと齧る。
表面カリカリの、中はジューシィな食感。ん~うまうま。
そしてキャベツと一緒にゴハンをパクリ。
丼物を食べる順番も人によって様々だけど、僕はもっぱら具材とゴハンを交互に食べる感じだ。(大きさによっては全部一緒に食べる)
姉はと言えば、ゴハン先行で合間に具材って感じ。
丼を半分ほど食べたところで(姉完食)、姉に予定を聞いてみる。
この後姉に予定があるのなら、僕ひとりでもログインしようとも思ったからだ。
「サキちゃん、この後予定とかってあるの?」
「はぁ~ふぅ………。ん?今日は特にないよ。あっ、あたしもログインするよ!もちろん」
何かに浸っていた姉は、僕の問いに拳をぎゅっと握りしめ言ってくる。
姉にも思うところがあるんだろう。まぁ、仕切り直すって言ってたし。
と言う事で僕も丼を平らげて、食器を洗いいろいろ用を済ましていく。
「じゃあ、あたし工房行くね」
「うん、また後で」
お風呂に入りほかほかになった姉は、スゥエット姿で部屋を出ていく。
僕もテレビを消して、座椅子の座りHMVRDを被りライドシフト。そのまま間をあけずにログインする。
「おや………?」
VRルームから切り替わると、さっきの場所でなく噴水のある広場に立っていた。
「噴水広場はデフォルトなのかな?」
「マスター!お帰りなさいなのです」
「グッ!」
「おか~」
「チャ~チャチャチャ!」
魔法陣からララがふわりと目の前にやって来て、ウリスケはジャンプしてクルリと1回転して着地。
ルリが僕の胸に飛び込んで、アトリが頭の上にスタリと降りる。(アトリのは何となく感覚で)
「ラギくん、お待たせ~」
そして姉が手を振ってやって来る。
どうやらさっき迄の鬱々としてた気分は、どうにかこうにか払拭できたみたいかな。(まぁそれでもちょびっとぐらいはあるけども)こればっかりはしょーがない。
「サキちゃん、これから何しよっか?」
ノーブランです。考えてませんでした。なので姉に訊ねてみる。
「ん〜………とりあえず街の中を見てみる?かな。ルリちゃんおいで〜」
「了解なのです」
「グッ!」
「おけ」
「チャッ!」
姉の言葉に同意するように、ララ達が声を上げる。そしてルリは僕の胸から姉の方へとジャンピング。
「それじゃあ、れっつらごー!」
姉の後に続き僕達も街の中を進んで行く。
このデヴィテスの街は白亜に覆われた街のようで、白い建物がまるで段々畑のように並び連なっている。
噴水広場の周囲には色とりどりの屋台が並び、賑やかにそれぞれが声を上げている。
その中で目についたのが、何かの魚のウロコを揚げたものだ。
「ありゃりゃ〜………やっぱ2番煎じだったかぁ……」
ウリスケのサポートがあったとはいえ、元々あったものと考えればナチュアさん達が感心した様子だったのは、ある意味温情だったのかもしれない。ちょっと恥ずかし。
味付けに関しては、さすがに塩味ぐらいみたいだけど。
領主一族たるナチュアさんに出したのは廃物利用とはいえそれなりの素材のものだったから、それが功を奏したんだと思う。
姉やルリはそれなりに美味しそうにウロコチップを頬張っていたりするのが、その証左でもある。
そんな感じで街を巡りつつ、僕達は冒険者ギルドへと向かう。
さすがにお金に厳しさが見えてきたので、依頼を請けて少しでも稼ごうと思ったのだ。
でも――――
「ちょい、きびしーかもねぇ………。これは」
姉もやれやれといった感じで肩を竦める。
そう、このデヴィテスの街でのクエストは、湖でのモンスターの討伐かしばらく西の先に進んだ山でのものが大半だったのだ。
魔人族のPCがいれば例の塔へ行く事もできたけど、僕達はエルフだから入る事はできない。
湖だと【水泳】や【潜水】スキルを持ってないし、持つつもりもない。
クエストは諦めて、再び街中を巡ることにする。
街の中をうろつきながら、気になったもしくは気に入ったものを買ってしまうと、さすがに残金が気になってくる。(従魔3人にアテンダントスピリット1人ってのはやっぱりねぇ………)
おそらくはゲーム的に魔人族以外でも何か稼げる術があるのだと思うんだけど、今の僕にはさすがに思いつかない。
「ラギくん、大丈夫!ちゃんと課金するから」
「ん〜でも、ここで課金とかするとなんか負けた気がするからもうちょっと待って」
「え〜〜、別にいーのに〜」
ふふ〜んと胸を張り言ってくる姉に僕は待ったをかける。
確かに課金すればこの悩みは解決すると思うけど、それじゃゲーマーの名折れになると思うのだ。
別に課金という行為が悪いとは思わない。
それが自分の価値と認識するのなら、何百万使ったとしてもいいと思う。(ドン引きはするけど)
ただ僕の価値観とは違うというだけの話だ。
とは言え、街をぶらぶらめぐりながらそんな事に思い悩んでいると、ララが予想外の事を言って来た。
「マスター!お金がないなら稼げばい〜のですっ!」
うん、そうだね。もちろんそれは理解してる。
ただ、ここじゃあ僕達が稼ぐには厳しいことも。
「屋台を出して料理を売るのです!」
「へ?」
ララさん、何を言ってるんでしょ?
*
わしはホクホクの満面の笑みを浮かべながら酒場へと入り、やってきた女給へ注文する。
普段は頼む事のない上物を頼む。
なんとも懐が温い。いや熱々と言ってもいい今の状況なら少々の贅沢も許されるだろう。
「ぐっへっへっ」
懐の温かさに思わず声が漏れつつ、やって来た杯をグビビと煽る。
「くっは〜〜〜っ!うんめっ!!」
少しばかり感極まって声を上げてしまうと、それに気づいた酔客がわしへと問いかけをしてくる。
「どうしたい、にいさん。上機嫌じゃねぇか」
普段より度数と値段の高い酒を口にしてつい思いが溢れてしまう。
「ああっ、今日はいい事があったからな」
ニヤリと口元を歪め、笑いながら答える。
「へぇ、そいつは何なんだい?」
興味深げにそいつが続きを促してくる。
「湖で助けた奴からたんまり礼を頂いんだがな」
それは山育ちの自分にとって当たり前の行為だ。
以前山で道に迷っていた男を助けた時には、50000GINを受け取ったのだ。溺れそうな人間を助けたのなら、アレくらい頂いても問題ないだろう。
だがわしの言葉を聞いた男はすぐに顔色を変えて声を上げる。
「衛士を呼べ!」
杯を重ねていたわしは、その変化した声音に気づくことなく更に飲み続ける。
「あんたそのお人に幾ら請求したんだ?」
「ぐっへへへへっっ!1人10000GINさな、4人で40000GIN。こいつは内緒な」
わしが偉ぶってそう言うと、そいつはあちゃ〜といった感じで頭を抱える。
「兄さん。漁業掟を知らねえ訳はねぇよな?」
「はぁ?わしは山から来たんでそんな掟は知らんぞ?」
そう言った途端周囲にいた人間全員がビリっとなみうつようにからだを強張らせる。何じゃ?
「お前さん、どこのもんだ?筏ぇ、どこで借りたん?
「はぁ?知り合いから借りたに決まっておろうが」
ん?ありゃ?これ、言っちゃあいかんのだったか?
そう言や、船を貸す事ぁ誰にも言うなやと言われ――――
「さて、兄さん。 少しばかり話を聞かせてもらおうか?」
次の瞬間、わしは鎧を纏った衛士様に腕を捕まれ詰め所へと連行されてしまった。
わしは知らんかったのだ。
湖で苦難に行き会った者は無償で助けにゃならん事も。無許可で湖で漁をする事が禁止されてる事も。
この後、わしはその時あった事を洗いざらい喋らされる事となった。
「俺ァ何も知らん!」
捕まった時には、こう言えと指示された通りに衛士に答える。
あのお人好しのエルフの後に、同じようにやったら捕まっちまった。
主犯格のあいつは逃げおおせ、俺だけがこうして尋問される状況にある。
「あんたさぁ〜………。全部わかってるんだ。正直に話せしなよぉ〜。それなりの酌量ってのもあるんだよぉ〜?」
なんとも軽薄そうな尋問官に苛立ちを感じつつ、俺は吐き捨てるように言う。
「はっ!あの従魔付きのエルフが何言ったか知らねぇが、俺ぁちゃんと仕事しただけなんだよっ!」
あのくそエルフが、余計な事を言いやがって。
だがそんな俺の声を聞きつつも、目の前の男は態度を変える事なく冷めた視線を俺へと向ける。
「はぁ?そんな人物から話は聞いてないが?」
その時俺は自身で墓穴を掘った事に気づいた。
「どうやら他にも余罪があるみたいだねぇ〜。しっかり聞かせて貰おうか?」
進退窮まるとはこの事か………。わしはしばらくして観念して全てを話す事とした。
壁の向こう側から誰かの声が聞こえた。
「なる程。ではこちらに来てるのですね。ラギさまは」
「デ〜ス。あの人達は目立つですから。すぐに見つかると思うデス」
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ




