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197.流されて湖、そしてデヴィテスの街

 

 

 

「はぁっ!?」

「なっ!?」

「これは……?」

 

 攻撃をしていた姉達が、その動きを止めて針金竜―――ワイヤードドラゴの身体が光の粒子へとなるのを唖然と見やる。

 もちろんそれは僕とて同じだ。

 だってあり得ないだろう。あれだけ巨大な存在モノがパンチ1発で倒せるなんてこと。

 

「ラギっ!

 ラギくんっ!

 ラギさん! 」

 

 姉達が僕の方へとやって来て声を上げる。

 

「何やったっ!?

 何したのっ!?

 ご苦労様でした」

 

 まるでアテスピ団の様に声を揃えて言って来た。おぉう。

 確かにそう言われても仕方がない。んだけど、僕にもさっぱりなので答えようがない。

 

「マスター、多分なのです。きっとさっきのアーツが効果を発揮した結果なのだと思うのです」

「えっ?そうなの!?」

 

 結局その疑問はララがあっさりと解き明かしてくれた。

 そういや、あのアーツの効果ってなんだったのか。

 姉達が首を傾げる中、とりあえず確認の為メニューを開いてアーツを調べてみる事にする。

 

「ふーん、これってようするに鎧通しってヤツだ」

 

アーツ:スパイクインパクト 【手甲】Lv1

      攻撃対象の外郭をすり抜け

      内部へ直接ダメージを与える

      ただし、ダメージ量は通常の1/3となる

 

「………………」

 

 うん、あんまり使い途って無さ気なアーツだ。

 それにダメージ量が減少するのはかなり痛手だと思う。

 僕が姉達に簡単に攻撃した時の事とアーツの説明をすると、何故か3人は納得と得心の表情を見せた。

 

「な〜る、そゆ事か」

「ラギくんだもんねぇ」

「策士策にってヤツですね。ぷぷぷ」

 

 なんか3人共が訳知り顔の納得をしながらうんうん頷く。

 

「?」

 

 そんな姿に僕が首を傾げると、それに気付いた姉が説明をしてくる。

 

「えーとね、ここ作った人間ってめっちゃダンジョンが好きなのよ。んで、ダンジョン(そっち)方面はすんごい優秀なんだけど、モンスターに関してはすっごく極端なの」

 

 う〜ん………。それと一撃で倒せた事の関連性が見えないんだけど………。どゆ事かな?

 

「これは推測なんだけど、あの白のたまって表面を物理破壊限界の強度にしてなかはそれ程っていうかかなり低いHPに設定してると思うのよ」

「はぁ〜、そうなんだ……」

 

 そう聞かされると僕もなるほどと納得をすることが出来た?のかな。

 つーかどんだけ低いHPだったのかって話だ。

 そんな話をしてると、僕達が入って来た入り口が音を立てながらゆっくりと開き始める。

 

「ん?こっちに出口はねぇんか?」

 

 広い部屋の中を見渡しても、一面壁ばかりで他に出口らしきものは見つける事はできない。

 

「かも知れないわね。あるいはあそこが出口なのかな?」

 

 ラミィさんが周りをも見回して首を捻り、姉は入り口を見て腕を組みつつ考えを口に出す。

 それを聞いて、僕もなる程とそれを理解する。

 おそらくさっきのスコールの部屋が出口じゃないかとと推測したんだろう。天井ぽっかり空いてたし、そこに何かの仕掛けがあるのかも知れない。

 よもやフリークライミングとかやらされるのだろうか?クレ○ジークラ○マーでもあるまいし………ねぇ。

 

「グッグッグッ!」

「お疲れ様なのです!ウリスケさん!」

「おつか〜」

「ウリスケ、お疲れ様。すごく助かったよ」

「グッ!」

 

 そこにウリスケがスタタタタと僕達の元へとやって来る。ウリスケ1人で2/3近くのレンズを破壊してくれていたのだった。

 多分これがなかったら、もっと相当に苦戦していたと思うほどだ。

 

「ウリスちゃん、おつかれ〜」

「ウリっち、ナイスファイっ!!」

「チャ!」

「お疲れ様でした」

「グッ!」

 

 皆に労わられて、ウリスケも照れくさそうにサムズアップでそれに応える。

 なんとなくドヤ顔っぽく見えるのは気のせいだろうか。

 

「じゃあ、一旦戻ってみます?」

「んだな。そうしてみっか」

 

 僕がそう聞くと、ラミィさんが同意し姉達も頷く。

 僕が先頭で一応警戒しつつ入り口を出ると、そのすぐ脇に新たな通路が出来ていた。

 

「もしかして………って、これは違うね」

「大きっな落とし穴なのです」

 

 入り口からすぐ右側に現れた通路、その先を少し進むと道はなくなり10m程の長さの穴があったのだ。

 その深さは、奥の方は真っ暗でうかがい知る事はできそうにない。

 

「……これは無理そうですね。下手に落ちたらそのまま死に戻るでしょう。あぁ、ルリちゃん危ないですよ」

「チャ!」

 

 アンリさんが少しだけ穴の中を覗き込んで溜め息を漏らす。

 抱っこされたルリが前のめりになって穴の中を見ようとするのをアンリさん慌てて抑えにかかる。

 仕方なく僕達は通路を戻って、そのままさっきの通路を逆に進む。

 

「やっぱり、閉まってるか………」

「行き止まりなのです」

 

 やはりと言うか何と言うか、こちら側の扉はきっちりと閉ざされていて岩のオブジェが目の前に立ち塞がっている。

 いや、目の端にそれらしい物はあるよ?でも、それってあんまり触りたいものじゃないんだよなぁ………。

 

「やっぱりボス部屋の方もう一回確認してみよっか?」

「だな、とりあえず行ってみっか」

「その方が得策ですね」

 

 姉の言葉に皆が頷き、一定方向を見ながらそんな事を言い交わす。

 

「グッ!?」

「「「「あっ」」」」

「ダメなのです!ウリスケさんっ!!」

 

 ………さっきの事で味を占めたらしいウリスケが、ぴょ〜んとジャンプをしてそれをポチッと押してしまった。

 それは向かって右側の壁、僕の胸当たりの位置にあった。

 四角く囲った枠の中には、黄色と黒で描かれた斜めの縞模様ボーダーライン

 そしてその中央には手の平大の丸くて真っ赤なボタンがあって、その上部分には″おすな!きけん”と書かれてあった。

 

 フリであれば嬉々として押す人間もいるだろうけど、この状況においてはさすがに押すのは躊躇われるもの。

 それをウリスケは、「てやっ」っと押してしまわれた。

 

 その瞬間からまるでストップモーションかコマ送りみたいに場面が動いた感じがした。

 唖然として僕達の横で岩のオブジェが掻き消え、そこから大量の水がドバっと滂沱と濁流のごとく襲い掛かる。

 抵抗も出来ず、あっという間に水に呑まれ僕たちは纏めて流されてしまう。

 そして周囲が闇に覆われていった。

 

 だけどすぐに幾つもの光が現れて僕達を照らしていく。

 それは蒼の炎。ルリの作り出した光。

 でも水の奔流はそれを嘲笑うかのように勢いを増す。かろうじてララとアトリを回収し、このままならボス部屋に流れ込む筈と安易に考えていたら、グリッと軌道が変化して僕達は撹拌されながら左へと流されていく。

 

『ぶはっ!』

 

 ボス部屋の扉閉まってたよっ!そして想像通りにあの穴へと吸い込まれるように落ちていく。

 何とも言いようのない落下感に焦りながら………と言うか水の中なのに息苦しくもないし呼吸もできる。なんじゃ、こりゃ?

 ただ左上に表示されたHPゲージが徐々に減っていくのが目に入ってきた。

 これ、やばくね?

 

 四角だった水路(でいいや)がやがて天然の岩肌に変化してまた水平になるのを見ながら、どうにか出来ないものかと考える。

 HPポーションで回復させる。かな?でも、どれだけ流されるか分かったもんじゃないし、ポーションの数にも限度はある。

 他に何か………は思いつかない。無理だな。………はぁ〜結局ここまでかなぁ。

 流されるまま皆の姿を見ながら半ば諦め気味になりそうになった時、何かが僕の顔面へと飛び込んできた。

 

『はばっ!?』

『プぴゃあっっ(チャ)!』

 

 顔に纏わり付いた何か―――ってルリだよな、これ。が声を上げると、周囲に小さな泡が次々と現れて僕達を包み覆うように広がると、やがて大きな泡へと変化する。

 

「おっ!?」「ひゃ」

「えっ?」「ふー」

「は…?」「ぷくぅ」

「ぷは、なのです」

「グッ!?」

 

 無数の泡に覆われた僕達は、気づくとそれが合わさった大きな泡の中へと入っていた。

 まるで無重力状態のように宙に浮かびながら、大きな泡はその流れのままに水路の中を進んでいく。

 

「いんや〜、やぱかったな、まじで」

「え?ナニコレ、なにこれ!?」

「んも〜、ルリちゃん、酷いです〜」

「ギリギリだったのです」

「グッ!?」

「でんじゃ」

 

 どうやら全員無事のようで、泡の中でそれぞれ体を確認しながら言葉を発している。

 僕はと言えば安堵の溜息を吐くばかりだ。

 

「チャ!」

「ああ…‥…うん。ありがとな、ルリ」

「チャチャチャ!」

 

 どうやらルリの機転でこの事態に対処してくれてどうやら死に戻りを回避できたみたいだ。

 でも、ルリってどんなスキルを持っているのやら。後で見てみる事にしよう。

 

「ルリちゃん!ありがと〜」

「助かったぜ!ルリっち」

「流石です!ルリちゃん!サスルリです!」

「チャッ!」

 

 ようやく状況を把握した姉達が口々にルリにお礼の言葉を告げていく。

 

「しっかし、一体どこまで行くのやら」

 

 メニューを出してHPポーションでHPを回復しながら、僕はボソリと呟く。

 

「きっと、あそこなのです」

「あそこ?」

「グッ!」

「あこ〜」

 

 僕の呟きになんとは無しにララが訳知り顔でそんな推測を口にする。?ん〜………デヴィテスの街へ向かっているとすれば、あるいはだけど……‥あんまり安易に考えても、どうなんだろうなぁ〜実際。

 しばらく岩肌の水路を進んでいると、唐突にその水路から放り出され大きな泡の周囲一帯が水に覆われる。

 周りにはたくさんの魚影の群れと、そして上の方には光の瞬きがキラキラと揺れるのが見て取れた。

 

「おおっ!」

「へぇ〜」

 

 姉とラミィさんがその様子に感嘆の声を上げる。

 やがて僕達が入った大きな泡はそのまま上へと上昇を始め、やがて水面へと向かい出す

 水流のせいか右に左にと大きな泡は揺さぶられる。そのたびに僕達は翻弄された声を上げてしまう。

 

「どわわわっ!」

「はにゃ〜っ!」

「やわわ〜〜っ!」

「よっ、ほっと!」

 

 まるで昔海水浴で遊んだ大っきな透明なボール(ゾーブ)の中にいるみたいだ。

 やがて大きな泡は徐々に上へと勢いをまして浮上していく。

 光り輝く水面へと辿り着くと大きな泡は役目を終えたかのように、ぱちんとシャボン玉みたいに弾けて消え、僕達はそのまま水の中へと放り出されてしまう。

 

「うわっ、っと。まず………ぶくく」

 

 そしてそのまま僕は沈み始めだし思わず手を伸ばしたところ、何かに掴まれ勢い良く引っ張り上げられる。

 

「おめーさん方、大丈夫かい?」

 

 知らない男性の声で問われてその方を見ると、そこには小柄な壮年男性がやれやれといった感じでこっちを見ていた。


「あの〜、ここってどこですか?」

「はぁ?ここはテス湖だ。デヴィテスの街の湖だがよ」

 

 その答えに周囲を見渡すと姉達も助け出されてしゃがみ込んでいて、水面ではウリスケがすぃ〜と浮かびながら4本の脚を器用に動かして泳いでいる。

 そして空を見上げると、いつか見た大樹のように空に広がる大きな塔がそびえ立っていた。

 

 ………うわぁ〜、本当にデヴィテスの街だよ。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ

Ptありがとうございます!精進します! m(_ _)m (ははーっ)

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