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196/244

196.ボス戦って大変

 

 

 

 そこはやたらとだだっ広いドーム状の屋根に覆われた場所だった。

 地面は石畳から土へと変わり10m程の壁の上にボウルの様な半球状のものがその上に被さり、そのドームの湾曲部分にいくつものレンズ状のものがぐるりと輪を描いてるのが見えた。

 

 あー……お約束かと思いつつ中へと歩み進むと、後ろの扉が音もなく閉じドームの天井部分の空間から黒い穴が開いてそこから1本の棒状のものががスルスルと伸び出て来たかと思うと、それは徐々に量を増やしていきやがてその姿を形作っていった。

 

「針金の竜なのです」

「りゅう?」

「竜なのです」

「竜………ねぇ…」

 

 空中で象られて行くその大きく巨きな姿に、果たしてこんなの倒せるのだろうかとその姿を見やる。だだ、なんともなビミョウな気持ちにちょっとだけなってくる。

 

「竜は竜でも、()竜の方だよね、これ」

 

 長く伸びた尾、そして長くくねる首と爬虫類の如き伸びた頭部と大きな顎門。

 そして象のような体躯と太くガッチリとした四肢。

 いわゆる首長竜といった類のものに見える。

 

「まぁ、アレにはこれが限界じゃね?」

「んー……、ちゃんと角と翼があるから及第点と言ったところでしょうか。………フフ、不格好ですけど」

「あれ?ドラゴン系のモンスターのサンプルデータってなかったっけ?」

「アレは天邪鬼だからそー言うのやんねーのよ」

 

 ラミィさんとアンリさんの評価は散々だ。まぁ確かにちょっと残念臭が漂うっている様な感じはあるけど。

 やがて完全に形作られたそれは、宙空から地面へとズゴゴゴンッっという激しい轟音を伴って降り立った。

 

『Gyaaaoooooohooooo―――――Oooo!!』

 

 そしてその咆哮が戦いの口火を切った。

 ビリリと空気が振動を響かせて、こちらへと威圧をかけてくる。

 

 なりはあれでも、やっぱりそれなりのものだと認識を改める。

 でも見た目あれなんだよなぁ………。

 ただ、大きいってのはそれだけ脅威になるのは確かなので、と言うかどうやって戦っていいのかが僕にはさっぱり分からないってのが正直なところだ。

 

 何故かちょっと引き気味の僕と違って他のみんなはやる気満々というか、殺る気満々という感じで目をギラギラとさせて対峙するモンスターを見ている。

 うん、きっとこれがVR(・・)ゲーマーとそれ以外の違いなんだろうと、何となく理解ってしまった。

 

「では、“インボディファイアルゥト”」

 

 アンリさんが呪文と唱えると、杖の上に赤のエフェクトが光り輝く。

 

「“インボディアクアルゥト”」

 

 さらに今度は青のエフェクトが光り輝き、次々に呪文を唱えて4色のエフェクトが杖に宿る。

 

「“ブーステッド”」

 

 そうして最後にそう呪文を唱えると光が散らばり螺旋を描いて僕たちに降り注いでそのまま僕達の身体を覆っていく。

 

「身体強化の魔法なのです」

 

 ララが簡単に今の現象を説明してくれる。ほーそう言うのもあるんだな。なる程なる程。

 針金竜が徐々に接近してくるのに全員が身構える。

 

「やってやるのです!」

「グッグッグッ!」

「お〜よ」

 

 ララたちが俄然やる気になっている。

 ただ、どうしても気になる部分はあったりする。

 

「やっぱ、あれも珠を壊すのかな?」

 

 そう。その針金で作られた竜の身体は、ワイヤードポーンやワイヤードバットと同様に内側はがらんどうで、そこには数個の珠がクルクル回りながら宙に浮かんでいた。

 胴体部分に赤、青、黄、緑の4つ。そして頭部には白い珠がまるで単眼のように妖しく輝きながら浮かんでいる。

 


「分かり易いっちゃ分かり易いよな」

「遠距離攻撃で牽制してから接近戦かな?」

「ですね。体当たりと尻尾の振り回しとブレスと言うとこでしょうか。あ、ルリちゃんはちゃんと守りますのでご安心を」

「チャ!」

「………はい、よろしくお願いします」

 

 僕が針金竜(識別したらワイヤードドラゴと出た)見ながらの呟きに、ラミィさん、姉、アンリさんが、この後の行動指針について話をしてくる。

 アンリさんはしっかりルリを抱きしめて言ってくる。この人もある意味徹底してる。

 まぁルリを守ってくれると言うのなら、こちらは大助かりである。

 

『GuuuUUUUUohooooooo―――――――Ororororo!!』

 

 針金竜―――ワイヤードドラゴは首を振りのけぞらせ更に咆哮を上げて、こっちに向かって突進してくる。

 

「来るのです!」

「グッ!」

「うぉ…‥。ド迫力」

 

 地響きを轟かせながら巨体がドドスンッドドスンッと迫って来る姿は、そのあまりの迫力に僕はただただ唖然とするばかりだ。 

 

「マスター!」

 

 ララが僕へと呼びかけ横へと移動するのを見て、僕もそれに倣うように慌てて走り出す。

 そして弓を構え矢を番えて狙いを定める。

 いや、定まりません。走りながらとか無理でござんす。

 とりあえず頭部の珠は諦めて、胴体部分を狙って射る。

 はい………外れまひた。やっぱ動きながらはまだ無理でした。

 

 突進して来るワイヤードドラゴを回避しながら散開しそれぞれが攻撃をするも、さほどのダメージは与えられない。

 そしてワイヤードドラゴはその勢いのまま壁に激突する。え?

 頭がひしゃげ首の中程までが潰されるものの、後ろへ下がり軽く首をふるりと振ると逆再生のごとくも度に戻っていった。

 形状記憶合金ですか。そうですか。

 四肢を交互に動かして方向転換をするのを見つつ、ワイヤードドラゴの様子を観察する。

 そしてこっちを伺いながら突進してくる。

 

『あの針金は切れそうにないな、やっぱ』

 

 ラミィさんが呆れ気味に呟く。

 もうあれ針金じゃないもんな。鋼鉄線と言った方がいい。

 今はまだ突進してくるだけだ。

 

「ってかなんで僕にばっか向かって来るんっ!?」

 

 ドスススンッ!ドススゥンッ!とどうしてかワイヤードドラゴは、僕の方にばかり突進してくるのだ。

 今の僕は走って避けて、と逃げるばっかりである。しっかし、ここどんだけ広いんだって話だ!

 

『ラギ~~~っ!壁際に追い込め~~~っ!』

『がんば~~~っ!ラギく~~~ンっ!』

 

 くっ!言う方は気楽だけど、やる方はけっこー大変なんだけどっ!

 

『GYoooooooohooo~~~~~~~oroo!!』

 

 首をしならせ頭を振りながら咆哮の雄叫びを上げて迫ってくるその姿は、さすがに心臓によくない。

 距離は30m。ギリギリで動かないと大きくて身動きが取れないといっても、進行方向を変えてやって来るので気をつけなきゃいけない。

 

「マスタ。さん、にぃ、いち!」

「ぬおぉぉお~~~っ!」

 

 アトリのカウントに合わせて右側へとダッシュをする。

 すぐにドガゴォオンという激突音が背後から響いてくる。

 振り向くと、壁にぶつかり頭部がひしゃげた状態になっているのが見える。

 

「“ファイアランス”」

「“ツインクロスラッシュ”」

「“ファイアウィップ”」

 

 姉達がすかさず接近してワイヤードドラゴの側面に陣取って赤の珠へと攻撃を仕掛ける。

 

「?」

「っ!?」

「あ」

「パワーアップしちゃったのです」

 

 さっき迄の戦い方と同様に同色で相殺という形で攻撃したのだけど、赤の珠はダメージを受ける事もなくその内部が光度を増して光り輝き始める。

 

「退避〜〜〜〜っ!!」

 

 ラミィさんが必死の形相で全員に指示を出して、自身も走り出す。

 ん?え?どういう事です?

 

『Gorolololoohoooo〜〜〜〜〜〜〜orooo!!!』

「マスター!しゃがんでなのです」

「はい〜〜〜っ!」

 

 赤の珠が首元へと移動したかと思うと、首だけが後方を向いたワイヤードドラゴが口をばかりと開いてそこから炎の散弾をドバンッドバンッドバンッと前方へと吐き出した。

 次の瞬間着弾したそれは、轟音と共に衝撃波を周囲に撒き散らす。ひぃぃ、どこの迫撃砲ですかっ。

 

「どわわわっ!!」

「ひゃあああっ!」

「ググゥ!!」

 

 赤の光の氾濫を目にしながら、そのブレスの威力をまざまざと見せつけられる。

 ………これ、ほんとに倒せるんだろうか………。

 

『よし!方針決まったな』

『分かりました。いつも通りという事で』

『ラギくん。囮よろ!』

 

 フレンドチャットからそんな言葉が投げられる。………はぁ、そうですか。仕方なく肩を落としながら僕も移動を開始する。

 逃げ回り、壁にぶつけ、その隙きに珠を攻撃する。 

 一度間違った珠を攻撃してブレスの直撃を喰らいそうになったけど、ルリが出した無数の泡のお陰で助かったりした。ルリにサンキューだ。

 そう、先の事から攻略の糸口を見出した姉達は、僕を囮にして胴体の珠のうち2つを壊す事に成功する。

 

『GarururuoHhooo〜〜〜〜〜〜〜Oroohooo!!』

 

 ダメージを受けたワイヤードドラゴが吼える。

 ワイヤードポーンの時とは反対に相殺色の魔法で攻撃する事でなんとか壊す事が出来たのだ。

 

『しっかし、かてぇなあれ』

『2重構造っぽい?』

『壊せるので問題ないです。あら、ルリちゃんどうしました」?』

「チャ!」

 

 フレンドチャットで話しながらフラフラするワイヤードドラゴを見てると、ルリが空を指差して声を上げる。

 

「ウリスケ、頼める?」

「よろしくなのです!ウリスケさん!」

「ぐどらく」

「グッ!」

 

 ウリスケはサムズアップをすると、そのまま空を駆けてレンズへと向かって行く。

 

「グッグッグ〜〜〜〜〜〜ッッ!」

 

 そして光を纏いつつあるレンズを、何度も何度も体当たりを繰り返して次々と破壊していく。

 サーチライト程の大きさのレンズはやはり硬そうで、なかなかに大変そうだ。

 だけど、他に攻撃役の人間がいない以上(僕は狙われてるし、他は距離があり過ぎて届きそうにないから)ウリスケに頑張ってもらうほかない。

 ここでシェイドモンスターなんかに出られた日には、正直堪ったもんじゃない。

 

『GORARARAraahh〜〜〜〜〜〜〜〜Ohoh!!』

 

 三度の咆哮でワイヤードドラゴの攻撃が変化する。

 行動がパターン化していたせいで、油断していたので危うく死に戻りしそうになる。

 距離10mまで接近してきたところでいきなり動きが変わった。 

 

「マスター!しゃがんでなのです!“グラドウォール”“グラドウォール”“グラドウォール”うにゅにゅ、“グラドウォール”“グラドウォール”」

 

 ララの指示に従い、すぐに腰を落とししゃがみ込む。すると僕の右横に土壁が次々と現れて来る。

 ワイヤードドラゴは頭を横に動かしてグルンと勢いをつけると、左後ろ脚を軸に回転して尻尾を振り回してきたのだ。

 

「うおっ!まじかっ!!」

「まじなのです」

 

 ブフォォオオオッッという風切音と共に針金の尻尾がこちらへと襲ってくるのが見える。どの道この位置では逃げようがない。

 

「くる!」

 

 ドッガガガガガガガッという激しい音が右横で響く。そして振動も。

 そちらを見ると5重に連なった土壁は、残り1個を残して破壊されていた。

 4本足であんな機動ができるのかと思いワイヤードドラゴを見ると、左後ろ足の膝部分が砂時計のようにぎゅっと拗じられ撚られてるのが見えた。

 

「うっわ〜………まじか」

「マスター、移動してなのです」

「うん、分かった」

 

 僕達はワイヤードドラゴを横目に見据えつつスタコラサッサとその場を壁伝いに走って離脱する。

 ワイヤードドラゴはこちらを睨めつけながら左後ろ脚をひょいと上げると、ぎゅるりと足が回転して元へと戻っていく。くぅ、けいじょうきおくごうきんめっ!

 

『大丈夫?ラギくん』

『うん、大丈夫。ララのお陰で助かった』

『しっかし、どうすんよ?あの尻尾は厄介だぞ?』

『離れて魔法を放つのも限界がありますし………』

『皆様、ララに考えがあるのです―――』

 

 え?ララがフレンドチャットに入れるのかなんて、気にしちゃダメだね、うん。

 こうしてとりあえずララの指示に従う事にして、僕達は改めて行動を開始する。

 相変わらずワイヤードドラゴは僕を標的にしている様で、こっちに向かって突進してくるのが見える。

 

 壁際で待ち構える僕達に向かって、今度は左前脚を軸に尻尾を振り回してきた。

 さっきよりも遠い位置からの攻撃に、僕は焦りを覚えながらしゃがみ込む。

 

「大丈夫なのです、マスター。“グラドウォール”“グラドウォール”“グラドウォール”」

 

 右から襲いくる針金の尻尾は、ララが作った斜めに立てかけた(・・・・・・・)土壁を滑らせて僕の頭上を通り過ぎていく。

 

『Garrorororooohooo〜〜〜〜〜〜〜Oo!!』


 そのまま尻尾は1回転をして上方へと振り上がり、ワイヤードドラゴはバランスを崩して横転する。

 ドドドドンッッ!!という激しい音と地響きを立ててワイヤードドラゴは仰臥する。

 

「行っくぞ〜〜〜〜っっ!」

「はいよ〜〜〜っ!」

「行きます!」

 

 姉達が胴体の珠へ向かって攻撃を開始する。

 僕の目の前には頭部がよこたわり、白の珠が宙に浮かんでいたりする。

 

「マスター、攻撃してなのです」

「あ、そうだね。えーと………」

 

 そういやそうだった。それじゃあ、せっかくなんでさっき覚えたアーツを使ってみよっかな。

 僕は構えを取ってアーツをその白の珠へ向かって放つ。

 

「“スパイクインパクト”」

 

 すると風が拳にまとわり螺旋を描くエフェクトを見せ回転を増して行く。

 そして僕はそれを白の珠へと叩きつける。

 カィィィィンと甲高い音を響かせ寸の間白の珠が微動したかと思うと、パカリと半分に割れて真ん中部分から光の粒子となって消えて行った。

 そしてホロウィンドウが現れて【CONGURATULATIONS!!】の文字が表示される。

 

「え?」

 

 


  


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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