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193.影と言えばお約束

 

 

 

 正直言って、このダンジョン作った奴は頭おかしいと僕は思う。

 おかしいというか、非っ常にっ!捻くれている上に天邪鬼なんだろう。

 

 なんせダンジョンというものを馬鹿にしたかの様に上に行ったり下へ行ったりしてるなんて、セオリー無視もいいとこだ。

 そしてあまりにも罠が多すぎる、もしクッキーズ(フラポテ)がいなかったら進むのを諦めていたかもしれない。

 

「まったく!どこのF○3ダンジョンですかねっ!最終ダンジョンでもあるまいしっ!もうっ!あ、ルリちゃんに言ってるんじゃないですからね、クッキー食べます?」

 

 姉達を余所にアンリさんが眉間に皺を寄せてぶつぶつと悪態をついている。それにぐずったルリを見て慌ててあやしていたりする。

 ってか今時あんな古典のソフト(もん)プレイしてる人がいるとはと思ったけど、ラミィさんの会社とこ入社し(はいっ)てると鑑みれば、然も在りなんと言うのかもしれない。

 

 クッキーズのナビのお陰でモンスターとの戦闘はあるものの、特に苦も無くボンバーマ○エリアを通り抜け、八角形の形をした部屋へと入る事が出来た。

 広さとしては高校の時の体育館より少し小さいぐらい。

 壁の上部分30cmほどが出っ張っていて、その部分にレンズ状の丸い物体が3つづつそれぞれ壁1面づつに付けられているのが見て取れる。そして――――

 

「出口がない?」

「ないわね」

「ないのです」

「グッグッ!?」

「行き止まり………じゃあ無さそうだね、ほら」

 

 ラミィさん、姉、ララ、ウリスケが入口付近で周囲を見渡してそんな事を言ってると、クッキーズがてててと中を進み1つの壁の前で立ち止まって手招きをしている。

 

「ん?あっこが出口ってつー事は、なんかの仕掛け(ギミック)があるって訳だな。ふ〜ん」

 

 ラミィさんがクッキーズを見据えながら、床と天井を眇め見る。

 天井と床には幾何学模様と言った感じの太い線が縦横に描かれている。とても目に優しくないチカチカ仕様だ。

 僕達がクッキーズの下に向かおうと中央まで行くと、ゴゴゴと重厚な音を立てながら入口が上から降りてくる壁に塞がれてしまう。

 

「お約束とは言え、ビビるな」「あね様はエレレが守るです!」

「いかにもアレがやりそうな仕掛けだわ」「後でお仕置きですね」

「ハイハイ、ルリちゃんはじっとしてて下さいねぇ〜。コンドォ―さん、フォローして下さいな」

「チャッ!」「ブクゥ〜」

「グッ!」

「やってやるのです」

 

 僕達は中央に集まって、互いに背中を預ける形で周囲を警戒する。

 

「あ、クッキーズ(フラポテ)

「ふらぽて?」

 

 おっと口が滑ってしまった。

 姉が僕の呟きを聞いて首を傾げる。

 

「ちょっとクッキーズ回収してくるよ」

「気をつけてラギくん。何するか分かんないから、アレ」

「うん、分かった」

 

 今迄の探索でそれは充分に思い知らされてますから。

 僕が壁際で手招きしてるクッキーズを回収に向かうと、姉が注意を促してくるのに軽めに答える。が、それはちょっとばかり軽かったようだった。

 僕がクッキーズを回収しよう手を伸ばすと、その手から逃れる様にてててと移動してしまった。

 

「え?」

 

 その時激しい光が左側から。まるでカメラのフラッシュのようにパパパっと襲う。

 思わずその光に手を遮り目を覆ってしまう。

 

「ラギくんっ!後ろっ!!」

 

 姉の慌てたような声と背後の気配に怖気を感じ転げながらその場から逃げ出した。

 途端にブォンという風切り音を耳にして、その先を仰ぎ見る。

 

「?僕?」

 

 その子には僕の姿形をした真っ黒い影の様なものが立っていたのだ。

 その姿に驚く僕へと更に攻撃こぶしを繰り出してくる。

 ガッガッガガガツンと手甲でその攻撃を防ぎながら、後ろへと下がって距離をとる。

 シェイドボーンと違って完全に実体化してるみたいで、何気にダメージを与えて来る。

 

 影は距離をあけても、すぐさま接近して来て拳を振るって来る。

 その攻撃を右に左に避け躱し手甲で逸らして行く。

 ビリリと腕に響く威力に舌打ちしながら防御に徹する。

 なんとも手強いモンスターだと動きを見てると、ある事に気づく。

 

「マスターとおんなじ動きなのです」

 

 相手が僕に近づき過ぎてる為、横から魔法が撃てないララが僕のそばに来て言ってくる。

 なる程、アレはまさしく僕の影って訳か。なんとも厄介な。

 

「グッグッグ!」

『―――――!』

「日頃のぉ〜〜〜うぅっぷんを〜〜〜〜〜っっ!!」

「うぉいっ!」

 

 僕以外のところでも、ウリスケとその影画質内を駆け回り身体をぶつけ戦い合い、アンリさんが範囲攻撃の魔法をラミィさんの影らしきモンスターへ放っていた。(あれ、どう見てもオーバーキルだよね?)

 

「“ウィンドカッタ”」

 

 影の攻撃を手甲で受けたところに、アトリが魔法を影の顔面に放つ。僅かにその身体がノックバックする。

 

「“グランディグ”」

 

 そこへララが土魔法で足元を崩し、影がバランスを保てずふらついたところへ僕は拳で連打ラッシュを繰り出す。

 

『―――――!!―――!―――!hyuooooooo…………』

 

 影の動きを読みながら、隙なく拳をぶつけ続けてようやく倒す事ができた。シェイドボーン同様に末期の声を上げ薄く伸びて消えて行った。

 他の方を見てみると、ウリスケもアンリさんもすでに影を倒し終わっていたのだった。むむぅ………。

 アンリさんはともかく、ウリスケに後れを取ってしまった事にはちょびっと悔しかったりする。

 

「仕方ないのです。最近のウリスケさんはパないのです」

「?」

 

 僕の表情から察したエスパー(ララ)がそんな事を言って来る。

 パない?でもララもウリスケもLvは同じだったと思うけど。

 

「ララとウリスケさんでは元々の出自が違っているので、その分ステータスにも差が出てるのです」

「………あー、うん」

 

 そう、もともとララはアテンダントスピリットから従魔モンスターになった経緯があるので、ウリスケとはその分1歩も2歩も差が出てるんだろう。

 それはステータスであったりスキルであったりするんだろうなと、そんな考えに至る。

 実際それが本当の事なんだろうと、ララの言葉で確信する。

 

 まぁララが特別扱いってのは理解できるし、ある程度のバランス調整は必要であろうとも思う。

 そこら辺は後で姉あたりに聞いてみればいいかなと思ったりする。

 ってかそんな事を考えてる暇はあんまり無かった。

 影を倒すたび光が僕達を襲い、次々と影のモンスターを作り出して襲って来ていたからだ。

 

 アテンダントスピットはその範囲外らしく、影となって出てくるのは僕達PC(プレイヤー)と従魔達だ。

 ララは言うに及ばず、ルリまでもが影になって僕達に立ちはだかって来たのだ。

 その事にまず怒りを露わにしたのがアンリさんで、次に本人たるルリ。姉にウリスケ、ラミィさんと言ったところか。要はまぁ全員だ。

 もちろん僕も皆同様怒りを覚えた。

 

 だからといってその影に攻撃をする事が出来なかった。ルリ本人とウリスケを除いて。

 どうにも僕達は手を出す事がためらわれてしまったのだ。

 なんと言っても影の動きや仕草がルリそっくりだったから。

 

「私には無理ですっ!ラミィさんお願いしますっ!」

「あーしだってムリだっつーの!サキ!任せるっ!」

「いやいや!あんた等がダメなら、あたしもやれる訳無いっしょ!」

 

 3人がそれぞれに役割を振るものの、皆が手を横にぶんぶん振って断っている。もちろん僕もお断りだ。

 だって影のルリは攻撃する素振りもにせずに、首をコテンと傾げるばかりだったからだ。

 最初は何でこっちを攻撃しないんだろうか?と思ったけど、ウリスケの体当たりを喰らいルリの見えない爪の一撃で影のルリは消えてしまった。おおっ、ルリが攻撃を。

 

「ん?んんっ!?」

 

 ルリの事で頭の片隅からちびっと疑問に感じていた事がポワンと浮かび上がって来た。

 影が僕達と同じモノとは限らないものの、その姿と行動アルゴリズムはどこかでトレースし(なぞっ)てると想像できる。

 それはどの地点からと考えてみれば、やはりこのダンジョンに入ってからの僕達の行動という事になる。

 そんな推測をしていると、また光がパパパと輝き僕達を襲う。

 

 ん?んんっ?という事は、ここに出て来る影のモンスターというのはダンジョン内で行動した僕達の姿って事なのか?

 僕達の動きやその行動を真似て(トレースし)て最適な動きを選択しながら戦っているのだろうか?

 あれ?もしかしてこの影って、そうなんだろうか………にへへ。

 

 それは僕にとってこれ迄得る事の出来なかった事案。

 じーちゃんが亡くなってから頭の中でしか出来なかったもの。

 あっち側の行動(アルゴリズム)故に幾ばくかの違いはあるものの、それは間違いなく僕自身なのだ。

 ならばこれを利用しない手はない。

 

「みんな〜〜〜っ!壁に身体を張り付けろっ!!」

 

 ラミィさんが声を高らかに、そんな事を大声で叫んで来た。

 皆がその声に従って壁へと身体を寄せて警戒をする。

 それを横目に僕は前へ1歩足を踏み出す。

 

「マスター!?」

「ラギくん?」

「グッ?」

 

 いやだって自分と戦えるなんて機会そうそうないし、よく考えてみると組手あわせみしたのってじーちゃん死んで以来やってなかったのだ。

 ならばその機会を逃すのはあまりにももったいない。そう!もったいないお化けが出て来るだろう。

 光がパパパと正面から迸り、その光を手を顔面にかざして目を細めて光の元を見る。

 

「………ふ〜ん」

 

 なる程なるほど。元凶はあのレンズか。

 僕はそんな事を思いつつ、後ろへと向き直る。

 そこには床に焼きついた様な黒い僕の影がムクリと起き上がる姿があった。

 僕は舌舐めずりをしてそれを見る。

 じーちゃん直伝の呼吸法、そして影と対峙する。

 

 さぁ!やろうか。

 

「みんな!あのレンズみたいなのぶっ壊すわよっ!!」

「かしこまです。あるじ様」

「よっしゃ!やるぞ、エレレ!」「やるです!あね様!」

「仕方ないですねぇ」「プククゥ」

「やるのです!」

「グッ!」

「チヤッ!」

 

 どうやら僕と同じ考えに至った様で、姉が皆に声を掛けてこの部屋の攻略を開始する。

 地面に映る影が実体化するのなら壁に張り付きそれを防ぎ、そして影を作る大元を壊す。分かってみればごく単純ではある。まぁそれが正解とは限らないけど。(あって欲しい)

 

 ガシャンガシャンとガラスが割れるような音を耳しながら、僕は僕の影との戦いに興じる。

 このダンジョンでは弓も魔法も使ってなかったので、ガチ拳と拳の応酬になる。

 やっぱりイメトレだけではどうしようもなかった部分が色々と分かってしまう。

 

 相手を見る。全体を。攻撃を躱す。弾く。うわ~………そこガラ空きじゃん。

 ほら、足元が疎かだ。

 徐々に自分の粗が目に見えて、うわ~ってなってくる。

 組手百篇とは言うけど、やっぱり身体動かさないとダメダメか。はぁ。


「マスター、戦闘バトルジャンキーなのです」

「うんうん、そういうとこあるよね。ラギくんって」

「笑ってますよ。変態ですね」

「チャ!」

「グッ!」

 

 なんか外野がうるさい。ほっといて下さいな、もぅ。

 

 

 


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ

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