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191.そのダンジョンは(僕的に)手強い

 

 

 落下の感覚はそれほど長くはなく、やがて地面に足がつく。

 だけど目を閉じた状態のせいで、着地の時にバランスを崩して尻餅をついてしまうのは仕方ないだろう。

 

「って!つぅ〜〜………たた」

 

 痛みはないものの、なんとなくそんな言葉を漏らしながら立ち上がり周囲を―――見回せなかった。

 

「うっわっ!真っ暗っ………」

 

 そう、周囲は完全に黒で、自分の手すらも見る事が出来な状態だ。

 とりあえず皆がいるかの確認だな。少しづつ息を吐き出し、落ち着きを取り戻そうとしながら声を掛ける。

 

「みんな〜。いる〜?」

「は〜い。ラギくんいるよ〜」

「お〜う。って見えねぇ〜な〜」「あね様、ここです」

「マスター、そっちなのです?」

「グッッグッグッグ!」

「うえ」

「チャ」

「ハイハイ、掴まっててね〜ルリちゃん」「ぶくぅ~」

 

 どうやら皆いるみたいだ。とは言え動くのも危険な感じがする。

 ちょっとだけドクドクと鳴り響く心臓の音をを聞きしながら、必死に落ち着こうと深呼吸を繰り返す。

 

 闇は嫌いだ。ダメだ。

 今でこそ克服したと思っていたけど、ここまでの規模になるとさすがに恐怖が足元からゾワゾワと這い上がってくる感じだ。ふっ、ふっ………。

 子供の頃の記憶。拐われ連れ去られた時の、あの時の恐怖が駆け上がってくる。

 

 油断といえば油断だったのだろう。いや、小学生に何をいわんやと言えばそうなんだけど、あっさりと騙された事には忸怩たる思いもするのだ。定番のご家族が救急車って奴。

 スタンガンで身体の自由を奪われ、猿轡さるぐつわにアイマスク、耳にはヘッドホンを付けられた上になにか袋を被せられ、両手足を縛られ車の後部トランクに押し込められてしまった。

 

 身体が痺れ身動みじろぎもできない暗闇の中で、僕はただただ恐怖するしかなかった。

 何も感じない暗闇。その黒の中音楽とも思えない雑音を聞かされながら、僕は意識を失った。

 その後の記憶は目が覚めると病室の中で、姉と父さん母さんが心配そうに僕を見ている姿だった。

 

 それから僕は暗がりに置かれると、しばらくの間恐慌状態に陥るようになっていた。

 その時はカウンセリングと暗示療法ヒュプノセラピそして姉の献身的なサポートのおかげで完全とはいかないものの回復したのだった。

 だけどこれ程の闇となると、さすがに恐怖が這い上がってくるみたいだった。

 

 あ、視界左端上にCAUTION!の赤文字が点滅を繰り返す。

 そして機械音のような平坦なアルトで注意勧告をしてくる。

 

『脳波パターン異常パルス発生により1分間回復しない場合、強制ライドシフトを行います。カウント始めます』

 

 強制ライドシフト?ログアウトじゃなく、ライドシフト?どうやらかなり拙い事になってるみたいだ。とは言え落ち着こうにも僕自身じゃ頑張っているものの何も変化が起こる様子がない。カウントが進む。

 僕には為す術がない――――

 

「チャ!チャチャチャ――――ッ!!」

 

 僕がこの強制ライドシフト警告(じょうきょう)に焦燥していると、左の方からルリが声を上げるのが聞こえた。

 するとそこらでポポポポ―っと幾つもの青い火の玉のようなものが頭の上のように出現し、周囲を照らし始める。

 火の玉は全部で6つ輪を描く様に浮かび、暗闇を少しだけ消してくれた。

 

 まだ強制ライドシフト警告が消えていない。どうすればと身体の力が抜け落ち崩れ落ちる。

 

「キラくんっ!」

 

 それを姉が抱える様に身体を寄せて支えてくれる。優しく壊れ物を扱うように。ああ、助かった。

 くぅ………なんとも、情けない。それでも姉に力を借りながら立て直すことに注力する。

 そして身体に力を入れて踏ん張り立つ。

 情けなくも、ちょびっとだけの僕の矜持だ。(プライドとはちょっと違うもの)

 

「マスター!」

「グッ!?」

「アトリいる」

 

 皆の声を聞いてようやく強制ライドシフト警告が消えて行った。ふぅ………。

 

「どうしたんラギ?」

 

 明るくなった事で、僕達が集まっている場所にラミィさんとルリを追いかけるアンリさんがやって来る。

 

「いえ、大丈夫です。はい」 

 

 とりあえず当面の強制ライドシフト(きき)は免れた。でも、予測のつかない状況って焦るよ、ほんと。

 

「キ、ラギくん、まだ暗いのダメ?」

 

 姉が耳元で囁くように小声で聞いてきた。

 

「………さっきみたいなのはダメみたいだ。強制ライドシフトってのが出たから。はぁ、情けないよね」

「んにゃ、これはやり過ぎ。後でアレは一発殴る。どこの善◯寺だっつーの」

 

 あー………そういやそんなとこあったね。僕は行かなかったけど。

 なんとか落ち着きを取り戻した僕は、改めて周囲を見回し確認してみる。

 ただ火の玉の範囲内の事なので、それほど情報があるわけじゃない。

 

 地面はざらざらとした表面で、なんとなく軽石のような材質だと感じる。

 室内は灯りが届いてないので、どれ程の広さか見当もつかないな。

 

「なーサキよ~」

「なによ」

「あーえ~………これってダンジョンだような。どー見ても」

「間違いなくそうでしょ。アレの仕業でしょ、完全に」

 

 姉とラミィさんが視線を交わし、やれやれといった感じで肩を落とす。

 

「ですがアレの一存で設置は出来ないんじゃないでしょうか?あっ、ルリちゃん!」

 

 アンリさんまでもがアレ呼ばわりをし始める。抱きかかえていたルリがていって感じでぴょんと飛んで僕の胸へとしがみ付いてくる。

 よくよく考えてみると、ルリのお陰だよなぁ。強制ライドシフトを免れたたのって。

 

「ありがとな、ルリ」

「チャ?」

 

 ルリにお礼を言いながら頭をワシワシと掻いてぐりぐりする。相変わらずのモフモフ具合だ。チャッチャチャと声を上げて喜びんでいるのをみると、本人あんまり分かってないみたいだ。

 とはいえルリにばかり灯りを出させてる訳にも行かないので、とりあえず灯り玉を出そうとメニューを表示させる。

 

「ん?これでもいいかな?」

 

 現れてホロウィンドウは淡く光を発し、周りを照らしている。

 でも範囲がちょい狭すぎる訳で、やっぱりと灯り玉を使う事にする。


「グッグ?」

「あ、ウリスケさんダメなのです!」

 

 室内を探索していたらしいウリスケが何かを発見してそれをいじってしまった用で、ララがそれを止めようとする声が聞こえて来た。

 だけど時すでに遅しという事で、カチリという音とともに地響きがグララと起こる。

 

「っ!みんな気ぃ付けろっ!」

 

 ラミィさんが警告を発して、ぼくたちは周囲を警戒する。

 僕は思わず地面を見下ろして、また落とされるのは勘弁して欲しいと心の中で懇願する。

 

「あ、収まった?」

 

 姉が僕の肩に手を載せながら、周囲の様子を窺う。

 まぁ、僕は今のところそこまで考えが及ばないって状態だ。

 すると光がパパっと何度か点滅を繰り返すと、電灯を点けたように周囲が明るくなるのだった。

 

「グッグッグ!」

「ウリスケさん!終わり良ければじゃないのです!」 


 ウリスケが壁の脇に立ってサムズアップをし、ララはその横で呆れた様にお手上げのポーズをとっている。

 どうやらウリスケが明るくなるスイッチを押してしまったみたいだ。

 確かにこの手のギミックは罠の可能性もあるのだから、充分に注意しないとダメなとこもあるもんな。まぁウリスケの言う事にも一理はある。

 

「ありがとな、ウリスケ。お陰で助かった」

「グッ!」

 

 このままあの明るさで再び闇になったら、さすがに強制ライドシフトになってしまいそうだ。

 

「それにしても、どっちに行けばいいのやらだな、こりゃ」

 

 ラミィさんが呆れた様にそんな言葉を漏らす。 

 明るくなった事で周囲の様子が分かったんだけど、なんとも面倒な事になりそうだ。(主に時間的な意味で)

 現在僕達のいる場所は、円柱状の形をしていて、直径20m高さ5m程といったところか。

 そしてその壁には全部で八方向に通路が伸びている。そう前後左右斜めへと。

 通路も明るくなっていて、それぞれ奥へと続いているのが見て取れる。

 

「マスター。ここはセーフティーゾーンのようなので、一旦休憩した方がいいのです」

「うん、満腹度もそれなりに減ってるし、ちょっと補給も兼ねて休もっか」

 

 ララの言葉に姉が頷き、ここは一旦休憩に入る事になった。

 中央付近で車座になり僕が簡易テーブルを出すと、姉がカアンセの街で買った食べ物を次々と出していった。

 

「待ってましたなのです!」

「グッグッグ」

「まち~」

「チャ!」

 

 ララ、ウリスケ、アトリがテーブルの上を陣取り、アンリさんの膝上からルリが声を上げて食べ始める。

 姉が出したのは、チィズ小丸玉やトロふわ卵まんとかの冒険者ギルドで買ったものだ。

 せっかくなので僕はお茶でも入れる事にしよう。

 

 よく考えてみれば、最初からお茶を入れて収納しておけば良かったよなぁなどと思いながら、魔導コンロを出し鍋にお湯を沸かして火を止めて、茶葉を入れてしばし待つ。

 カップを人数分出して、茶こしを使って鍋からお茶を注いていった。今度ティーポット用意しとこ。


「カモミーティーなのです。ありがとうなのです、マスター」

 

 カップをのぞき込み香りを嗅いだララが、顔を綻ばせながら言ってくる。

 

「ん?んん?」

 

 お茶を配り終え、出来上がったお茶の内容を見て思わず首を傾げてしまった。お茶でLv10超えた?

 

カモミーティー:乾燥させたカモミの葉をお湯で淹れたもの Lv10 ☆☆


        鼻を通る清涼感と独特の甘みをもったひと品

        葉の投入タイミング、注ぐタイミングがほぼ完璧と

        いえる珠玉の逸品

        午後のティータイムにどうぞ

        (HP+8 満腹度 50%)

 

「ララ、なんかLv10超えたんだけど、なんでかな?お茶ってLv3か4ぐらいだったんだけど………」

「はぐはぐ、たぶん【調理術】スキルのお陰なのです。上位スキルは作ったもののLv上がる事があるのです」

 

 確かに【調理術】をスキルに設定しようとしたら【調理】が上書きされたみたいだったけど、そういうもんなんだろうか。

 あまり実感がわかないものの、まぁそんなもんかと納得しておく。

 

 休憩を終えてまずはこの場所をそれぞれで調べ回る事にする。

 それなりに落ち着きを取り戻した僕も、それに倣う。

 姉とラミィさんが東側を、アンリさんとルリが西側で僕達は南を調べている。

 

「でもよく分かったねウリスケ。こんなもの」

 

 さっきウリスケがいじったのはどう見てもスイッチだった。

 オンオフが上下になっていて、押して切り替えるタイプのやつが地面から30cm程の所にあったのだ。

 

「グッ!」

 

 どうや!と言わんばかりにウリスケが胸を張っている。

 

「とは言っても、どこから手を付ければいいのやら………」

 

 8本の通路を見ながら少しだけ途方に暮れる。

 8方向に続いている通路は、どれもが真っ直ぐに伸びている様に見える。

 どれだけの規模かは分からないけど、これだけ見てもかなりの広さだと窺い知れるものだ。

 

「そうなのです!マスター、アレを使ってみてなのです」

「アレって、何だっけ?」

「ガチャで出たテマネキ・クッキーズさんなのです」

「ああ、あれ?」

 

 そう初ログインの時にやったガチャの中に、タワシと同様に使い道がなさ気なアイテムがあったのだ。

 

「えーと、どれだっけかなっと」

 

 僕はメニューを呼び出して、アイテム欄から目的のものを取り出した。

 

「これ、本当に使えんのかなぁ………」

「ものは試しなのです。実践あるのみ!なのです」

「分かったよ。そんじゃ、やってみようか」

 

 それはクリスマスツリーのオーナメントで飾られる、いわゆるジンジャーマンクッキーやジャンジャーブレッドマンと言われる茶色い人型のもので1cm程の厚さのそれが10枚重なっているものだ。

 大きさは僕の手の平より少し大きいぐらい。(20cm程)

 鑑定するとこんな感じ。

 

テマネキ・クッキーズ(Dタイプ):ある魔法を触媒にして

                    作られたクッキー Lv 5 ☆

 

                 1つを剥がして地面に置くと

                 手招きしながら出口へ道案内をしてくれる

                 ダンジョン限定仕様アイテム


                 ただし水に浸けてしまうとふやけて

                 動かなくなるので要注意!

                 非常食にもなる(10枚1セット)

                 (HP+150 満腹度45%)

 

 アイテムが食べ物って………。

 確かに動く人型クッキーとか子供が喜びそうなものではあるけど、やっぱりなんかなぁーではある。

 論より証拠ってな訳で、まずは試しにやってみる事にする。(10枚あるし)

 

 端っこのクッキーをペリリと剥がし、そのまま地面へとそっと置く。

 するとブルリとクッキーが震えると、ムクリと上半身を起こしてからよいしょと立ち上がる。

 

「おおっ!」

「動いたのです!」

「グッグッ!」

「ほ〜」

 

 クッキーはそのまま周囲をぐるりと見回してから移動を始める。

 迷いなく斜めにある北西の通路へとタタタと進んで行く。

 しばらく進むとこっちを振り返って手招きをしてくる。おいでおいで〜って感じだ。何気に和む。

 

「チャッ!はむ」

 

 ちょうどクッキーがルリの横を通りすぎようとした時、ルリがぱっとクッキーを掴んでその頭をバクリと口に入れてしまった。

 

「あ」

「食べちゃったのです」

「グゥ?」

「お?」

 

 僕達はそれに唖然として見てるだけだった。

 頭を噛まれたクッキーはジタバタと抵抗をして手足を動かしている。あ~~………。

 

「ルリちゃん、汚ちゃないからペッして、ペッ!」

「ヂャ?」

 

 アンリさんが諭すようにルリへと言うけど、本人は首を傾げてそのまま噛み砕いてしまう。

 バタバタとしていたクッキーがボリッという音がすると、パタリと動きを止めてしまう。

 そして全部を口の中に収めてガリボリガリと咀嚼音を響かせてから、ゴクンと食べてしまった。

 

「けふっ」

「……………」

 

 仕方がない。僕は2つ目のクッキーズを剥がして地面に置く。

 

「あ、ルリもだけど、ララ、ウリスケ、アトリも食べちゃダメだからね」

「えっ!?」

「グッ!?」

「おぉ………」

「チャ〜……」

 

 とりあえずいきなり食べない様に皆に釘を刺すも、ララとウリスケはえっ、まじっ!?って顔をしてアトリとルリからは至極残念そうな声が上がる。

 道案内してもらうのに食べちゃったらしょーがないだろうに、はぁ。

 

 


(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ

Ptありがとうございます!ガンガリます! Σ( ̄△ ̄)タ

 

ご指摘受けた個所の修正終わりました99.100.【調薬】を【鑑定】に変更しました

いろいろ矛盾点あると思いますが、これからもよろしくお願いいたします m(_ _)m

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