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184.キラくんの行動を観察する その33

姉回です

 

 

「すんげ~………」

 

 よもやゲームの中とは言え特撮物の名乗り口上(アクションポーズ)をやるなんて、ア、………ゲフンゲフン。もとい、こんな格好いー事をやろうとするPCがいるとは思いもよらなかった。

 あまつさえララちゃん達までがポーズをとっちゃってたりする。

 ぶふっ!キラくんはちょっと恥ずかしそうに後ろに下がってる。

 さすがにあの年でアレををやるのはきつかろう。ぷぷぷ。

 そしてアテスピ団とララちゃん達の視線の圧力に負けた脳筋がポーズをとる。

 

「………うわぁ。………ないわ~、キモっ」

 

 現実リアルではあたしより上であろう奴が、恥ずかしげもなくやっちゃっているよ。

 思わずドン引いたけど、まぁどうでもいいや。

 この後はラビタンズネストでのやり取りと似た感じで脳筋をやりすごして、キラくんがログアウトをしていった。

 アテスピ団の女の子が(アスカちゃん?だっけ)フレンド登録を拒否ったのが、何とも笑いを誘ってしまう。

 なかなかに人を見る目あるね、あの子。

 

 そこはかとなくあたしは気分を良くして、ホロウィンドウを閉じて寝る事にする。

 ストックも増えたし、不安要素も減ったのだ。

 今日は心安らかに眠りにつけそう………ふぅ~~。………くか~。

 

 

 

 パチリ。

 

 普段より早く目が覚める。おおぅ………。年のせいじゃなかったのか?

 なんとも清々しい目覚めだ。

 ベッドの上で軽く伸びをしてから、起き上がり着替えを済ませて部屋を出る。

 

 今日、キラくん達はアテスピ団の皆とカアンセの街に行く予定だったかな?

 時間があればあたしも付いて行きかったけど、仕方ない。

 今日は遠出になるんで、いつもより早めに出なきゃならないのだ。

 

『おはようございます。あるじ様』

「おっはよ!レリィ」

 

 レリィと礼儀正しくリビングで挨拶を交わすと、すぐに出かける用意を済ませて愛車へと乗り込み出発。

 何度も行ってはいるけど、なんせ1年振りなのでナビを起こしてルートの確認をする。

 

『あるじ様、緊張されてるのですか?』

 

 あたしのバイタルをチェッエクしたらしいレリィが聞いてくる。

 

「まぁ………ちょっとだけね。大丈夫だから心配しないで」

 

 なんせ父さん方の親戚というか、大叔母様のとこに行くからだ。

 どうもあの人の前に出ると、意味もなく緊張してしまう。

 普段のあたしと違って、ちょっと余裕を持てなくなってしまうお方である。正直こあい………のです。

 かと言ってすごすごと引き下がるあたしではない。あたしではない、多分………。

 

 愛車は高速へと入り、そのまま西へと向かう。

 朝ゴハンは途中のSAでいただくとしましょ。

 まずは大叔母様のとこに向かうのだ。

 カリフラワーとブロッコリーは、先に食べてしまうのに限るのだから。

 

 SAで軽く腹拵えをしてから、高速を降りて一般道へと入りナビに従い愛車を走らせる。

 市街地を離れ、やがて家も疎らになっていく。

 それに倣う様に道路も道幅が狭くなっていく。

 本線そこからハンドルを右に切って脇道に入り更に進む。

 目の前に広がる雑木林の中を突っ切りそのまま山道へと進入し上っていくと、やがてポッカリと空間の開けた場所へと出る。

 

 そこは山の中腹から上を切り取った様なところで、元々は寺院か何かであったとこを大叔母様のご先祖が買い付けたとか聞いたことがある。(本当かどうかは調べてないから分からない。興味ないし)

 玉砂利の敷かれた中を、ジャリジャリとゆっくり進み門脇の車止めへと愛車を駐車させる。到着〜。

 

 端末で自身を映して軽く身だしなみをチェックして愛車から出る。

 じゃりじゃり音を鳴らす小さくも丸い玉砂利に、あたしは少しだけ足を取られてしまう。ローファー履いてくるんだった。失敗失敗。

 気合を入れようと履いてきたピンヒールで、玉砂利を踏みしめながらあたしは門へと向かう。じゃりじゃり。

 

「しっかし無駄にでっかいよね、ここって………」

 

 漆喰で塗り固められた白い壁は左右とも100m以上伸びていて、上にはごつい瓦屋根がデデンと乗っかっている。

 そして目の前の門は、寺院だったといわれて納得できるほど立派なものだった。

 いわゆる四脚門といわれる4本柱に支えられえた切妻屋根に重厚な木造りの門扉。

 正直行きたいとは思えないとこなのだ。敷居たけぇ~………。

 なんて思っていると、門の片側がゆっくりと開いて執事っぽい服を着た老人が顔を出す。この場所だと何ともそぐわない感じだ。

 

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらに」

 

 きらりんと艶やかに頭部が光る。

 その頭の様相に反して口元にはたっぷりとした髭が蓄えられている。

 それなりにいい年の人間だけど。70代、80代?

 そう、あたしが一番いただけないと感じるのは、こちらを見やるその目だ。

 あたしを下から嘗める様に見るあまりにもイヤらしいその目は、今迄あたしが見てきた人間くそやろうと同じものだ。いー歳して。

 内心の怖気も見せずに、あたしは礼を返す。

 

「恐れ入ります。お呼びにより参りました」

 

 この台詞も毎年の事ではある。はー面倒い。

 執事のじーさんの後についてって、長い廊下を進んで応接室へと入る。

 すでにそこには大叔母様が、その冷たい視線正面に見据えて待ち構えていた。ファイト!


「ご無沙汰しております」


 あたしはそう言って頭を下げる。

 目の前のその御仁は、いかにもな雰囲気を醸し出す御婦人であった。

 白髪を複雑に編み込んで後ろで結い上げ、なんとも高級そうな着物と帯を締めて凛然とした態度であたしを見やる。

 相変わらず無駄に広い部屋だな~と思いながら(壁やあちこちに調度品もいろいろ飾られていてなんとも喧しい感じ)大叔母様の対面に座って、あたしはすぐに本題に入る事にする。

 バッグから封筒に入れられた書類を出して、大叔母様の前へと置く。


「この1年間の収支決算報告になります。ご確認を」

「………拝見します」

 

 あたしがそう言うと、大叔母様は書類を手に取り読み始める。

 30分ほどかけて書類を読み終え、大叔母様は何の感情も見せずに書類をテーブルへと置く。

 日本間じゃなくて良かった~………。正座してたら絶対足が痺れてあたたな事になっていただろうとソファーに浅く座りながら思ったりした。

 

「確認いたしました。ありがとう存じます」

 

 軽く大叔母様が礼をしてきたので、あたしもそれに倣うように頭を下げる。

 そしてもう1つの封筒をそのまま大叔母様へと差し出す。

 

「こちらは父からの調査結果の報告書になります」

 

 先日父さんから連絡が来て、こっちに行くついでに渡して欲しいと頼まれたものだ。(もちろんメールだったのであたしがプリントアウトしてるので、中身が何か知ってたりする)

 大叔母様は中を確認すると、諦念混じりの溜め息を吐き「やはり」と小さく呟いた。

 さて、これでここでの御役目は終了だ。それでは、とっととお暇いたしましょうか。

 あたしが腰を上げ「では」と言おうとしたところで、大叔母様が気がついた様に声を上げる。

 

「あら、お茶も出さずにいたわ。オウバ」

 

 ちっ、逃げそびれたか。大叔母様の声と叩いた手にすぐ反応して、メイド姿のオバさんがお茶を持って入って来た。

 ここは洋間だからそれ程違和感はないけど、この屋敷だとなんともちぐはぐな感じを受けてしまう。

 出されたのはティーカップに注がれた琥珀色のもの。紅茶だね、多分。

 

 カップもスプーンもそれなりにお高いものを使っているようだ。

 大叔母様が紅茶をひと口含みティーカップを置くと、あたしを見ながら小さく訊ねる。

 

「………あれは元気かしら」

 

 あれとは紛うことなき父さんの事だ。いくら親族でもあれ呼ばわりはないと思うが、背景を知ってるあたしとしては口を噤むほかない。なんせあたしは血の繋がりも何にもない赤の他人なのだから。

 なのであたしの大叔母呼びは本来する理由もないんだけど、ただ便宜上そう言っているだけである。(実際絶縁状態なので、一切関わりあいはないんだけど。まぁ一応って事で)

 

「ええ。あまり顔は合わせる事はありませんが、元気にあちこち飛び回ってます」

「そう………。それであの子は………」

 

 あの子とはもちろんキラくんの事。

 血が繋がっていなくても、この大叔母様はキラくんを可愛がっていたみたいだ。みたいだと言うのは、態度がそういう風に見えないからだ。

 来るたびに聞くので丸分かりではある。一体どこのツンデレなのやら。

 

「はい。無事修士課程を修了して、今は工房を開く準備をして元気にやっています」

 

 あたしはお茶には手を付けず、ニコリと笑って答える。

 何が入ってるか分からんもんに、口をつける気はない。

 父さんはここの一族に忌み嫌われているので、何をやられるか分かったもんじゃないからだ。

 なのに誰に援助さ(たすけら)れてるのかも知らずにあの態度なのだ。普通客が来たらお茶ぐらい出すものだもん。(大叔母様は知ってる)

 

「セレイラがあなたの様だったら、今も生きていられてのかしらね。あの娘はあまりにも儚かったわ」

 

 誰に言うでもないように、大叔母様は一人呟くように語り始める。

 セレイラさんとはキラくんのお母さん。つまり生みの母親の名前だ。

 毎度毎度の事ではあるけど、まぁキラくんの生みの親の話を聞く事もそうそう無いので大人しく拝聴する。

 一度だけ写真!を見た事があったけど、つややかな銀髪とすんだ青い瞳、そして真っ白な肌。本当に言葉通り綺麗でたおやかで儚げな印象だった。母さんとは大違い。

 キラくんもあの遺伝子を幾つか受け継いでると納得したものだった。

 そこへドタドタと足音が響いたかと思うと、バンと大きな音を立ててドアが開かれる。

  

「おばあさま!こちらでしたか」

 

 現れたのは20代前半のキラくんには遥かに及ばないものの、それなりに顔が整った男だった。

 おばあさまと言っているところを見ると、大叔母様の孫の内の一人なのだろう。

 

「来客中です。控えなさい」

 

 大叔母様は男を一瞥すると、冷たく言い放つ。

 

「客?コブのコブでしょう?大方金の無心でしょう?そんなものに気遣う必要なんて無いでしょうに」

 

 ナルホド〜………資料で知ってはいたけど、こりゃ相当ろくでもない性格をしているみたいだ。

 親がどういう教育をしてきたか、手に取るように分かってしまう。

 

「私は控えなさいと言ったのです。意味が分からないのですか?ユウイチロウ」

「っ!し、失礼しました、おばあさま」

 

 おいおい、謝るのはあたしに対してじゃないかと一般常識では思うんだけど、どうやらここじゃ違うらしい。

 ま、ここが引き際でしょう。とっととお暇いたしましょ。

 

「報告も済みましたので、失礼させて頂きます。本日は有難うございました」

「………ええ、御苦労様でした」

 

 あたしは立ち上がり部屋を出ようとするが、男が前に立ち塞がって邪魔をして来る。

 あたしを嘗め回す様に視線を動かし、ニヤリと口元を歪める。

 

「へぇ………。コブのコブでもいー身体してんじゃん。どうだ?これか―――」

「ユウイチロウ。退きなさい」

「………ちっ」

 

 おいおい、ろくなもんじゃないな。こいつ。

 舌打ちしながらユウ某が退いたので、大人で一般常識のあるあたしは軽く目礼をして立ち去る事にする。

 そのままユウ某が中へと入り、猫撫で声で金の無心をしてるのが耳に入ってきた。おいおい。

 

 勝手知ったるなんとやらで、あたしはとっとと玄関へと向かう。

 奴がコブのコブと言ったのが、父さんのお母さんがこのササザキ家に嫁いだからだ。父さん(コブ)付きで。

 どこで情報を仕入れたのかは知らないけど、あたしも母さんの連れ子って事でコブのコブと言ったのだろう。

 何とも下世話な物言いをしたものだ。(センス無し、だっさ)

 

 親とかそこら辺にそんな事を言われたとしても、それを本人の前で口にするって本当どういう教育をしているのやら。

 全くこんなとキラくんの血が繋がってなくて本当に良かった。


 お役目を終えて安堵しながら門を出ると、愛車の前で男が2人何やらやっていた。

 はー………また面倒事か。

 あたしは玉砂利をジャリジャリ踏み締めながら、愛車へと向かった。

 

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ

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