18.裏路地の露天商を探し出せ
いや、ほんとにptとブクマありがとうございます
てな訳で、またスキルショップへ行くことにする。店に入るとツイテの店員さんが笑顔で迎えてくれる。
『いらっしゃいませ。あ、先程はどうもです。他に何か買われる物がございましたか?』
「えっと防具とか作れるスキルとかありますか?」
僕の質問に眉尻を下げて申し訳なさそうに答える。
『すみません、ここには生産系のスキルは扱っていないんです』
「やっぱそっかー。じゃ仕方ないな。どうもありがとう」
分かっていたことなので、納得して店を出ようと扉に向かおうとすると、突然店員さんが呼び止める。
『あ!ちょっと待って下さい』
店員さんの声に僕は振り返る。
「え?何ですか?」
『……実は、街の裏路地の中で露天商がお店をやってるって話があるんです。もしかしたら、そこに生産系のスキルがあるかもしれません』
ん?どうやらフラグを立てたみたいだ。今はこの流れに乗っかって見るのもいいかもしれない。
「分かりました。ちょっと探してみますね」
『はい。頑張ってください』
ピロコリン
《イベント S04
裏路地の露天商を探しだせ!
街の裏路地にいる露天商を200アクション以内に探してください》
……いや、本当にフラグが立ったみたいだ。どんな条件でこんなイベントが起きたのかよく分からないが、とりあえずやってみる事にする。
しかし、200アクションてどう言う事なんだろうか。画面の左上には200という数字がさりげ無く表示されている。いつの間に……!
「なあ、ララ。この数字って何の事だと思う?」
『……いえ、分からないのです。でもアクションというからには何らかの行動を表してるじゃないかと思うのです』
そんな会話をララとしていると、数字がひとつ減って199となる。
「ララ?」
『マスター。ちょっとお口にチャックなのです』
ララに言われて、無言で首を縦にこくこく振る。
『おそらくこのアクションというのは、会話とか、何かの行動をするごとにひとつづつ減っていくのだと思うのです』
なるほど、ワンアクションで1pt減っていくって事なのだろう。少しだけ歩いてみる。ptは減らない。ジャンプしても大丈夫そうだ。
となると何がポイントになるんだろう。
何はともあれ。まずは店員さんに話を聞いてみることにする。何を聞けばいいか、ただ会話をするだけだとptがもったいない。
そうだ!露天商の事を聞いてみるか。僕はカウンターに戻り店員さんに話を聞く。
「すみません。その露天商の事について、もっと詳しく聞かせて貰っていいですか?」
『はい。と言っても私も噂で聞いただけなんですけど……。なんでもよろず屋さんみたいで、武器とか防具とか色々扱ってるみたいなんです。それ以上は私も他の人から聞いただけなので………』
199が198へ。となると多いようで、かなり少ない数だと理解できる。色々考えて行動しないと大変そうだ。
「その話って誰から聞いたのか教えて貰ってもいいですか?」
『あ、はい。斜め向かいにあるパン屋の主人のジョルスさんですよ』
「じゃ、ちょっと聞いてみます。ありがとうございます」
『いえいえ、お気をつけて』
197から195へ。会話ごとに減るシステムか、結構厄介だな。扉の取っ手を掴んで開けるとまたひとつ減っていく。ひ~~~っ!
次にパン屋の主人にパンを買ってから話を聞き、次に道具屋の店主と―――伝言ゲームのように次から次へと話を聞きに行くが埒があかない。アクションptも100まで減ってきている。
この調子で進んで行ったらあっという間にptも無くなってイベント失敗になってしまいそうだ。何かヒントらしきものでもないものか。
『マスター。マップを出してなのです』
「ん?ああ」
メニューを出してマップを表示する。“ヤマト”と北大通りを中央に区画ごとに綺麗に街並みが広がっている。
『そして【索敵】スキルを使ってなのです』
ララの言うとおり【索敵】を使う。
右上に表示されてマップに3色のマーカーが重ねて表される。
「おー。こんな使い方があるんか」
『マスター、今まで行った10件のお店は、西側と東側のお店で交互になっているのです。ジグザグ線を辿って行った先にヒントがあるんじゃないかと思うのです』
「なるほど!」
うん。なかなかいー推理だ。名探偵ララだな。
『北の端の西側のお店に行けばきっと何かあるのです』
ビシッと大通りを指さしてポーズを取る。
このまま話を聞いててもptが減ってジリ貧だし、行ってみるだけならptも減らないし構わないだろう。
北大通り端の西側の建物には店はなく、壁となっていた。倉庫か何かなのだろう。建物の端っこにフードをかぶったNPCがグッタリと座ってる。
『は、ハズレたのです』
ララがガクリと肩を落とす。が諦めるのはまだ早い。こんなとこに座っているのも僕は怪しいと思うのだ。よってNPCに話しかけて見る事にする。
「すいません。ちょっといいですか?」
『何だい?アンちゃん』
僕を見上げたNPCは、フードで顔は見えないが男の人みたいだ。僕が露天商のことを聞こうとすると、先に話しかけられてしまう。
『アンちゃん、何か食いもん持ってないかい?』
その問いに答えないまま、僕はアイテムからさっき買ったパンを彼に渡す。
『ありがとよ』
そう言って、ガツガツとパンを食べだす。そんな事を2回ほど繰り返した後、彼は礼を言ってそこから去って行った。
『骨折りもうけですねマスター』
腰に手を当て、ガッカリしたように溜め息を漏らすララ。
いや、諦めるのはまだ早い。この手の類のモノは、AVGではよくある事だ。僕はNPCが座っていた辺りを【しらべる】。!ビンゴ!!壁の端、一番下の部分に何かが書かれている。
「ララ。壁の一番下の方に何か書いてある」
『あ、ホントなのです。マスターやったのです。あっ、スクショ撮って欲しいのです』
お、そっか。僕はメニューを開きスクリーンショットを選んで、その部分をパシャリと撮る。すると、壁に書いてあった文字がスゥーと消えていった。
「あぶっ」
『セーフなのです。でもララも覚えたので問題ないのです』
2重に記録しておけば困ることもない。ララは相変わらず賢いな。
スクショで撮影したものを確認する。何やら数字が書かれてある。
「暗号かな?どういう意味だろう」
『ファントム・ベンダーへ。北から270-270-0-0-90-270-90-0-0-270-270-0-0-90-90-270-90-360-270-G。なのです』
何のこっちゃ?数字が0と90と270と360………ん?角度、直角の倍数か!?
『マスター!分かったのです』
どうやらララにも分かったようだ。
「うん!角度を表してるってことだよな」
『そうなのです。方向を示してると思うのです』
「だなって事は……」
『はい、自分の向いてる方向を0として時計回りに数値が増えていくので、示された角度の方に進めばいいと思うのです』
うん、意見が一致したね。
『方向に変換してみるのです。左ー左ー前-前ー右ー左ー右ー前ー前ー左ー左ー前ー前ー右ー右ー左ー右ー1回転前ー左ーGとなるのです』
「この場所を起点として、北から行ってみる。訳だな」
『そうなのですマスター』
てな事をやってる間に、ptは80近くまで減っていた。でも会話しないと先に進めんし、他にやり様がないし、かなり厳しいがやむを得ない。
僕とララは、壁に記されていた通りに動き出し、裏路地へと入って行った。
『キキキィー!』
『ストンビット!』
上空から襲ってきたコウモリのモンスターにララの魔法が見事に命中する。地面に落ちたコウモリに斧で止めを刺していく。
「よもや街中でモンスターに襲われるとは思いもよらなかった」
そんな事を3度程繰り返して通りを進んでいく。
『その十字路を右、次を左、そして右なのです』
ptも残り40をきっている。僕は返事をせずに指示通りに歩いていく。
たどり着いた所は、今迄通った路地とは違いエアポケットのように広い場所だった。広さは通った路地の3,4倍といったところか。よし、ここは時計回りに1回転して前に進めば良いはずだ。そう思い足を進め様としたところ、ララが警告を発する。
『待ってなのですマスター。何かいるのです』
ピタリと足を止めると、BGMが戦闘用に切り替わる。すると、広間の正面の路地から3対の紅く光る眼と共にモンスターがやって来た。そのまま止まらず僕へと突進してくる。僕は斧を盾にして防御するとともに、イミットアーツを溜める。
ガン!ガン!ガン!
よく見ると3体のモンスターが一列になって波状攻撃を仕掛けていた。3連撃を受けて〝ヤマト”のHPが少しだけ減る。3体の連続攻撃に手を出す暇がない。
『ストンビット』
ララが先頭のモンスターへ魔法攻撃を放つ。
『ゲキャ』
魔法攻撃により先頭がバランスを崩し、玉突きのように後ろのモンスターがぶつかって倒れていく。
『ゲギュ』『ゲゲキャ』
その隙にイミットアーツを放つが反応がないってか星が出てなかった。僕も少しだけテンパってみたいだ。どうやらロックオンをせずにやったので起動しなかったのだろうか。
ともかくジャンプして奴等を飛び越えて反対側へ陣取る。
ララが魔法で倒れてる奴等を攻撃してくれ時間を稼いでくれていた。その間にポーションを使って回復させる。ララが〝ヤマト”の側に戻ってくる。
『彼らはロバーラット。次々と攻撃をしてダメージを与えるとプレイヤーのアイテムをスティールしていくモンスターなのです。うち1体がLv10なのですマスター!』
うーん。格上かー。こういうときに限ってと言うか、これ込みのイベントなのか厄介な事この上ない。ptも30近くまで減ってきてる。
『とにかくマスターは1体だけを相手にしてなのです。あとの2体はララが抑えるのです』
ロバーラットは、身長が60cmぐらいの灰色の毛皮の直立するネズミといった感じだ。1体が木の棒と木の盾を持っていて、他の2体は木の棒だけを持っている。さっきはこれで攻撃してたようだ。
倒れた3体はムクリと起き上がり、威嚇するように声を上げる。
『ゲゲァ』『ゲギャギャ』『ゲギュウ』
何気に個性を主張すように声が違う。いや、会話してるのか。楯持ちが先陣をきって飛び掛る。次に2体がタイミングをずらして〝ヤマト”へと向かってくる。今度は位置をずらしての波状攻撃だ。なかなか賢い。
僕は楯持ちにロックオンして、タイミングを合わせ向かい撃つ。
横斬りで盾持ちを攻撃して、左側にいた奴を巻き込むようにぶつける。その後ろの奴はララが魔法で攻撃する。
『ファイヤビット!』
『ギャゲッ!』
さらに、縦、縦、横と追い打ちをかける。けどLvが高いせいか奴等のHPゲージはまだ半分近く残っている。
ptは20近くになっている。これはイベントは諦めて腰をすえて戦うしかないだろうか。
そんなことを考えているとララが声を掛けてくる。
『マスター!コンボアーツを使ってなのです!!』
「コンボアーツ?」
『“ヤマト”さまがさっき覚えたアーツなのです』
え?いつの間にそんな技を?覚えた!?
『3体を一瞬だけ足止めするのです。その隙にアーツを放ってなのです!』
てか、どうやって?
『今からララの言うとおりに攻撃してなのです』
「わかった?」
『ファイヤビット!』
ララの手から放たれた火の礫が3体のロバーラットに襲い掛かった。
『ゲギャ!』『ゲゲッ』『ゲヒャッ!』
炎の礫にジタバタするロバーラット達。
『今です!縦、横、横―――――』
楯持ちにロックオン。そして、縦斬り、横斬り、横斬り。
『縦、横、横、縦、横、横、横、横なのです!』
ララの言うとおりに斬り結ぶ。すると“ヤマト”の身体が光に包まれる。
『最後に縦斬りなのです!!』
縦斬りを繰り出すと“ヤマト”が叫ぶ。
『“アクストルネド”!』
範囲攻撃らしく、楯持ちのロバーラットを中心に竜巻のエフェクトが巻き上がる。同時に3体がドガンと上空へ吹き飛ばされる。バタバタと落ちてきたロバーラット達は、光の粒子となって散り消えていった。
ピロコリン
[ロバーラット を 倒しました]
[EXP 150 を 獲得しました]
[魔石 を 手に入れました]
[ロバーラットの棒 と 盾 を手に入れました]
メッセージが矢継ぎ早に流れる。
どうやら何とか倒せたようだ。
ハーと止めていた息を一気に吐き出す。ptの残りは10を切っている。これ以上何があってもいいように会話は控えたほうがいいだろう。
『やったのですマスター!』
クローズアップ画面でガッツポーズと笑顔を見せるララ。
僕がコクコク頷くと、ララは慌てて口を塞ぐ。
露天商探索の続きを行うことにする。マップで位置を確認してから、グルリと一回りして前へと進む。次の丁字路を左へ曲がると行き止まりに突き当たる。
そこには、紫色のローブを身につけた怪しい人物が商品を広げ座っていた。
『やぁ、いらっしゃ〜い。久方ぶりのお客さんだ〜』
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




