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179.飲んだら酩酊するものです

 

 

 ショビッツさんの依頼は別に問題はない。

 問題があるとすれば―――

 

「ところでショビッツさん、食材はあるんですか?」

「え?あー………多分あると思う?」

 

 何故に疑問形なのか。

 

「作るのは構わないんですけど、何が作れるかは食材と相談しないと。ちなみに僕の手持ちはないですから」

 

 いや本当はあるけど、出すのはちょっとねぇ………。てな訳で釘を刺しておく。

 

「………おう、わーった。そんじゃ、うちに来てちょい見てくれや」

「はい、いいですよ」

 

 そんな訳でショビッツさんの家へと向かう事となった。

 

「マスター、どうしたのです?」

 

 ルリと例の箱に中を漁っていたララが、僕とショビッツさんに気付きこっちに飛んで来て聞いてくる。

 

「うん、アスカちゃんの歓迎会をやるんで料理作ってって」

「何を作るのです?」

「ん―、食材を見てからかな?」

 

 僕が料理を作ると話すと、ララが目をキラキラさせて何を作るのか聞いてくる。だけど材料を見ない事には決められないのだ。

 

「チャ!」

 

 そこにルリが手に何かを持って僕の足元でぴょんぴょん跳ねている。

 

「どうしたの?ルリ」

「チャ!チャチャチャッ!」

「ヨーヨー?」

 

 ルリが持っているのは、円盤を2つ重ねその間に紐を結んだもの。すなわちヨーヨーだった。

 ………アーハンさんは一体どんな夢を見てるのやら。思わず突っ込みそうになってくる。なんでやねんっ

 いやいや、アーハんさんじゃなくきっとこれはレイさんがやってる事だ。

 突っ込みどころに惑いつつ、それを一旦棚上げしてルリに使い方を教える事にする。

 

「ルリ、これはこーやってからこーすると―――」

「チャッ!?」

 

 僕はルリから受け取っとヨーヨーを紐をクルクル巻きつけ先端の輪に中指を入れて実践する。

 

「チャ―――ッッ!!」

「ふおっ!これがヨーヨーなのですっ!?」

 

 ルリ大興奮。そしてララはヨーヨーの移動に合わせるように上下に動きながら、僕に聞いて来る。

 

「そ。ヨーヨー」

 

 そしてショビッツさんがこっちを見る視線に気づき、遊ぶのをやめて手に戻したヨ-ヨーをルリに渡す。

 それからアーハンさんへと振り向いて、ヨーヨーを買わせて貰おうと口を開ける。

 

「………やる。やり方を見せてもらったからな」

「………ありがとうございます」

 

 確かにアーハンさんは目を見開き口をあんぐり開けて、こっちを見てたから間違いないんだろうし。

 だけど訳わかんなくて作れるってのもすごいよなぁ。

 ルリはすでにヨーヨー使って遊んでいる。何気に物覚えいーなぁ、この仔。

 

「おらおら!行くぞ、ラギ坊!!」

「はいはい、行きますよ。それじゃ、アーハンさん、アーレーさん失礼しますね」

「………ああ」

「はい!また来て下さいねっ!」

「はいなのです!」

「グッ!」

「あでゅ〜」

「またねっ!」

 

 互いに挨拶を交わして僕達は店を出て、斜め向かいのショビッツさんの家へと向かう。

 家の前まで来ると、アスカちゃんが玄関前で立っているのが見える。

 

「あっ、ラギさん。さっきぶりです!」

「………うん。そだね」

「さっきぶりなのです」

「グッ」

「ぶり〜」

「チャ、チャ………」

 

 ララ達がアスカちゃんとハイタッチして、再会を喜んでいる。ってかあんな別れ方してすぐに会うってのはめっちゃ気まずいんだけど、ってか何とも気恥ずかしい。

 

「ルリ、歩きながらやってると、転んじゃうよっ」

「チャ………」

 

 僕が気恥ずかしさを誤魔化すように、ヨーヨーを歩きながらやってるルリに軽く注意をすると、ちょっとだけ涙目でこっちを見てくる。うっ、それは卑怯だよ………。

 

「はいはい、ルリちゃん抱っこしてあげるから。それならやれるでしょ?ヨーヨー」

 

 前半はルリに、後半は僕に言うように姉が話ししてきてルリを抱き上げる。

 

「チャッ!」

 

 抱き上げられたルリは、言われた通りに抱っこのままヨーヨーを始め出す。

 とはいえ、今日の姉は慈愛に満ちて―――

 

「んふー………もふもふぅ~~~」

 

 あー、うん。そう事もあるかもね。

 

「ほうらっ!ラギ坊こっちだ、ほれ!」

 

 焦れたショビッツさんの声に促され、玄関から靴を脱ぎ中へと入り後へと続く。

 そのままずんずんと奥へと進み、作業場を通り過ぎショビッツさんの部屋を抜けてさらに奥へと向かう。

 

「ほれ、ここが台所だ。んでー、こっちに――――」

 

 ショビッツさんがそう言って中へと入っていく。

 

「へー………」

「広いのです」

「グッ!」

「おー」

 

 僕は中の様子に感嘆の声を上げる。台所というよりは厨房といった方いい程の規模と設備が備わっていたからだ。

 

「………ショビッツさん料理するんですねぇ」

「ん?あたしはやんねぇよ。ピスチェさん………お手伝いさんがやってくれからな」

 

 僕が奇麗に整頓されてる厨房に感心すると、ショビッツさんが目を逸らしつつ答える。

 ………どうやら頭の上がらない人みたいだな。

 なんせ坊やら助呼びのショビッツさんがさん付けするんだから相当な人なのだろう。

 

「ほいでここに食材があっから、適当に使ってくれや」

 

 ショビッツさんが奥に進み端にある引き戸をガララと引くと、そこには野菜をはじめ肉や魚などの食材が所狭しと置かれていた。

 

「おー」

「見事なのです」

「グッグッグ」

「ま~べら」

「へぇ~」

 

 八畳間ほどの広さのそこは、ひんやりと冷蔵庫ほどではないものの空気が冷えていて、まさに食糧庫といったところだった。

 

「ほんじゃあ、5、6品作ってくれりゃいいからよ。よろしくな~。えーと、お姉ちゃんは………」

「あ、サキです」

「おっ、サキ助な。アー坊と食器運んでもらえるか?」

「はい、いーですよ~」

「は~い、ショビッツ先生」

「それじゃあ、よろしく頼んだ。あたしは作業場にいっからよ」

「はい………了解です」

 

 いきなり5、6品とか(確かに歓迎会となるとそうかとも思うけど)注文を付けてショビッツさんは姉とアスカちゃんと共に行ってしまった。

 まぁ任されたからにはやらないと、まずは食材の確認をしてから何を作るか決めるとしよう。

 

「マスター!こっちにお肉があるのです!」

「グッグッグ」

 

 おーワイルコッコ(トリ)ワイルブヒブ(ブタ)ワイルブモー(ウシ)リヴァトット(サカナ)リヴァシュリプー(エビ)とかが塊になって保存されている。ってかリヴァトット(アレ)って食べれるんだ………。

 

「は~、野菜もいろいろあるなぁ~」

 

 キュウリのでっかいのや、ジャガイモみたいなのとかトマトにナスっぽいのもある。あ、キャベツ見っけ。

 そうなるとサラダスティックと揚げ物がいいのかな。

 いったん厨房に戻り調味料等の確認をする。

 

「えーと、麦子もあるし、油も問題ないと。塩にコショウと砂糖まである。すごいなぁ~」

 

 ピスチェさんという人はよほど几帳面なようだった。

 

「それじゃ、始めよか」

「はいなのです」

「グッグ」

「おー」

 

 僕が声を上げると、皆が腕を掲げてそれに応じる。

 まずは食糧庫に向かい食材を搬出していく。

 

「僕は肉を運ぶから、ララ達は野菜とこれとそれとあれを運んでもらえる?」

 

 僕は肉を取り出しながら、指で運ぶものを指示していく。

 

「はいなのです!ウリスケさんお願いのです

「グッ!グッグッグ!!」

 

 任せとけとばかりにウリスケが胸?を叩いて作業を始める。

 肉を手に厨房に戻って、こっちも下拵えを始めることにする。

 まずはコンロに鉄鍋を置き、中に油を注ぎ入れ火をつけ温めていく。

 それから食器棚にあった小さな樽を取り出して、1つには麦子と水、もう1にはは麦子と塩とと水を入れてかかき混ぜていく。

 

「マスターお野菜なのです」

「ありがと。それじゃあまずこっちからやっつけちゃお。ララはこれを薄く輪切りにしてくれる?」

「任せてなのです!」 

 

 まずはキュウリのでっかいのに、塩を撒いたまな板の上に載せそこからゴロゴロと擦り込むように転がしていく。板ずりってやつだ。

 それを塩水の入った樽に入れていき、時間短縮を掛けて漬けていく。

 

 そして出来上がったものを乱切りにして大皿へと載せていく。

 味見としてひと切れ手に取り口に放る。少し萎びた感じの食感に齧ると、しゃくりと音を立てて野菜のエキスと塩味が口に広がる。

 ちょっと薄味だけど、まあまあかな。もちろんララ達にも食べて貰う。

 

「シャキシャキうまうまなのです」

「グッグッグ」

「お〜」

 

 出来たのがこれだ。

 

 クーリンヴァの塩水漬け:クーリンヴァを塩水に漬け込んだもの Lv4

             クーリンヴァを時間を掛けて塩水を染み込ませた簡単なひと品

             夏の日の暑い時に食べると涼しく感じる

             ゴハンのお供に最適(HP+5 満腹度 7%)

 

 まぁ、こんなもんだろうか。

 

「ウリスケ、これ持ってってくれる?」

「グッ!」

 

 大皿に盛られた大量の漬物を、ウリスケは軽々と持って運んでいく。

 次に野菜スティックとトマトっぽいのをベースにしたディップを作る。

 その後はララに切ってもらったじゃがいもっぽいのの薄切りを揚げてポテチにしていき、スティック状にしたものをポテトフライと作って行く。

 

 それから熱くなった油に小振りに切り分けた豚、鶏、牛、魚とエビに麦粉バッターをを絡めて次々と揚げて唐揚げとフリッターにしていく。

 向こう側からおーという歓声が聞こえてくる。ん?ショビッツさん達以外に人がいるのか?………。まさか………。

 

 最後にトマトベースの野菜と肉のごった煮スープを作り上げて、作業場へと向かう。

 

「うわぁ………」

 

 そこはすでにサバトと化していた。

 幾つもの樽が転がっていて、皆が陽気に笑っている。

 

「お〜〜ラギ坊。旨いぞぉ〜、ひっく」

「お〜〜〜っっ!そりゃあ何じゃあ?」

「ふむ、初めて食べますね。何でしょうか?」

「「「……………」」」

「ああ〜〜〜っっ!ラギくぅ〜〜ンッ。はぁ〜やぁ〜〜〜くぅう〜〜〜」

 

 ザンツさんとショビッツさん、そして姉達が輪になって顔を赤らめながら僕の方を見る。

 チカーシカさんはいつの間にか僕が持ってる大皿から、唐揚げを摘んで食べてたりする。

 今回はバスローブじゃなくて、ちゃんと服を着ている。

 

「はい、お待たせしました。ポテチとポテフラと唐揚げです。………ところで皆さんは何を飲んでるんです?」

「発酵炭酸水だ!」

「発酵した果実水ら!」

「蒸留した麦水だよぅ」

 

 人それを酒と言う。

 ちょっと気になったので、鑑定を掛けてみる。

 

 発酵炭酸水:麦とピップと水を合わせ発酵させた炭酸水 Lv5

       ピップの苦味と発酵による炭酸が喉を刺激する大人の嗜みのひと品

       飲み過ぎると状態異常【酩酊】となる

       気をつけろ! (HP+3 満腹度 7% 状態異常【酩酊】:微)

 

 発酵果実水:グレップスをすり潰して発酵させた果実水 Lv5

       グラップスの甘味と渋味が舌を潤す大人の嗜みのひと品

       口当たりの良さに飲み過ぎる恐れあり

       飲み過ぎると状態異常【酩酊】となる

       気をつけろ! (HP+5 満腹度 8% 状態異常【酩酊】:弱)

 

 蒸留麦水:煮潰した麦と水を幾度か蒸留させた麦水 lv7

      苦味の中に微かに舌に残る甘味に人は揺蕩う

      大人の嗜みのひと品

      程々に飲まないと強度の状態異常【酩酊】になるので

      次の日が大変な事になるので注意が必要

      特に気をつけろ! (HP+8 満腹度 13% 状態異常【酩酊】:強)

 

 水とあってもどう見てもお酒なんだけど………。

 

「あの〜〜、これって………」

「おらっ!飲め飲め」

「お酒じゃないよっ水だよっ!ラギくんっ!まずは駆け付け3杯!!」

「そうそう水だよぉ、ほいほ〜い」

「どぉは、あはははははっはっは―――――っっ!!」

 

 姉に杯を渡され小樽から炭酸水を注がれ、続いてザンツさん、チカーシカさんと次々と杯に注がれ飲まされてしまう。

 うわっ!するする飲める分、後が怖いやつだ。これっ………。

 

「「「かんぱ―――――いっっ」」」

「でっふ!」「っす!」「ゴッフ!」

「なのです!」

「グッ!」

「おらい」

「チャ?」

 

 あれ?アテスピ団の皆とララ達まで杯を掲げて飲み始めた。

 ああっ!!それはダメだよっルリっ!

 

「ポテチ美味っ」「フラポテかりふわ〜」「ん゛〜〜〜じゅぅ〜〜〜すぃ〜〜〜っ」

「「「「なっはっはっはっっはっはっは〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」」」」

 

 料理を食べ杯を掲げて、皆が上機嫌になっていく。

 何とかルリを回収して隅っこへと僕は避難する。

 ルリは辛うじて発酵してない果実水を飲んでいたので、安心する。はぁ。

 

 そしてこのサバトはログアウトするまで続くこととなった。

 ちなみに次のログインで皆状態異常【酩酊】で苦しむのは言うまでもない。

 

 

 

  


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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