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178.ショビッツさん、ふたたび

 

 

 大声で叫んだ案内人ガイドさんへと周囲の視線が集まる。

 その中でも受付にいたギルドの職員達は、目を剥き驚愕の表情を見せていたりする。

 どうやらこの人が驚いて叫び声を上げるなんて事はとっても珍しい事のようだ。

 

 こちら―――というかルリを指差して声を上げた案内人さんは、周囲の視線に気づき表情を戻して周りに軽く頭を下げて謝罪する。

 

「ご免なぁ~、急に大っきな声上げてぇ~」

 

 こうしてざわついた空気を収めてから、あらためて僕に近寄り耳打ちする。

 

「あんた、ちょおこっち来いぃな」

 

 ぼそりと小さくはあったが、その有無を言わせぬ圧力に思わず頷いてしまう。

 

「ほら、あんた等もついて

 

 そう言い捨てて案内人さんは、スタスタとギルドの奥の通路へと行ってしまう。

 受付の職員を見やると、僕を見ていた職員はコクコクと頷きを返してくる。はぁ。

 面倒いなーと思いながら、仕方なく僕、姉とアテスピ団の皆がその後について行く。

 

 その通路の先で案内人さんが両開きのドアを開けて待っていて、中へと入るように促してくる。

 

「おおぅ………社長椅子だ」

 

 中は30畳ほどだろうか。かなりの広さで正面にやたらとでっかい漆黒の机があり、僕から見て右には書類棚が壁の全面に据え付けられていて、左側には応接用のソファーと小振りのテーブルがある。

 

「そこに座ってや」

 

 案内人さんがソファーを指差して座るように指示して来たので、それに従って僕達はそれぞれソファーに腰を掛ける。

 ソファーは4人掛けが対面に2つと一人掛けが端っこに1つある。

 僕と姉、そしてアテスピ団の皆がもう1つに腰を掛けて案内人さんをしばし待つ。

 ドアの側で二言三言、側にいる職員さんらしき人と話をしてから案内人さんが一人掛けのソファーに座りすぐに本題に入って来た。

 

「単刀直入に聞くぅんやけど、その仔どうしはったん」

 

 背凭れに寄りかかり、上位者の威厳を滲ませて案内人さんがこちらに詰問してくる。

 その態度に姉とアテスピ団の3人がムッとするのが目に入る。

 確かに人に物を訊ねる態度には見えない。

 この人ならば、もう少しぐらいオブラートに包んだ物言いが出来そうなのに。

 だがそれはそれ、うちにはひと癖もふた癖もある御仁がいるのだ。

 

 素直に話してしまってもいいんだけど、それでは面倒なだけでイニシアチブを取られっぱなしで面白くない。

 なので僕はひとまず口に出す事はせず、ここはひとつお任せする事にしましょう。

 もちろんララにである。(姉は姉で苛烈すぎるし、事情もそれ程知り得てもいないからね)

 

「ほほ〜ぅ。いきなり部屋に呼び付けて何の説明もせずに話を聞かせろなど、どこの王様なのです?それとも神様なのです?こちらには素直に話をする義理も義務もないのに何を言ってるのです?こっちに命令できるほど偉い人間なのです?」

 

 ララが案内人さんを睨め付けながら、矢継ぎ早に捲し立てていく。いや捲し立てるというよりは、追い詰めると言った方がいいだろうか。

 ソファーに踏ん反り返っていた案内人さんは、ララの猛追に居住まいを正してピンと背筋を伸ばし改めてこちらに向き直る。

 

「大変失礼しましたぁ………。うち、コホン。私、この冒険者ギルドで支配人マスターやらしてもろとるノノン言いますぅ。ほんでそこのお姉ぇさんの腕におる方はぁ、私らぁの大切な方ぁにう似とりますのんやぁ。なんでお話お伺いしたいのですわぁ」

 

 一気にそこまで案内人―――もといギルド支配人が話していく。

 大切な方ねぇ。ルリってよっぽど重要な何かって事かな。

 

「ご説明ありがとうなのです。その様にお話して頂いてようやく理解できたのです。先ほどの“暴言”を許して下さいなのです」

 

 ララは納得したといった表情で、頭を下げてギルド長へ謝罪をする。

 それを見てギルド支配人が口の端をヒクヒク引くつかせる。言外にララが最初からそう言えばいいのにと態度で表していたからに他ならない。(僕予測)

 

 ちょうどキリがいいので、僕はメニューから木札を取り出してキルド支配人の前に置く。

 

「これはぁ……何ですの?」

「今回の発端となった盗賊の報奨の木札です」

 

 木札を手に取り矯めつ眇めつ見やるギルド支配人にそう言ってから、カクカクシカジカと説明を始める。

 盗賊を倒した後で奴等の馬車の中を確認したところ、袋に入れられたルリを発見し助け出したら従魔になってしまったと。

 

「はぁああっっ?何なんのぉ!それぇええっっ!?」

 

 またもや目を見開いてのアゴかっくんをギルド支配人が披露する。 

 うん、それは僕もおんなじ気持ちだ。なんですか!それ?だ。

 ギルド支配人は落ち着きを取り戻そうと深呼吸を何度かしてから、真剣な眼差しをして訊ねて来る。

 

「名前ぇ………付けはったんですよねぇ?」

 

 恐る恐るというか、畏れ畏れと言った感じだ。何なんだろ?

 

「いいえ、元から名前があったので付けてません。確かラピスラ―――」

「はいはいは――――いっっ!言わんといてくれやすっ!!」

 

 僕がルリの名前を言おうとすると、ギルド支配人が慌てて止めに入って来た。ほんと何なんだろうか………。

 

「そうしたら人の姿から仔狐の姿に変化しまして、「あれは至高なのです」そこから愛称というか渾名を付けたら、また人の姿に変化して今に至るという訳です」

 

 話の途中でララがうっとりと言葉を漏らすけど、それを聞き流しつつ全部を話し終える。

 なんだか心底疲れた〜という表情をして、ギルド支配人が肩を落として項垂れている。

 ん〜………変なこと言っただろうか。

 

 それから気を取り直すように咳払いをして、ギルド支配人は改めて背筋をしゃんと伸ばして僕にお願いをしてきた。

 

「このような事ぉお頼みするん言うんは、不躾けちゅうん重々承知しておりますぅ……。ですんが、どうかその仔を従魔から解放してくれへんでしゃろうか?うちに出来る事は何でもしますよって!どうぞお頼み申しますっ!!」

 

 そう言って深々と頭を下げるギルド長。

 ふ〜んへ〜え。従魔って解放とか出来るんだ〜………。

 まぁ成り行きで従魔にしてしまったので、僕に否やはない。

 

「分かりました。ちょっと待って下さいな」

「ほ、ほんまですのん?ありがとうおますっ!!」

 

 僕があっさり了承すると、ギルド支配人はペコペコ頭を下げまくる。

 何とも極端なお人だなぁ………。


「ララ、解放ってどうやればいいの?」

「メニューを開いて従魔のところを表示してなのです」

「ほいほい」

 

 僕はメニューを開き従魔の項目を表示させる。

 奇しくもウリスケの言う通りになった訳だ。

 

「ルリさんのところをタップしてステータスを表示してなのです」

 

 ララ、ウリスケ、ルリ(長い名前)が出たのでルリのところを選択する。

 すぐにルリのステータスが表示される。おー何気にステータスが高い。

 

「そこから1番下までスクロースさせると、下に▼があるのでそれを押してなのです」

「ほいほい。押してっと」

 

 ララの言う通りにスクロールさせていくと、一番下に▼マークがあったのでそれを指示通りに押す。

 すると、ピロコリン!というSEと共に別のホロウィンドウが起ち上がり、幾つかの項目が注意!!と言う赤文字と一緒に表示される。

 【譲渡】、【交換】、【解放】だ。

 ほーへー、こう言う風になってたんだー。

 そして僕はさっそく【解放】を選ぶ。

 

「チャっ!」

 

 その寸前にルリが急に声を上げて、僕のところに飛び込んで来た。

 すると表示してあったホロウィンドウが消えてしまう。

 

「うん?あれぇ?………しゃーないなぁ」

 

 再度メニューを開き、従魔の解放を選ぼ――――

 

「チャ!」

「……………」

 

 はい!メニューが消えました。僕はルリをジト目で見やる。

 どうみてもルリがやってる様にしか見えない。

 とは言え、偶然という可能性の無きにしも非ずだ。

 てな訳で3度目の正直でメニューを開こうとする。

 

「チャ!」

 

 うん、消えたね。間違いなくルリの仕業だね!

 

「ルリー………」

「チャ!チャチャチャ!!」 

 

 僕がルリに注意をしようと顔を向けると、何故か拗ねたように頬を膨らませて抗議してくる。………かわいいのぅ。

 

「マスター、“まだどこにも行ってないのに、帰りたくない”とルリさんは言ってるのです。困ったちゃんなのです」

 

 ララがやれやれと肩を竦めて説明してくる。

 どうしましょ?とギルド支配人を見やると、彼女はみたび目を剥いての顎かっくんとなっていた。

 初めてあった時の飄々とした態度はどこにいったの?と言わざるをえない。

 

「えー………。どうしましょっか?」 


 僕はギルド支配人に話を振ってルリを彼女の前に移動させ、言外に説得してねとルリの方を見る。僕じゃ無理だしね。

 それからギルド支配人とルリの言葉の応酬が始まった。

 「どうか」というギルド支配人の懇願にも「チャ!チャチャチャチャっ!!」とルリが言い返し、「ですがお社の事を第一と」と個人の意志よりも全体の平穏というありがちな説得を試みるも、「チャチャチャ!チャチャ」とルリは首を横に振ってにべもない。

 

 なんかしばらく続きそうなので、僕はメニューからお茶を出して皆に配りひと息つく事にした。(ララがお客にお茶も出さないなんてとブンむくれたけど)

 

「そういや、皆はこの後どうするの?」

 

 いやまぁ、お師匠さんになる人のとことは思うけど、様式美って事で。

 

「はい、まずは紹介されたとこに行こうと思ってます

 うん、新しいお師匠様ンとこに行こうって思ってるよ

 おう!まずは親父に紹介されたとこに行ってみるぜっ!」

「そっかー、じゃあここで一旦お別れかな」

 

 やっぱりそういう話になるので、名残惜しくはあったけど僕はそう皆に言葉を掛ける。

 そこに姉が近付きこそっと耳打ちしてくる。

 

「ラギくん、よくあれで聞き取れるよね?あたし分かんなかったんだけど………」

「そっかな…………。うん、慣れだよ、慣れ」

「チャ!」

 

 僕が姉にそう言葉を返していると、話し合いが終わったらしくルリが僕の膝上に飛び込んで来た。

 

「で。どうなりました?」

 

 どうか、とチャチャチャが繰り返し聞こえてたけど、詳しくは耳にしていないのだ。

 ギルド支配人の方を見ると、何ともゲッソリとした表情をしながら答えてくる。

 

「はいぃ………。しばらくラギさんの元ぉに預こうて貰いたい思います。よろしゅうお願いぃしますぅわ………」

 

 そう言ってギルド支配人が軽く頭を下げてくる。

 まぁちょっと耳にしただけでも、暖簾に腕押し柳に風って感じだったし仕方がないかな。

 とりあえずここでの用件は済んだという事で、お暇させてもらう事にする。

 

「じゃ、僕達はこれで失礼します。この仔はまぁ本人が飽きるまでは付き合いますよ」

「あんのぉ………出来ぃればぁこの街辺りで活動いうんは………」

「んーあたし達近いうちにデヴィテスに行くから、はっきり言って無理!」

「デヴィデスぅっ!?」

 

 下手に出ながらにギルド支配人が話を振ってはみるものの、姉の言葉にまたもや目を剥き顎かっくん。ご愁傷さまとしか言えないな、もう。

 姉も最初の出会いの印象があんまりだったので、その対応には塩っぽくなっているのだ。

 おそらくはルリの立場とかが関係してるんだとは思うけど、完全に悪手だったなーと言わざるを得ない。

 

 この手マウンティングって結構難しいとこがあるのだ。

 6:4もしくは7:3なら(これは互いの立場みたいなもの)それなりに出来たりするけど、例えば5:5や4:6であるとそれは微妙な立ち位置になってくるのだ。

 受け取り方によってはケンカ売ってるように見えてくる。(実際売ってる人もいるだろうけど、それも1つの方法ではある)

 

 ただそれはララや姉相手には火に油を注ぐ行為でしか無い。

 僕はまぁ相手次第という事で。

 ギルド長と姉が喧々諤々というか「あのぅ〜」「無理〜」の声を聞きながら冒険者ギルドのフロアへと戻る。

 盗賊捕縛の報奨金を受け取ろうと、受付に向かおうとしたところで声を掛けられる。

 

「おー、ラギ坊。久し振りだな!」

「んん?ショビッツさん?」

 

 声の方に顔を向けると、飲食コーナーのテーブルでチィズ小丸玉を頬張るショビッツさんの姿があった。

 

 

 



(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ

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