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177.案内人は思わず叫ぶ

 

 

 あの後は何度かモンスターとの戦闘があったものの、平穏と言っていい道行きだった。

 その間にララがルリの事情を聞き出していた。あれで何で分かるのやら。

 

 なんでも、いつもいた場所に変な穴が空いていて、そこに入るとここに出たとか。

 戻ろうとあちこち彷徨うろついていたら、あの盗賊たちに捕まってしまったという訳みたいだ。

 じゃあお腹減ってるようなぁと思い、ルウージ村で買った果物を与えると尻尾をぶんぶん振りながらぺろりと全部食べてしまった。

 で今は僕の肩に腹這いになって食事休み中なのだ。

 

「チャ〜………」

 

 だへ―と緩んだ表情で、その身体は僕の肩で弛緩した様に力が抜けている。

 話の内容から察すると精霊の森とやらに抜け穴が開いて、そこを抜けてこっちに来てしまい盗賊達に捕まってしまったと考えられる。

 

「誰が穴を開けたんだろうな………」

「やっぱりレイさまと考えるのが筋なのです。でもちょっと違う気がするのです」

 

 僕の呟きにララが腕を組み可能性の1つを言ってみるが、自分でも腑に落ちないようだ。

 

「グッグッ!」

「え?″たぶん誰かが連れ戻しに来るのだ”なのです?」

「グッ」

 

 僕達の会話を聞いていたウリスケが入ってきて、そんな事を言ってくる。なる程、そういう事もあり得るか。

 

「そうだね。じゃあしばらくルリを保護するって事で、みんなもいい?」

「はいなのです」

「グッ!」

「おけ」

「チャ!」

 

 アテスピ団の戦闘を眺めながら、僕たちは今後の方針を決める。

 ようは何かが起こるのを待つ、てな訳である。普段通りとも言う。

 ほどなくして戦闘が終了し、アテスピ団の皆がやって来る。

 

「悪いね、戦わないで」

「いえ、問題ないですよ

 いんえ、大丈夫です!

 んにゃ、問題ねぇぜ!」 


 僕が軽めに謝ると、3人は大丈夫!問題なっしんぐ!と言葉を返してくる。

 どうにもルリが戦闘になると僕に引っ付いてくるので、参加出来なかったりするのだ。

 3人はあんまり気にしてないみたいだけど、やっぱり申し訳ないとは思うのだ。

 まぁ、ララとウリスケに戦闘フォローして貰う事で事無きを得てるってとこか。

 

 そのまま街道を西へと進んでいくと、地平線の手前にに城壁が見えてきた。

 今立ってる場所が丘のような高台になっていて、ちょっとだけ上から見える様になっているのだ。

 だから街道の脇で何か物体が横たわっているのも、目に入って来てしまった。

 

「命冥加なのです」

「グゥ~~ン………」

「しぶと」

「チャ?」

 

 僕とララ、ウリスケ、アトリが呆れながら見るけど、ルリは何々?って感じで首を傾げてる。かわいいのぅ。………まぁ、あの時はいなかったのだからしょーがない。

 そう、路肩に尻を突き出して倒れていたのはゴトだったのだ。

 何故か身体を震わせて動かないでいた。ん?動けないのか。

 

「マスター。あれ、マヒの状態異常になっているのです。はい、もちろん時間が経てば回復するので問題ないのです」

 

 このまま見過ごしても問題ないと、ララは言外で言っているのだろう。

 僕も人の事は言えないけれど、ララのゴトに対する扱いはなんだかなーではある。

 アテスピ団の皆とも互いに顔を見合わせた後、頷きを交わす。そうこの時点で皆が共犯者となったのだ。

 そして皆が沈黙を保ちながらゴトの横を通り過ぎようとすると、声を掛けられてしまった。ちっ。

 

「ラギさんよ~………。ちょい助けてくれぇ~~………」

「……………」

「ちっ、なのです」

「グッ………!」

「ち」

「チャ?」

「「「………………」」」

 

 きっと皆さっきまでの平和な道行きを思い出してるに違いない。いや、カアンセの街は目の前なんだから、そうそう何かが起こるとは思えない。…………きっと。

 

「はぁ~………。何でこんなとこでそんな事になってるんです?」

「んぁ~………それは~………」

 

 マヒのせいで呂律が回らない為、聞き取りづらかったものの要約するとこんな感じみたいだ。

 

 ロックヴァルチャーに捕まった事で拐われイベントが発生したらしく、そしてその内容はモンスターから逃げ出せ!というもので、倒さなくてもよかったらしい。

 あまりにも難易度が………とも思ったけど、あれ倒すの大変そうだし1人じゃ無理っぽそうだ。

 

 ゴトは何とか腕を振り回して脚へと攻撃をしたけれど、大したダメージは与えられずにロックヴァルチャーは北へと向かって飛んでいく。

 抵抗むなしく半ば諦めかけた時、西からやって来たモンスターがロックヴァルチャーに襲い掛かってきて戦闘が始まる。

 

 そのモンスターは人間ほどの大きさで、上半身は女性の身体、腕が翼、下半身は鋭い鍵爪を備えた妙に全体が膨らんだ鳥型のものだそうだ。(よく見てる)

 そこでララがホッピィハービーなのですとモンスターの名前を教えてくれる。

 さすがに大きさで勝るロックヴァルチャーも4体のモンスター相手に手こずりそのまま流れる様に西へと移動しながら戦いを繰り広げる。

 

 どうやらそのホッピィハーピーの4体は、ゴトを狙っていたようだ。爪が目前まで来てビビったと漏らしていた。どうやらモンスターまでもがたらしの対象みたいだ。モテモテだね。

 それで戦いの最中緩んだ鍵爪を何とか外して、下にあった森へとダイブし枝や葉っぱを緩衝材にして地面に降り立ち脱出に成功したとか。

 

 そこから南を目指し森を抜け草原を進んでいるところへ、別のモンスターと行き合い戦闘になるものの何とか倒し切る。

 そのモンスターにいきなり脹脛ふくらはぎを咬まれ慌てて捕まえるも、そのあまりにも毒々しい色(蛍光緑と蛍光ピンクの斑)をした蛇に驚いて投げ放ってしまい戦闘になる。

 何度か咬まれながらも倒して歩き進み、ようやく街道が見え辿り着きそうなところで身体が痺れて動けなくなり、今に至るというものだった。

 

 正直主人公補正が半端ない。どこのイン◯ィさんかって話だ。

 

「えー………と、あった。これ使います?マヒ回復薬ですけど」

「あぁ………悪ぃな。頼むわ」

「2000GINです。いいですか?」 

 

 アスカちゃんが何やらメニューを操作して、何かの薬瓶を取り出してゴトに説明をする。

 ゴトはマヒに罹りながらもキラっと言うたらし笑顔を見せて、手をフルフル震わせながら差し出す。

 そしてニッコリとアスカちゃんはぼったくり金額を告げる。ちゃっかりしてるがナイスだアスカちゃん。

 

「わかった、それで………」

「では、どうぞ」

 

 ゴトが了承したのでアスカちゃんが薬を使うと、すぐに回復したらしいゴトがすっくと立ち上がる。

 

「サンキュ!助かったよ。ところで、………あっ!?」

 

 ゴトが礼を言って、アスカちゃんの肩に手をかけようとしてその手が弾かれる。

 

「2000ですぅ。あ、3000でもいーですよっ!」

 

 ニッコリと笑ってアスカちゃんが手を差し出す。何気にえげつない。あれ?ちょっと怒ってるっぽい。

 そういやこういう場合のお金のやり取りってどうやるんだっけ?

 その僕の疑問はすぐに解消する事になる。

 メニューからゴトが“わたす”を使ってアスカちゃんとやり取りしてたからだ。

 なる程―。あーやるのかー。今度機会があったらやってみよ―。

 

 このやり取りを迂遠に感じた事は、何度かフレンド登録しようぜと言っているが、アスカちゃんはにべもない。

 ハヤトくん、ペイくん通して下さ〜いとか言ってるし。何ともしたたかだ。

 こうして再びゴトを加えて、僕達はカアンセの街へと歩き始める。

 

 街が近くにあるせいか、特にモンスターに襲われることもなくカアンセの街の門前に到着する。

 はぁ〜いろいろあって疲れたよ………。

 

「あっ!いたっ!ラっギっく〜〜〜〜ん!!」

 

 正面にある大通りの方から僕を呼ぶ声が聞こえ、そちらを見やると姉が手を振ってやって来る。

 

「時間通りだね!ララちゃん、ありがとっ!」

「いえ、少し遅れてしまったのです、サキさま」

「大丈夫、大丈夫。グッタイミンだよ」

 

 姉とララがへーいとハイタッチを交わし話をしている。

 どうやら事前に姉へと到着時間をララが伝えていたみたいだ。

 

「サっキっちゃ~~~~~んっっ!!あばっ!でがっ!!」

 

 そこへゴトが突進して来て、姉を抱きしめようとして透明の壁に阻まれ弾き倒される。

 

「きっもっ!!」

 

 すかさず姉が僕の後ろに避難をする。

 

「ネーチャ!」

 

 そこへルリが姉へとダイブ。突如胸に抱き着くルリに驚くものの、その感触に嬉声をあげる。

 

「何これっ!?ふほぉ〜……かわいいのぅ~」

 

 ああ、ふにゃあと顔が緩み崩れていく。

 まぁルリは姉に任せるとして、現実じゃお昼過ぎちゃってるし、確かに時間食っちゃったなぁと思わないでもない。

 とりあえずアテスピ団の皆には、登録を済ませてもらってから時間の都合の有無を確認してみる。

 

「みんなはまだ時間大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です

 うん、大丈夫だよ

 おう、大丈夫だぜ」

 

 その返事に安堵して、冒険者ギルドに行こうと提案をする。

 

「じゃ、冒険者ギルドであの木札換金しちゃわない?」

「はい!分かりました

 うんっ!分かったよ

 おう!分かったぜ! 」

 

 アテスピ団の声を揃え話をする様子を目を丸くして姉が見やる。

 そっか、そうだった。初対面だったっけ。軽くみんなを紹介しとこうか。

 

「サキちゃん、この人達がアテスピ団の皆で、右からペイくん、アスカちゃん、ハヤトくん。そしてアテンダントスピリットのワンダー、しーちゃん、アスラーダだよ」

 

 僕は簡単に姉へとアテスピ団の皆を紹介する。そして姉は僕とパーティーを組んでる旨を説明し脇にいるレリーとともに挨拶をする。

 そして姉がペイくんに服のお礼をすると、ペイくんは照れながらも満足そうな顔をして自己紹介をしていった。

 ハヤトくんとアスカちゃんも同様に自己紹介をすると、和気藹々と話を始める。主にアテンダントスピリットのことで。

 そしてすぐにフレンド登録をやっていた。ゴトの時とは大違いだ。

 

 相変わらずの姉のコミュニケーション能力に舌を巻きつつ、まずは冒険者ギルドへと向かう事にする。

 

「じゃあ、行こうか」

「はい!

 うん!

 おう!」

「ほほー」

 

 姉は目を丸くしつつ、顎に手を当てながら3人を見て感心をする。

 やっぱ珍しいもんな、あれ。僕なんかはちょっと慣れちゃったけど。

 

「あっ、ちょ待、俺も――――ああっ!?」

 

 倒れて硬直していたゴトが復活して起き上がりながらついて来ようとしたところに、ホロウィンドウが現れる。それを見るとゴトは顔を顰めてから、僕達に(というか姉に)声を掛けてログアウトして行った。

 

「ちっ、オールドマンめ。悪リぃ、用事が出来たんで落ちるわ。またなっ」

「「「「………はああ〜〜〜………」」」」


 完全のゴトがログアウトするのを待って、僕とアテスピ団の皆が声を揃えて溜め息を吐く。

 

「どったの?みんな」

 

 ルリを抱っこしながら、姉が何があったのかを聞いてくる。

 

「いろいろあったんだ。いろいろ………」

「道すがらララがお話するのです!」

「よろしくね、ララちゃん」

 

 こうして僕等は大通りをそのまま真っ直ぐ進んで、冒険者ギルドへと到着する。

 アテスピ団の皆は、NPC達の会話を聞いて生関西弁だーと目を丸くしていた。

 

 冒険者ギルドの入口前にくると、僕は一瞬立ち止まってしまう。

 ………ここでも色々あったんだよなぁ〜。……いろいろ。

 後ろにいた皆が訝しそうにしてる気配を感じたので、えいやと覚悟を決めて中へと入る。

 

「おいでやすー。久しぶりやね、ラギさん」

 

 入るやいなや案内人ガイドのNPCさんがすばやくこっちにやって来て挨拶してくる。

 

「………どうも、お久しぶりです」

 

 僕も顔を引き攣らせつつも何とか挨拶をする。どうもこの人を食ったような性質たちの人は苦手なのだ。手の平の上で転がされ踊らされる的な。

 

「今日はぎょうさんお供がおる………んんっっ!?」

 

 アテスピ団の皆と姉を見て、そしてその胸元へ視線を移すと、くわわっと目を見開き顎をカックーンと落として案内人さんが叫び声を上げる。

 

「何やのんっ!?それええっっ!!」

 

 え?どれ?

 

 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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