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172.ごく普通?のイベントに感じいる

  *

 

 


「ちくしょうっっ!あの野郎っっ!!」

 

 俺は憤りのままに周囲に当たり散らす。

 手近にあったガラスの容器やオブジェを思いきり壁に叩き付ける。

 

「ざっけんなよっ!あんのくそエルフっっ!!何様だっっつーのっっ!!」

 

 棚に飾り付けてある様々なオブジェや名品珍品を模した焼き物を両手で振り払いながら叩き落とし、さらに追い打ちを掛けるようにガシガシと踏み付けて行く。

 これ等の物はその材質とは違ってガラスのように簡単に砕け散る。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

 ものに当たるだけ当たり散らした事で、ようやく憤りが収まり落ち着きを取り戻す。

 

「ちっ!あのクソブタ野郎。オレの目の前に爆弾落としやがって、くそっ!!」 

 

 またムカムカと怒りが込み上げてくる。

 そうあの赤いブタの従魔は、オレが隠蔽で隠れていた場所に仕掛けていた爆弾を放って来やがった。

 トレインしちまった時も、勿体無くて使わなかった取っておきのヤツだ。

 威力も高くそのせいでオレは一撃で死に戻っちまった。

 

 奴等が慌てふためく姿を見ようと思っていたのがこのザマだ。ちっ、またムカムカしてきた。

 俺は散らばるオブジェをゲシゲシ踏みつけ、シュートをする様に蹴りつける。

 ガシャーンと派手な音を立て棚に命中し、下の段にあったオブジェがグシャグシャになる。

 そして数分と経たずに全てが元に戻っていく。

 当たり前だ、ここはVRルームなんだからな。もちろんそういう設定にしてあるからだ。

 ストレス発散にはもってこいのものだ。

 

 「ふう………。よしっ!そんじゃ、やるか!」

 

 俺はメニューを操作して専用デスクを出現させ、社長椅子にドサリと飛び込む様に腰掛け、ホロウィンドウを出して作業を始める。

 まずは奴等の身柄特定だ。奴が誰で、フレが何人、どんな人間かなのかを調べ、あわよくば現実リアルの特定まで。

 何気ない会話から結構現実の話なんてのは出て来るものだ。

 

「へっ!思い晒してやんよ!くそエルフぅ」

 

 そして従魔使いのスレやエルフスレ、プロロアのスレを巡ってみたがあまり芳しい成果は得られなかった。

 

「ちぃっ!引き籠もり(ヒッキー)かよっ!!」

 

 見たとか注文したとか、ゲーム内での出来事ことしかカキコされてない。

 あまりにもおかしな話だ。

 あれだけ目立つ従魔を引き連れてるにもかかわらず情報が少なすぎだ。

 ちっ、使えねぇっ!ならばやり方を変えるだけだ。

 噂に嘘を重ねて事実を変えていく。

 

 まずはオレとヤツの立ち位置を逆転させる。そしてそれをあちこちのスレへとカキコしていく。

 するとそれに感化される様に、馬鹿が釣れて勝手に煽り上げてくれる。楽なもんだ。

 

「くくっ、そしてダメ押しだ」

 

 オレはVRルームからライドシフトして、もう1つのHMVRDを被りライドシフトする。

 

「くっそエルフが!もうこのゲームにてめぇの居場所はねぇぜ。くくくっ、あはははは―――――っっ!!」

 

 だがオレは気づかなかった。

 すでに何者かによって、オレの行動は全て監視されているなどという事に。

 

 

   *

 

 

 ゴトを除いた後は、何とも平穏な道行きとなっていた。

 やって来るモンスターはアテスピ団の皆に任せて、僕は見守るだけに徹する。

 ただ空からやって来るモンスターに関しては、僕が矢を放ち倒していった。

 この前通った時と違ってえっらい平穏だ。

 

「いやー………本当にのどかだな〜」

「なのです」

「グッグッ!」

 

 ウリスケなんかは余裕こいてスキップ踏んでたりする。一体どこで覚えてくるのやら………。

 あの後本当に凄かったのだ。誰が知らせたのか分からないけど、女性PCが続々とセーフティースポットから現れてゴトを囲んでいったのだった。

 それを遠目から見ていた僕達は、そのあまりの喧騒に恐怖してしまう。

 

 しかもそれを笑いながら如才なく振る舞うゴトの姿に、僕は畏怖を覚えた。

 よくまぁあんなギスギスの中笑えるものだ。

 まぁコレ幸いと僕等はその場を離脱し、現在のんびりと西街道を進んでいるという訳だ。

 僕が今1番危惧しているのは、またゴトがしれっとこっちにやって来る事だけだ。

 2度ある事は3度あ〜るだ。今迄の事を鑑みても絶対やって来るだろう。きっと奴は来る。

 はーやれやれと思いつつ、今はこの平穏な道程を満喫する事にしよう。

 

「行きます、てや!

 そこなのですっ!

 どぉりゃああっ!」

「……………」

 

 もうここまで来ると達人技だよなぁ〜とつい思ってしまう程シンクロ率は極めて高い。

 思わず感嘆する程だ。何となく馴染んでしまう僕もこわい。

 空から襲ってくるバドイーグルを僕は弓で狙い貫き、集団でやって来たワイドルドベルをアテスピ団の皆が相対する。

 

 PC3人とアテンダントスピリットはそれぞれ自身の役割と知悉している様で、特に危うい場面もなくモンスターを倒していった。

 

「やったのです!」

「グッ!」

「だねー。僕いらないね―」

 

 どっちかと言うと生産系PC(プレイヤー)だと思っていたんだけど、皆連携がすごく上手い為、ピンチにも陥る事もなく倒せていた。やるなー。

 もしかしたら僕のサポートなんか必要ないかもしれない。

 

 ちなみに前衛がペイくとハヤトくん、後衛がアスカちゃんというフォーメーションでペイくんが盾と槍を使いハヤトくんがハンマー、そしてアスカちゃんは魔法(火、水、風)を駆使して戦っている。

 

「それに動きに澱みが全くないのです。おそらく他でVRゲームをやってたのなのです」

 

 ララがそんな説明をしてくれる。へ〜ほ〜。

 

「やっぱり初めてVRやった事があるかないかで差ってあるの?」

「もちろん脳の使い方とか慣れとかはあるのです。………マスターは別格みたいなのです?」

 

 いや、そんな事訊ねられても、僕もVRは初めてなんだけどなぁ………。

 どうやらララが言うにはVRにおいても差が出るものらしい。

 もちろん神経障害とか肉体への弊害なんてのは過去の話で、安全マージンはかっきりしっかり取ってある。

 

 ただまぁ、慣れてないと動きがぎこちなくなる人もいる様だ。

 現在はそんな事もあんまりないみたいだけど。

 それだけVRというものが市民権を得ていたという事なのだろう。

 僕はレトロゲーで満足してたけどね。

 

 そんな事を話しているうちに戦闘が終了する。平和だ―。

 移動を再開したところで、僕はさっきの事を興味が少しだけ沸いたのでちょっと聞いてみる。

 

「もしかして皆って他のVRゲームをやってたりしてたのかな?」

 

 僕のいきなりの質問に訝しむことなくアテスピ団の3人は素直に答えてくれる。

 

「はい。やってました

 うん、やってたよ!

 おう!やってたぜ!」

 

 ほっほう。やっぱりそうなんだ。もしかした皆おんなじゲームなのかな。

 3人が互いに頷き合ってから、さらに話を続けてくる。

 

「僕はシューティングゲーム(STG)です」

「あたしはアクションゲーム(ACT)で」

「おれはレーシングゲーム(RCG)だな」

 

 おっ今回は順番に話をして来た。へー皆バラバラなんだ。そしてどうやら意識して話せばユニゾンにはならない………って無意識なんだ、あれ………。

 

「僕は宇宙戦艦の艦長になって艦の指揮してました。STGって言うよりSLGっぽいですね」

「あたしは魔法少女になってティ◯ラとロ◯ド使って敵倒してました!」

「おれはスッゲーかっきーマシンに乗ってブー◯トしてたぜ!」

 

 色々突っ込みどころはあるけど、へーそうなんだぁ―。

 僕がほーへーと感心してると、3人はユニゾンで言ってくる。

 

「RPGはこれが初めてですね

 RPGはこれが初めてなんだ

 RPGはこれが最初だなっ! 」

 

 おそらく“VR”のって事なんだろう。3人共ゲーム好きってとこは一緒みたいだ。

 そして偶々手に入れたHMVRDで偶々ゲームの中で出会ってパーティーを組むようになったのだろう。

 おっとこれ以上現実リアルの話はマナーに反するからやめとこう。

 てな事を話しているうちに前方の道の脇に馬車が止まっているのが見えてきた。

 馬がこっちを向いてるので、おそらくカアンセからやって来たんだろう。

 

 でも何とも中途半端なところで休んでるものだ。

 馬車の手前5m程のところまで来た時に、変化が起きる。

 馬車の中からいかにも怪しげな風体をして人間達がぞろぞろと出て来たのだ。

 そして僕達の背後にもいつの間にか人が現れていて、僕達を包囲していた。

 

「すんごく怪しい人達なのです」

「グッグッグッ!」

「かい〜」

 

 ララ達が目の前に人物達をそう評する。全員が上下とも黒い服をまとい、頭には目元だけを出した忍者頭巾を被ってる。(どこの影の◯団やら)

 

「あ、イベントだ

 盗賊退治だね!

 おっし!やるか!」

 

 どうやらアテスピ団の皆には、イベントの告知が来たみたいだ。

 ん?僕に来てないって事はクリア済みって事なのか?

 そして忍者頭巾の中の正面にいる1人がお約束の台詞と剣をこちらに向けて告げてくる。

 おおっ!めっちゃイベントっぽい。僕はその事に思わず感じ入ってしまった。

 

「お前達には恨みはないが、ここで会った事を悔やむがいい!有り金とそこの従魔2体を引き渡せ。さもないと命はないと思え!」

 

 んん?有り金と身ぐるみなら理解できるけど、何でララとウリスケを寄越せという話になるの?あれ?僕イベント関係してないよねっ!?

 

ピロコリン!

[イベント07−a:盗賊を退治せよ!]

         突如現れた盗賊達を退治して下さい

 

         盗賊頭 【0/1】

         盗 賊 【0/9】

 

         ※注意!このイベントで倒されてしまうと

          従魔が奪われますので気をつけて下さい

 

「はあぁあっっ!?」

 

 何でいきなりそんな強制イベントになっちゃってんの!?

 ってか絶対負けられないじゃんか!これっ!?

 

「くっくっくぅ、やってやるのです!」

「グッ!グッグッグッ!!」

「やんよ〜!」

 

 僕がいきなりの展開に頭を抱えるような思いをしてると、ララ達が拳をパンパン手の平で叩きながらやる気を表している。ウリスケはドラミング (ゴリラの胸叩き)をやってて、アトリはウリスケの頭で杖を振り回してる。………うん、頑張ろうか。

 

「はぁ………それじゃ、やりましょか」

 

 前方に6人、後方に4人。ララ達とアテンダントスピリットの数を入れれば互角に近い。なんとかな―――ーいや、何とかしなくちゃならない。ララとウリスケを奪われる訳には行かない。

 僕はそう覚悟を決めて拳を構える。

 アテスピ団の皆もフォーメーションを組んで盗賊と対峙する。

 

「ふっ、抵抗するか。ならば覚悟するがいい!」

 

 忍者頭巾(多分盗賊頭)がさっと右手を掲げそれを下ろそうとした時、東の方から声が聞こえる。

 

「待てよっ、お前等っ!この俺が相手するぜっ!!」

 

 それを聞いて僕はげんなりとする。アテスピ団の皆も同様に。

 なんかすんごいややこしくなりそうなんだけど………。

 

「マスタ。うえ」

 

 僕がこの状況に困惑してると、アトリがウリスケの上から警告をして来る。

 上と言われて空を見上げると、ぎょえええくぉおお〜〜という鳥の啼き声が聞こえてきた。

 

「何?あれ…………」

 

 これ以上の面倒事はいらないんだけどなぁ。

 

 


 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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