171.ハーレムとかって見てるとそれ程良くもない
さて、とりあえず大橋を通り抜けるというひと仕事を終えた後、僕達は再度移動を開始する。
これから後はセーフティースポットで記録をしてからカアンセに向かうだけかな。
アレ?確かその間に何かあった気がするんだけど、何だったっけかな?
「マスターどうしたのです?難しい顔をしてるのです」
「んー………セーフティスポットの先に何かあった気がしたんだけど、何だったけかなーと思ってさ」
僕がララにそんな事を話すと、ララは納得といった顔でポンと手を打つ。
「マスターはイレギュラーなイベントを経験したので、そこら辺は多分抜けてるのかもです」
はて?何が抜けてるというのだろうか。記憶を辿ってみると、盗人鳥とふんちゃかした後やたらとモンスターとエンカウントして、それから………あ、そっか。
「ナチュアさんが襲われてたやつか」
「なのです」
そういや、やたらとモンスターの襲われて、しまいにはピンクのカバと戦うはめになったっけ。
ララがいなかったらどうなっていた事やら。
「なのでアテスピ団の皆様には通常のイベントが起こると思うのです。………多分」
さしものララも確実にとは言えないとこが、なんだかなぁな感じだ。あるいは僕が起因してるかなとも今までの経験を考えると思わなくもない。くっ、レイさんめっ!
きっとあの人面白がってコロコロ状況変えたりする場合もありそうだ。やだ、もー。
僕が可愛い子ぶっても気持ち悪いだけだし、今は建設的に行く事にしよう。
「まずはセーフティスポットに行こうか。話はそれからって事で」
「分かったのです」
「グッ!」
「おけ」
「了解ですっ!!
了ー解です!
分かったぜ!」
そんなやり取りの後、僕達は歩いてそれ程経たずにセーフティスポットへと到着する。
「へー、これがセーフティスポットかー」
ゴトが物珍し気に黒い板を見て感心している。
「それじゃ登録してから、ちょっとだけ休憩しようか。ログアウトする人はしていーよ。僕見てるから」
「分かりました。お願いします
分かったー。じゃ行っきます
分かったぜ!ちょい頼むわ! 」
僕がそう言うとアテスピ団の3人は登録を終えると、ログアウトしていった。
「そんじゃ俺もいったん落ちるか」
うんうん!落ちて落ちて。
「置いて行くなよ。ラギさんよ」
「……………」
いやいや何の事やらと僕はゴトの視線と言葉をニッコリ笑ってスルーし、見送った後作業を始める。
「マスター、何するのです?」
魔導コンロやらいろいろ調理器具を出すのを見れば分かるけど一応ね。
「うん、みんなに料理を出そうかなってさ」
「分かったのです!お手伝いするのです」
「グッグッグ!」
「おー」
3人がやる気満々だ。お腹減ってんのかな?
僕は足の低い簡易テーブルを出して食器や食材をその上へと置いて行く。
「マスター、何を作るのです?」
「ふっふー。出来てからのお楽しみ~」
などと言っても出した食材を見れば一目瞭然ではある。
ちなみにこの簡易テーブルは、ラビタンズの皆が作ってくれたものだ。
集会所になっている家にはいつの間にかこの手の家具がおいてあり、サギューさんからは持っていって構わないと了承を得ているものだ。
釘は一切使わずにはめ込み式のこれらは、とても丁寧に仕上げられていて表面はとても滑らかなもので、僕はけっこー気に入ってたりする。
「ララ、樽のお湯を鍋に移してもらえる?」
「任せてなのです。ウリスケさん手伝ってなのです」
「グッ!」
あまりやって貰う事もないんだけど、せっかくなのでこういう時の為に以前に沸かしておいたお湯を樽に入れてアイテム欄にしまってあるのだ。
おかげで容量ギリギリではあったりする。
ララとウリスケが樽のお湯を鍋に移しているのを横目に、僕は野菜を切っていく。
ジャガイモっぽいのとニンジンっぽいのと、タマネギっぽいのを乱切りにしていく。そして後はキノコ類を手で裂いていく。これでよしっと。
「マスター、移し終わったのです」
「グッグッグ!」
「ありがと。それじゃ、そこにこれを入れてと」
切り分けた野菜とキノコを鍋へとドサドサと入れていく。そしてコンロの火を点ける。
後は煮立つのをしまし待つ。
「はぁーいやはや………。ちょっと疲れたね」
そんな事を呟きながら、僕は鍋が煮立つのを待つ間少しだけぼんやりと周囲を見やる。
ちょっと色々あり過ぎて気疲れしてしまった。イベントでないのにあまりにも色んな事が起こりすぎだと正直思う。
僕が思い描いていたのは、戦闘はあるものののんびりまったり旅するものだったからだ。
もうこれからは出来る限り予定調和をお願いしたいものである。
そんな中ララを見ると何故か硬直した様に動きを止めていた。もしかしてラグってやつ?
だけどすぐに硬直は収まり眉間に皺を寄せる。と同時にララは僕の方を見て声を掛けてきた。
「マスター、少しいいのです?」
「ん、なにララ?」
僕がララを見ながら聞き返すと、その表情はいつもの違い真剣そのものだった。(普段ヘラヘラしてるという訳ではない)
「ララはマスターのお陰で現実でも色々なものを見てきたのです。人の作り上げてきたシステム、社会構造。その歴史をデータの上から見てきたのです。でも」
幾分か申し訳なさげに顔を向けながらララが話を続ける。
「でも、人の心は時を経るごとに様々に変化し、集団と個々が入り混じり蠢いています」
「そうだねー。僕も人って分かってないもんな」
身近な人を除けばそんなものだ。どの道僕でも社会で生きていく上で、色々と何かにかかずらわされる問題が出て来るというものだ。
それは上からの理不尽な難題であったり、第三者からの無理難題であったり。時折僕の感覚では何でこんな事をあんたは言えんの?というレベルで。
僕みたいな人間でさえそんな感覚のだ。AIであるララにそれを理解せよというのはどうしたって無理があると思う。
僕が考えるに昔は集団に迎合し、現代は個人に迎合してるってのが実情だと思いっている。
そして迎合する事によって、それが連鎖するってとこは変わらない。
その連鎖が繰り返される事によって、それが大きなうねりとなって行く。
その事が良い悪い、正しい誤っているなどと判別する事が出来なくともだ。
はぁーやだやだ。僕なんかはそう言う支配欲やら顕示欲とは無縁でいたい人間なので、巻き込まれるのは正直御免被りたいのではある、が。
たぶんララはこう言ってるのだろう。人が1つの起因によってどううねり広がり、それをどう処理できるのかを。
“見てみたい”と。
本来ならばそんな必要はない。そう、無いんだ。
このアトラティーズ・ワンダラーと言うゲームの中で楽しく過ごせばいい。
だけど僕という存在を介在した現在は、ゲームの中だけでなく現実でも僕をサポート“したい”というのがララの意志なのだ。
そんな事を思われていたのであれば、それに僕が応えなければ男が廃るというものだ。
「いいよ。ララのやりたいようにやって」
「ありがとうなのです、マスター!でも、少しだけ不愉快な思いをするかもなのです」
「そんなの今迄だってあったんだから、別に構わないよ」
そう、そんな事で他者から何かされる(物理)事のない様にじーちゃんに鍛えられてるし、父さん母さん、そして姉にも色々教わっている。
それこそ何するものぞだ。
ララがこんな事を言ってくるって事は、おそらくあのモヒカンが何かをやっったって事なのだろう。
きっとララが言った通りの事をヤツが始めたのであろう。くっだらない話だ。
まぁちょいと覚悟をしとけばいいだけの事。問題なしだ。
「大丈夫大丈夫。僕の事知ってるよね?だったら問題なしさ」
「グッグッグッ!」
「の〜ぷろ」
僕の言葉の後に、なんでかウリスケとアトリが続く。それを見たララはヘニャリと表情を崩して頭を下げる。
そんな事をやってる間に、ようやく鍋がふつふつと煮え上がってくる。
そこにプロロアーの商店街で見つけた乾麺もどきを人数分ポポイと入れていく。麺というよりうどんといった方が近いかな。それから肉そぼろをこんもりと入れていく。
菜箸を使ってかき回しながら更に煮込んでいく。
麺が柔らかくなった所に、トマトっぽいので作ったピューレを取り出して鍋へと流し入れる。
そこから更に煮詰めていって、味を見ながら塩コショウをして調整をして出来上がりだ。
完成したのはこんな感じだ。
トマソースの
具だくさんスープ(麺入り):様々な野菜及びキノコを煮込み挽き肉と
トマの濃縮ソースで味をつけ
そこに麺を加えたひと品 Lv8 ☆☆
程よく煮込まれた野菜、キノコ、挽き肉のエキスが
トマスープに溶け込み更に麺を入れる事により
ボリューミィになったもの
ゴロゴロ野菜の食感と酸っぱいとろみのあるスープは
食欲の減衰したものにも嬉し楽しく食べる事が
出来るであろう
ズルズルかき込め! (HP+40 満腹度43%)
まぁ書かれてる通りだとは思うんだけど、もう少し真面目になってもいいような気がするんだけどなぁ………。
ただ文句を言う立場でもないし、これはこれでいいのかなと思うしかないんだろうな、うん………。
僕はコンロの火を止め、後は皆が来るのを待つ事にする。
まぁ先に食べさせては貰いますけどね。
「ほい、みんなー。料理配るよ―」
「はいなのです!待ってましたのです」
「グッグッグ―――ッ!」
「おおう!」
おやおや、ほんとにお腹空いてたんだね。
ラーメン丼より少し小振りの深皿にトングで麺を掬い入れ、その後にレードル《おたま》でスープを注いていく。
そしてその上に、チャーシューもどきを2枚と粉チーズを振り掛けていく。
VRならではの自由度である。
完成した料理にさらにトッピッグしてもホロウィンドウがでないので、特に何か変化が起こるものじゃないのだろうと思う。或いは単品扱いなのかも。
僕としてはスキルやレベル上げよりも、どれだけ美味しく食べれるかに重点を置いていたりするので特に気にする事もない。
さて実食と行きましょうか。まずはスープをずずりと啜る。うん、酸っぱさの中に甘みがあって上手いこと出来ている。(さっき味見したから分かってはいるけどね)
野菜類も程よく煮えていて、箸で簡単に崩れるくらいに柔らかい。
「はぐはぐ、酸っぱ美味いのですっ!」
「グッグッグッグ!」
「えくせっ!あぐあぐ」
ララとウリスケはマイフォークを使い、アトリは器に頭を突っ込んでガツガツと食べている。汚れ無いのかな、あれ………。
さて、お次が麺をと箸を向けた時、黒い板が光輝きその前に人型が形作られてPCが現れる。お、ペイくんだ。
「おまたせしました。ラギさ、ん?」
さすがにログインは一緒じゃないかと思いながら僕はペイくんに訊ねる。
「良かったら食べない?作りすぎちゃってさ」
「…………いいんですか?」
「約束したでしょ。ささ、どーぞどーぞ」
そう言いながら僕は器を手に取り料理を注いていく。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます!」
「ありがとうっス」
ペイくんにはフォークを添えて渡し、ワンダーには地面に器を置いて促す。
「………これが従魔使いのコックさんの料理………ごくっ」
いやいや、生唾飲み込む程のものじゃないから。
そこへ残りの2人もログインして来た。
「お待たせし、あっ美味しそっ!」
「わりぃ!うぉっ?なにこれっ!?」
そんな声を上げる2人にも料理をよそってと渡していく。もちろんしーちゃんとアスラーダにも。(って彼は食べれるんだろうか?)
「りがとー」
「ガッガガッ!」
しーちゃんがへにゃりと笑みを浮かべ、アスラーダが胸をドンと叩く。
しーちゃんの笑みは何とも凄まじい破壊力だ。こちらもついほえ〜となりかける。あぶないあぶない。
そして鍋の中には1人前に少し足りない量のものが残される。
仕方ないので、これも器によそっておこう。
という事で再度食事を再開することにする。
箸で麺を掬い上げずるずると啜る。トマトソースと肉そぼろが麺に絡んで、弾力のある食感と酸っぱ甘さが何とも言えない幸福感をもたらす(大袈裟か)。うん、ふつーに美味しい。
アテスピ団が食べる様子をちらりと見てみると、ペイくんが一口一口味わうようにゆっくりと食べ、アスカちゃんとしーちゃんは2人でにこやかに笑いながら、ハヤトくんとアスラーダは思いっきり犬食いしていた。
その様子を見るに特に不満は無さげな様でひと安心する。
改めて僕がしみじみ料理を味わていると、新たにPC転移してきた。
さすがにセーフティスポットに近過ぎたか………と、なんだゴトか。じゃあいっか。
「ちっ、オールドマンめぇ。こんな時に決済とかさせんなっつーの」
チャ-シュー擬きにはむっと噛り付き、そのまま口の中へ。
とろりとよく煮込まれたチャーシューはそれだけでご飯のおかずになりうるけど、このトマトソースを絡めるとさらに格別である。うまうま。
「あ…………そういや満腹度減ってんな」
ゴトは独りごちて、ちらりとこちらを見やる。その視線の先には、僕がよそっておいた器がある。
「なぁ………ラギさんよ」
「3000GINなのです」
食べ終えて大の字になっていたララが、むくりと起き上がり話し掛けてきたゴトへふっかける。(ちなみにウリスケはいつものごとく大の字だ)
「たっかっ!……ぐ、ぐうぅ………」
ララの言葉を聞いてゴトは唸り、アテスピ団の皆がビクゥっとなって僕の方を見る。
けど僕は右手と首を横に振り問題ないことを知らせると、安心して料理に意識を戻す。
「うぐぐぅ………わ、分かった3000だな」
しばらく懊悩していたゴトはやむ無しといった感じで言ってきたのを、ララが僕を見て確認してくる。
僕は視線でララに頷きを返す。
「冗談なのです。どうぞなのです」
メニューを開こうとしてゴトに対し、ララは腹黒い笑みを見せてテーブルの料理を指し示す。
「えっ!?いいんかっ?」
1人前に少し足りないものに対して、とても対価を得る気にはならない。というか商売したこと無いしね。
「どうぞなのです。量はそれだけなので諦めてなのです」
「おう、分かった!トマトスープか何かか?」
どうやら独り事のようなので、答えることなく僕も料理に意識を戻して食べ終える。
「ふぅ〜、うん、まーまーだったね」
「いや!充分美味いって、コレ!」
「はいっ!美味しいです!
うん!めちゃ美味です!
すんげぇ美味ぇよこれ!」
僕自身の批評とは裏腹に他の皆には好評を博していた。う〜ん………そこまでの物でも、……まぁいっか。
「うん、ありがと」
頂いた評価にはそれなりのお礼をだ。
そして皆が食べ終えたところで食器を回収し、移動を始める事にする。
とそこにまた黒い板が光り輝き、PCがやって来たみたいなので、僕等は邪魔にならない様に少しだけ黒い板から離れる。
「ちっ、あの馬鹿ログアウトしやがった。ロクでもねぇな。」
「何言ってんのよぉ〜。入れたのアンタじゃなぁい〜」
「五体投地見せられたからつい面白くって。ってかオメーも反対しなかったろうが!」
「フィーリ寝てたから事後承諾だった。でも最初は上手く行ってた」
「……………」
現れたのは全部で4人。
先頭から大剣を背中に背負った魔人族の軽鎧を身につけたガッシリした体格の女性PC。
次がエルフの膝丈のローブを纏った女性PC。
そして獣耳をピンと立たせた猫の獣人族らしい小柄な女性PC。
最後はいわゆるバケツヘルムを被った全身鎧のPCだ。
もしかして全員女性なのかな?
「…………っ!!」
全身鎧さんがとある方向を見やると、一直線に駆け出した。
その姿を見た他の3人も同様にそれに気付き、声を上げて駆け出す。
「ゴォトッ!」
「ゴォトさん」
「ゴォトぉ〜」
彼女等を見たゴトは相好を崩して笑顔で挨拶をする。なんで歯が光る?
「よっ!レット、フィーリ、ペルカ、リリリナ元気してたか?」
コトの言葉に4人が華やいだ声を上げて身体を寄せる。
「元気元気!でさー聞いてくれよ〜」
「あなたもぉ〜元気だったぁ〜?」
「この感触。久しい………」
「っ!っ!っ!っ!」
ゴトに引っ付きながら各々が近況を話し始める。
「はれむ?」
アトリがそんな事を呟く。
まぁそう思わなくもないかな?
「ああ〜〜〜〜〜っ!ゴォトぉ〜〜〜〜〜っっ!!」
「ゴォトだぁ〜〜〜ッッ!」
そこに西からやって来た5人組のパーティーのうちの2人が、ゴトへと駆け寄り話をしだす。2人共人族の女性PCのようだ。似た様な顔をしてる。双子さんかな?
「何だよアンタ達!あたし等が先に話してんだ、邪魔すんな!」
「はあぁ?そんなの関係ないでしょ。あたし達の方が付き合いあるんだから!ねぇ?ゴォト」
「ゴォトはわたさない!」
獣人族のPCがゴトの腕をギュウと抱える。それを見た双子が声を荒らげる。
「ちょっと!!何やってんのよ!離れなさいよっ!」
「こらこら、俺の為に争うのはやめろっての」
ギスギスし始めた女性PCを宥めながらゴトがそんな事を言う。
現実?でこんな台詞を初めて聞いてしまった。しかも男の、正直ガッカリだよ………。
よくマンガなんかでハーレムを謳っているけど、あのキャンキャンとギスギスを見てしまうと、あまりよさ気じゃない気がする。
正直どうでもいいや。
僕達は顔を見合わせて頷くと、こっそりと移動を始めたのだった。
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