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169.メーカーというよりホイホイ

 

 

 シンディさん………。どこかで聞いたような記憶がある。

 僕が声の方へと顔を向けると、そこには姉達に執拗にアプローチをかけて来ていた4人組の1人がいた。

 そして彼の姿を見て、連鎖的にゴスロリ姿のNPCを思い出す。

 

「誰なんですか?

 誰か知ってる?

 誰だ?そいつ  」

 

 ペイくん、アスカちゃん、ハヤトくんが一斉に彼へと聞き返している。しーちゃん、ワンダー、アスラーダははてな?という仕草をしている。

 後ろからついて来たゴトも何故か話を聞く姿勢になっていたりする。

 

「……………」

 

 前に彼等のせいで村を素通りする羽目になかったので、僕としてはあまりいい印象を持っていなかったのだ。 

 これ、無視しちゃダメなんだろうなぁやっぱり。

 ララとウリスケとアトリもやれやれと肩を竦める感じだ。

 僕は少しだけとほほな気分で、彼の話を聞く事にする。

 

 確か4人いたうちの1人であろうその人は、金の刺繍が施されている赤のベストを身に着けた残念な顔の男性だ。

 残念だって言っちゃいけないんだけど、凛々しい眉に憂いを含んだ澄み渡る湖のような瞳、そしてすっと筋の通った鼻梁に薄い唇。

 各パーツがそれなりに整っているのに、それが中央に寄りぽっちゃりんとした顔に収まっていたりする。

 前も思ったけど、本当に残念というほか無いのだ。いや、もったいない?ちょー惜しい?

 

「あ、ああ………。シンディというのは私の下の兄弟で、この前いきなり村からいなくなってしまったんだ」

 

 ありゃあ、そりゃまた物騒な。それともイベントか何かだろうか?

 

「宿に書き置きがしてあって“理由わけあって愛に生きる事にしました。兄さん達も愛に生きて下さい”と残してあったんだ」

 

 その瞬間何故かぞわわと背筋が震える。おわ、なんでだ!?

 とは言え、本人自身が村を出て行ったのなら、その意志を尊重すればとも思うけどなぁ。

 

「シンディ、シンディ………う~ん、どこかでぇ………」

 

 ゴトが腕を組んで目をつむり何やら唸っている。僕もあのゴスロリ姿は記憶の片隅にある様な気がしないでもない。どんなだったっけ?う〜ん………。(うろ覚え)

 

「あっ、いま姿絵を描くから」

 

 そう言って赤ベストさんは、懐から紙とペンを取り出してさらさらさ〜と何かをかき始めた。姿絵?

 そして出来上がったものを僕達へと見せてくる。ああ、この子か。

 

「この子がシンディさ。見かけなかったかい?」

 

 そこには全てのパーツが整ったゴスロリ姿の少女が描かれていた。

 

「見てませんね

 見てないです

 見てねーな  」

「ゴッ」「ないです」「ないっす」

 

 アテスピ団の皆はその絵を見て全員が首を横に振る。

 もちろん僕達も同様に首を振る。ここで会った時以外に会った事も見た事もない。

 

「そ、そうですか………」

 

 僕達の答えに肩をガックリと落とし、溜め息を吐き絵を見やる赤ベストさん。

 そこへゴトが爆弾をドカリと落とす。

 

「あっ、俺知ってるぜ。この子」

 

 赤ベストさんの横から絵を覗き見てゴトが言う。

 どうやらさっきは見てなかったみたいだ。何やってたって話である。(興味ないけど)

 

「本当かい!?きみぃっ!」

 

 ゴトの言葉にガバッと顔を上げて前のめりになって聞き返す赤ベストさん。

 

「お、おお。プロロアの冒険者ギルドで会ったぜ。冒険者ワンダラーになるって言ってたな。鎖の付いた鉄球持ってよ」

「なっ!まさか、母さんのっっ!?」

 

 赤ベストさんが目を見開いて驚き声を荒らげる。

 え?なんか驚くとこがあったんだろうか。

 

「どうしたんだいアンディ。そんな大きな声を出してHAHAHAHA!!」

 

 赤ベストさんの声を聞き付けて4人のうちのもう1人がこちらにやって来る。こっちはピンクベストさんだ。

 相変わらず本当に似たような顔をしてるなぁと、僕は半ば感心してしまう。

 さらにその様子に気付いた他の2人もがこっちへとやって来た。

 

「どうしたんだい?シンディの事が分かったのかい?」

「やぁ、フロイライン(おじょうさん)。ぜひあなたのお名前を教えて下さい」

 

 お、1人だけ我が道を行く人がいる。アスカちゃんが即拒している。むしろ清々しい程だ。

 

「ああっインディ!マンディ!シンディはプロロアの街だ!!」

「ここの冒険者ギルドで登録させなかったから、という事か………。これは僕のミスだな」

「違うよインディ。僕達みんなでシンディが登録するのを反対したんだ。君だけのせいじゃない」

「アンディっ!」

 

 さっきいきなりアスカちゃんの名前を聞いて来た白ベストの人が、紫ベストの人を慰める。

 そう言うのってどうかなと、僕なんかは思うんだけど………。

 

「ドっサイテーな奴です!」

「です!」

「しーちゃん、やっちゃてです!!」

「でぇぇすっぅ~~~………」

 

 アスカちゃんとしーちゃんの目が据わってる。まずくないかな………これ。

 僕がハラハラと2人の様子を伺っていると、ララが安心させる様に耳打ちをしてきた。

 

「マスター、大丈夫なのです。触れ合い許可していなければ、下手な事にはならないのです」

「あ!ほんとだ………」

 

 しーちゃんの振るう大鎌の攻撃は透明な壁に阻まれて、紫ベストの人に当たらない。

 僕がほっとしてそれを見ていると、常識人であるペイくんがアスカちゃんを制止する。ん?あれ?

 

「ダメだよアスカちゃん。やるんだったら徹底的にやらないと。まずは触れ合い許可して、それからじゃないか」

 

 うぉッ!?ペイくんが黒い!黒くなってる!?

 

「あ゛あ゛………そうだぜぇ。こう言う手合は誰に粉ぁかけたか思い知らしめないとなぁ゛〜〜」

 

 おぅふ、………ハヤトくんもなんか目が逝っちゃってる。

 これはいかん!何とか止めないとっ!!

 

「ちょ、みん―――」

 

 僕がアテスピ団に声を掛けようと口を開こうとした時、ひと際大きな声とガッツンという衝撃音が響く。

 

「ばっきゃろうっっ!!なんて声の掛け方してやがんだ!手前ぇはっ!!」

「ひぃいっっ!!」

 

 横から紫ベストさんに拳を突きつけたゴトが叱っていた。

 ちょっと突っ込み続けるのに疲れたんですけどっ!?

 まぁ実際突っ込み(そんなこと)はやってないんだけど、姉達も個性的ではあるけど今回のメンツもあまりにも個性的過ぎる気がする。何でだ?

 

「仕方ないのです。マスターはそういう星の下に生まれたのです」

 

 僕の懊悩を気にも留めず、心を読んだ様なララが言って来た。やだなぁ……そんな星の下………。

 

「っ!なっ、何がダメだと言うんだ!名前を聞くのは当然だろう!それが愛の始まりじゃないかっ!」

 

 ゴトの叱責に気分を損ねた紫ベスト(さんいらないよね)反駁をする。

 まぁねぇ、名前を知らなきゃ確かに軽く付き合うのも難しいとは僕も思う。

 けど限度ってのはあるよね。うん。

 

「はんっ!それは次の段階なんだよっ!まずは自分に興味を持って貰う事が重要なんじゃねぇか!それで愛を語るなんざ100年早ぇんだよっっ!!」

 

 ゴトのその言葉に4人がガガガーンと衝撃を受けた様に固まり目を見開く。

 

「「「「そ、そんな馬鹿なっ!?なら僕(俺)達はっっ!!?」」」」

 

 なんか茶番劇が始まりそうなので僕達は村の中を見に行く事にして、こっそりとその場から離れる。

 

「いいんですか?ラギさん」

「いいも何も僕達は無関係だし、と言うか関わりたくない」

 

 黒から戻ったペイくんがゴトの方を見ながら訊いてくるけど、あっちが勝手について来てるだけなので、僕がどうこう言う筋合いもないのだ。

 

「ほっとけばいーのっ!あんなのっ!!」

「です!」

 

 アスカちゃんとしーちゃんがまだお冠の様でぷんすかと憤慨している。

 ペイくんと落ち着いたハヤトくんが苦笑いしてるのを見ると、どうやら現実リアルで色々あったのかも知れない。まぁ詮索は無用という事で。

 

「まずは果物を見るのです、マスター」

「グッ!」


 ララがそう言って先へと飛んでいく。ウリスケもそれに続く。

 ルウ―ジ村(ここ)もマルオー村と似た様な作りになっている。

 西街道がそのまま突っ切る形で通りが西まで伸びていて、途中に転移ゲートや、宿屋に冒険者ギルドとスキルショップ、そして武器防具屋に果物屋が並んで建っていた。

 だけどスキルショップのドアは閉まっていて、果物屋さんには店の人が誰もいないみたいだ。ありゃ………。

  

「やぁ、いらっしゃい。今ぁ店の人間がいないんで私がお相手するよ」

 

 奥にいるのかと思って声を掛けようとした所に、横から女の人がやって来てそんな事を言ってくる。いないってどういう事だろうか?

 

「えっと、店の人に何かあったんですか?」

「下の兄弟がいなくなったんで、村にやって来る旅人に聞き回ってるのさ。全く放っておきゃあいいものを。ささ、何にしようか?」

 

 なる程なる程。誰だかは分からないけど、誰達なのかは理解した。

 何とも困ったちゃんだな、あのベストのにーちゃん達は。

 

「美味しそうなのです」

「グッ」

「まー」

「美味しそう

 瑞々しいね

 じゅるっ 」 

 

 ララ達の言葉からアテスピ団の皆も軒先に並べられた果物を見て呟いている。

 何かこのユニゾンも普通になってきた気がする。慣れるってやばいよな、これ………。

 とりあえず気分を変えて、見た目リンゴっぽいのとオレンジみたいなのを5つとブドウの様に実が幾つも連なっているのを3房購入する。

 

「ありがと~。また来た時はよろしくね~」

 

 そしてぺイくんがリンゴ、アスカちゃんがブドウでハヤトくんがバナナみたい果物を1つづつ買っていく。

 よし、あと特にここで何かするでもないので、出発する事にしよう。

 

「マスター、さっそく食べたいのです」

 

 歩きながらではあるけどララの要望なので、リンゴを1つ取り出して4つに切り分けてさっそく食べてみる事にする。

 形はリンゴなんだけど、表面の色は薄いオレンジ色をしている。

 切ってみると中の果実はピンク色をしていた。そこだけ見ると桃といった感じがしてしまう。

 

「いただきなのです!」

「グッ!」

「いた」

 

 ララとアトリにとってはけっこーな大きさなので、大丈夫かなと思ったけど………うん、問題ないみたいだ。(アトリに関しては頭の上にいるから分からないけど、シャクシャク音が聞こえてくる)

 僕もさっそく食べてみる事にする。

 

 皮ごと齧り付くとシャクリというリンゴ特有の音と食感、そして酸味と甘みが口の中に広がってくる。

 うん、リンゴだね。

 

「酸っぱ甘いのです。はぐはぐ」

「グッグッグ!シャクシャク」

「えくせ~!シャクシャク」

「リンゴですね」

 

 ララ達も夢中になってリンゴを食べている。ペイくんもまるごとリンゴに齧りついてる。何とも豪快だ。

 

「アーちゃん、おいしー」

「うん、しーちゃん美味しいね!」

 

 後ろでは機嫌の直ったアスカちゃんとしーちゃんが、水色のブドウの実を1つ1つつまみながら歩いている。機嫌が直って良かった。ふぅ。

 

「色は変だけど、まんまバナナだな。うまい」

 

 紫色の皮を剥いて蛍光色っぽい黄緑色のバナナの実をハヤトくんは旨そうに頬張っている。けっこー勇気いると思うんだけど、あの色は。

 

「お~~~いっ!置いてくなよぉ~~~~っ」

「ちっ!来やがったのです」

 

 ララが小さくボソッと呟く。ダメですよララさん。思ってても口にしちゃ。

 僕はあからさまに溜め息を吐きながら、後ろを振り向いてゴトをしばし待つ。

 するとゴトの後ろにあの4人がなんでか付いて来ていた。どうしたんだろか?あれ。

 ぼく達のところまで来ると、ゴトは回れ右をして4人と向き合って話し出す。

 

「いいか、まずお前達は誠意を見せる事から始めるんだ。その後は教えた通りにすれば、希望の光が(多分)見えてくるだろう。頑張れ!」

「「「「はいっ!!師匠!」」」」

 

 アテスピ団の3人がなんかジト目で4人を胡乱気に見ていた。

 僕もそれ程コミュ力ないんで、こういう時なんて声をかければいいのやらとつい悩んでしまう。

 感覚的には理解できるのだ。こんな奴等がこんな奴に″師匠”なんて呼ぶな!と。

 おそらく質と量の問題だと思う。

 

 培った時間と紡いだその結果で、3人とその師匠さんはその関係を築いていったのだと思う。

 だけどゴトとベスト4人とは違い過ぎるゆえに、感情が昂ぶるんだろう(と僕が勝手に思ったりする)

 

「さっそくシンディを探しにプロロアへ行って、そこで実践してみるよ。HAHAHA!」

「ええ!僕の魅力でフロイラインをきっと!」

「いや、それならシンディを連れ戻す前に実践した方がいいんじゃないか?」

「それもありだね!シンディと一緒に戻ればいいのさっ!!」

 

 4人の会話を脇で聞いてるけど、どう見ても上手くいく気がしない。

 まぁ適当に頑張ってくれればいいと思う。

 そのまま4人と別れて僕たちはようやっと村を出て西街道をそのまま西へと進んで行く。

 しばらくは何事もなく穏やかに歩いてたんだけど、南の方からドドドドッという地響きが聞こえてきたのだ。そしてたなびく土煙。 

 

「なんだろ………あれ?」

 

 すぐに索敵をかけると、少しばかり距離が離れているけどPCのマークが1つとその後方に20コほどの赤のマーカーが追いかけっこをしていた。

 

「もしかしてモンスタートレインってやつかな?」

「なのです………でもこっちには来ないみたいなのです」

 

 目の上に手をを翳してララが言ってくる。

 確かに進行方向は東に向かっているので、こちらには影響がなさ………あれぇ?

 いきなり進行方向を変えて追われてるであろうPCがこっちにやって来る。

 

「おぉぉ~~~~いっ!助けてぇ~~~くぅ~~~れぇ~~~~~っっ!!」 

『『『『『ガヴォォオヒァアァッァアアアアッッ!!』』』』

 

 男性であるPCの声とともにモンスター達の雄叫びがこっちにまで響き渡ってくる。

 

「ら、ラギさん!どうしますか?

 もしかしてあの時の奴ぅ?

 やっぺぇじゃん!あれっ!!  」

 

 こんな時でもユニゾンするんだ。ある意味そっちも凄い気がするんだけど。

 

「んーそれじゃあ、あの人には悪いけど、このまま逃げちゃお」

 

 僕が方針を伝えると、3人は残念そうな顔をしながらも頷きを返してくる。いやいやあんな数無理ですって。

 このまま街道を進んで行けば橋のとこまで行くし、それを渡ってしまえば回避もできるだろう。

 僕たちが視線を合わせて走りだそうとした時、モンスタートレインをしているPCから叫び声が聞こえてきた。

 

「たぁ~すぅ~~けてぇくぅ~~れぇえ〜〜〜~っっ!ゴォオオゥトォオオオオ~~~~~っっ!!」

 

 僕は思わず後ろを振り返りゴトを見る。知り合いらしいそのPCはゴトを見てこっちに来たようだ。なんて傍迷惑な。

 当の本人は目を爛々とさせて土煙の向こうを見据えていた。戦闘狂の目だ。

 

「義を見てせざるは勇無きなりだ。行くぜっ!みんなっ!!」

「「「「いやいやいやいやっ!」」」」

 

 僕とアテスピ団の3人は皆が激しく手を横にぶんぶん振る。冗談じゃない。

 あー………もう行っちゃってるし。

 どうやらゴトというPCはトラブルを色々呼び込んでしまう人間みたいだ。

 

 トラベルメーカーというよりトラブルホイホイと言ったところか。

 或いは疫病神とか?さすがにそれは言い過ぎか。

 なので僕達は退散するするので、ぜひ頑張って欲しいです。

 

 





  

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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