168.まずはルウージ村へ
いやまぁ、なんでゴォトがここにいるのかと言えば、昨日のアテスピ団との会話からなんだろうけど………。
仕事しなよ。あんた、社会人でしょ!?
そう思わず心の中で言ったとしても無理はないと思うのだ。
ただあちらの理由とか目的がはっきりしないので、こちらも曖昧な物言いになるのは致し方ないとは思う。
まぁこちらとしては無関係を決め込むのがベストかな。
「おはようございます。今日はとぉってもお早いんですねぇ?」
(こんな朝っぱらからゲームなんてしてていーんですかぁ?)
「はっはー。学生さんと違って、いくらでも融通が利くもんさ」
(社会人でも上に行けば学生なんかよりはるかに自由なのさ)
「ふふふー」
「はははー」
互いに笑い合って牽制をする。
「言外の戰いなのです」
「グッ!」
「お〜」
くっ、さすがに学生の方が分が悪そうだ。どの道話はここまでなのだ。
そこにアテスピ団の皆がやって来た。どうやら僕達が来る前にログインして、何かやっていたみたいだ。
「ラギさん、お待たせしました!
ラギさん、早いですね!
ラギ、わりぃ待ったか? 」
相変わらずのシンクロトークだ。申し分ない。
「大丈夫だよ。そっちも準備はいいのかな?」
まぁとくに準備も何もないと思うけど。一応ね。
「うん!お師匠様に挨拶してきたの!
はい!お師様と話してきました!
おうっ!オヤジと語ってきたぜ! 」
アスカちゃんがニコニコ笑顔で、ペイくんは普段通りに、そしてハヤトくんは拳をパンと叩いて返事をしてきた。ん?拳でってことかな………。
僕自身はポーションや食べ物はストックしてあるので、そのまま出発する事にする。
「それじゃ、行こうか」
「はい!
うん!
おうっ!」
「行くかっ!」
ん?
「……………」
えー………1人予定にない人が入っている気がするんですけど。こう言うのって突っ込んだ方がいいんだろうか。
「んん?もしかしてゴトさんも付いてくるのですか?何故なのです?」
ララの直球な質問に、ゴォトはバツが悪そうな顔をして答えてくる。とうとうララは名前を略してしまった。
「いやぁ俺ってパーティーで戦うって向いてないみたいでさぁ」
は?
この人は一体何を言ってるんだろう。
確かに僕もこの手のゲームってのはパーティーを組んで戦っていくのが、常套であるのだとやってて理解してる。
幸い姉やラミィさん達と組む事が出来ているので、それ程苦労する事なく次のエリアへと進めている。
なのでMMOと言うものにおいて、はっきり言ってパーティープレイというものが本道というものだと最近は認識している。
なんせプレイスタイルというものが多岐に渡っていて、その欠けた部分を他のPCと組む事で補うって訳だ。
まぁほとんど一人でやってる僕がいう話じゃないけど、万能型なんてプレイスタイルもあるらしいけど、そういう人はあちこちに手を伸ばし過ぎて行き詰るなんて事もあるそうだ。
そしてこのゲームではいかにスキルのLvを上げるかが重要になってくるのだ、とこの前ララが言っていた。(まーモンスターを倒しまくれば基礎Lvが上がるんで、ある程度の救済策はあるみたいだけど)
だから1人で次のエリアへと赴くのはいささか厳しいと思わないでもない。(ヤマトの時は行ったけどね)
であるから近接攻撃しか持ってない|(と思う)ゴォトでは、誰かとパ-ティーを組まないというのはやっぱり無理があるという話だ。
もちろんララもその事は知悉しているので、確認する様にゴォトへと訊ねる。
「何故向いてないのです?ゴトさんならそれなりの戦力にもなるのです?」
ララの疑問ももっともな話だ。この辺りのフィールドなら問題なく戦える力はあると僕も思う。
それにこの人当たりの良さは、パーティーを組んだとしても向いてないという事はないんじゃないかと思うんだけどなぁ。
「いやーそれが主に人間関係が色々となー………」
人間関係とな?ふ〜ん………でも猪突猛進以外は無難な気がするんだけど、それとも何か性格に問題でもあったりするんだろうか。
僕達(僕、ララ、ウリスケ、アトリ)はんん〜?と首を傾げると、ペイくんが得心がいったという風にポンと手を叩いてゴォトへと確認をする。
「もしかしてゴォトが入る事によって、パーティー内に亀裂が生じるって事ですか?男の人でも女の人でも」
え?何それ。こわっ!
「なんだよな〜………。なるたけ気を付けていてもよ〜、相手がある亊だからさ〜」
なる程。誰にでもそれなりの苦労らしきものがあるのだろう。それはゴォトでも例外ではないか、ちぇ〜………。
話を聞いてみると、固定バーティーの臨時で入った時や、野良バーティーのメンバー募集などで入った時に、とくに女性PCからのアプローチがある様でそれに刺激された他の女性PCが、と連鎖するとか。
その為男性PCから反感を買ってしまい、それを女性PCが庇うという何とももギスギスした雰囲気で戦闘どころじゃなくなるとか。
そして男だけのパーティーで組んた事もあったけど、その時もなんでかアプローチがあったみたいだ。えぇっ!?どっちも怖いっ!
まぁ本人の資質であるけど、本人のせいじゃーーー せいなのか?
「ってな訳でぇ、今まで行こうとは思ったんだが、なかなか踏ん切りがつかなくてな。下手して1人で行こうとすると、ついてきそうなPCがいそうだしなぁ………」
それはそれで面………大変そうである。だがそれはそれ、これはこれなのだ。
まぁ勝手に付いて来るのは別にいいけどね。
そしてその意を汲んでくれるのがララである。
「分かったのです。勝手に付いて来る分には構わないのです」
「え〜パーティー組もうぜ〜」
ララの発言に不満そうな声を上げるゴォトをさらっとスルーして、ララが僕を見てくる。
僕はそれに頷いてからアテスピ団の3人を見ると、こちらも頷きを返してきたので再度声をかけて移動を開始する。
「じゃ、行こうか」
「「「おーーーっ!」」」
「ちえ〜」
「行くのです」
「グッ!」
「お〜」
アテスピ団の3人とアテンダントスピリットとララ達が拳を掲げて応じ、ゴォトは口を尖らせている。ふむ、ココらへんが落とし所かな。
時計台広場の周囲が少しだけざわついてる感じがする。
ちょっとだけ騒ぎ過ぎたみたいだ。はぁ………。
なので速やかに西門へと向かう。
そして歩く道すがらペイくんが聞いてくる。
「ラギさん、パーティーとかどうします?」
「んー、今回は組まなくてもいいかなぁと思うけど。3人のLv上げも兼ねてるだろうから、極力僕は手出ししないでサポートに回ろうと思うんだけど、どうかな?」
「………そうですね。ではそれでお願いします」
「了解」
僕がペイくんにそう提案すると、寸の間考えてから首肯してくる。んーなんかさっきからリンリンと何かが小さく鳴ってるんだけど、なんなんだろう?
「マスタ、もんす、ひだり、3」
そして西門をくぐりしばらく街道を歩いていると、アトリがモンスターがやってくるのを知らせてくる。
「よっ………!
いっ………!
やっ………!」
「っしゃああっっ!!」
アテスピ団の3人がよしっ!いくよっ!やるぜっ!(と思う)と言おうとする前に、ゴォトが声を上げて飛び出して行った。ああ、猪突猛進。
突進してきたワイルラビット達は、なす術もなくあっさりと倒されてしまった。一撃ですか。あの様子だとけっこーなLvを上げたんだろうなぁ。
ちなみにアテスピ団のLvは、ペイくんが19、アスカちゃんが18、ハヤトくんが21だとか。(教えられても困るんだけどねぇ)
適正Lvという事で問題なく次のエリアへと行ける筈だったんだけど………。
「ぜはっ………。なんか多くねっ?モンスター」
「うん………、ちょっと……」
「おかしいよね、………これぇ?」
モンスターを倒し終えた3人が疲れた表情で呟く。おおっシンクロトークがっっ!
引っ切り無しにモンスターがやって来てあまり先に進めていなかった。
まるでこの前の時みたいにモンスター寄せのアイテムがあるかの様に。
アテスピ団の3人だけではちょっと大変そうなので僕も加勢してるけど、ちょっとこの数は異常だ。
相変わらず何かが小さくリンリンと鳴っている。
「マスター、この音がめっちゃ怪しいのです」
ララが耳元で僕が思っていた事を耳打ちしてくる。だよなー。
そして音が聞こえてくる方には、ゴォトが満足気な表情で腕をグルグル回している。
今のところゴォトは5m程離れた後ろを僕たちに付いて来ている。
ちょうどプロロアの森の手前まで来ているので、もしこのままこの状態が続くとちょっと厄介な事になりそうだ。
なので僕とララは確認を兼ねてゴォトに話を聞く事にする。
僕達がゴォトに近づくと、ゴォトは嬉しそうに顔を緩めて聞いてくる。
「お、パーティー組むか?」
「ゴトさんに伺うのです。モンスターを引き寄せるアイテムとか持ってるのです?」
ゴォトの問いをスパッとばっさり無視して、ララが問いかける。ちょっと眉間にしわが寄ってる。
そしてその問いにゴォトはあっさりと返してきた。うわぁ………。
「ああ、あるよ。これ、コールモンスターベルってんだぜ。いいだろ?」
そう言って腰のベルトにつけていたハンドベルのミニチュアを手に取ってリンリンと鳴らす。やめいっ!
「これ装備しると、モンスターがあっちから来てくれるんで楽なんだぜ」
へへ~んと、何とも自慢気に言ってきたのに、少しだけイラッとしながら僕とララは声を上げる。
「はずせ(ぼそっ)」
「はずしてなのです!」
おっとつい言葉が乱暴になってしまった。いかんいかん。
「えー?勝手にあっちから来てくれんだぜ!?Lv上げにいーじゃん」
何とも目的と手段を履き違えた物言いをして来るゴォトに、溜め息を吐きながらララが諭すように話を始める。
「………ゴトさん、今回のララ達の目的はカアンセの街に行く事なのです。確かにLv上げも大切なのです。でもそれはまた別の話なのです。これ以上それを着けて付いてこられるのはお断りなのです!!」
しばしララの言葉を吟味する様に目を閉じた後、ゴォト――もうゴトでいいや――はアアと納得した様に手を打つ。そしてメニューを出して何やら操作をする。
「………そっか、なる程。そりゃあ悪かったな。よし、これでいいだろ?」
腰にあったハンドベルのミニチュアは光と共に消えて行った。
「おっけーなのです。マスター、行くのです」
「うん、ララ」
ララに促されて、僕はアテスピ団のところへと戻る。やれやれだ。
この後は森の中へと入リ何事もなく………は行かなかった。
「あがっ、あ゛がががががが…………」
「…………」
ゴトがビッグバタフに集られてマヒしたり、ビッグアンタに集られてタコ殴りにあったりしていたからだ。………何なのこの人。
そしてビッグスパローの9体編隊に、僕達はほうほうの体で森を駆け走り何とか抜け出す。
この時はアスカちゃんが大活躍した。麻痺回復薬や虫モンスターの嫌がるクスリを撒くなどしてくれたからだ。
ゴトがニコリと礼を言っても、特に反応もしなかったのだ。後で聞いてみると、なるし―は好きじゃないのでとの答えが返って来た。なる程ナルシーですか。この時妙に納得した僕だった。
森を抜け街道を進む中、ゴトの事はウリスケにフォローを任せる事にして何とか円門を通り抜け(全員がスキルスロットが増えて大狂喜)進んで行くと、ようやくルウージ村が目に入ってきた。
そのことに僕は少しだけホッとしてしまった。(気疲れがめっちゃくちゃ激しかった………)
ゴトがパーティー組めないのって人間関係じゃないと思った。多分あの豪放磊落、天衣無縫の上に天上天下唯我独尊の性格のせいだと確信した。
あのワンマン社長によくある性格と言う。(僕の独断と偏見だけど)
「あの、すみません旅人さん。うちのおと、………シンディを見ませんでしたか?」
ルウージ村に入ると、いきなり声を掛けられてしまう。
はぁ?
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