167.きちゃった☆
こんなところで相手をするのは得策ではないので、僕はすかさず移動を始める。
「じゃあ僕、用があるんで。これにて失礼!」
「「「え?」」」
逃げきれないとは分かっちゃいるけど、せめて人のいない所へと避難しなくてはと時計台広場から離れる事にする。
すたたた―――――っと西大通りへと向かい、そのまま裏路地へと入って行く。
「あっ、おうさま!どこ行くんだよっ!お~~~~いっ!!」
はいっ!なるべく人のいない所ですっ。
ってか人のたくさんいる所でおうさま呼ばわりは正直やめて欲しい。
僕の思惑通りにゴォト―――そう脳筋PCのゴォトである―――は、僕の後について来て裏路地へと入ってきた。
そして何故かアテスピ団の皆まで一緒に。はて?
「あなたバカです?馬鹿なのです?往来でそんな呼び方したら注目が集まるのです!そして会うなりPvPとか全然反省してないのです?ゴォトさん?」
いつもなら誰にでもさま付のララも、彼に対してはさん止まりみたいだ。
その視線の冷たさにさしもの彼もタジタジとなる。
「え?いや。俺名前知らねぇし、ラビ達皆おうさま言ってたからいいか―って?」
いやいや!僕名前言ったよ!確かに言ったよ!?
「それよりサキさんいねーの?なぁなぁ?」
「…………」
なる程、男の名前なんぞどうでもいいというタイプの人間みたいだ。
「いませんよ。それより人前でおうさま呼びはやめて下さい。僕あんまり目立ちたくないんで」
「あ?そんじゃ何て呼びゃいいんだよ?おうさまぁ」
あーいるいる。ひとの弱味らしきものを見つけるとやたらと突付いて来る人間。
「あ゛あ゛ぁ?マスターのお名前はラギなのです!それ以上ガタガタ言うとPvPでズタボロになった動画公開するのです!」
「あっ!ちょ、まっ、ええっ!?」
ゴォトの態度に腹を立てたララが眉を顰めて凄味を利かして脅しをかける。迫力パないです、ララさん。
「グゥウウ~~ッ!」
ウリスケもなんか「やんのか!おぅ!!」ってな感じで怒りを露わにし後ろ足で地面を書き削る。
「あ゛あ゛ぁ!?るかぁ、るかぁあ?」
むぅ………ララ達のガラが悪くなっている。やっぱり僕のゴォトに対する行いが良くないせいだろうか………。でもなぁ………。
何度も言ってしまうけど、第一印象って本当に大事なのだ。
なので、ついそれに囚われてしまって本質を見逃してしまう事もある。でも………なぁ、なのである。
あと性が合うってものもあるかな。ガンガン攻めてくる人って、やっぱり僕は苦手なのだ。(姉は別)
でもよく考えてみると、僕の周りにはそんな人ばっかりな気が………はぁ。
ララ達の圧力に屈したゴォトがビシッと直立すると、身体を120度まで折って謝りだした。
「さ――――せんっしたっ!!」
その姿を見て留飲を下したのか、ララ達の態度が鷹揚になる。
「ふむ、よろしいです。以後気を付けるのです」
「グッグッグ!!」
「ろよっ!」
ララ達に許しを得ると、ゴォトは頭を上げて身体を弛緩させる。
はへーと顔が緩みだらしなく崩れる。
とても現実で襲ってきた人物とは思えない姿だった。。
本来の彼であれば反発するか、怒るかなのではないかと考えたからなのだけど………。
やっぱあのPvPでいろいろへし折られたからなのかな?
と僕がそんな事に思いに耽っていると、脇にいたペイくんがおずおずとこちらを伺いながら訊いてきた。
「あの………ラギさん、こちらの方は?」
おっと、そういやいたんだったよアテスピ団。んー………何と説明したら良いのやらと僕が言いあぐねていると、ララが代わりに説明を始めてくれた。
「この方はゴォトさんと言いまして、とある場所で知り合ったのです。この様にPvPを他人様の迷惑を顧みず申し込んでくるダメな大人の様な方なのです」
説明は正しいんだけど、何か言い方が酷くなってるような………。
「ほほぅ、ダメな大人
ふ〜ん、ダメな大人
へぇ〜、ダメおと 」
じじじぃ〜とアテスピ団の3人がゴォトを胡乱げに見やる。
その視線に気づいたゴォトが、気にする素振りも見せずアテスピ団へと向き直り名前を告げる。
「よぉっ!俺はゴォトって言うんだ。お……ラギとはラビタンズネストで知り合った。よろしくな!」
「「「ラビタンズネスト?」」」
あ〜………。言っちゃったよ、この人。確かに口止めもしてないし、誰かに話したとしても僕には止める権利もないんだけど……言っちゃうかー……。
そして嬉々として自分がどうやってラビタンズネストに行ったのかを話し出す。なんとも苦々しい。
この感じなんと言えばいいんだろうか。
行きつけの店のお気に入りの席を、いつの間にか誰かに座られてしまった。
もしくはコツコツと作り上げた秘密基地を、勝手に入り込んだ人間が我が物顔で使っている。そんな気分………。
文句を言うにも公の場所なので、何を言っても無駄という諦めに似た様な感覚。
いくら歳を重ねても、どこかでそんな目に会ってしまう。
僕自身言葉では言い表す事が難しい。そんなもの。
そんな思いが眉間と口元に出てたんだろう。
「マスター、あまり心配しなくても大丈夫なのです。ラビタンズネストはロックしてあるので、いくら攻略法を言いふらしたとしても入る事が出来なくなってるのです」
ララがなんとも不穏当な物言いを耳打ちして来た。
何やらラビタンズネストはイレギュラーなハーミィテイジゾーンらしく、あまり他のPCには知られたくない場所だとか。
なんなの、それ………。
本来なら開放されたハーミィテイジゾーンは、開放したPC達のものの筈らしいんだけど、よもや2人目が出てくるとは、運営も思ってもみなかったみたいなのだ。
だよねぇ〜………。ラビット系モンスター100体倒して、あんなごつい筋肉ウサギを倒さないと入る事できないとこなんて誰も普通は目もくれないと思う。
ただこの手の攻略法は割れてしまうと皆が我も我もとたかり出す。
情報の共有は大事な事ではあるのだけど限度もある。
どうやるのかは知らないけど、これ以上人が来ないというのであれば僕としては何も言う事はない。
その事にちょっとだけほっとする。
「「「ふ〜ん。そんなとこがあるんだぁ〜」」」
反応がえらい淡白だ。アテスピ団の皆は特に興味を引くものではなかったみたいだ。2足歩行のウサギなんだけどなぁ。かわいいよ?
「ところで、あんたら誰?」
今更ながらだけど、そんなゴォトの問いかけに3人(いや6人か)が待ってましたとばかりに自己紹介を始める。
全員が少しだけ下がってフォーメンションを組む。
前列がアテンダントスピリットで、後列がペイくん達。
真ん中にペイくんワンダー。
右にハヤトくんとアスラーダ。
左にアスカちゃんとしーちゃんという隊列?になっている。
一体何なんだと首を捻るゴォトを余所にそれは始まった。
「縫って、縫い縫い繕いましょう!裁縫士のペイ!その友は風狼のワンダー!」
「っス!」
前髪をパパっと払いクルリと回転してY字ポーズ。ビシッ!
「打って、カンカン打ち上げる!鍛冶士のハヤト!その相棒はデュラハンのアスラーダ!」
「ダッ!」
カカッカカッカカッとタップダンス(アスラーダと一緒に)の後に右腕を斜め上に掲げ片膝をつく。ババッ!
「刻んで、練って濾しまする!薬士のアスカ!そのバディはデス・ゲイザーのしーちゃん!」
「ですっ!」
パチパチパチンと指を鳴らして1回転(もちろんしーちゃんも)。そして左腕を斜め上に掲げて片膝をつく。シャキン!
「「「その名も我らアテスピ団(仮)!!」」」
ビシシとポーズを決める6人。バックに爆煙が噴き出すような勢いだ。
「ふぅおおぉぉっ!!かっこいーのですっ!」
「グッグッグゥ~~~ン!!」
「まぁ~べらっ!」
ララとウリスケとアトリがそれを見て興奮する。テンションあげあげだ。
「アスカとハヤトとペイね………んでアテスピ団?」
なんとも冷静な目でそんな事をゴォトが呟く。やっぱ女性が先なんだな………。
「ララ達も負けてられないのです!行くのです皆さん!!」
「グッ!」
「おー」
そしてララ達の口上が始まった。僕も少しだけ後ろに下がってその様子を見守る事にする。(やらないよっ!僕は)
ララとウリスケは前と同じだ。だけど今回はアトリのフレーズが新たに加わったみたいだ。
「かぜをく!かぜにま!あおのま!アトリ!!」
「″風を繰り!風に舞う!蒼の魔導士アトリ”さんなのです!」
アトリが一瞬何を言ってるのか分からなかったけど、ララがフォローで補足していた。
「我等ラギカサジアス従魔団!!」
「グッグッグッ!!」
「ぷらすわん!」
びしっとポーズを決めるララとウリスケとアトリ。(だからやんないよ)
「おおっ!やるなっ!!
かっこいーよっ!みんなっ!
みなさん、さすがです! 」
相変わらずすごいなぁー、話し出すタイミングが全く一緒だ。
そしてパチパチと拍手がおこる。
ゴォトが僕に近寄り耳打ちしてくる。
「なぁ………これって流行ってんの?」
「んにゃ、ここだけだと思うよ。アテスピ団がやってるのを見てララ達が真似してるってとこかな」
「へぇ~~」
そして皆の視線がゴォトに集まる。それに気づいたゴォトは俺も?という風に自身に指を差すのを全員が頷きを返す。
「ちっ、しゃーねぇなぁ」
そう言うとクルリと回って2、3歩あるいて振り返る。その動きは何ともそつがなく様になっていて小憎らしい。
そしてゴォトは右腕を突き出して始める。
「拳を以って、拳を究む。戦いに挑むは拳のみ!疾風迅雷それが俺。ゴォトだ!!」
バババッと空手の型を披露してビシッとポーズを決める。
どっちかと言うと猪突猛進だと思うけどな。
そして感心と感嘆の声と拍手が鳴り渡る。
鳴り渡る?と路地の向こうを見てみると、数人のPCがこちらを見て拍手していた。なんか恥ずっ!
あれ良くね?とか、恥ずくね?とか話声が聞こえて来る。
「そんじゃ、フレンド登録しよーぜ」
「いいですよ」
「おう!」
「あ、あたしパスで」
ゴォトの唐突なフレンド登録の申し出に、ペイくんとハヤトくんはあっさり応じている。
「えぇ~、い~じゃんかよぉ」
「だめです〜ぅ。2人とフレ録するんなら問題ないし~」
ゴォトの言葉にアスカちゃんはにべもない。
なんかゲームのフレンド登録って、僕の認識とちょっと違うのかもしれない。
ネット感覚ってヤツなのかも。(顔を知らなくても友達ってヤツ?)
とりあえず用も済んだ事だし、今日はこれまでとしとこうか。
「じゃあ、皆。明日は8時ぐらいで」
「はい!よろしくお願いします!
うん!よろしくです!
おう!頼むなっ! 」
互いに挨拶を交わして僕は路地の奥へとすたこらさーと走って行く。
「あっ!おいっ、お………ラギ、ちょっ!」
誰かが呼んでる声が聞こえて来るけど、聞こえなぁ~~い。
ララのナビで裏路地を進み、雑木林へ辿り着く。
ここはヤマトの時に来て以来かもしれない。どうやらここでもログアウト出来るみたいだ。
「じゃあ、また明日ね」
「はいなのです!」
「グッグッグ!」
「あでゅ~」
こうして僕はログアウトして現実へと戻っていった。
結局今日はまともにゲームしなかったな。やれやれだ。
翌日。約束の時間より少し早めにログインすると、時計台広場になぜかゴォトが立っていた。
「きちゃった☆」
てへっとはにかんで笑って来るゴォト。
「………キモいのです」
うげーと嫌そうな顔をしてララが呟く。
本当に男に言われても嬉しくもなんともない台詞だ。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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