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164.月夜の晩ばかりといいつつも

 

 

 ササミさんが放つであろう言葉を一言一句聞き漏らさないように、僕は耳を傾ける。

 何を言われるのかが分からないので、不安を胸にコクリと喉を鳴らす。まさかさっきのコスプレ………か?

 そんなの僕の態度を気にする素振りも見さず、ササミさんはその条件というものを口にした。

 

「私にも1つそのロボを見繕っておくれ」

「は?」

「だぁ〜か〜らぁ〜っ!私にもそのうさタンを作って欲しいのだよっ、ササくんっ!」

 

 なぁ―んかどこかで聞いた様な台詞だった。

 とりあえず無理難題ではなかったので、ほっと安堵の息を漏らす。

 

「はい、それなら問題ないですよ。でもこんなのでいいんですか?」

 

 自分でこんなの言いはなんだけど、まぁそれなりにおあしは頂く事になると思うけど(さすがにタダと言うのはちと厳しいもんがある)。

 

「当然だよ。代価はもちろん払わせて貰うからねっ!」

 

 なぜかササミさんのテンションがアゲアゲだ。正直訳が分からない。

 

「えー大きさはこれぐらいなんですけど、いーんですか?」

 

 僕が手でその大きさを表現してさらに確認をする。大体60cmくらい。

 

「マーベラスっ!いいねっ、いいよっ、さいこーだよっ!ササくんっ!!」

 

 確かに服飾コスプレ関係の事に関わると、この様なテンションになることは知っていたけど、ロボットに関してはあり得ないと言ったところだ。(僕がアガノカワさんにロボ関係の話をしても興味なさげだったからだ)

 がすぐにその理由が判明する。

 

「いま私は独り身だから少しばかり寂しさがつのって来てね。かと言ってペットは本業コスプレに差し支えるから躊躇してたのさっ!だがこのうさタンなら、まさにその寂しさを補って余りある存在ものになってくれると私は確信したのさっ!」

 

 ふむふむ、独り身の寂し―――ゲフンゲフン。一瞬背筋に怖気が走った。これ以上は何も考えちゃだめだとすぐに悟り、話題を変えるべくうさロボの事について聞いてみる事にする。 


「えー、ならどんな仕様にします?服なんかはササミさんに作って貰う事になりますけど」

「もちろんそっちは任せてくれたまえっ!そうだなぁ~………う~ん、ウルフレンド大佐もいいが、妹のシーバウォンナも捨てがたい。いやもしくは―――」

 

 ササミさんが目を閉じ腕を組み悩み始める。この人こうなるとちょっと長いのだ。

 僕も早めに出勤したとは言えもうすぐシフトの時間になってしまうので、ララにアレをお願いする。

 

「ララ、センセーの時に使った仕様のアンケートあったよね」

『はいなのです。ササミさんに見せるのです』

 

 僕が全部言い切らない内にそれを察したララは、すぐにホロウィンドウを表示させる。

 

「ササミさん。よかったらこれに希望の仕様を入力してくれますか?僕、時間なんで行きますから」

 

 口の中でブツブツ何やら呟いていたササミさんが、フッと我に返って僕の方を見てそしてホロウィンドウを見て見を瞠る。

 

「おおっなる程、分かった。さっそく入力しておくよ、ササくん。じゃあお仕事頑張るんだよっ!ウルフレンド大佐!」 

 

 そう言ってササミさんは僕へと敬礼をして来る。いや、まだ僕ウルフレンド大佐じゃないんで、やりませんよ。

 

「じゃあ、お願いしますね」

 

 僕はササミさんにそう言ってから事務所を出て、更衣室で着替え暗示を掛けてホールへと向かう。

 ウルフレンド大佐だ〜ウルフレンド大佐だ〜。

 

 いつもより人が多い気がしないでもないけど、普段とシフトが変わっているのでよく分からない。こんなものなのかも知れない。

 注文を受け会話を交わし、イベント(ジャンケンコーナーなど)をいつも通りにこなして時間が来るとタイムカードをカチャンとチェックしてると、ササミさんに声を掛けられる。

 

「ササくんっ!仕様は注文しといたんでよろしく頼むよっ!あと大丈夫とは思うが、帰り道には十分気をつけてくれたまえ」

 

 始めは元気に、後ろはいつもの声音でササミさんがそんな事を告げてくる。

 ん?帰り道と言っても、駅に向かうだけなんだけど。

 ………まぁ、そのうち分かるかと僕もお疲れ様でしたとササミさんに挨拶をし、途中バイト仲間と軽く言葉を交わして店を出る。

 すでに空は闇色に染まり、光が街を彩っている。

 

 しばらく道を進んで行くと、後ろにチラホラとこちらに視線を向けてくる気配を感じた。

 あーもしかしてこれかぁと先程のササミさんの言葉を思い出し、さてどうしようかと歩きつつ考える。

 アパート《うち》まで連れて行くのは御免こうむるし、さりとて街中は目立つ事この上なく面倒事になる事は一目瞭然。

 うぅ〜んと悩んでいると、おなじみエスパーララさんが声を掛けてくる。

 

『マスター、後方に5人程が後をつけてるのです。今からナビしますので誘き出してなのです』

「うん、分かった。ありがとララ」

『どういたしましてなのです』

 

 こうしてララが出したホロウィンドウの地図に従って、右に左に移動をしてとある路地へと入って行く。

 すると、あぁやっぱりという様に声を掛けられる。

 

「おいっ待てよっ!そこのヲタク野郎!」

 

 僕が振り向くとそこには5人のむくつけき男達が3mほど先にこちらを蔑む様に立っていた。

 

「うわぁ………」

 

 なんともなお約束(テンプレ)に僕は微妙な声を漏らしてしまう。

 

「へっなぁにビビってんだよ。俺達ゃあちょっと頼みたい事があるってだけだよ。もちろん聞いてくれるよなっ!」

 

 いや、聞く前提で話進めんでほしいんですが………。

 この路地は通りの向こう側へと近道代わりの幅3m、長さ20m程の場所だ。

 ちょうど建物と建物の影で死角になっていて、防犯カメラなんかも設置されていない。

 まさに誰かを襲う人間にとってはうってつけの場所となる。

 まぁ襲われる方もある意味ベストポジションなのだけど。

 

 そしてこの5人の配置はあまり見ないフォーメーションだった。

 前2人中1人後ろ2人と言うものだ。(後ろは見張りかと思ったがそうでも無さげ)

 前にいるのは、革ジャンに坊主頭の三白眼の男で、黒いグローブを嵌めてしきりにグゥパーを繰り返している。

 

 第2関節部と拳ダコができるところが盛り上がってるところを見るとメリケンサックのグローブ版みたいなのか。

 その隣のオールバックに黒マスクのサングラス男は(夜だよ夜!)、MA―1(ジャンパー)を羽織り手には細長い巾着袋の口元を握ってブラブラさせている。

 どこでも武器のブラックジャックだ。靴下に砂をてんこ盛り入れても作れるんだぜとバイト仲間のトウシタくんが教えてくれた事がある。

 でもあれ、慣れてないと使いこなすの大変だって言ってた気がするんだけど。

 

 真ん中は黒のパーカーにフードをかぶった男。

 右手に持った刀の柄の様なものを操作して30cm程の平たく細長い板を伸ばす。

 そしてカチャリと鍔元を固定したそれを構える。おい、銃刀法違反じゃないのか?それっ!

 

 後ろの2人は何かを持ってるみたいだけど、そこまではさすがに分からない。

 ただちょとだけ想像してみると、まるでRPGのパーティーのフォーメーションにも見える。

 前衛、中衛、後衛と分けて役割を分担する。

 案外それを模してるのかもしれない。何気に侮れないものである。

 

 とすると後衛の2人は飛び道具でも持ってるのかもしれないな。

 なんせプリンタガンなんて持ち出してくるバカもいるんだし。

 だから僕が何も言わずにいると、焦れた様に坊主頭―――グローブでいいやが声を上げる。

 

「さぁ~て!黙ってボコられろやっ!ついでに持ってるもんも貰ってやるからよっ感謝しなっ!!」

 

 そんな感謝はしたくありません。

 トントントンとリズムをとって軽く跳ねていたグローブがダッシュしてこっちに向かって来た。同時に黒マスク―――BJでいいか、も駆け出す。

 こっちが待ち構えてると悟らせない様に構えを取ってなかったけど、それはどうやら杞憂であったみたいだ。

 

 相手の力量を測ってみると、姉には遥かに及ばずゴォトの端っこ?に並びうるぐらいか。

 かなり荒事に長けた……慣れた人間達なんだろな。

 まぁ僕なんかは荒事なんて苦手な上に不得手なんだけど。

 いんや、じーちゃんに色々叩き込まれたせいで苦手になったんだろうと今なら思える。姉は逃げたけど………。

 

 その時にじーちゃんはよく言っていたものだ。戦うってのは機と期を見る事だと。

 なんのこっちゃと当時の僕は思ったものだけど、年を経るにつれてだんだんと理解できるようになっていった。

 要はチャンスとタイミングを見極める事なのだと。

 そしてじーちゃんレベルの人間以外の相手だと、それが容易に成るものだと。

 

 グローブが息をふっと吐き出し拳を繰り出すその寸前、僕はその定められた位置へ安全靴のつま先を突き出す。

 鉄板入り安全靴のつま先を(笑)。

 

「げへぇっ!?」

 

 ちょうど鳩尾につま先を食らったグローブは、自身の勢いのせいか首を突き出し悶絶する。え?一発で?

 それを見たBJが立ち止まり一歩下がる。

 てか口元から胃の中のものがリバースしそうなので、そのまま勢いをつけて蹴り飛ばす。

  

「ぐべどっっ!」

 

 蹴り飛ばされたグローブは、真ん中の板剣を過ぎて後衛のうちの1人にぶつかってもんどり打って倒れる。

 その拍子に巻き込まれた奴が持っていたものが転げ落ちる。

 金魚すくいのポイみたいなものの取っ手部分をごつくして、輪っか部分にシリコンかゴム状の三角錐がついたものだ。

 その中から小粒の球が零れ落ちる。

 散弾式スリングショットとは恐れ入る。

 後ろのもう1人もおもちゃの様なボウガンを構えてこちらの隙を伺っている。

 

「気をつけろ。手練だ。顔を狙ってけ」

「いぇ〜」

 

 板剣がボウガンに指示を出して後退し、ボウガンが前に出る。

 同時にBJが再びこっちに突っ込んで来た。

 

 もう容赦しなくていいよね。

 

 腰溜めの体勢で割り箸ほどの大きさの矢を装填したボウガンを構えたところに、手に持っていた小石を僕は弾く。

 

「ぃでぇっ!」

 

 ボウガンを握っていた手に小石が当たり、その痛みに姿勢が崩れたのを視認した後BJに相対する。

 

『マスター、目を閉じてなのです』

「ほい」

 

 ララの指示に従い目を閉じると、瞬間激しい光がパシリと目の裏に走る。

 

「ぎぃえっ、まぶっ」

 

 目を開けると顔を手で覆って呻くBJの姿があった。多分だけどホロウィンドウで目眩ましをしたんだろう。

 

「サンキューララ」

 

 後はひたすら鳩尾と、背中を痛めつける作業です。

 他の部分はほら、後が残るしここだと痛みで食べ物とかがしばらく入らなくなって、ダイエットにも最適なのだ。

 呻くBJの鳩尾に拳を入れて悶絶させて、更に2発をおまけに。

 残りの3人も同様にシックスパックもなんのそのと、鳩尾をてってー的に狙って悶絶させていく。

 

 そして周囲には、吐瀉物塗れで倒れ伏せる5人の姿があった。

 

「………ちと、やり過ぎたかな」

『まだまだ足りないのです。でもきちゃないのです』

 

 まぁ、お腹ばっかり狙って打ったから然も有りなんだよね。

 

「さて、これからどうしよっか………」

 

 どう考えてみても、ここから出たら捕まっちゃう気がしないでもない。(いくら正当防衛でも)

 すると、どこかでガチャンと何かが外れる音が聞こえてきた。

 

『大丈夫なのですマスター。そこの建物から入って玄関から出れば誰にも分からないのです』

 

 おぅふ。建造物不法侵入ですか。まぁ背に腹は変えられぬってことで。

 こうしてララの指示に従って建物に入り、玄関から出て何事も起こる事もなく帰る事が出来たのだった。

  

 どうやら僕自身いろいろ鬱憤が溜まってたみたいで、この事で少しだけスッキリした気分になったのだった。

 襲ってきた彼らには申し訳………なくはないな。自業自得ってことで。

 

 工房に戻ったらササミさんの分とあと幾つか作っとこうかなウサロボ。

 それとペイくんに姉の分の衣装を頼まなくっちゃな。

 けっこーやる事あるな。

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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