163.コスチュームマエストロのササミさん
結局そのうちにと言いつつ、作る羽目になってしまった。
と入っても角煮はではなく唐揚げだけにしてもらった。時間もかかるしね。
集会所にはラミィさんに引き続き、ちびラビ達とレイさんまでが乗り込んできて満腹状態の僕達を見てずるいずるいと言って来たのだ。
ずるいも何もないと思うんだけど、仕方がないんですぐに作れるものってことで出来たのがこれだ。
ワイルボーアの唐揚げ:ワイルボーアの肉を煮汁で味付けしたものに
麦粉を絡めて油で上げたひと品 Lv7 ☆
何かに急かされる様に作られた為少しばかり雑ではあるが
それなりに美味しく食べられるもの
(HP+20 満腹度20%)
「…………」
いや、お前は僕の何を知っているのかとつい問い質したい気分になったけど、はぁと息を吐いてなんとか心を落ち着かせる。
よく見たらいつの間にか☆が表示されてることに気がついた。
んー………何だろこれ?
誰に聞けばいいのやらと考え、目についたお人へと尋ねる事にする。
「レイさん。料理にいつの間にか星がついてるんですけど、これってなんなんです?」
「あぐあぐ?んふ?んくっ。あーそれはいわゆる評価ってやつかな」
レイさんが唐揚げを頬張り咀嚼しながらそんな答えを返してきた。
評価って“ほし◯っつ”ってヤツかな?
「んがっ!?はんぎぇてあぎゃがっあ!?」
ラミィさんが目を剥きレイさんへと抗議する。
何言ってんのか分かんないので食べてからにして欲しい。
もぐもぐごっきゅんと呑み下してから、ラミィさんはレイさんをジト目で睨み改めて抗議をする。
「別に今更やるなとは言わないけどっ。報告はしてくれないとこっちがめぇーっちゃ困るんですけどっ!?」
ラミィさんの苦言にレイさんは笑いながら「ごめーん」テヘッと返す。
ララとちびラビ達には果実水と他の皆には香茶を渡していく。
この香茶も雑貨屋のおばちゃんが勧めてきたので買ったものだ。
香りはジャスミンティーを思わせる感じだ。
ひと口啜ると、方向と草独特の青臭さが口の中に広がる。
ん〜落ち着きますな。はふぅーと鼻から息を出し香茶をさらに啜る。
「ごちそーさん。美味かった、さんくーラギ」
「ゴチでしたラギくん」
「おうさま。うまうまごち」
「「うまうまごち〜」」
ラミィさん、レイさん、ちびラビ達が満足した顔で、僕に言葉を掛けてくる。
「お粗末さまでした」
僕が食後のお茶でまったりしていると、姉がそういやとラミィさんへ今後の予定について訊ねる。
「そういや、これからあたし達ってどう動くのか決めてんの?ラミィ」
「んあ?………特にどこが目的ってのはねぇな」
ラミィさんが香茶をずずーと啜りながら姉へと返す。
「それに〜誰かさんのせいで、ま〜た忙しくなりそうだしぃ〜……」
そしてジトリとレイさんを見やるラミィさん。レイさんはその視線にも悪びれることもなく、逆にうんうんと頷いている始末だ。
「そんならあたし、デヴィテスに行きたい」
待ってましたとばかりに姉がビッと手を上げて言ってくる。
「デヴィテス?んまぁいーけどよ。何かあんの?」
姉の発言にラミィさんが首を傾げる。
「ラギくんクエストでデヴィテスに行ったでしょ?せっかくだしあたしも行っときたいもん。それにあそこだと湖があるから魚とか色々魚介類食べれるじゃない?」
「なる。魚かぁ………」
ラミィさんが顎に手を当てて見を閉じ唸る様に呟く。そしてコクリとその喉が鳴る。
「……い〜んじゃね?てきとーにクエ請けて行ってみっか。アンリはブーブー言いそうだけどよ」
やれやれといった感じで、肩を竦めてラミィさんは同意を示す。
そういやでっかい湖?があったもんなぁデヴィテスの街。
「ラギくん。面倒だと思うけど、付き合ってくれる?あと雨具とか買いたいから知ってるとこあったら教えて?」
姉の言葉に首肯して答えに返る。あの護衛任務は大変だったけど、それなりに旨味もあった。馬………。
「そういえば皆さんはクラウンを作ったりしないんですか?」
レイさんがちびラビの1人をもふりながらそんな事を聞いてきた。
クラウン?王冠って何の事やら。
「あー………そういやクラウン対抗戦があったな………どうすっか」
「別に作ったりしなくてもいーんじゃない?拠点は一応あるんだし、メリットもそれ程あるわけじゃないし」
「いやいや、メリットあんだろよ、いろいろ」
ラミィさんの独り言のような呟きに姉が言葉を返す。
僕がその問答に首を捻っていると、ララが解説を始めてくれる。
「マスター、以前にも話しましたがクラウンと言うのはPC同士が1つのグループを作り、その中でゲームをプレイする集団の事なのです。クラウンを作ると経験値がクラウン特典で増えたり、ドロップ率が上がったりするのです。そしてクラウンを作るにはいろいろ条件があって、クラウンクエストというものを達成して初めてクラウンを作る事が出来るのです」
解説ありがとうございます、ララさん。
クラウン、クラウン。………ああ、そういやアテスピ団の皆と初めて会った時にそんな話をしたような気がする。
そういや作ったんだろうか、アテスピ団。
要は何某かのグループに所属して、ゲームをプレイするって事のようだった。
例えるならばゲームを学校とみなして、クラスやクラブ活動がそのクラウンてやつになるのかな?
そんでクラウン同士が競い合う対抗戦というのを定期的にやってるって話だ。あと街襲撃イベントってのもあるとか。うんまぁ、僕にはあんまり関係なさそうだ。
「街襲イベなぁ。クレイゴーレムの次に何にすっかだよなぁ」
ララと僕の会話を聞いていたらしいラミィさんが呻く様に腕を組んで呟く。
「ん~、ラビタンズとか?」
レイさんが上を仰ぎ見ながらそんな事を漏らすと、カッと目を瞠ってラミィさんが悍ましいものを見る様な目でレイさんを見やる。
「………お前………鬼か!?」
「ええ~、良くない?防御か攻撃に極振りして戦わせるの」
「いやいやいやいや!こんな可愛いもの相手に戦意わかんから!」
そんな会話を聞きながら周囲を見回すと、姉はちびラビ相手にモフモフを堪能していたり、ウリスケはどこぞのコーヒーのCMの様に香茶を鼻にかざしてふぬ~んとやっていた。楽しんでるのなら何よりだ。
結局その日はそれでお開きとなり、後日カアンセの街に集合してデヴィテスの街に向かう事に決まったのだった。
翌日、いつもの日課と朝ゴハンを摂ってから工房へと向かう。
セクハラ《あんなこと》があったらしいのに姉は珍しく顔を出さなかった。
いつもならヤな事があった日の当日か翌日なんかはよくよく僕に引っ付いてたんだけど、きっと姉も精神的に強くなっているんだろう。
そんな事を考えながら工房で作業を始める事にする。
すでに完成してるウサロボボディにインストールして仮行動思考AIを起動させえて、その動き具合を確かめていく。
3体のウサロボはあらかじめ設定された動きを個々にそれぞれの特徴を持たせて動かしている。
ととととと室内をぐるぐる周回したり、くるりんばっ、くるりんばっとバランスを取りながら右に左に回転したり、スキップをしながら行ったり来たりを繰り返させる事で、動作の確認をしていく。
「マスター、動作状況問題ないのです」
「うん、オートバランサーも正常に機能してるね」
ホロウィンドウに表示されたテレメーターを見て、大丈夫そうなので少しばかり安堵する。
部分で問題がなくても、全部を組み上げるとなぜか不具合が生じる事があるのだ。
なんで何でと思い悩みながらばらして確認してみると、ちょっとした部品の調子や角度、締め付けなんかで不具合が出て来てしまって動かなかったりしてる。
コンピュータープログラムにも似ていて組み方がちょっと違っただけで、バグが出て来たりするのと同様だ。
まぁヒューマンエラーはどこにでも出て来るという話だ。
でこのウサロボ、論文作成の時に作ったものとは変更点がいろいろあったりする。
まずは全体のフォルムの改変。
外装を纏わせる関係上少しばかりちょっとだけ小さめに作ることにしたのだ。
特に規格なんてのはないのだけど、僕としてはどうしてもその大きさに収めたかったのだ。
もう1つは関節部への工夫。
一種の着ぐるみを被せるわけなので、関節部に布が巻き込まれることを回避する為にひと工夫をしたのだ。
首、肩、腕、股間、膝のそれぞれの関節部に蛇腹状のシリコンカバーを取り付ける。
これによって稼働時に於いて布が絡んで動作不能になるなんてことを防ぐ。
あとは足部分を簡単に変更可能に出来るようアタッチメントを取り付けた。
これは靴を履く時用に備えてこういう風にしたという訳なのだ。
ってかあの人達の注文がそもそもおかしいのだ。
執事服に片眼鏡とかメイド服とか、何なんでしょうって話だ。まぁ僕も面白そうなんで請けてしまったけど………。
ウサギの外装自体はペーパークラフトの展開ソフトを使って型紙を作る事は僕でも出来るんだけど、服に至るととても僕の技術では手に負えず持て余してしまう。
「やっぱ、あの人にお願いするしかないか………」
ちょうど今日はシフトが入ってる事だし、頼んでみる事にしよう。
「………出来るだけお安くして貰えるといいけどなぁ」
午前中はそんな感じでウサロボの調整をして過ごし、午後はマルチューへ買い出し(Fベジゲット!)と作り置きの料理を作っていったのだった。
これはこれで充実した一日。ってまだ終わってないや。
てな訳でちょうど時間になったので、バイト先へと向かうことにする。
チャリで駅まで、そこからバイト先の最寄駅まで電車に乗り店へと向かう。
店へと入るとすぐさま事務室へと向かいタイムカードをガチャコンとチェックしていく。
どうやら例のオオノくんとは別のシフトになってるようだ。良かったよかった。
そして僕は喉をコクリと鳴らして、事務室の奥に鎮座している彼女へと話し掛ける。
「ササミさん、ちょっといーですか?」
「んー、あに?ササくん」
見た目20代後半、その実―――ゲフンゲフン、の女性でつややかな黒髪をお団子にして後ろ斜め上に結わえているこの人は、シクドウ ササミさんと言って、この店の実質的支配者なのである。
店長であるアガノガワさんは名目上の店長とかで、あまり店には出ていないらしい。
らしいと言うのは僕が出勤してる時にはいつもいるので、その話が本当かどうか定かでないからだ。
とは言え、彼女シクドウ ササミさんが実際の経営や経理を担っているのは店の誰もが知ってる事だ。
ちなみに苗字を―――シクドウさんと呼ぶと何でか怒るので、僕等はササミさんと呼んでいたりする。
さすがに僕も怖いもの知らずではないので、名前呼びなのである。
ササミさんは机の上を書類まみれにして事務仕事に取り組んでいる。
そして普段は目の下にクマをたたえてあげーと言う声を上げ疲れた顔をしているのがデフォルトだ。美人なのに。
だが時によってその姿は豹変する。
「マエストロに依頼したい事があるんですけど、レディ?」
僕のその言葉にスイッチが入ったかのようにシャキリと背筋を伸ばし、どこに持っていたのか茶縁の眼鏡をスチャッと掛けて僕の方を見やる。
そう彼女こそ、この店の全てのコスチュームを一手に手掛けている人物なのだ。
その名もコスチュームマエストロ。
何故マエストロなのかと言えばとあるイベントに於いて不測の事態が起きた時、その場にいた人間をこれでもかと指揮し、様々なコスチューム(小物や小道具、そして靴に至るまで)を作り上げたという逸話を持っているのだ。その時誰がマエストロと言ったとか。
そしてそれがいつの間にやら定着してしまったらしい。
本人も満更でもないらしく、自分から名乗ることはしないものの呼ばれれば返事をするもののようだ。
そしてそう呼ばれたササミさんは頬を紅潮させてこちらに迫る勢いてまくしたて始める。
「ササくん!君もようやくこの道に目覚めたわけだね!いいよ、いいでしょう。何?なんのコス?いやいや、待て待て。なら私がセレクトしてもいいのなら、もちろん○○××の△△□□何かどうだろう。むしろ是非と言いたい!」
いや、そのアニメ知ってるけど、思いっきり男装の麗人だよねっ!
男がやっちゃダメなきわどい奴だよねっ!絶対やだよっ!!
「違いますっ!僕のじゃなくて、僕の作ったロボットの衣装を作って貰いたいんですっ!」
「ええぇ〜……ササくんじゃないのかぁ………」
いやそんな事でがっくり肩落とさないで欲しいんですけど。
「とにかくこれを見て下さい」
そう言って僕はホロウィンドウを出して、ウサロボの映像をササミさんへと見せる。
「なっ!こ〜れ〜はぁ〜……ほえ〜」
ウサロボがぴょんぴょん跳ねたり、トコトコ歩いたりする映像をササミさんは食い入る様に見て唸る。あ、涎出てる。
「これに服―――執事服やメイド服を着せたいんで、作って欲しいんです。後それ以外の頭とか胴体部分は型紙があるので、これを利用して貰えればいいんですけど」
僕はそう言って端末を操作して、ホロウィンドウに型紙と3Dモデルを表示させる。
「ふむ、なる程ねぇ………」
ササミさんは画面に触れて、上下左右に3Dモデルをグリグリ回転させて真剣な眼差しを画面に向けている。
「納期は出来るだけ早ければ早い程いーんですけど、どうでしょうか?」
僕がそう言うと、ササミさんはこちらに向き直り眼鏡をクイッと上げてひと言。
「いいだろう。ただし条件がある」
うぉう………。条件ですか。
今更ダメとも言えないので、呑むしかないんだろうな。はぁ。
一体何を言われるのやら。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
クラウンの記述が以前にあったので、修正と加筆を致しました
180504 m(_ _)m




