162.角煮ふたたび
コトコト煮込む鍋へと【時間短縮】を1段階かけていく。
完成品のLvは少し下がってしまうけど、素材のLvが高いのでそうそう酷い事にはならない。と思う。
「ララ、鍋見てて貰える?」
「りょーかいなのです!」
その間にみじん切りにした挽き肉を、卵液と麦粉を加えて練っていき小判型へと成型していく。
そして出来上がった成形肉をフライパンで焼いていく。
この後揚げる事を踏まえて表面を焼き上げるだけに留めておく。
焼いた成形肉は取皿に移して一旦冷ましておく。
「マスター、そろそろおっけーなのです」
鍋を見ていたララ(灰汁取り兼任)が中の様子を見て僕に伝えてくる。
もっと煮込んでとろとろにしたい気分だったけど、揚げる事を思えば充分かな。
僕は鍋の火を止めて、フライパンに油を1cm程流し入れて火をつける。
揚げ頃の温度には角煮も冷めて味が染みてる事だろう。
鍋をコンロから外してテーブルへと移しておく。
そしてちょっとだけ思い悩む。角煮シリーズだけだとちょっと物足りないかなぁと思ってしまったのだ。
ゲームに米でもあれば丼物にでも出来たんだけど、見たこともないし今回は諦めざるを得ないだろうな。
となると………まぁいいや、テキトーに生地の薄いお好み焼き擬きでも作っとこう。あとはー。
「ララ、そろそろ肉の汁気を切っときたいから、ザルに移して貰える?」
「分かったのです!ウリスケさん手伝ってなのです」
「zzz……!グッ!」
テーブルで大の字になって寝ていたウリスケが、ララの声にガバリと起きる。相変わらずのウリスケスタイルだ。
「ウリスケさん、戸棚からザルと木皿を持って来てなのです」
「グッグ!」
ウリスケが了解と言った感じでひと鳴きして、テーブルからピョンと飛び降り戸棚に向かい竹製ザルとそれが入るちょっと深めの木皿を抱えてテーブルに戻る。
僕の方はと言えばキャベツの様な葉野菜を千切りにしていき、それをボウルへ入れて軽く水に浸してから水気を取る。
もう1つのボウルに麦粉とパン粉を少々つ水を少しづつ加えて掻き混ぜていく。
「ウリスケさん、行くのです。ほいやっ!そいやっ!おいやっ!」
「グッ!グッ!グッグッグ!」
ララが鍋の中の角煮をスプーンですくいつつ軽く汁気を切ってからウリスケの持つザルへと放り投げると、ウリスケは位置を修正しながら見事に角煮をキャッチする。
う~ん………食べ物を粗末にって言うには少しだけ微妙な行動かなとも思わないでもない。ララの体格からすれば仕方ないか。
てな事を考えつつも溶いた麦粉を葉野菜の入ったボウルへ流し入れスプーンでザクザクと刺すように掻き混ぜる。
あとはフライパンで広げて焼くだけだ。
さっそく温めたフライパンへとタネを流し入れて、平らに広げて焼いていく。
角煮もザルへ全部移し終えたみたいで、ザルの下に置いた木皿に煮汁が溜まっていた。
「美味しそーなのです。じゅる」
「グゥ~~ウ………」
ザルを覗き込みながら、ララが切なそうに言葉を漏らす。
ウリスケも舌なめずりして覗き込んでいた。
僕はその2人の様子を見て軽く笑みを浮かべて、ララ達に話しかける。
「ちょっと味見してみよっか」
「っ!いーのですかっ!?マスター!」
「グッグッグッグっ!!」
ララとウリスケが期待に満ち満ちた顔をして僕の言葉を確認してくる。
「1個だけね。どれがいい?」
僕は小皿を手に箸を持って、どれがいいかララ達に訊ねる。
角煮はそれぞれ10個ほどあるので、1個ぐらいは試食に回しても構わないだろう。てか僕も味見したい。
「これがいいのです!このプリプリしたのがいーのですっ!」
「グッグッグ!!」
ララとウリスケがそれぞれ指を差して指定したものを、箸で取って小皿へと移ししていく。
この時点で出来上がった角煮はこんな感じになる。
ワイルブモーの角切り肉の煮込み:ワイルブモーの角切りにした肉を
各種調味料に漬け込み煮込んだひと品 Lv 8 ☆
適度に煮込まれた肉は程よく柔らかく
染み込んだ煮汁がさらに味わいを深くしている
噛むとほぐれる珠玉の逸品
(HP+30 満腹度 42%)
ワイルボーアの角切り肉の煮込み:ワイルボーアの角切りにした肉を
各種調味料に漬け込み煮込んだひと品 Lv 7 ☆
適度に煮こまれた肉は程よく柔らかく
染み込んだ煮汁がさらなる味わいを深くしている
脂身が脂身たらんとその役割を
しっかり果たしている
(HP+30 満腹度 46%)
ララが選んだのはワイルブモーで、ウリスケが選んだのはワイルボーアだ。
「トロほぐで美味しいのです!」
「グッグ――――ッ!!」
ララとウリスケが美味そうにはぐはぐと角煮を咀嚼している。
ララの場合もはや試食の域を超えてると思わないでもないけど、問題はウリスケの方だ。
同じボーアと名がつくんだから同種と言えなくもない。ある意味共食いなのではないのかなという事だ。
僕がそんな事を思ってウリスケを見てると、視線に気付いたウリスケがサムズアップをして来る。
いや、蹄なんで指は立ってないんだけど、僕にはそうとしか見えない。
………一体どこで覚えてくるんだか。
よくよく考えてみれば、これってゲームなんだからそこまで深く考えてもしょーがないと気付き、この事は一旦棚上げにしとく。
せっかくなんで僕も味見をしてみる事にする。
他のより幾分色の染まってないものを箸で取り上げてひと口齧る。
「んふ〜………」
食べた感じはトリ肉っぽくて、脂がのった胸肉かササミってとこかな。普通に美味しい。
ちなみに僕が食べたのはこれになる。
コカトククドゥの角切り肉の煮込み:コカトククドゥの角切りにした肉を
各種調味料に漬け込み煮込んだひと品 Lv9 ☆
適度に煮込まれ過ぎた肉質はあっさりとして
柔らかくほぐれる
まさに舌鼓というに相応しい逸品
(HP+24 満腹度38%)
これは肉屋のおやじさんが運よく入手したらしいもので煮ても焼いてもよしと、太鼓判を押していたので買ったやつだ。
「マスター、ひと口下さいなのです!」
「グッ!グッ!」
「たのもー」
ララとウリスケが涎を垂らしてお願いしてきた。後さっきまで寝てたアトリも。ってこれトリ………いや言うまい。
とは言え食いかけの物を渡すのも気が引けるので、小皿に角煮を置いて包丁で4つに切り分けていく。
「いただきなのです!」
「グッ!」
「いた〜」
3人が小皿にたかり食べ始める。僕も齧った残りの部分を口へとひょいと入れ咀嚼していく。うん、美味し。
「あっさりトロンで美味し〜のですっ!」
「グッウ〜〜!」
「うまうま」
「まぁこんなもんかな」
どうやら現実の様にやっても問題ないみたいだ。
と、そんな事をやってる間にお好み焼き擬きがいい具合になってきたので、フライパンを揺らしながらタイミングを図る。
「よ!っと」
本来ならコテかなんかで裏返すのがいいんだけど、今のところ手元にはないので仕方がない。
半面焼き上がったものが宙を舞いくるりと裏返りペペタンとフライパンへと着地する。
「ふぉお………」
「グッ!」
「まーべら」
3人の声を聞きながら上手く裏返った事にちょっとだけ安堵して、箸を使って生地を押し付けて焼いていく。
こうしてお好み焼き擬き焼き上げてから、ちょうどいい温度になってきた油の入ったフライパンへ、衣をつけて角煮を入れていく事にする。
「ラギく~~~んっ」
そのタイミングで姉が集会所へと入って来た。そして背中に生じる圧迫感。
気が晴れたかと思ったけど、まだまだだったようだ。
「ふわぁ~~~ん………」
またしても背中に身体をぐりぐり押し付けてくる感触。
はぁ………、しゃーないか。とも思ったけど、すぐに意識が角煮の方へと移った。
「ふおぅ!き、ラギくんっ!これって昨日のやつ!?」
「うん、ララが食べたそうにしてたから作ってみたんだ」
ぎゅうんと首をこっちに向けて、いい?いい?という顔を見せてきたけど、もうちょっとだけ待ってほしいところなのだ。
「うん、もちょっと座って待ってて。すぐに仕上げるから」
「了解!」
姉の視線にさらされながら残りのタネを少しだけ焦りつつフライパンへ入れていき、お好み焼き擬きを焼きながら同時進行で角煮も揚げていく。
「はい。お待たせしました」
僕が分かる範囲で種類ごとに木皿へと分けて出来上がったものをテーブルへと置いていく。
「ふぅおおおっっ!待ってたのですっ!」
「じゅるっ!にゃあぁ………」
「グッフゥ………」
「おおぅ………」
それぞれがテーブルの上の料理に対して、それぞれに感嘆の声を上げる。
………でもそれ程のものじゃないと思うんだけどなぁ。
まぁ出来上がったのはこんな感じなんだけど。
ワイルブモーの角煮カツ:ワイルブモーの角切り肉の煮込みを幾種の衣を纏わせ
油で揚げ劇的にその旨味を封じたひと品 Lv12 ☆☆
適度に調味料に漬けられ煮こまれたワイルブモーの肉を
更に衣と衣を絡ませて揚げられた逸品
肉の柔らかさと揚げられた表面の食感のハーモニーは
得も言われぬもの (HP+41 満腹度 62%)
ワイルブモーの角煮唐揚げ:ワイルブモーの角切り肉の煮込みを麦粉を纏わせ
革新的にその旨味を包んだひと品 Lv11 ☆☆
適度に調味料に漬けられ煮込まれたワイルブモーの肉を
更に麦粉の衣を纏わせ揚げられた逸品
カリカリとプルプルの波に呑まれるがいい
(HP+45 満腹度 68%)
なんかテキスト文が適当な上に大仰な気がしないでもないけど、それなりに出来たみたいだ。
ただなんとも変な言い回しだ。衣と衣をって………。
もしかして麦粉をまぶして卵液を絡めてパン粉をって工程がこういう表現になったって事か……な?
他にも同じ工程なのに言い回しが違ってるのも不思議な感じだ。でもなんか面白い。
最後に数枚のお好み焼き擬きを焼き上げてテーブルに置いておしまいだ。
「物足りなかったら、こっちも食べてみて」
「いただきます!」
「いただきますなのです!」
「グッグゥッ!!」
「いた」
皆が得物を手に獲物へと襲い掛かる。
姉が小判型の唐揚げへと箸を伸ばしひと口囓る。
「美味っ!なにこれっ!?」
「ゼブラミートのハンバーグ唐揚げ?かな」
テキスト文を流し見しながら僕はそう答える。
ゼブラミートのハンバーグ唐揚げ:ゼブラミートを細かく挽き成形して焼いた
ものに麦粉を絡めて揚げたひと品 Lv13 ☆☆
細かく挽きこね上げられた肉が頑なだった
その性質を柔らかくしかつ旨味を衣に
閉じ込め揚げたもの
食らうがいい!その全てを!!(HP+100 満腹度50%)
これに関してはもう1つの方は失敗だったかなとも思わないでもない。
ゼブラミートの角煮カツ:ゼブラミートの角切りした肉を
幾種の衣を纏わせ油で揚げたひと品 Lv9 ☆
適度に調味料に漬け煮込まれたゼブラミートに
更に衣と衣を絡ませて油で揚げたもの
煮込む事と揚げた事によって肉質は固くなったが
その歯応えを楽しむのもありか
噛じりつけ!咀嚼せよ!!
(HP+90 満腹度46%)
どうやらこの肉は塊で熱を加えると固くなるみたいだった。
ただ固くはあるけど、咀嚼してるとじんわりと旨味が口の中に広がっていく気がする。
皆でおいしーおいしーと言いながらカツや唐揚げを、お好み焼き擬きに巻いたりして食べていく。
そういやあれからゴォトはどうなったんだろうかと思い、姉に聞いてみる。
「サキちゃん、そういやPvPってどうなったの?」
「ふっふ〜ん、てってー的にてってーして磨り潰したわよ!ふふん。ちょっとだけスッキリ!」
姉がニカリを笑い、半分だけスッキリした顔でそう言ってくる。
負け続けたゴォトは「ちくちょ〜〜〜っ!Lv上げじゃあぁ〜〜〜っっ」と叫びながら走って行ったそうな。ま、どうでもいーかな。
現実と同じやり方をしても料理が出来た事に自由度高いなぁと、今更ながら僕は感心してしまったのだ。
それにこっちだとこんなに油物を食べても肥える心配ないしねと、唐揚げを頬張りながらそんな事を思ったのだった。
「ご馳走様なのですっ!」
「グッグッグッ!」
「ごち」
「ラギくん!また作ってね!」
「はいはい。お粗末さまでした」
「ラギっ!あたしにもっ!え?あー………遅かった」
こうして料理を全部平らげた後やって来たラミィさんは、空になった皿を見て両手と膝をつき落胆していた。
………うん、また作るしかなさそうだ。そのうち、そのうちね。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です!! (T△T)ゞ




