161.かんたん故にむずかしい
「えー、これってぇ………」
対戦してるラビタンズ達をよーくと見てると、上の方にタイムカウンタ-とゲージが表示されてるのに気付く。
「ねーララ………」
「どうしたのです?マスター」
僕がそう呟くとララが目線の横にやって来る。
「ラビタンズが戦ってる上の方にさっきまで見てたものがあるんだけど、気のせいかな?………」
「えー………ほえっ!?ラビタンズがPvPで戦ってるのですっ!?ええっと………え~あ゛〜……ああ、分かりました。これ………レイさまの仕業なのです」
ララがラビタンズ達を見て驚き、しばらく目を閉じて唸った後そう言って来た。
「ん?レイさん?なんでまた」
正直訳が分からない。
僕がつい首を傾げていると、ピロコリンとSEなってメッセージの着信を知らせて来て小さなホロウィンドウが現れる。
ホロウィンドウを開くと、案の定レイさんからのメッセージで次の様な事が書かれていた。
「えー、今日からNPC――ゼアズでも楽しめる様にパッチ当てました。一緒に楽しんでね。byレイ」
「やっぱりなのです。多分今頃あちこちで騒動が起こってるのです」
はぁーとララが呆れとか諦めという表情でそんな事を言っている。間違いなく完全に自分が楽しむために組んだんだろう。
もしかして見られてるんだろうか、レイさんに。
つーかラミ……ミラさんが驚天動地の上に阿鼻叫喚しているのが目に浮かんだ。うん、頑張って下さい。
っとそういやゴォトはどうしたんだろう。
と視線を移すと、まださっきと同じ様に倒れ伏したままだった。
とは言え、僕が声を掛けるのは筋違いという事は充分に分かっているので、特に何の動きをしたりはしないけどねっ!
「……ぇ……」
あ、なんか言ってる。
「よぇー……おれ…」
あー………なんか韜晦してる。蹲ったまま。ぶぶー。
「ふっふー、それは違うのですっ!マスターが強いだけなのです」
ララがゴォトへ近づき見下すように言い放つ。その姿は女王様とか言いそうになるほど威厳に満ちていた。(どっちかは想像におまかせで)
「え?」
ゴォトがそれを耳にして顔を上げてララを見る。
「あんまりCPゲームを知らない様なので、親切に教えてあげるのです。し・ん・せ・つ・に教えてあげるのです」
「あ……はい…」
ララの迫力に半ば怖じけつつゴォトが返事をする。
「CPゲーム―――特にこのゲームの様なRPGにはLvという概念があり、上がることによってステータス―――能力値が上がる事になるのです。分かりますよね?」
ゴォトはムクリと起き上がり胡座をかいてララの話に頷く。んな事ゲームをやってりゃ当たり前に分かる事だしなぁ。ある意味珍しい人かも。
「ですから相手の事をよく見ずに戦いなどをやろうとするとこんな目に会うのです。以後注意してなのです」
懇々と切々と言い諭すララを見て、それから俯き溜め息を吐くゴォト。
むー……僕はまだちょっとやり足りないけど(一発だけしか当ててない)、この結果を見れば再戦しても同じ事になるしなぁ。かと言ってハンデ戦なんかやりたくもない。
それにかこれから色々とやる事もあるので、彼にかかずらっている暇はないのだ。
「グ――――グッグッグ!」
ララのOHANASHIが終わると、今度はウリスケが後ろ肢で立ちながら見振り手振りで何やらやっていた。ん?駆け足で下を眺めてクルクル回りを見て………なんでしょうジェスチャーゲーム?
「ウリスケさんは足元ばかりに気を足られすぎて周囲に対しての注意が疎かになっているのだ。考えるな感じろなのだ!と言っているのです」
なんかどこぞの拳法家みたい事を言ってるし。そういやララ達のLvが上がってるしクラスアップ?とかあったと思うけど、どうなるんだろうか。
「グゥグッグッグッグ」
「その為に必要であるならスキルなどで補うのも有りなのだ。と言ってるのです」
ウリスケ何気に物知り………なのか?
「スキルなぁ……何かそんなんで役に立つもんがあるんか?」
あれ?なんかゴォトが真面目に返事を返してる。
色んな意味で奇特な人なのかも知れない。
「グゥーグッグッググゥウグ」
「【索敵】あるいは【危機察知】があれば大分いいのだ。なのです」
「へぇ!」
ララの翻訳に興味を惹かれた様に目を瞠り頷きを返すゴォト。
そんな様子を見てると、ちょっとだけモヤモヤという感情が胸の奥へと広がっていく。
我ながら狭量なものである。器ちっちぇ〜と思いはするけど仕方ない。
「ララ、ウリスケ。行くよ〜」
2人を呼び寄せて集会所へ向かおうとすると、ゴォトに呼び止められる。
「あっ!待ってくれ。俺とフ「だが断る!」ンド、え?」
ゴォトの言葉を遮ってフレンド登録を断る。小ぃっちゃくたっていーもん。
「何でだよっ!いいだろ?フレンド登録ぐらいよー」
ぐらいというお人だからだと、口に出そうになるが別の言葉を口にする。
「何となく?それに初対面の人間にいきなり勝負を持ち掛ける人って?」
「そこはかとなくです。素直さは美徳でも有りますが限度があるのです」
「グゥ――――ッ?」
「……やー」
ララやウリスケ、アトリもダメ出しをする。
彼にとっては連絡用のツール位の扱いなんだろうけど、僕としてはフレンドとあるぐらいなのだから、ある程度親しくないと抵抗があるのだ。(戦ったからと言って親しくなるとは限らないのだ。マンガじゃあるまいし)
それに第一印象が第一印象だし仕方ないのだ。
「ちぇ〜……いいじゃんかよ〜けち〜。なっ、お前らもそう思うよなぁ」
唇を尖らせて僕から降りて対戦を見ていたちびラビ達へと同意を求める。くっ、なんて姑息なっ。しかも効果的な一手。
だけどちびラビ達はゴォトを見て僕を見ると、肩を竦める仕草をして答える。
「おうさま、がんこ」
「おうさま、いってつ」
「おうさま、しょしかんてつ」
そしてゴォトを見て3人が声を合わせて言った。
「「「むり」」」
「……っ。……おおぅ」
なんか酷い言われ様だ。あまりそういう自覚はなかったんだけど、もしかして僕って頑固な性質だったんだろうか………。うぅ〜ん……。
「マスターは頑固というよりは、一途なのです。譲れないものに対しては甘んじないところが皆にはそう見えたかもなのです」
僕がちょっとだけへんによりしてると、ララが何気にフォローしてくれる。
人によっては見方は色々って事かなぁ。まぁゴォトがちぇ〜と言いながら諦めた様なので、これはこれで良しとしとこう。
性格なんてそうそう変わるもんでもないしね。
気を取り直して再度集会所へと向かおうとすると、入口からいつもの声が聞こえてきた。
「ラっ、ギっ、くぅ〜〜〜〜〜〜んっっ!!」
そしてドスンという衝撃の次に首と腰に来る圧迫感。
「うげぇ………サキちゃん?」
「ラギくんラギくんラギく〜〜んっっ!!」
そう姉が僕の背中へダイブして来た訳だ。なんかやたらとスキンシップが激しい感じだ。
グリグリグリと右肩から顔を出して頬擦りしてくる。何かあったのかな?
朝は特に何もなかったはずだけど。
子泣きじじぃスタイルの姉を宥めながら話を聞く事にする。
「はいはい、大丈夫だよ〜よしよし」
頭をなでなで、なでなで。
現実の姉と違い体格もボリュームも小振りなもので、姉というよりも妹みたいな感じを受けてしまう。
「で、何があったの?サキちゃん」
落ち着いたところを見計らって聞いてみる。
「脂ぎったデ〇が!醜いデ〇が!脂ぎった醜い手で触ってこようとしたのっ!!
どうやらそのデ〇とやらが何やらやろう(何となく分かるけど)として姉が逃げたというのは理解できた。けどどういった経緯でそうなったのかがよく分からない。
ストーカーとか変質者のそれとは違う様だし、続きを聞けばいっか。僕は視線と頷きで姉に先を促す。
「お昼前に取引のあったとこから代替わりしたんで更新について話がしたいって言われたんで、午後に指定されたたとこに行ったら―――――」
ひぃいいぃぃいいっっ!!と掠れた悲鳴を上げて姉が僕の身体をぎゅうぎゅうっと締め付けてくる。
現実の身体だったら、苦しさと痛みで悶絶してるかもしれない。
で、悲鳴の間に聞いた話を要約すると、その代替わりした人物―――ゴシキ某という30代後半のデ〇が座っていた姉の隣にいきなり座ろうとしてきたらしい。
素早く席を立ち対面に移動して立ったまま嫌々話を聞くと、そのデ〇は舌舐めずりしながらこう言ったというのだ。
『俺の傘下に入って俺の為に働け』と。正直馬鹿かと思う。
姉も同じくそう思った様だが、少しだけ辛抱して理由を問い質したそうな。(姉がここまで譲歩するのも珍しい)
すると『げふぅげっふっふっ』と太鼓腹を震わせて笑いながら、『お前は俺に使われるべき人間なんだよ、その身体もな。げふぅげっふっふっふ』と言ったらしい。
そして拒否すれば業界で仕事できなくしてやるとテンプレな脅迫をしていたとか。
殴っていいよね、こいつ。
先代はいー人だったんだけどねぇと、ぽそりと姉が呟き結局いつもの様にご随意にと言い捨て帰ったとか。
ただその瞬間後ろからげふっっふと言いながら襲い掛かってきたので、それを何とか回避して命からがら逃げて来たみたいだ。命からがらって………。
もちろん相手のと契約は完全に打ち切って。
その後実務担当者にその旨を伝え、だけどしつこく留意を促してきたのに対し件のデ〇の行為を(映像音声込みで)告げて法的措置に出る様な話をすると、しばらくして諦めた様に了承をして来て円満に話を終える事が出来た様だ。
「素早く動けるデ〇ってキモかったよぉー………。ほんとぉ………」
力なく僕におぶさる姉は、心底疲れた様にぐてーとなった。はぁーお疲れさまとしか言いようがない。
だけどその姉に追い打ちをかける存在がいたりするのだ。ここに。
「ツインテールの可愛いお嬢さんっ!あなたのお名前&フレンド登録をっっ!!」
どういう理由か機能停止していたゴォトが、復活して両手を広げてこっちに向かってやって来る。
もちろん僕はそれをひょいと躱して、ついでに足を引っかけておく。
「ばへっ!?」
ビタタンッと顔からばっちり倒れ込むゴォト。そのいきなりの豹変ぶりには驚きはしたけど、想定の範囲内ではある。
「何しやがるっ!てめぇっっ!!」
ガバリと起き上がりゴォトが文句を言ってくる。いやいや、突然特攻されたらそうするしかないでしょが。
「緊急回避ですぅ~」
そう言って僕は舌を出す。
「くぅっ!ならPvPだっ!勝ったら俺と!」
「あ゛あ゛っっ?あんた誰よっっ!!」
僕の肩口から剣呑な表情をした姉がゴォトを睨め付ける。
機嫌が悪いところにさらに損ねられたので姉の怒りはレッドゾーンの様だった。
「………だからPvPを………」
その視線の威圧を受けて、ゴォトは少しだけ言葉に詰まってしまう。さもありなん。
「ふぅ゛う゛う゛ん゛、PvPぃ………ねぇー。くっくっくっく!いい~でしょう。相手してあげる!てってー的にてってー攻殲してあげるっ!!」
姉が僕の背中から降りてゴォトへ向けてPvPの申請をする。
ゴォトはよっしゃあっ!と声を上げすぐさま了承し、PvPが開始された。
「学習しないのです」
「グゥ~~………」
「がくなし」
アトリのはちょっと違うと思う。姉も僕と同じぐらいのLvだからあっさり片が付く事だろう。アーツのエフェクトが周囲に飛び交っている。
それを横目にして、僕は広場を出て集会所へと向かう。
姉の傷口に塩を塗り付ける事をしたんだから、ゴォトの冥福を――――祈っちゃだめか。
あぎゃ~~~とか、どぎゃ~~~あという悲鳴がドガンドガガガンという音と共に聞こえてくる。
「マスターいいのです?あれ」
「ん~、気が晴れたら終わると思うよ、たぶん………」
集会所へと入ると、中には誰もいない様で閑散としたものだ。
「さぁて、始めよっか」
「はいなのです」
「ぐっ」
「おー」
僕はメニューを開いてテーブルに次々と食材を出していく。
ワイルボーアの肉、ワイルブヒブの肉、コカトククドゥの肉、ワイルブモーの肉と後もう1つ。
そしてネギとか生姜とかの臭み消しの野菜の類に、後は卵とパンや麦粉と油。
そう、要するにこっちで角煮を作ろうって訳なのである。
もちろんララのお願いである。
せっかくなんで、豚以外の肉でもやってみようと思っていろんなお肉を買って来たのだ。
レイさんから貰った醤油や味噌は、この集会所の戸棚に保管されている。(持ち出せないのが残念だけど)
さて、まずは肉を切り分けていく事にしよう―――いや、その前に漬け汁を作っとこうかな。
と言う事で底の深い鍋を出し、醤油、味噌少々ワイルビーの蜜、そんで水を入れてしばらく撹拌して漬け汁を作る。至って簡単なものだ。
次に肉の切り分けをして行く。大きさはひと口より少し大きめに切っていき、切った肉はフライパンで軽く焼き目を入れてから漬け汁の入った鍋へと入れていく。じゅっと肉が音を立てる。
角煮を作るのは思っているより簡単だ。
ひたすらコトコトと煮込めばいいのだから。
だけど簡単だからといって、上手く出来るとは限らない。
煮込みすぎればグズグズと崩れてしまうし(あるいは固くなったり)、逆の場合生煮えとなる。
灰汁を取らないと雑味も出て来る。
丁寧に様子を見ながら煮て行くのだ。
そう、簡単ゆえに難しい。
人との付き合い方なんかもそうだよなぁと思ったりする。
気が合う人間同士なら、何の気負いもなく手を取り合う。
だけど己の領域外の人間となると、それがガラリと変わる。
見た目の印象だったり、仕草や態度だったりでコロコロ変化してしまう。(コミュニティによっては付き合わざるを得ない事もあるし)
皆が言う通り僕も頑固ゆえに、ヤな事を水に流し関係を良好にしようという意識が皆無であるのも一因かな。
現実の事を無かった事にして新たな関係を築くのは簡単だと思う。それはゲームならではの利点だとも思う。
ただ、ゲームで出来た絆が現実と真逆であったとそれを互いが知った時、を想像したら少しだけ怖くなってしまった。
はぁ、と1つ息を吐きだし鍋に水を足して強火で煮始める。
しばらく見てるとくつくつと沸騰してきたので、弱火にして煮ていく。
そして鍋を見張りながら、灰汁(出たよ)を取り除く作業をしていく。
ほんとう、かんたん故にむずかしい話だ。
さて、半分は唐揚げにしてもう半分はカツにするべく、卵液とパン粉と麦粉の用意を始める事にする。
もう一品はハンバーグにでもしようかな。メンチカツと言う手もあるか。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!感謝です! (T△T)ゞ




