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160.れっつ!ぴーぶいぴー

 

 

「あっ、おうさま!」

 

 ちびラビタンズの1人が僕に気付いてとてとてとやって来る。

 

「「おうさま、おうさま〜〜〜っ!」」

 

 そして他のちびラビもそれに続けとやって来て僕にダイブをしてくる。

 それをしっかと受け止めて、わしゃわしゃと撫で回していく。うむ、至福。

 きゃっきゃしているちびラビをしばらく構っていると、新入りさんが近付いてきた。

 

 年の頃は十代後半で背は僕と同じくらい。

 日に焼けた様な褐色の肌に、獅子のたてがみを彷彿させる蒼髪をたなびかせている。

 興味深げにこちらを見るその翠の瞳は、僕を射るかのように妙に鋭い。

 

「よう!あんたがここの王様なんだってな。ちょっと前からここで世話になってるゴォトだ。よろしくな」

「僕はラギっていいます。よろしくゴォトさん。ところで皆で何をやってたんですか?」

 

 僕がそう訊ねると、ゴォトさんはバツが悪そうに頭を掻く。

 

「えっとねー、おしえてっておねがいしたのぉ」

「「おねがいしたのぉ〜」」

 

 僕に引っ付いていたちびラビ達が口々にそんな事を言ってくる。

 その言葉に僕が首を傾げていると、ゴォトさんが補足するように説明してくれる。

 

「俺がここでイメトレしてたらこいつ等が教えてくれって言うんで、型とか見せてたらいつの間にかこんなんなって引っ込みがつかなくなってよ。ははっ」

「ゴトすごい」

「ゴトなかなか」

「ゴトぐど」

「うぬ、これなら我らも戦うことができる。感しゃするゴォト」

 

 ちびラビが褒め称え、村長のサギゥーさんが感謝の意を告げる。

 ゴォトさんはまんざらでもなさ気に頭を掻く。

 

「なぁに、気にしなくていいぜ。面白かったしな俺も」

 

 その対応の仕方は何とも男前な感じだ。

 稀に何故か何をしてるでもなく人が集まる人間がいたりするけど、このゴォトという人物もそんな人間なのかも知れない。

 そんな事を思い考えてみると、VRでも現実でも人柄が出るのかも知れない。

 

 むむっ、ちょっとだけじぇらしぃ〜。 

 そんなほんわかした雰囲気の中、ちょっとだけピリと空気が軋む感じを受ける。

 

「なぁ!王様。俺とひと勝負してくれないか?俺と王様との違いを確かめたいんだ」

 

 いやいや、違いって何を言ってるんでしょうか、この御仁は?

 そもそも何をどうしてPC同士で戦えるのか………あれ?そういや何かあった様な、何だったけかなぁ。

 

「マスター、PC(プレイヤー)同士で対戦が出来る対戦(PvP)システムなのです。主に1対1で戦う方式なのです」

 

 あー、そういやそんなのがあったっけ。龍◯やスト◯なんかの対戦ACGみたいなものなんだろう。

 うん、そのことについては理解したけど、……でもなー、特に僕が戦う意味合いもないと思うんだけど。

 そもそも僕がカンムリラビットを倒せたのも、と言うかあれは皆で倒したものなので僕だけの功績というものでも無いんだけどなぁ。(でもなんでか王さまとか、はぁ)

 

 などと記憶を思い返していると、ホロウィンドウが現れてPvP?の申請申し込みがゴォトさんから送られて来た。

 僕は戦いに関してはそれ程積極的でもないので、ひと言断りを入れて【NO】を選ぼうと。

 

「マスター、PvPを受けてなのです」

 

 小声でそう言ってララが何故か引き止めてきた。おりょ?

 

「え?何で?」

「この手の脳キ◯グはいっぺんやられないと分からないのです。断ってもしつこくやって来る可能性があるので、最初にガツンとやるのがベストなのです」

 

 あー………それはあるかも知れないなぁ。ヤな事って避け続けても、なんでかって言うほど降りかかって来たりするもんなぁ………。

 ララの説明に納得したので本当に嫌々ながら【YES】を選ぼうとすると、またララに止められてしまう。

 

「マスター、その前に設定を変更してなのです」

「設定?そんなのがあるの?」

「はいなのです。その左上のピクトグラムを押してなのです」

 

 ララにそう言われてホロウィンドウの左上を見てみると、確かに小さな四角にカタカナの“セ”ってのがデザインされてるやつがあった。

 

「……………」

 

 せめてもうちょっと凝ってもいいとも思わないでもないけど、まぁいいかとそれを押してみる。

 するとSEがピロコリンとなってPvP申請画面のホロウィンドウの上に重なる様に縦長のホロウィンドウが現れる。

 

「チェックシートっぽい?」

 

 項目が箇条書きになってズラズラーっと並んでいた。

 

「従魔ありにチェックしてなのです。あとハンデなしの魔法武器有りでお願いなのです」

 

 ララの指示に従い言われた項目へとチェックしてく。

 基本デフォルトは本人同士のLvで対戦するらしく、特に設定なんかはいじる事もないみたいだ。

 まぁLvに格差がある場合は、ハンデ戦なんかもあるって事だね。

 あとはHP残り1%で勝敗が決まると。こうして設定を終えたところで、PvP申請に【YES】を選ぶ。

 

ピロコリン!

『OK!バーサス!!』

 

 SEと機械音声の後、周囲の景色が一瞬掻き消え白い空間となって元に戻る。

 すると視界の上部分に格ゲーの様に真ん中にタイムカウンターと左右にHPゲージが表示される。ほほー。

 そしてカウントダウンが始まる。10から始まり機械音声が1つづつ呼び上げていく。

 僕がちらりと周りを見ると、周囲に特に変化はない様だけど、広場の中が幾分広くなった感じだ。

 僕がほ~と感心してると、5、6mほど離れた向こうからゴォトさんがバンバン掌を叩きながらニカリと笑って言う。

 

「待ちわびたぜ!さぁ試させてもらうぜ!!」

 

 僕を試すのか、或いは自分の力を試すのか。まぁたぶん僕の事をとは思うけど、負けても別に構わないしね。

 ちびラビ達はがっかりするかも知れないけど仕方ない。

 

「ふっふーっ!マスターと戦うなどと10年と14日早いのです。まずはララ達が相手してやるのですっ!」

「グッグッグッ!!」

 

 ん?なんかララとウリスケがめっちゃやる気満々になってる。

 ってか10年と14日の算出基準が謎なんだけど………ちょい気になるかも。

 

「カンケーねぇさ。従魔おまえら込みで喰ってやるよっ!」

 

 右腕を突き出し立てた親指をそのまま下へとぐるっと回す。

 まーなんてお下品な!自分で言うのも何だけどこっちは一癖もふた癖もあるんだ。食ったりしたらお腹壊すからな!

 

「ふっふー。そんな事を言えるのも今だけなのです!マスターが従魔が1人、ディガー&ディガー!マスターディガーのララなのです!」


 ララが右腕を左から反時計回りに回し、斜め上(11時の位置)で止めてポーズを取る。


「グッグググウグッグッグ――――――ッ!!」

「朱の衣を身に纏う静かなる突撃隊長!クリムゾンライナーのウリスケさんなのです!」

 

 ウリスケが吠える?と、ララとは逆に左前脚を時計回りに斜め上(1時の位置)で止めてポーズを取る。そしてララが訳す様に名乗りを上げる。

 

「あてすぴ、アトリ!」

 

 僕の頭の上でアトリが声を上げる。………何なの?これ。

 

「その名もラギカサジアス従魔団!!」

「グッグッグ――――ッ!!」

「ぷらすいち」

 

 ララとウリスケがさらに決めポーズを取る。おそらく僕の頭の上のアトリも何らかのポーズを取ってるのだろう。

 そこであーと思い至った。

 これってアテスピ団の真似オマージュなのだと。

 それでアトリは外部団員ってとこかな。団と言うにはちょっと小ぶりな気もするけど。

 

『“FIGHT!!”』

 

 そしてカウントダウンがゼロとなりPvPが始まった。

 

「前置き長ぇんだよっ!」

 

 開始と同時にゴォトさんが突進をして来る。あー……もうララの罠に嵌まろうとしてるのに………。

 身体強化系のスキルをとってる様でその動きに淀みも停滞もない。

 予測できる行動うごきというのはあまりにも分り易く。

 飛び出した次の1歩でビタンッと、顔面から地面に叩きつけられた様にゴォトさんは倒れてしまう。

 

「あでっ!」

 

 痛みはそれ程ない筈だけど、反射的にゴォトさんは声を上げる。

 

「ふふー、お約束ははずさないのです!」

 

 えっへんとばかりにララが胸を張る。やっぱり開始直後に穴を掘ってたみたいだ。いつの間にやらだ。

 

「くっ、一体何なんだ………」

 

 頭を振りながら立ち上がろうとしたゴォトさんの背後から、ストトトと勢いをつけたウリスケがその背中へ向けて体当たりをする。

 

「ごべっ!」

 

 再びビタンッと顔から倒れ込むゴォトさん。痛そ―。

 そしてその体当たりでHPゲージが半分ほど無くなった。

 

「うえっ!?」

 

 思わず変な声が出てしまう。 

 ウリスケが強すぎるのか、或いはゴォトさんが弱いだけなのか。

 

「てめっ!ちっ!あっ!このぉっ!」

 

 ふむふむ。戦いを見てるとウリスケが強いみたいだなぁ。

 ララの土魔法を防ぎつつも、ウリスケにあしらわれる様に攻撃されている。(跳び蹴りは体当たりよりもダメージが低いみたいだ)

 こうして始まったPvPはあっさりと勝敗が決してしまったのだった。

 

 そして僕はその動きを見て思い出―――分かってしまったのだ。

 彼、ゴォトはあの時姉にちょっかいをかけてきた人物であることを。

 スキルやステータスのお陰なのかその動きは洗練されていたけど、元々の癖の様なものは中々なくせないものだ。


 どういった理由でこのゲームをやってるのかは分からないけど、多分推して知るべしか。

 とは言え注意はしとこうと思っていると、再度PvP申請が送られてきた。

 

「もう1回だ。今のはちょっと納得行かねぇ………」

 

 ララとウリスケの2人にボコボコにされただけだもんなぁ。

 ふむ、僕も多少意趣返ししたい気分だ。否やはない。

 僕が了承すると、さっきと同じくフィールドが変化していく。そしてカウントダウン。

 

「ふっふー。返り討ちなのです」

「グッグ!」

 

 ララが傲岸不遜な感じで言っているのを聞きながら、申し訳ないと思いつつララに断りを入れる。

 

「ララ、悪いんだけど次は僕にやらせて貰える?」

「ほぇ?いいのです?けど、どうしてなのです?」

 

 僕の言葉に不思議そうに首を傾げるララに小声で説明をする。

 

「この前サキちゃんにちょっかいかけた人みたいなんだよね、彼。だから僕もちょっとムってしたからやり返したい気分的な?」

「分かったのです!ギタンギタンのメタンメタンにやっちゃってなのです!ウリスケさんもいーです?」

「グッ!!」


 ララとウリスケの承諾を得たので、僕は改めて拳を握り締め開始を待つ。


『“FIGHT!!”』

 

 開始と同時に僕はスタスタと前へと歩き進む。

 さっきのを警戒してか、周囲に気を配りながらゴォト(さん付けやめ)が進み来る。

 

「今度は王様が相手か。いいぜっ、来なっ!」

 

 来なっ!と言いつつ飛んできた右ストレートを左手で軽く弾いていなし、その懐へ飛び込み鳩尾へ右ストレートを一発お見舞いする。

 

「あがっ………!!」

 

 ドンッッと言う音と共にゴォトはそのままの姿勢で後方へ吹き飛び、膝落ちしてばたりと倒れ伏す。

 そして勝利の判定がすぐに出される。

 

「あっれぇ?………」

 

 弱くね?ってか一撃しか入れてないんですけどっ!

 僕が呆然としてると、ララが補足する様に説明をしてくれる。

 

「Lvが20も離れていればこうなるのは必然なのです。マスターはまじ強いのです!」

「グッ!」

「つよ〜」

 

 ゲームのLvの違いというか隔絶を垣間見た瞬間だった。

 

「「「おうさま〜〜〜っっ」」」  

「おうふっ」

 

 そこへちびラビ達が飛び込んで来た。顔はやめて。

 

「おうさまつよい〜」

「ちょよい〜」

「ゴトたかなし〜〜」

 

 口々にちびラビ達が褒め称えてくれる。ふふん、これは気分がいいですな。

 

「王よ。お強いですな!御見それいたしましたっ」

 

 サギゥーさんも興奮した面持ちで僕へと話し掛けてくる。

 

「ははぁ………まぁ」

 

 さすがにちょっと照れるな。

 

「ララちーもウリちーもつよ〜い」

「ふっふー当然なのです!」

「グッグッグ!!」

 

 ちびラビ達の感想にララが胸を反らせ、ウリスケがサムズアップしてる。

 

「ほれ、みなも感化され、始めよりました。ほっほっほ」

「え?」

 

 それを聞いて僕は広場を見回すと、あちこちでラビタンズ達が対戦を始めていた。

 いや、どこぞの戦闘民族にでもなるつもりなんですか?君達は………。 

 




(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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