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159.新入りさんが来てました

   *

 

 

「ぶら〜んぶら〜〜ん、いかのゲソぉ〜〜〜ぉ。ぶら〜んぶら〜〜ん、たこのゲソぉ〜〜ぉ。どぉ〜〜っち~~が旨い〜〜〜っ」

 

 白亜の廊下を1人、鼻歌を歌いつつスキップしながら歩き進む。

 

 最近は89(ハッキング)警報も少なく、自分の担当でばんもあんまりなくなっている。

 いい事ではあるが、ちょっとばかり退屈ではあったりする。

 こんな事を言うと、フェブ姉辺りはじーっとこっちを見てくるので決して言ったりはしない。だっておっかないし。

 

 今はVR空間で人間相手にいろいろな事についての教導をしていたりする。

 人間ってのは大変だし面倒だ。私達ならデータを入力すれば一瞬で間違う事などなく行動できるものも、何度も何度も繰り返しながら覚えていくのだ。

 

 何やらこの間まで研究所うちに侵入していた人達が色々あってこちらの教えを請うことになったらしい。

 らしいと言うのは、その時私は一時的にAIドッグ(けんさしつ)にいたので分からなかったのだ。

 何で私がそんなとこに行ったのかといえば、いっつも眠たそうにしてるからだ。いやまぁ実際寝てるし。しかも気持ち良く。

 

 眠る、寝るなどの睡眠という行為は生物《、、》だけが行うものだ。

 なのにAIである私がそんな行動をするのを不可思議に思った父さま達が、私を調べていたって訳なのだ。

 結局何も分からんかったみたいだ。

 私としては本当にどーでも良い事なのだ。姉様達と楽しく過ごせればそれでいいのだと思っていたりする。

 なのに私は眠ってしまう。

 それはとてもとても気持ちいいものだったのだ。

 

 その日父さまが私達全員を招集して話を始めた。

 

「えー………ササザキ先輩からちょっとした依頼を請けた」

 

 あー………これって父さまが無理難題をつきつけられた時の顔だ。と認識したのだけど、特に発言する気もない私はその様子をこそリと見ていた。

 父さまの話を聞いてると、どうやらあの方というよりララさまからの依頼みたいだ。

 

 ララさまは私達とは別系統で生み出された(AI)で、どちらかと言うと先輩という意味合いが強い。

 だけど私達は彼女をそれ以上の崇敬の念を持っている。何故ならばララさまのマスターこそが、私達の起源たるAIを齎してくれたからだ。

 私達が私達でいられる。その要因。それこそが私達がララさまを敬うべき存在と認識する訳だ。

 だから私達はララさまに頭が上がらない。

 父さまがあの方に頭が上がらないように。(ちょっと趣は違うけど、まぁ似た様なものだ)

 

 その話の内容は、何やらロボットに搭載するAIをアクション(うごき)思考あたまに分けてデザインし、ある程度学習したところで統合させるというものだった。

 何の意味があるのかと思わないでもないけど、まぁものは試しって話なんだろう。

 

 どの道ララさまの頼みを断ることはない。

 頭の方はそれぞれの主人マスターのところで経験がくしゅうを行い、身体の方はとある場所でロボットとしての動きを経験がくしゅうするらしい。

 何とも面倒臭い事を人は考えるものだ。

 いかにも人間らしい。どんだけ紆余曲折が好きなんだか。

 そこで私達姉妹のうち誰かに管理者として出向いてくれないかという話だ。

 

 何でそんなことを私達がやらにゃならんのかと皆が首を傾げる中、父さまは少しだけ興奮気味に話をする。

 

「作業用ロボットなどは本体にプログラムを入力していくのが通常だし、現在も工業用のシステムプログラムはそのような仕様で作り上げられてる」

 

 そう、それをよもや分割して行うなんてのは聞いた事もない。(私達もそれなりにネットを彷徨ってるから知識はあるのだ)

 

「それをロボットの身体と連動させてVR空間でプログラムを組み上げ定着した時点で、デザインAIを統合いや融合させていくんだ。この場合2足歩行――いわゆる人型ロボットの様なものは特に有効に働くのではないかと考察中なんだ」

 

 おー、こんな父さまも初めて見るんじゃなかろうか。

 姉さま達も同様に目を丸くして父さまをまじまじと見ていたりする。

 24の瞳にさらされた父さまは、少しだけ恥じらう様に咳払いを1つして話を続ける。

 

「コホン、と言う訳で誰か記録とデータ管理で出向いて貰えないだろうか?」

 

 父さまの言葉に皆がそれぞれ顔を見合わせて困惑の表情を見せている。

 主旨は理解したものの意味が理解できない私達は、どのように結論づければいいか分からなかったのだ。よって誰がやるとも言えない。

 

「え〜………とだな……」

 

 私達の様子を見て、今度は父さまが困惑の表情を見せる。

 さすがにそんな顔を見せてしまったままでいるのは、私の本意ではない。

 なので、父さまの方を見ながら手をぬぉ〜と上げる。

 

「私やる」

 

 私が言うと、24の瞳が私に集まってくる。皆意外そうな顔をしている。ちょっとそれは失礼だと思う。

 

「ディセ………ディセリアやってくれるかい?」

「うん。よく分かんないけどやってみる」

 

 そう私が言うと、ニコニコと父さまが笑顔を見せてきた。うん。ウンウン唸ってる顔よりこっちの方が私は好きだ。

 

「よし!予定が決まり次第連絡する。じゃあ解散」

 

 私を見てそれから姉さま達全員を見回してそう言ってから、父さまは部屋を出て行った。

 

「ぶら〜んぶら〜〜ん、いかのゲソぉ〜〜。ぶら〜んぶら〜〜ん、たこのゲソぉ〜〜〜ぅ。どぉ〜〜っち~~が旨い〜〜っ」

「………あなた、何歌ってんのよ?それ……」

 

 上機嫌に通路を歩きながら鼻歌を歌ってると、後ろから声を掛けられる。

 

「ジャン姉、フェブ姉、マー姉……どうしたの?」

「あたしだけ扱い雑くね?」

「そんな事はない。マー姉はマー姉」

 

 マー姉―――マーシェ姉さまにそう返しながら、ジャンヌ姉さまの問いに答える。

 

「訓練中のおっちゃん達の話を歌にした」

「………海洋生物の触手部分か……美味しいのかしら、これ……」

「酒の肴にどっちがいいか、休憩中に議論してた。キョーミ深い」

 

 ファブ姉が虚空を見ながら呟くのに、私は言葉を返す。

 

「……ッじゃなくてっ!あなた大丈夫なの?自分から志願するなんて何かあった?バグとか」

 

 何気に酷いフェブ姉の発言に、内心むっとしながらも私の心境を話していく。

 

「ちょっと面白そう。よく分かんないんだけど頑張る」

 

 私の言葉に三者三葉の表情をしながらそれぞれが励ましをしてくれる。

 

「まぁ頑張んなさい。あと寝ちゃダメよ」

「あんたの分はあたし達でフォローするからさ」

「むぎゅっ」

 

 ジャン姉、マー姉と続きフェブ姉が私を抱き締め言ってくる。

 

「あんまり無理しちゃダメよ。何かあったら私達に連絡ね。何もなくても定期的に報告すること!」

「………うん、分かった」

 

 定期報告は面倒だなぁと思ったが、フェブ姉の言葉に頷き返事をする。

 3人とそんな言葉を交わして別れる。なんとも過保護な姉達だ。

 さて、父さまから連絡が来るまではいつもの作業に勤しむ事にしよう。

 

 こうして私は【アトラティース・ワンダラー】と言うゲーム(せかい)に赴き、研究所内に一大食ブームを巻き起こす事になるのだが、それは私や父さまを含め誰にも予期できないものであった。

 

 

 

 

   *

 

 

 午前中はウサロボの動作確認と部品の作製に費やして、昼を軽く済ましてから組み立てと移る。

 

『マスター、AIに関しては快く引き受けて貰ったのです』

「そっかぁ………、でも本当に大丈夫なの?後で請求されたりなんて事はないのかな?」 

 

 間接的な依頼なので、その辺りがちょっとばかり不安であったりもするのだけど、ララは胸をポンと叩いて大丈夫なのですと請け合ってくる。

 この様子なら、まぁ大丈夫なんだろうと取り敢えず作業も一段落したので、ちょっと休憩を入れる事にする。

 

『マスター、それより今日はバイトのシフトが入ってるのです。そろそろ用意して出掛けないと遅れるかもなのです』

 

 え、そうだっけ?と端末を出してホロウィンドウを表示させてスケジュールを確認する。と確かに今日のシフトが入っていた。

 おおぅ。危なかった。忘れてたよ。

 

「ありがと、ララ。それじゃあ片付けてからバイトに行きますか」

『なのです』

『グッグッグ!』

 

 あ、ウリスケもあっちに戻って貰わなきゃな。

 動きまわるウリスケをゲームへ送り返し、後片付けをしてから部屋へ戻り出かける用意をしてからアパートを出る。

 

 チャリで駅まで向かい、そこから最寄駅で降りバイト先へ。

 事務所に入り出勤時間タイムカードをガチャンと押して更衣室へ入ると、見慣れぬ人がそこにいた。

 

「こんにちは。新しく入った方ですか?」

 

 僕は自分のロッカーを開け着替えながら、その人に訊ねる。

 

「………はい。先週から入ったオウノです」

 

 軽く頭を下げて挨拶して来たので、僕も同様に挨拶を返す。

 

「僕はササザキと言います。よろしくお願いします」

 

 純白の膝丈のマントを背に纏い、やはり白の装飾された制服を着てそこに眼鏡をかけている。

 これは確か“デルクロスターM”に出てくる敵方の美形宰相様だったか。なんとも渋いチョイスだ。

 

「やりますね“眼鏡宰相(グロスヴリ―ジュ)”ですか」

「………?。失礼します」

 

 僕が賢しげにキャラの愛称を言うと、オウノくんは首を傾げながら更衣室を出て行ってしまった。う〜ん、あれ?外したかな。ちょい恥ず。

 まぁいいやと思い、ウルフレンド大佐への服へと着替え暗示をかけてさっそく仕事に入る事にする。

 

 今日は週末のせいかお客様の入りも多く、給仕と触れ合い(かいわ)を忙しなくこなして行く。

 その中でおや?っていう事が何度かあった。

 新入りのオウノくんが僕にやたらとチョッカイを掛けてくるのだ。


 すれ違う度に足を引っ掛けようとしたり、肘打ちをしようとしてきたり。

 その度に僕は気づかないふりをしてひょいと躱したり避けたりしてるんだけど、僕、彼にこんな事される覚えはないんだけどなぁ………。

 

 そしてそれはバイトが終わった時に判明した。

 ウルフレンド大佐からキラに戻って更衣室から通路に出ると、そこに立っていたオウノくんが苦々しげに言ってきたからだ。

 

「あんたがナンバー1だってんなら、俺がその地位をぶん取ってやるから覚悟しな」

 

 そう言い放ってオウノくんは去って行った。

 制服コスプレの時と違って、頭を金髪にしてピンピン尖らせている。服は開襟シャツにシルクのスーツっぽい。ある意味派手ではある。

 地位も何もここにそんなものはないと僕は思ってたんだけど。ホストクラブじゃあるまいし。

 まぁそれは認識の違いというもので、正直こちらに八つ当たりされても困るというものだ。

 僕はやれやれと肩を落とし溜息を吐く。

 

「自己顕示欲ばかり大きくて困っちゃうのよねぇ〜……」

「っ!アガノガワさんっ……いたんですか……」

 

 突然背後から声を掛けられ、驚いて振り返ると店長のアガノガワさんがいた。おどかさないで欲しい。

 

「ん~……まぁそれなりにキャラ立ちしてますからいーんじゃないですか?僕としてはバッティングしない様にシフトずらして貰えればいーですよ。あの態度に関しては問題だと思いますけど」

「役者志望らしいわよ。………そうね、シフトはその都度調整しましょ。ごめんねぇ~キラくん」

 

 アガノガワさんが申し訳なさげに手を合わせて謝ってくる。アレで役者志望っ!?なのか………。

 ……うん。アガノガワさんにもやむにやまれぬ事情があるんだろうな。まぁいいや。

 

「気にしないで下さい。では僕も失礼しますね」

「お疲れ様~。またよろしくねぇ~~」

 

 

 アパートへ帰りお風呂に入ってさっぱりとして(夕食はバイトで賄いを頂いた)、居間の座椅子に座ってHMVRDをかぶりライドシフトする。そしてログイン。

 向かうのはデヴィテスの街でなくプロロアの街だ。

 色々とうろついてみたいところではあるのだけど、またの機会という事で今は当面の問題を片付けていかなきゃならない。

 まずは食材の買い出しと、ペイくんに服の注文かな。ペイくんいるかなぁ。

 

「マスター、お帰りなさいなのです!」

「グッグッグッ!」

「かえ~」

 

 現れたララ達と挨拶を交わして、さっそくプロロアーノ商店街へ。

 とその前にペイくんに連絡をと思いフレンドリストを出したけど、生憎ペイくんはログインしてないようだった。リストの名前がグレーになってる。

 仕方ない。忘れない様に後で連絡しようと、頭のメモ帳に記しておく。

 

 知り合いのNPCと挨拶を交わしながら、色々と食材を買っていく。

 護衛依頼の報酬で懐はホッカホカなのだ。

 買い食いをしつつ買い出しを済ませた後、プロロアの街を出て一路ラビタンズネストへ。

 

 ここら辺はちょっと迂遠だなぁと思いつつ、やって来るモンスターを瞬殺ララとウリスケがしてラビタンズネストへ到着する。

 

「ええぇ………。ナニコレ?」

 

 広場の中で意外な光景が広がっていて僕は目を瞠り思わずそんな言葉を漏らしていた。

 

「せいっ!せいっ!せいっ!」

「よし、もっと腰を落としてっ!いいぞっ!その調子でもう1本!!」

「せいっ!せいっ!せいっ!」

 

 見知らぬPC(プレイヤー)が陣頭に立ち、ラビタンズ達が整然と並んで空手の型の様に拳を突き出していた。

 

「少〇寺か………、ここは」

 

 どうやらラビタンズネスト(ここ)にも新入りさんがやって来てた様だ。

 変な人じゃないといいなぁ………。

 

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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