158.豚肉酒宴とロボ作製の続き
僕の姿態を見た姉からの訝しみながらの追求を何とか笑って躱して、豚肉が入ってるという箱を受け取る。重っ。
それをキッチンに運び込んで中を見てみると、真空パックに包まれたブロック肉の塊がギュウギュウに詰め込まれていた。
『壮観なのです』
「すっごいねぇ……」
僕達が半ば呆れつつ感嘆の声を上げてると、ピポンとチャイムが鳴る。おや、珍しい。
姉は問答無用でドアを開けてくるし、他に宅配便なんかは共用ボックスがあるので直接来ることはない。郵便も言わずもがなだ。(と言っても送ってくる相手もそうそういないんだけど)
さてさて誰でしょうかとドアを開けると、ガモウさんがニコニコ笑顔でそこにいた。オー御機嫌ですね。
「こんばんは、ガモウさん。どうしました?」
「うん、良い物を戴いたんで、良かったらお裾分けしようと思ってね」
そう言って渡された密封ボックスにはTKOXXのタグが貼られていた。
「………豚肉ですか?」
「うん、結構な量貰ったんで良かったら食べて貰えると助かる。この年ではちょっと流石にってとこがあるからねぇ」
少しだけ食傷気味に笑顔を見せてガモウさんが言う。
まぁ、じーちゃんみたいに健啖な人間ってのもそうそういないんだろうけど。
「ありがとうございます。ありがたく頂きますね」
本来であればこれで終わりの筈なんだけど、そうは問屋が下ろさない。
何故かといえば、もちろん姉がいるからだ。
「あーガモウさん、こんばんは!良かったらご相伴しません?キラくんが豚肉料理作りますんでっ!」
ガモウさんは姉を見て、僕を見てそして目で問い掛けてくる。
そうだよねぇ、と思いつつ僕はガモウさんへお誘いを掛ける。
「サキちゃんもお肉持って来たんで、良かったら食べて貰えませんか?と言っても焼肉するだけなんですけど………」
申し訳ないと思いつつ、あの量とこの量をと思えば少しだけでも消費して貰えると助かるので一応聞いてみる。
「いいのかい?」
「「もちろん!」」
あにゃ、姉と被ってしまった。でも僕達の言葉に相好を崩してガモウさんは首肯してくれる。
「うん、そうだね。ご相伴に預かることにしよう。ちょっと用意があるんでまた後でお邪魔するね」
「「はい、待ってます!」」
僕と姉は笑顔でガモウさんへと返答する。はは〜………。
ガモウさんが行ってドアを閉め、さてとキッチンへ戻ろうとすると再びピポンとチャイムが鳴る。
なんとも今日は来客が多いなぁ。
ドアを開けるとヤマミさんが立っていた。おんや珍しい。
「ヤマミさん、こんばんは。どうしました?」
普段ヤマミさんはアパートに来る事はあまりない。
季節季節の行事には顔を出してくれるものの、部屋にいる気配はないのでこういう事は滅多に無い。
なのでガモウさんと同じ問い掛けになってしまうのも仕方ないのだ。
「おう!いい肉を貰っちゃったんでお裾分けな!結構珍しいモンだからと思ってな。ん?……ああサキも来てたのか。良かったら食べてくれよ」
そう言って傍にいた男性が持っている箱を渡してくる。
まさかと思いつつ今までのパターンを考えみると、お約束というかなんと言うかの台詞が出て来た。
「ああ、懇意にしてる方から豚肉のいいのをいっぱい貰ったんでな。んでキラ坊にやろうと思ってな」
はいっ!2度あることは3度あ~る。という事で、もちろん姉も焼肉へとヤマミさんをお誘いしている。社交性のある人間はそれだけ人を呼び込むんだなぁとつい感心してしまう。
「お?いいの?……それじゃあ今日は時間あるんでお邪魔しよかな」
へにゃりと口元を緩めヤマミさんが中へと入ってくる。男性は頭を下げてそのまま去って行ってしまった。別に一緒でも構わないんだけどなぁ………。
渡された箱を見てみると、たしかに滅多に見られない豚肉さんの様だ。
いわゆるブランド肉というもので、生産数限定というものらしく一般にはなかなかに手に入るものではないやつだ。
僕にとっては豚肉は豚肉でしか無いんだけど。(まぁ美味しいのであれば嬉しいのは確かだ)
そして再びキッチンに戻ろうとすると、三度ピポンとチャイムが鳴り響く。
なんとも忙しないなぁと思いつつドアを開けると、キタアオキさんがいた。あら、こちらはもっと珍しいいと思いながら、キタアオキさんに尋ねる。
「こんばんは、どうしました?」
「っとねぇ、知り合いから何か〜いっぱい貰ちったから残飯処理的な?」
あ〜………ちょい酔ってらっしゃるなぁと思いつつ、渡されたタッパーを手に取る。あ、うん……きっと多分そうなんだろうなぁ、匂いがそうだもん。
「あっ!キタアオキちゃん、おっひさぁ〜〜〜っ!!
「サキち〜正月いら〜!」
「おいでおいでぇ〜〜、お肉食べよぉ?」
「キラち〜の料理かぁ〜。うんうん、ゴチになるぁ〜」
「おいでおいでぇ〜〜」
「…………」
なんかだんだん大事になって来てる様な気がしないでもない。けどまぁ、そんな日があってもいいかなと、受け取ったものを手にキッチンへと戻る。
そしてまたピポンとチャイム。あ、ガモウさんが来たのかな?
「おーキーくん!サキ来てる?あ、これ肉な豚肉。あと色々持って来たからよろしくっ!」
ドアを開けるとミラさんが笑顔て待ち構えていた。まぁ何となく話が見えてるし、箱を抱えたのその姿にやれやれと思いながら身体を避けて招き入れる。
「他にもアパートの皆さんがいますけど、良かったらどうぞ」
「さんくー、キーくん!じゃあこれ」
姉と同様に箱を渡される。重っ。
「おっじゃましま〜す」
ミラさんはもう1つの箱を持って居間へと入って行った。
「あっ!?何であんたが来てんのよっ!!」
「はは〜ん、おまーのやる事なんてお見通しよ。いいだろ、パーメンなんだからよ」
「むぅ………。仕方ないわね」
「あ、どうも。私サキの友人の―――……」
居間の方からそんな会話が聞こえてくる。さぁてと、それじゃちょっと料理に取り掛かるとしますかね。
『なんか酷くなってるのです………』
言い様は酷いんだけど確かに的を射ているララの言葉に、僕もつい頷いてしまう。
姉のとミラさんの持ってきた豚肉に、ガモウさんやヤマミさんが持ってきた豚肉。そしてキタアオキさんが持ってきた豚の角煮だ。
豚の生肉はともかく、どうして角煮の山をキタアオキさんが貰って来たのかは謎だけど、とりあえず今はどうするかという話だ。
『じゅるっ………これが角煮なのです?美味しそうなのです。じゅるっ、くうっっ!!』
タッパーの中の角煮の山を見てララがそう声を出しつつ悔しがる。
まぁ現実じゃ、目の前にあっても食べる事は出来ないから食いしん坊のララとしては悔しがるって事も無理はないかな。
後でその辺の事もいろいろ考えなくちゃならないかなと思いつつ、とりあえず今は目の前の事に意識を集中する事にする。
テーブルの上には肉、肉、肉といった風にその箱が山となっている。
「さて、どっしようっかなぁ………」
肉の山を見て思わず腕を組んで考え込んでしまう。
僕としてもそれ程レパートリーがある訳じゃないのだ。
何事もてきと-に作っててきとーに食べるのが僕のもっとーみたいな部分がある。
僕の作るものなんて所詮、なんちゃって料理なのだから。
僕が唸ってるとララがフォローする様に声を掛けてくる。
「マスター、まずは焼き肉が出来る様に薄く切り分けてなのです。あとはちょっと厚めに切っていくとバッチシなのです!」
ふむ、これだけあれば焼肉するのには事欠かない。それに自分達で焼いて貰えれば、それだけこちらの手間も省けるし一石二鳥にもなる。
僕はララの言葉に従い、その様に行動しようと動き始める。
ガモウさんとヤマミさんが持ってきたものは、いかにも豚肉というものなんだけど、姉とミラさんが持って来たのは何とも淡白な色合いをしている。
姉達が持って来た豚肉は少しだけ様相が違っている気がした。
ちょっと気になったので、僕は少しだけその肉を切り取ってフライパンで軽く焼いてみる。
そして焼き上がったものを口に入れてみると、思わずなる程と納得の声を漏らす。肉は淡白だけど脂が甘い。
うん、これは薄く切り分けて焼いて食べるのがベストかも知れない。
肉って基本焼けばいいけど色々用途で向き向き不向きがある、けどこの豚肉は焼くのに向いてる気がしたのだ。
そうして肉の切り分けに取り掛かることにする。
姉とミラさんのものは焼き肉用にひたすら薄切りにしていき、ガモウさんとヤマミさんから貰った物は少し厚めに切り分けていく。
肉の調理法なんてのは焼く、蒸す、揚げるに煮るくらいで、僕の知らない調理法もあると思うけど何となくこれが1番いいと思った。さすがララだね。
おっといけない、ホットプレート出さなきゃ。(途中姉が冷蔵庫からウーロン茶を持っていく。おや珍しい呑まないなんて)
収納棚の下の段を開けてホットプレートを取り出す。特に汚れてないけど軽く水拭きして居間へ運ぼうとすると、ピポンとまたまたチャイムが鳴った。今度こそガモウさんかな?
とドアを開けるとやっぱりガモウさんが一升瓶を何本か持って立っていた。
「せっかくだからね。お邪魔します」
おうふ、飲む気満々ですね。ガモウさんはそう言って居間へと入っていく。あっとコップと氷出さなきゃ。
その前にしばらく仕込みに時間がかかるのを鑑みて、冷蔵庫から以前作った漬物を出しておく事にする。
これは前に姉に持っていかれたんで、新たに作ったものだ。
Fベジは大っきい分作りでがあるので、時間があった時に作っておいたものなのだ。
タッパーから大皿へとドザザと移しかえて山となったFベジ漬物を居間へと持って行って卓袱台へと置く。
あ、この卓袱台だけじゃ人数賄えないやと気付いて、別の部屋(というか物置部屋)からテーブルを持ってきて設置して漬物を食べてて下さいと言って時間稼ぎをする。
しばらくして肉を切り終えて、ホットプレートと切り分けた薄切り肉と母さん謹製のタレを居間に持っていくと、なんでか黙々と皆が漬物を食べていた。ってかもう飲み始めてるし。
ホットプレートをセッティングして、薄切り肉とタレを置いて、漬物についての説明を軽くしてからキッチンへ。
そして厚切りした肉へ塩コショウして、半分は肉叩きで薄く形成していく。
お肉はこんなんでいいかな。次は野菜だ。お肉ばっかじゃ偏っちゃうからね。
カレー用にと買っておいた、ニンジン、タマネギ、ジャガイモをどんどん輪切りに切っていく。
それをザルへと入れていき軽く水洗い。あとピーマンとキノコも入れとこう。
ちゃっちゃと軽く水気を切ってこれも居間へと持っていく。すでにそれぞれでお肉を焼き始めていた。
野菜を置いてキッチンへと戻り、コンロにフライパンを置いてオリーブオイルをひと垂らしして温めていく。
油が馴染んだところへ厚切り肉3枚を投入し弱火で焼いていく。
バットを2つ取り出し、溶き卵&粉チーズと片栗粉をそれぞれバットへと入れて均していく。
叩いた方はピカタにでもしようと思うのだ。
軽く火が通ったところで厚切り肉を裏返し、とを繰り返して焼いていく。焼き上がったのは皿へと移す。
こっちはホットプレートでも焼いてもらうので軽く焼くだけに留めておく。
もう1つのコンロにもフライパンをのっけて叩いた肉に片栗粉を両面にまぶして溶き卵にくぐらせて弱火で焼いていく。
厚切り肉の方を端っこをちょいと切ってよく焼いて食べてみる。……うま~。
なんちゃってピカタの方はじっくり火を通して行く事にする。
焼き上げた肉の山を居間へと持っていくと、いきなり歓声が上がる。お~………皆さん酔っておられるぅ。
姉もウーロン茶をくぴくぴ飲みながら焼き肉を頬張っている。ん?あれウーロン茶じゃないのか?
ポークステーキをよく焼いてとみんなに言い渡してまたまたキッチンへ。
ピカタを次々に焼き上げていき、残っているのはキタアオキさんが持って来た豚角煮だけだ。
このまま出しても問題はないんだけど、ちょっと面白みに欠けるなぁと思ってしまった。
ならばとまずは味見という事でタッパーに詰め込まれたそれを1つ口に放り込む。
「…………美味ぁ……」
ふんにゃりんと口元が緩んでくる。じっくりしっかり煮込まれた豚肉は、口に入れたそれだけでトロリとほくれていった。そして口の中に肉汁が広がっていく。
脂身もそれ程くどく感じない。とるんっって感じだ。うん美味美味。
きっといい豚肉使ってるんだろう。ついもう1つと手が出そうになるのを何とか堪えて、どうしようかと頭をひと捻る。
「あ!」
ちょっとくどくなり過ぎそうだけど、面白そうだ。
ってなわけでさっそく取り掛かろう。
溶き卵は使いきっても片栗粉はまだ残ってる。あとは唐揚げ粉かな。
「た、しかここに………あったあった」
“美味しく揚げれる唐揚げ粉”〜っ。
フライパンにフライ用の油を1cmほど満たす様に入れて火を点ける。
まずは計量カップ(600っc)に唐揚げ粉と水を入れてかき混ぜる。
気持ちねっとりしたところで水を入れるのをやめて、角煮1つ1つに片栗粉を満遍なくまぶしてからトングで角煮を1つ挟んで計量カップへズブリと突っ込む。
2,3秒そのままにしてから温まってきたフライパンへ投入する。パチパチリと音が弾けるのを見てから、次々とフライパンへと入れていく。
ジュワ〜と音が変わったのを見計らって裏返し。
キツネ色に変化していく衣を見てると、つい喉がゴキュリと鳴ってくる。やば。
全体が揚がりきったのを見て、まず1つを取り出して油切りのトレイへと載せてしばらく冷まさせていく。うぅっ、冷めるまでガマンガマン。
角煮はまだまだあるので、次々と衣を着けて揚げていく。
よくよく考えてみれば半分ぐらいにしとけば良かったんだけど、少しだけはっちゃけてしまっていた僕は全部揚げてしまった。(バカでする)
そうしてようやく冷めてきた最初のやつを試食する。(作った人間の権利でする)
『くぅっ!何故ララはここにいないんですっ!?』
血が滲むような声音でララが悔しがる。あー……うん、考えとこう。
まずは一口齧りとり口の中へ。
「あふ〜………」
その美味さに思わず声が漏れ出てしまう。ほっぺがゆるゆるとなる。
そして残りをパクリと放り込む。
サクサクとした表面とトロリとした中のコントラストが何とも言えず楽し美味しい。
もともと角煮に味がついてるので、何も着けなくても充分に食べる事が出来る。ではもう1つ。
はぁ〜……美味いなぁ………。
思わず更に手が伸びそうになるのを何と小抑えて、皿へと移し居間へと持っていく。あ、あれも出そう。
「ろいるわけれ………○×□▲▽◇……」
姉が顔を赤くして何やら言っているが、呂律が回らずよく聞き取れなかった。どんだけ呑んでるのやら。
「は〜い。良かったら食べて下さい」
食べれなかったら僕が食べるよ〜と心の中で言いながら、ホットプレートをずらして唐揚げ角煮を置くと皆が一斉に箸を伸ばしてきた。ああっ。
ガモウさん以外は皆相当に酔ってるのが分かる。頭フラフラさせてるし。
そしてひと口齧ると、ガモウさん以外が示し合わせた様に叫びを上げる。
「「「「なんじゃこりゃああ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」」」」
角煮の唐揚げです。
「もーキラくんは相変わらずだねっ」
姉はそう言って自分の取皿へ唐揚げ角煮を確保し始める。
この手の集まりなんかでは、冬前のリスの様に先に自分の領域へと食べ物を集める癖が姉にはあったりする。
そしてある程度確保するとゆっくりと味わう訳だ。
「うーん、これは年寄りにはちょっとアレだねぇ」
そう言いながらもガモウさんはムシャムシャ食べてる。いや年寄りって………。
「んまっ!んまっ!ごっごっごっごっ!んまっ!」
ミラさん酔いすぎです。
「これ、売れるか?いや、だが………」
なんちゃって料理に変な算段しないでヤマミさん。
「あぐあぐ………。キィちー、後で話があるっ!んぐんぐっぶふぃ〜。あぐあぐ、キィちー後で―――」
きっと自分のとこにある分も作ってという事だと思うけど、忘れてくれてるとありがたいな、キタアオキさん……。
そう居間には2.7Lウィスキーや一升瓶の空と缶ビ-ルの空き缶がいくつも転がっていたのだ。
どんだけ呑んでるんだ、この人等………。
料理もあらかた食べてしまった様で、空になった皿がいくつも重ねられている。
嬉しいやら残念やらという気持ちがちょこっと出る。
「キラくんの分もちゃんとあるから安心しなさい」
ガモウさんがそう言って隣を勧めてくる。
「ありがとうございます。失礼します」
差し出された取り皿には、こんもりと焼肉と野菜がごちゃ混ぜに入っていた。(もしかしてガモウさんも酔ってる?)
母さん謹製のタレで味付けされた焼肉は美味かった。
手前味噌ではあるけれど、他の料理もそれなりに美味しかった。(豚肉《素材》いいから当たり前だけど)
もしゃもしゃ食べながら、ごくはぐい呑みをガモウさんに渡して徳利を傾けて注いていく。
「!これは………」
そう声を漏らしてからくぃっと一気に飲み干す。そしてかぁーっと息を吐く。
空いたぐい呑みへ再び注ぎ入れる。
「じーちゃん秘蔵の古酒です。もういーかなって……」
小っちゃい頃お前が大人になったら呑むのが楽しみだと言ってたじーちゃんの笑った顔を思い出す。
その願いは果たされなかったけど、代わりにガモウさんにと言う訳だ。
「アイツの悔しがる姿が目に浮かぶね」
僕のぐい呑みにガモウさんがとくとくと注いでくれる。そしてそれをぐいと飲み干す。
白く濁ったトロリとした液体と酒精が口に広がり鼻へと抜け胃へと突き抜ける。やっぱきっつ。でも旨い。
「ごひほーはまれひあっ!ほやふゅみやさいっ!!」
姉が唐突に立ち上がりペコリと一礼して居間から出て行ってしまう。
あ~………許容量突破しちゃったか。ま、大丈夫でしょ。
「いいのかい?キラくん」
「はい。たぶん工房で休むと思いますので」
あとでララに確認しとこ。
最後はそんなまったりとした感じで酒宴が終了したのだった。
ガモウさんとキタアオキさんは、フラフラはしていたけど自分で部屋へと帰って行って、ミラさんとヤマミさんは迎えの人が来て連れ帰って行った。(アンリさんがミラさん担いで行ったのには驚き、ヤマミさんの迎えの男性が優しい眼差しをしてこちらに礼をして来たので思わず首を傾げたものだ)
祭りの後という訳で、一人残った僕はきっちり後片付けを済ませお風呂に入ってその日を終える。
翌日、いつもの日課を済まし姉と顔を合わせると、何故かニマニマと僕を見ているのでむっとしつつ朝食を終えて姉に抱きつかれてから(そのまま出かけて行った)後片付けを済ませて工房に篭もる事にする。
現在はウサロボのモーション周りの調整をする為、ラビタンズネストから赤髪のラインハルト―――ライさんを呼んでウサロボを動かして貰っているのだ。
「ライさんどうです?変なとこない?」
工房の中でウサロボを動かして貰いながら、その感触を訊ねる。
『うむ、もんだいはない。少しばかりつっぱるぐらいだ』
生成りののパーツのウサロボが歩ったりくるりと回転したりと、工房の中で動き回る。
そしてその周りをウリロボが駆け回ってる。
現実に来てもらってる訳だけど、ライさんが見てる風景はラビタンズネストのそれで、僕の姿は向こうでのPCになっている。
下手にこっちのものを見せてもアレなので、認識の齟齬を防ぐ為にだ。
ウサロボを動かすライさんの感覚というのは、全身タイツを着てるみたいな感じになる。
「うん。アクチュエータ―の可動域も問題ないみたいだな」
ウサロボから送られてくるテレメーターを眺めながら僕はそう結論付ける。
なんだかんだ言ってけっこー早くに仕上がったものだ。
いや、まだ外装とAIがあるから、そう安心は出来ないけど。
外装は自分でちくちく縫ってもいいけど、あの人に頼むのがいいだろうし(何しろ売り物だから)、あと残るはAIか。
「AIどうしよっかなぁ」
本来であれば基礎データを入れた状態で、主人と共にそれぞれの好みによって育成?するものなんだろうけど、果たしてそれでいいものなのかと思ってしまったのだ。
ユーザビリティを鑑みれば、ある程度のサポートは必要かなぁとも考えてしまう訳だ。
ああっ、そんなトリッキーな動きはっ!アクチュエータ―が焼けちゃ………まぁ負荷試験と思えば、ハイハイ記録記録。
「いやいや、ウリスケは対抗しなくていーから」
ライさんがバク転をしたのに対抗心を燃やしたウリスケを制止する。
そもそもそんな風にやれる構造にはなってないんだから。
『マスター、AIをどうするのです?』
ウサロボのモーションデータを整理していたララが僕の前にやって来る。
これはホロウィンドウを応用したもので、ララ自身の姿を投影したものだ。たから平べったい状態なのだ。平面ララだ。
本人がやりたいというのでやらせてるけど、多分気分的なものなんだろう。
僕が少しだけ搭載するAIについて話をすると、ポンと手を叩いてから右人差し指をピッと立てて言う。
『マスター!いーアイデアがあるのです。デザイナーズAIなのです』
あー、注文して希望のAIを作るってアレかぁ。とりあえず通販番組の聞き手っぽく聞いてみる。
「でもお高いんでしょう?それ」
『なんと今ならロハでやって貰えるのです。マウントはこっちの方が高いのです』
くっくっくーっと黒い笑みを浮かべるララに、一抹の不安はあるもののまぁいいかと頼んでみる事にする。
『任されたのです!』
『グッ!』
ビシッとララが敬礼をして来る。だからウリスケはやらんでいいって。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




