表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/244

157.とあるプレイヤー達の恋愛事情

24.の彼です

 

 

 久々のログイン。

 仕事が立て込んでいたせいでなかなかログインが出来なかったが、ようやく一段落したのでさっそくHMVRDを装着してライドシフトでVRルームへ。

 

 俺のVRルームは畳敷きの四畳半の部屋に、卓袱台と小振りの本棚が置かれた質素なものだ。

 はじめの頃はフローリングに4人掛けソファーにローテーブルだったんだが、次第になんか違うなぁと今の形に変えていた。

 今住んでる安マンションの部屋と似た様な風景だったからだろうか、なんとも落ち着かない気分だったのだ。

 

 男やもめ(今時言わないか)の部屋でもそれなりに掃除もしているので綺麗なものだが、まぁそれだけのもの。趣味といえばゲームだが、それも携帯できるものでソフトなんかは全部それに入ってたりするので、スペースを取るものもない。

 

 すぐに引っ越すつもりで、家賃も安かったせいもあり適当に決めたのだけど、学生の頃から早10年になる。

 次の更新はどうするかと少しだけ悩むところだ。

 最近は現実リアルであの3人(、、)に振り回されてばかりだったから、ってか気安くうちの課にやって来るのは正直やめて欲しいものだ。

 

 上司や先輩たちが何事かと見る見る。説明しようにもゲームが縁ではとは言い難い上、口止めもされてるのでどうしようもないという始末だ。はぁ。

 今日で彼等の連れ回しが一段落したので、とりあえずは御役御免という訳だ。

 

「怒ってるよなぁ……ミルフィ」

 

 しばらく会っていなかった彼女の事を思い、少しだけ憂鬱な気分になってくる。

 言い訳にはなってしまう。が連絡手段がないので仕方ないところもあったりするのだ。

 

 なんせ俺が付き合ってるのはNPCなのだから。

 

 彼女―――ミルフィアーネと会ったのは、ちょうど新規プレイヤーが入って来た頃だったと思う。

 会長、課長と部長が第1サークルエリアををクリアして種族クエストへと入った時点で、彼等へのレクチャーを終えたという事で俺はちょっとだけ解放された気分で第3サークルエリアへと向かった。

 

 有難い事にこの時のアプデでプロロアの街からの転移が出来るようになったので、俺は第3サークルエリアのある城の街―――通称キャスゥールへと転移する。

 魔人族である俺はデヴィテスの街にある種族の試練をクリアしているので、この第3サークルエリアへと入ることが出来てる。

 

 他にマップを埋めていってそこのエリアボスを倒す事でエリアクリア出来ると掲示板でカキコしてはあるが、ちょっと眉唾もんだと俺なんかは思ってる。

 それほど種族クエストは面倒で大変なものだと認識しているのだ俺は。(運営めっ!)

 とは言え、プロロアの時計台ダンジョンで味をしめた俺は、このキャスゥールでも都市冒険シティアドを求めて街の中をうろつくことにしたのだ。

 

 よもやあんなとこにイべがあるなんて思わなんだ。あれ面白かったよなぁ。

 時計台の中でギミックを操作すると、いきなり転移してダンジョンへと俺達は放り込まれてしまったのだ。

 課長達は初見なのにも関わらず、笑みを浮かべながら突き進んでいったのだ!怖い物知らずってオソロしい………。

 

 まぁだからこそ現実で成果を上げられるのだろうなどど、俺なんかは感じたりしたのだが。

 この手のゲームなんてのは、死に戻ってなんぼのとこもあるから妥当だといえば妥当なのだ。

 

 クリスマスに何の予定も入ってなかった俺は、そんな訳で従魔モンスターのルーパーと共にキャスゥールの街中を巡ってシティアドを探っていた。

 住人(NPC)に話を聞き、その最中に頼み事を請けたりしてそのイベを探り当てる事が出来た。

 

 もうNPCがNPCじゃなくなっている。マーカーを確認しないとNPCとPCの区別が付けられないぐらい人として生き生きしていた。

 あの3人のアテスピもそうだったけど、本当に染み染み思ったものだ。

 

 第3サークルエリアは東西に別れていて、門によって第2サークルエリアと隔てられている。

 景色は見えてるんだが、まるで透明の壁が前にある様にそこから先は行く事が出来ないようになっている。

 シームレスフィールドではあるが、この辺はきっちり区分けされている。まぁ低Lv帯で進んでもあっさり死に戻るのがオチなのだから当たり前ではある。

 

 何でこんな話になるかと言えば、俺がその時行った“城”の入口がここだったからだ。

 このキャスゥールという所は、フィールドのあちらこちらに城の様なダンジョン?(でいいのか)が点在している。

 PCはそこへ入って行って攻略をするのだが、そのキャスゥールの街中にも“城”があちこちにあったりする。

 

 小振りにしたヨーロッパ風の古城なんだが、誰もがそこへと入る事が出来ない事から、ただのオブジェだと認識されていた。

 俺はシティアドの探索も兼ねていろいろ街中のクエスト依頼を請けていて、その中で仲良くなったNPCの少年に助けを求められた。 

 

 「騎士のおねぇちゃんを助けて」と。

 

 そしてホロウィンドウが現れてイベントの発生を知らせてくる。

 “騎士見習いを救い出せ!”と来たもんだ。


 その内容は街の人間の消息不明事件が起きて、その調査を騎士見習いがしていると疑わしい場所を突き止めて消えた姉を探している少年と共に向かうと、少年を残してその騎士見習いがその場所へ吸い込まれるように消えてしまったという。

 そして騎士見習いの声が聞こえ聖天騎士様へとこの事を告げてくれと。


 しかし少年のその言葉は彼等には聞き入れられなかった。

 なんともあるある話だなぁと思ったものだ。

 救いのない状態で助けを求めて奔走する少年と、それに手を差し伸べる(PC)。ありがちといえばありがちな展開シチュではある。 


 ちなみにこのキャスゥールの街を治めているのが騎士で、南のテンプルォズは僧侶が、北のパルテノニアは神官がそれぞれその役割を担っている。

 そしてそれらのエリアには神殿と寺院のダンジョンが点在してるって訳だ。

 ベタだけどそれなりに楽しめてるって話だ。(俺はキャスゥールしか行ってないので)

 

 少年に連れられたその公園にその城はあった。

 いや城というか、城のミニチュアが置いてあった。どっちかというとジオラマか。

 そこからまぁ〜何やかやと謎解きや、ギミックを動かしたりして第2サークルエリアの門からミニチュアの城へと入る事が出来た。

 

 どうやらこの城のモンスターは全部オークのようでそれらを倒しながら奥へと進むと、おやまぁと言う光景が目に入って来た。

 そこには鎧と衣服をあらかた剥ぎ取られた女性NPCが、金と銀の皮膚を持ったオークにその片足を掴み取られぶら下げられていたのだ。

 識別すると、ゴルドゥオークとジルヴァオークと出た。

 

『ブフォォブフォフォ――――――ッッ!!』

「くっ!殺せっっ!!」

「……………」

 

 ………よもや、くっころを間近に見る事があろうとは、いやいや、そんな場合じゃない!

 俺は気を取り直し武器を構え、相棒ルーパーを見て頷きあって行動を開始する。

 

「“クロックアップ”ルーパー!」

「ガウッ!」

 

 時間制御スキルを発動しオークの時間を停滞させて、俺達はゴルドゥオークとジルヴァオークへと駆け走り手にした小剣―――マチェットを振り抜き、彼女の足を掴んでいたゴルドゥオークのその腕を断ち切る。

 そしてルーパーはジルヴァオークの喉元へとその牙で噛み付き千切る。

 

『『ブフォゾアァァアア―――――――ッッ!!!』』

 

 俺達のLvからすれば大した相手じゃなかった。

 【時間制御】スキル。これは例の時計台ダンジョンで手に入れたスキルで、任意で時間を速めたり遅くしたり出来るスキルだ。

 もちろん自身のパーティーメンバーや従魔モンスターにも有効なものだが、その時間は5秒間という使えるんだか使えないんだか(いや使えてるんだけどな)微妙なものだけど、こんな時にはとぉっても役に立ったりする。

 

 モンスターを倒した後、地面にうずくまり倒れる彼女を見て、俺は思わず目を逸らしてしまう。

 騎士の纏う鎧は剥ぎ取られ、その下の衣服もちょっと拙いと言えるほど引き裂かれていて、目の当てられない状態だったからだ。

 ここでまじまじと見れるほど図太くも無神経でもない俺は、メニューを開いてマントを取り出して彼女の肩へと掛ける。

 

 そしてようやくその顔を見る事が出来た彼女に、俺はしばらく見惚れてしまったのだ。

 流れるような長く朱が混じった金髪を後ろの方で1つにまとめ、白磁と言わんばかりの肌にすぅと通った鼻筋。普段あまり見る事のない美人さんだった。

 朱金の瞳がこちらを見据えて頬を染めていた。ん?

 

「あ、ありがとう。おかげで助かった………」

「い、いえ。何事もなくて幸いでした」

 

 彼女はマントの裾を手で押さえ身体を包みながら俺へと礼を言ってくる。

 半ば見惚れながらも、どうにかこうにか言葉を返して事無きを得る。

 日頃美女なんかとろくに会話をした事もなかったもので、正直腰が引ける思いだ。

 その時はダンジョンから脱出した後、少しだけ話をして別れた。

 もちろんイベントはクリアした。

 

 これがミルフィ――――ミルフィアーネとの出会いである。

 その後数日間なぜかミルフィと偶然によく会う事があって話をするようになった時、突然告白されてしまった。

 朴念仁である俺にも態度や視線に何となくあるいはと考えはしたが、まさかという思いの方が強かった。

 俺みたいな人間に、彼女のような女性が想いを寄せてくるなんてと。

 

 正直嬉しかった。NPCだろうと何だろうと。

 俺はその告白によろしくと口ごもりながらも頷いた。

 その時のミルフィの笑顔はすごく可愛かった。うん。

 こうして俺とミルフィは交際つきあいが始まったのだ。

 

 まぁ大人の恋愛には程遠い、ママゴトみたいなものだったが、全年齢対象(13歳以上)のゲームなので致し方ないと言うものではある。

 そんなこんなで年末年始はバカップルの如くイチャイチャと過ごしたのだ。うんうん。

 ミルフィは見た目の豪華さとは違って騎士という職業ゆえか、一途で可愛いところが多くみられてギャップ萌えをしてしまった。

 

 例えばこんな感じに。

 

 俺がミニチュアのある公園(まちあわせばしょ)に到着すると、ミルフィが体育座りで顔をうずめて丸まっているのが目に入る。

 

「ミルフィ!」

 

 俺が声を掛けると、そのままクルリと回転して背を向けてしまう。ありゃー……。

 俺はその背後にしゃがんでさらに声を掛ける。

 

「ごめんなミルフィ。なかなか来れなくてなぁ………」

「………ずっと待ってた」

 

 美人が頬を膨らませて可愛いく拗ねる表情を見せるというのは、何ともむず痒い感覚を思えてしまう。その対象が俺だと思うと尚更だ。

 

「うん、ごめんな………」

 

 俺がミルフィーの背にそっと寄り添うと、顔をこちらに向けて頬を赤く染めて囁いてくる。

 

「………して」

 

 もにょもにょ口を動かして言って来るのに俺も顔が熱くなる感覚に至りつつ聞き返す。(ここまで感覚を再現せんでもよかろうに、くぅ)

 

「聞こえないよ」

「………チューして……」

「うん………」


 夜の帳が下りているとは言え往来のある公園の中ではやっぱり恥ずいものがあるが、俺はミルフィへと顔を寄せる。

 

「ん………」

 

 その後ろではルーパーがやれやれと言った風にガフゥと鳴く。

 

 機嫌をなおしたミルフィとベンチに座りどう過ごしてたのかと聞いてると、フレンドコールが入って来た。

 誰だろうとホロウィンドウを見てみると、会長もといハッカイからだ。

 ミルフィに断りを入れてコールに出ると、頼みたい事があるのでプロロアの街まで来て欲しいとの事だった。

 しがない会社員はぐるまの身としては、否とも言えないので了承してコールを切る。

 

「ごめんミルフィ。ちょっと知り合いから頼まれ事して出掛けなきゃいけなくなった」

 

 俺がそう言うと今まで握っていた手(いわゆる恋人繋ぎってやつ)力を入れて頬を膨らませて聞いてくる。

 

「どこにっ!?」

「えープロロアの街」

「私も行くっ」 

 

 俺の答えに間髪入れずにそう返して来た。

 散々っぱら待たせた身の上としては負い目もあるので、ダメとも言えず結局2人でプロロアの街へと向かうことにする。

 

 今のミルフィは騎士職を返上して冒険者となっていた。

 軽鎧に似た胸当てと、細剣を履いている姿だ。プロロア辺りのモンスターなら瞬殺できる腕を持っている。

 

 プロロアの時計台広場に転移すると、会長がすでに待っておりその隣には新人ニューカマーらしき女性PCの姿がある。

 あれ?なんか彼女に見覚えがあるような………。

 社内なんかでよくすれ違う人によく似ている気がする。

 

「おじぃ……ハッカイさん。この方が?」

「おう!ジクスだ。この子はエナじゃ。と言う事でこの娘にこのゲームのレクチャーをして貰えんかな?」

「え?へ?」

「むぅ……!」

 

 ミルフィがエナと呼ばれたPCを軽く睨むと、それに呼応するように彼女も睨み返してくる。

 バチバチと彼女たちの間に火花が散る幻覚が見えている。あと背後に虎と龍。

 え?なにこれ!?

 会長笑ってないでちゃんと説明プリーズっ!!

 

 

 


 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ