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155.キラくんの行動を観察する その28


 

 サキサカ アヤメ20歳。

 経済学部3回生。

 北の地方出身で成績は常に上位をキープ。

 家族構成は父母祖父母に姉妹あねいもうとの7人家族。

 

 これが今分かってる彼女の身上だ。

 青味がかった黒髪を緩く三つ編みにして括っている。

 可愛いっていうより綺麗なお姉さんって感じのだ。


「ぶふぉっ!?」 

 

 あたしの言葉にアヤメちゃんが思わずうどんを吹き出す。

 ちょっときちゃない。やっぱ突然過ぎたか、てへ。(当然こっちのトレーは回避済みだ)


「しゃしゃじゃぎしぇんしぇっ!?」

 

 ん?なんか名前呼ばれた気がしないでもないが。

 アヤメちゃんはあたしの事を目をまん丸くして凝視している。なんか顔についてるのかな?

 

「あぅあぅあぅー………」

 

 あたしが鏡で顔を確認してる間も、アヤメちゃんは何故かあぅあぅいっている。本当にどうしたのやら。

 あたしが改めて詳しく話をしようと口を開いた時、後ろの方から声が聞こえて来た。

 

「あっ、アヤみ〜ん!いたいた!」

「あ、イサハヤさんっ………」

 

 あわあわと動揺していた顔がすぅと普通へと戻り、あたしの後方へと声をを漏らす。友達かにゃ?

 そしてその子はアヤメちゃんの前にやって来て言葉を交わす。

 

「アレ助かったわ!おかげで何とか稼げたよ」

「そっか、良かった………でも」

「うんうん、分かってるって。誰にも言わないから、じゃっねぇ〜」

 

 あたしの方をチラと見たイサハヤちゃんとやらは、そのまま手を振り去って行った。

 ちょっと表情を暗くして彼女へと答えたアヤメちゃんは、ちょっとだけ俯き加減になってうどんを見つめる。

 まぁ何となくには内容が理解できるかな。

 

 おそらくイサハヤさんは、デイトレでアヤメちゃんに儲かりそうなものについて訊ね、それに応えた結果があの会話なんじゃなかろうか。

 んで、その事で被害者?たるおじーさんおばーさんの事を思い出したのではないかと推測する。捕まるとか?

 チワワンがアヤメちゃんに食って掛かっ(キャンキャンほえ)ていたら或いはそんな未来があったかも知れない。何気にあたしのファインプレー?いんやチワワンの珍プレーの方がしっくりくるな。うん。

 

 何にせよ、素うどんだけじゃ身体も保たないだろうから、おにぎりの載った皿をアヤメちゃんおトレーへと置く。

 そして改めて自己紹介だ。

 

「よかったらどうぞ。はじめまして、あたしはササザキ サキと言います。あなたのことはサキ違いで知る事となったの。まずは食べましょ。話はそれから」

「………はい」

 

 しばし呆然としながら、アヤメちゃんはおにぎりを頬張る。

 あたしは箸を手に取り角煮を埋めて麺をかき混ぜていく。

 ちなみにおにぎりラーメンセットBは三角おにぎり(梅&コンブ)が2つと、角煮ラーメンがセットになったもの。

 んでAセットはそれがラーメンに変わったもので、その分Bセットよりお安くなっている。

 

 この食堂で1番安いのが半ライスで、その次が素うどんだ。

 うん、中細麺だけどそれなりに美味しい。

 ゴマの風味がついてるシナチクも香り食感共に文句なし。

 それなりに厚く切られた角煮も、口に入れるとホロリとほぐれ肉汁が広がる。

 キラくんのゴハンには敵わないけど、なかなかの逸品だ。

 

「サしゃ…ザキ先生………。サキ違いとは何でしょうか?」

 

 意を決したという表情でアヤメちゃんがあたしに聞いてきた。ん?何で先生呼ばわり?

 

「ん〜……それは後でね。それよりこの後時間ある?午後から何コマか講義とかあるんだったら夕方待ち合わせるけど?」

 

 あたしもかなり不躾な事やってる自覚はあるので、アヤメちゃんの都合を聞いてみる。

 

「い、いえ、今日はもうありません。ただバイト探そうと思ってて………」

 

 ほほぅ。これは好都合というものじゃなかろうか。ではこのまま同伴出勤とシャレ込みましょうか。

 

「じゃ、ちょっとあたしに付き合って。もちろんバイト代は出すすわよ」

「!はいっ、分かりました」

 

 バイト代と聞いて意識をしゃっきり切り替えうどんうをずぞずぞアヤメちゃんがすすり始める。何をやるにしても食べなきゃダメなのだ。

 食べ終えたあたしとアヤメちゃんはそのまま食堂を出て外へと向かう。

 門を出るとすぐに自動送迎車がスゥとあたし達の前に停車する。事前にレリーが呼んでおいたものだ。やるね、レリー。

 

「はい、それじゃ乗って乗って」

 

 開いた後部ドアからアヤメちゃんを押し込んであたしもそれに続く。

 車はドアを閉めると、すぐに発進する。行き先はバンゲさんとこだ。

 

「あの………さっきのサキ違いって……」

 

 しばらくするとアヤメちゃんが再びあの事について訊ねてきた。まぁ、あんな事言われりゃ気にならない訳がない。

 車内はいわば密室だ。今はレリーが車を操作してるので問題ない。

 てな訳で、昨日からの事をアヤメちゃんへと話していった。

 

「す、すみませんでひたっ」

 

 シートに(靴を脱いで)ぴょんと座りいきなり土下座を始めるアヤメちゃん。おぅふ………びっくりしたぁ。何気にシートベルトが食い込んでいる。苦しくないんだろうか………。

 

「まぁ、赤出していきなりいなくなったのはあまり褒められたもんじゃないけど………。それよりも皆さんあなたの事を凄く心配してたよ」

 

 そう、あのおじーさんおばーさん達は急にいなくなったアヤメちゃんをそれはそれはすんごく心配していたのだ。会いに行った全員が全員とも。

 アヤメちゃんはあの街(GBタウンという言い得て妙な………)で介護関係の臨時バイトに入って家々を巡ったそうな。(そのほとんどが話し相手だったらしい)

 

 その中で孫にプレゼントを買いたいが資金がちょい足りないというおじーさんが言った事が始まりで、私が何とかしますと安請け合いしてしまったのが運のつき。

 その後あれよあれよと皆が資金を提供してきて、かなりの額になってしまった。

 

 そこで普段通りに取引をしてればよかったのに、欲をかいてグレードを上げて投資をしてしまい結果はご覧の通りという訳だ。

 慌てて売り戻しをしたのはいいが、とてもすぐには払えない額の赤を出してしまってそのまま逃げ出してしまったというのが事の顛末だ。

 

 アヤメちゃんにとっては初めての厳しい洗礼を受けたってとこかな。

 そして何で彼らがサキちゃんと呼んでいたのかといえば、自己紹介の時に名前を名乗ったにもかかわらず、何故かその様に呼ばれるようになってしまったとか。(何じゃそりゃ)

 

 よくよく考えてみればバイトで来てたんなら、そっち方面から調べればあたしじゃない事は一目瞭然のはずなのだ。

 チワワンってば一体何考えてたのやら。(よく司法試験受かったもんだわ)

 

 あくまでおじーさん達の話と入手したデータ等からのあたしの推理だけど、それ程間違ってはいないと思っていたが土下座したままのアヤメちゃんは大体そんな様な話を語っていった。

 

「わたし怖くなって逃げちゃいました。今までは額も小さかったし自分のお金でやってたんで、そんな事気にも留めてなかったんです」

 

 取引金額の上昇と共にグレードも上がる。だけどその売買の方法しかたもとある一点を超えると様変わりする。

 これはトレーダーあるあるで、ここで上に上がるかそのままくすぶる―――いや、現状維持するかの分かれ道になったりする。

 よくある事なんだけど、学生さんにはちとキツイもんがあるのは否めないかな。

 そんな事をやってる内に車はバンゲさんのところに到着する。

 

「はいはい。あたしに謝られてもしょーがないから、これからの事を話しましょうか。まず降りてついて来てね」

「………はい」

 

 倉庫街の一角その倉庫の1つに行き、レリーによってセキュリティーを解除されたドアを通り中へと入る。

 

「ふわぁ………。これは……?」

 

 倉庫の中に林立するコンテナの群れを見て驚きを漏らすアヤメちゃんの声を聞きながら、あたしは自分の部屋へと向かう。

 

「どうぞ」

 

 ロックを解除してアヤメちゃんを中へと誘う。

 

「うわわっ!すご…………」

 

 中を見たアヤメちゃんが新たに驚き表す。

 さてさて悪魔の囁き(かんゆう)を始めましょうか。

 

「それじゃ、ここに座って。説明するから」

 

 あたしはアヤメちゃんの人物特定をしてから、レリーにお願いして色々調べて貰っていた。

 他のところは問題なく調べられたのだけど、あのガッコーだけはなかなかに骨が折れてしまったそうだ。

 学内の管理を一手に引き受けていたAIがいたのだ。

 

 フーちゃん3号と名乗ったそのAIは、「キラさまのお姉さまの頼みでは仕方ないデガス」と言ってしぶしぶであるが許可を出してくれたらしい。

 なんでキラくん?と思ってたら、彼女はララちゃんが作ったもので、最初はゼミ室の管理をしていたものがいつの間にやら学内全部の管理をする様になったとか。訳分らん。

 

 そこで判明したのがアヤメちゃんは経済学部に在籍していて、ファイナンスソリューションという学科で実際のデータをもとに売買取引のシミュレーションをやっていた。

 小口取引とはいえ学科の人間はそれなりに利益を上げていたんだけど、アヤメちゃんだけは別格で群を抜いて多くの利益を上げていたのだった。

 

 この手の格言にタイ焼きの頭と尻尾はくれてやれなんて言うのがあるんだけど、要は最高値と最安値になる前に売りなさいって話だ。

 人間欲が絡むとどうしても諦めるという事が出来なくなってしまう。

 まだ上がるまだ上がると油断してるといきなりガクンと値下がりしたり、きっと下がり止まって上がるはずだと我慢してると酷い赤を出してしまったり。

 この辺の見極めが重要になってくるのだ。(あたしは利益確保したらすぐ売っちゃうけど)


 そしてアヤメちゃんはそのシミュレーションの中で全て最高値で売り抜けていたのだ。

 本来ならあり得ない話だ。現実的ではない。そして実際の取引記録を見ても同様だったのだ。

 その事にあたしは感嘆の声を上げたものだ。

 小口売買の取引グレードではアヤメちゃんは無敵といってもよかった。

 

 だからこその失敗だったのだろう。これを取り返す機会はある。そう、あたしがその機会を作ってあげようと思ったのだ。

 

「――――という訳で、アヤメちゃんにはここの機材を使ってあたしの代わりに仕事をして貰いたいって話。もちろんアシスタントとして使える要になるまではサポートするから」

 

 どう?とアヤメちゃんを見やると、おずおずとしながら上目遣いであたしを見てから聞いてきた。

 

「なぜわたしなんでしょうか………?先生ほどのお方ならもっと優秀な人を選べると思うんですが………」

「?なんであたしが先生なの?よく分かんないんだけど」

 

 あたしがそうアヤメちゃんに訊ねると、え?なんで?という顔をしながら理由を説明してきた。

 

「え!?だってあの顧客に絶対損をさせない完全無損の魔女とか。伝説の仕手師に真っ向から相対して、負けなかったとか。いっぱいいっぱいわたし話を聞きました。その様な方を先生と呼ばずに何と言えというのでしょうかっ!!」

 

 え?何!?その漫画とかラノベにありそうなヤツ………。確かに損はさせてないし、たまたまブッキングしたからちょっとムキになった事が昔あったけど、そんな風な話になってるなんて思いもしなかった。

 あたしがうえ〜って顔をしてると、慌てた感じでアヤメちゃんが両手をフリフリしながらフォローする様に言葉を重ねる。右肩に流してるゆるフワ三つ編みが揺れる。

 

「私がその話を聞いたのは、商業組体ソサエティーの人からだったんで、それ程出回ってる話じゃないです。あ、すみません………」

 

 むぅう〜、つまんねーことを吹聴しやがって………まぁいい。とは言え先生呼ばわりはちょっと背中がむず痒くなるのでやめて欲しいところだ。

 

「先生はヤなんで名前で呼んで下さい」

「えぇ〜………」

「え〜じゃないですぅ。ほら名前〜」

「さしゃじゃ………サキ…さん?」

「うん、よろしい」

 

 そんなやり取りの後、何でアヤメちゃんなのかをあたしは説明する。

 

「ん〜ひとつはあたしが気に入ったから。ひとつはアヤメちゃんの可能性を直で見たいから。後は面白そうだから?」

「………何故最後が疑問形なんですか?」

 

 ちょっとは馴染んできたかな?と思いながらあたしはアヤメちゃんに確認する様に訊ねる。

 

「で、ちょっと確認なんだけど、小口取引の時ってどういう基準で売買してたの?やっぱりデータ?それとも情報クチコミかなんか?」

「どちらかと言えばデータ?ですね。気になったもののチャートを見てると何となくそうかな?って感じですね」

 

 いや、データじゃないよっ!勘だよ、第六感だよっ!!

 たまにいるんだよね!本能とか右脳で何となく解答を出しちゃう感覚肌の人間て。

 さてとこれまでの会話で、アヤメちゃんの人となりは少しだけ把握できたと思う。

 後はアヤメちゃんお答えを聞くだけだ。

 

「さて、アヤメちゃん。あたしのアシスタントやってみない?学業の合間にここで作業をして貰って実時間給でこれくらい。あとアヤメちゃんが儲けた分はそのまま報酬にって感じかな」

 

 あたしは指で金額を示し、研修期間用の資金とその取り扱いについて説明をする。

 

「あとGB(グランドブレス)タウンに行って皆さんに説明するってとこかな」

「………はいっ。えーとお世話になりたいと思います。よろしくお願いします、せ……サキさん」

 

 アヤメちゃんがペコリと頭を下げて了承してくる。よしよし。

 ちょうど人手が欲しいとこだったんだよね。決してキラくんとゲームがしたいからではない。本当だよっ!

 この後システムの使い方や、データの読み取り方などのレクチャーをしてこの日は終わる事とした。

 

 あたし達が部屋をでたとこにちょうどバンゲさん達がやって来て、その子は誰と聞かれえっへんって感じでアシスタントに採用したと言うと、その場にいた全員が目を白黒させて驚く。

 そりゃあ一匹狼気取ってるとこはあるけど、そこまで驚かんでも良かろうに。むぅ。

 

 そしてあわあわ言ってるアヤメちゃんを連行する様に引き連れて、歓迎会と称した飲み会へと行ってしまった。ちょっと悪いとは思ったけど、バンゲさんもいるし酷い事にはならないだろう。うん、頑張れアヤメちゃん。

 

 愛車を取りにミラの会社へ行くと、そこに台車を押してタジマが現れた。

 

「あ、サキさ〜〜ん!ちょうど良かったぁ。これ持ってって下さい。お裾分けですっ」

 

 どっこいしょと台車に載っていた箱を1つ手渡される。おもっ!

 あたしがなんとか箱を支え持っていると、タジマが説明をしてくる。

 

「移植用豚ちゃんのお肉です。流通させるほどないんで、とりあえず身内だけにって送ってきました」

 

 ほほぅ。タジマん家で始められた移植用養豚は、それなりに上手く行ってるみたいだ。

 腰を痛めない様に気をつけつつ後部席へと箱を押し込んで、運転席に乗り込み愛車を起動させる。

 うんっ!これはキラくんとこに行って豚肉を食べろっていう神の啓示に違いない。

 さっそくキラくん成分を補充に愛車を走らせる。

 

 お肉を持ってアパートへ突貫すると、キラくんが丸まって悶え転がっている姿が目に入って来た。ん?どしたん?あ、叫んでる。

 笑って誤魔化すキラくんを追求しようとしたところで、耳聡いミラやアパートの住人が乱入してきて、焼肉パーテティーという酒宴が始まってしまった。後できっちり問い質さなきゃね!

 

 



 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

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