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151.派生アーツをつかってみよう

   *

 

 

 それは一瞬の出来事であった。

 

 普段通りに隠れながら戦いの様子を見ていたのだが、こちらに向けて弓を構えるエルフの男の姿に少しだけ焦りを覚える。

 あれだけ大口を叩いていたガルデモは、自慢の防具を破壊されあっさりとその身を散らして逝った。

 結局奴は口ばかりで何の役にも立たぬモノであった。

 侮蔑の念を浮かべつつ他の戦いを見やる。

 

 我が召喚したツインスピアボーアーーーオーギュシーザと、互角に戦っている赤のスピアボーアに対して称賛と怒りを感じてしまう。

 何故あれほどのモンスター(もの)が我のものでないのか、何故あんなつまらぬエルフなどに従属しているのかと。

 

 オーギュシーザの力を疑ってなどおらぬが、何ゆえあの小娘を先に始末せぬのかと思わず苛立ち歯噛みしてしまう。

 この一帯は我が構築した魔法により、神の慈悲(リタンソール)は効力を発揮できなくしているのだ。

 時間制限はあるものの、あれだけの村人(MP)を使っているのだ。未だ時に追われる事もない。

 

 そしてストーンゴレムの方も同様に攻めあぐねている。

 何だ!あの女はっ!

 あまりにも多くの代償を以って召喚よびだしたあのストーンゴレムの攻撃を、軽々と容易く剣などでいなすなど、ありえない話なのだ。

 

 それに奴も奴だ。あの女でなく周りの者共を先に弑してしまえばいいものを、忌々しい限りだ!

 近付いて指示を与えればいいのだが、さすがに今動くのは得策ではない。

 そもそも本来であれば、ここまで出向く予定ではなかったものなのだ。

 なのに何か不安の様なものが、我の胸の奥を過りここへと来てしまっていた。

 

 しばらく様子を見て判断を下すしか無い。それを鑑みれば来てみて正解ではあったのだろう。

 幸いエイヴズには後続を任せてある。時間が来れば合流する事となる。もはやこちらの有利は揺るがぬのだ。

 時間が全てを解決するのだと我知らずほくそ笑んでいると、先ほど弓を構えていたエルフの男が再び弓を構え始めた。

 何を考えているのかは知らぬが、もしこちらを狙っているのだとしても弓では矢もここまでは届くはずもない。

 

 愚かな事をと男を見ていると、矢を番えた様子もないのに弓弦を引き絞りだす。

 すると弓の中央部がパァと光り輝き出す。

 寸の間輝いたと思った次の瞬間、身体むねに痛みが走る。

 その部分を見ると、光り輝く矢が胸とその部分に収めてあった魔導具を貫いていた。パリンと魔導具が砕け中で蓄えられていた魔力の奔流が、ドンと溢れだしそれに呑み込まれ僅かな声を上げる事しか出来ず我は命を失った。 

 

 気づくと周囲は暴走した魔力の威力により焦土と化し、我は顧みのはざまで黒焦げとなった自身のその身体を茫洋と立ち尽くし眺め見る。

 あまりにも呆気ない最期に何も言葉に出来ずにいた。が周囲に収束し始める魔力を目にして我に返る。

 まだだっ!まだやれる事はある。

 

 この魔力を使い、せめてあやつ等を屠ってやれねば気が済まぬ。

 懐から羊皮紙と羽根ペンを取り出し、そこは術式を書き込んでいく。

 この地に展開していた術式を書き替え、そこに組み込んでいく。

 要は魔術式とは命令コマンドから実行タスクを繰り返し行う。火に薪をくべる如く行うものだ。

 

 む、ツインスピアボーア(オーギュシーザ)との盟約が途切れたか。急がねば。

 全ての魔力(MP)ストーンゴレム(やつ)へと注ぎ込めば、暴走と狂躁へと意識を奪われ破壊の限りを尽くすに違いない。

 いや、或いは我自身の存在データも注ぎ込めば、我自身の手であのもと達を弑する事も叶うか。

 

 すかさず羊皮紙へと術式をつらつらと記していく。

 そして書き終えた術式プログラムを空中へ放り投げ起動さ(はしら)せる。

 我が知らぬ言語を何故か理解している。なんだこれは?

 術式から文字列が剥離し、やがてそれぞれが指定アドレスされた場所ルーチンへと組み合わせられ魔術陣が完成する。

 

 そして途切れる寸前の契約の糸(アルゴリズム)へと吸い込まれ、我の意識もそこで飛び散り霧散していく。

 この時世界を造る別の世界の存在をほんの一瞬垣間見た。ああ………光がーーー

 

 

 

   *

 

 

 それぞれの左右の足に1つづつの穴。大腿部の中程迄が地に沈み込んでいるゴレムの姿を見て、僕はほぅと感嘆の声を上げる。

 実際関節が曲げる事の出来ない状態では足を上げる事も難しくなってくる。(いや出来ないだろう)

 これで後やれることといえば、両手を付いて這いずることで足を抜き出す亊ぐらいだけど、その手がララの魔法で穴に埋まれば二度と脱出することは不可能になると思う。

 

 まさに職人芸。

 

「ララ、極めたね!」

「いえなのです。まだまだ奥が深いのです」

 

 何ともストイックというか、まさに求道家と言ったところか。 

 

「まさか………こんな事が………」

「くっ、彼奴の執念か……」

「しつこいデス………」

 

 ナチュアさん達がそれぞれ憎々しげに言葉を漏らしている。

 

「どうかしたの?ナチュアさん」

 

 その様子に僕が訊ねると、ナチュアさんは衝撃的な発言をした。

 

「かのゴレムの姿形は、先ほどラギさんが倒したロヴィオット家当主のものなのです」

「ええっ!?」 

 

 一体どういう事なんだろうか。いや待てよ?ポゼッションってのは確か憑依とか乗り移るなんて意味を持ってた様な記憶がある。じゃ、もしかして?

 

『ぉぉおおぅ、おぉおぉおおぉぉぉーーーーーーっっ!!』

 

 その赤黒いゴレムは、身動きの取れない状態に苛ついたように上半身をを左右に振り回しながら吠え叫ぶ。

 

「おそらくアレは己のそんざいを糧に、あのゴレムへと注ぎ込まれた結果だと思うのです。どの世界(、、)でも人は人なのです」

 

 ララはまるで老獪に達した人の様な視線で、そう言い捨てる。拾い上げる事も救い上げる事も出来ない存在もの。どうやったとしても相容れない人間なんてものは現実でもままある。

 まぁそれも社会に出ると押し殺すというか、自身で納得させる形で順応していくものだと僕なんかは思っててる。

 多分僕なんかもそう言う外れ者の部類に入っているのじゃないかと、何となくだが感じてたりする。それを為せない人間もいるという事だ。

 

 ただこの人物と僕とが同類かは別問題だけどね。

 僕はああ言う姑息な事をする人間じゃないと思っているからだ。

 もし僕が同じ立場だったとしたら堂々と前に出て戦いに挑む事だろう。

 きっとそれが僕の道なのだ。

 

 行動が制限されるという事は、それだけ選択肢が狭められる事に他ならない。

 理由はどうあれ、僕達はあの存在(あれ)を認めるわけには行かない。

 そして僕達は一歩足を踏み出す。元凶を倒す為に。

 

 戦闘自体は大変という事は今はなかった。

 身動きの取れないゴレムに対して、背後から攻めていけばいいという話だ。

 ただそんな単純な話だとしても、相手のスペックが高いゆえに時間がかかるという事は目に見えるという話だった。とにかく硬い。

 

 レイさんが正面でゴレムを相手取り、その拳から繰り出される攻撃をいなし弾いている間に、僕とプロメテーラさん達でその背後を攻撃してるのだけど………。

 んやぁ………埒が明かない感じだ。

 

 ガツンガツンと手応えは感じるものの、果たして効いているのかと疑いをかけてしまうのは仕方ないかな。うんHPは減ってるよ、ちびっとだけど。

 ここで僕が何を出来るかといえば、何だろう?

 

『がぁああああぁ――――っっ!!』

 

 ゴレムが雄叫びを上げ、ぶぅんと拳が飛んで来た。いわゆる裏拳ってやつ………うぇっ!?上半身が180度回転してこっち側を正面にしてゴレムが対峙してきた。

 

『があああぁぁああっっ!!』

 

 そして僕へ向けて拳を打って来る。迫力パないです。それを後ろへ飛んで何とか躱す。

 見た目人なので、上半身と下半身が逆向きってのすんごいキモいんですけど!

 

「“グランディグ”!」

『ごがぁああっっ!!』

 

 ララの放った魔法がゴレムの身体をズブんと股下まで沈み込ませる。それに苛立ち叫ぶゴレム。(どうやら股間で地面を支えてるようで、ますます抜け出せなくってる感じだ)

 

「ララ、ナイス!」

「はいなのです。足が届かないくらい深くしたのです」

 

 まぁ逆にこっちに手が届きやすくなったので、その手の範囲から少しだけ逃れるように後退する。

 僕を捕まえようと腕を振り回し指を伸ばしてくる。ちょっと怖いのでも少し下がる。

 これあれだよね。小学生とかが首輪で繋がれた犬とかにちょっかいかけて、リードギリギリのところで揶揄(からか)うやつ。(昔は度胸だめしって言ってたっけかな)

 小学生の時、学校帰りでそんな事をやってるやつを見た事があった。

 まぁこっちは迫力半端ないけどね。

 

「“サミダレ突き”」

「“エキスバインドインパクタ”」

『がぁあららららっっ!!』

 

 僕が相手してる間にゴレムの背後?に移動したプロメテーラさん達がアーツを放って攻撃を繰り出す。

 その衝撃にゴレムが仰け反っった。

 

『ごぁあっっ!』

 

 正気を失ってるので、攻撃されるとそっちの方に意識が向かうらしく、上半身をグルンと回転させてプロメテーラさんの方へと身体を向ける。きもっ。

 

『ぐぁあっっ!ごぁああぉぉっ!!』

 

 ゴレムが拳を振るうも、その時には届かない範囲へと退避している。

 僕も殴るだけしか今のところ出来ないので、何とも時間がかかりそうな気配だ。(弓を射っても大してダメージは無さそうだし………)

 そこへ雨粒がポツリと頬に当たる。またスコールが来そうだ。

 

「マスター、せっかくなのでさっきのアーツを使ってみてなのです」

「あぁ、なる程。びみょーだと思うけど、使ってみようか」

 

 ララの言葉に従って、さっき取得したばかりの派生アーツを使ってみる事にする。効果あるといいけど。

 ちなみにウリスケは街道を僕達の様子を見ながらうろうろしてたりする。(攻めようがなくて困った感じだ。ナチュアさんとティエリアもそんな感じ)

 

「“アクアヒール”」

「!?」 


 突然レイさんが僕へ向けて回復魔法を唱えてきた。

 どうやらHPが減った僕に対して回復をしてくれたようだ。気づかなかった。

 

「ありがとうございます、レイさん」

「はいはい、回復担当ヒーラーですから、わたし」

 

 2本の鉄棒を振り回しながらニカリと笑う。どこがとは決して言うまい。

 

「ララさん、ちょっとお願いが―――」

「はいなのです?」 

「―――の、HM―――を」

 

 そしてレイさんがララへと近寄りこそこそと耳打ちしている。

 何を話しているのかはよく聞き取れない。いやいや、それよりもこっちの方だ。

 攻撃を避けて当たっていないにもかかわらず、なのにダメージを受けていたってことなのだ。

 という訳でちょっとだけ戦いを観察する事に。

 

 レイさんが一旦戦線を外れているので少しばかり苦戦してるっぽいけど、それなりにダメージを与えられてるみたいだ。

 

「ん?あれって………」

 

 その戦闘中に気付いてしまった。ゴレムが拳を振り回す度に衝撃波というか、そんな似た様なものが噴き出している事に。

 あれがおそらく僕達にダメージを与えているんだろうと推測できた。

 その範囲は拳が振るわれるエリアみたいだ。拳をギリで躱していたのではダメージを受ける。それに背後にいる僕には全くダメージがないのだ。

 何かエネルギーの余波の様な何かじゃないかと思う。

 これは長期戦なんて言ってる場合じゃないと、今更ながらにひしひしとその身に迫る感じがした。

 

「よしっ!やるか」

 

 そして僕はゴレムの背後に静かに接近し派生アーツを放つ。

 

「“ヴァイビートクラップル”」

 

 クラップって叩くとか拍手だったっけ。

 僕がアーツ名を告げると、ゴレムの背中に全部で13コの青色の丸印が現れた。大きさは僕の掌ほど。

 中央に1つ、その周りに4つ、そしてその外側にさらに8つの合計13。

 それからポツポツ降り始めた雨粒がまるでスローモーションの様にゆっくりと落ちてくる。

 何?この不思議現象は。

 

『Ready?Go!』

 

 どどこからかマシンボイスが聞こえたかと思うと、丸印が1つ光リ出す。

 なる。これを打てって事なんだなと僕はすぐに反応してそれを打つ。

 すると別のところが光り、そしてそれを打つ。

 

 ガガガガガガガン、ガガガガガ!

 

 なんて言うかいわゆるリズムゲー(やったことないけど見たことはある)っぽいけど、感覚的にはモグラ叩きゲーに近い感じがする。

 周囲がゆっくり動く中で、ひたすら丸印へ拳を打ち込んでいく。

 

ピロコリン!

『Clear!』

「あっ!」

 

 SEと声が聞こえると丸印の大きさがひと回り小さくなった。でもその変化にミスをしてしまい光った丸印を見逃してしまう。

 

ブッブーッ!

『Failed!』

 

 その声が流れると同時に時間流れが元に戻る。そしてゴレムの背中の一部がパァン音を立て弾けて表面が剥離した様に消えて行く。

 

『がぁあぁぁあああ――――――っっ!!』

 

 痛覚があるかは分からないけど、そのダメージでゴレムが声を上げて身体をグルリとこちらに回転させてきた。

 

「うおおっ!」

 

 僕は慌てて回避行動を取る。倒れながら後ろへとデングリ返りだ。あ〜、危なかった。

 

『ぐぉお………!くぁぁああぅうっっ!!』

 

 叫びながら腕を伸ばしてくるゴレムに対して、僕はもう1つの派生アーツを試みる事にする。

 

「えーと。“ギロチンヴォーパル”」

 

 僕が告げると、右拳を後ろへと翳しそのままゴレムの手前へと振り落とす。そこへ直前に白く光る長方形の刃が手前に現れ、拳の動きに合わせてズドンと下へと落とされる。

 

『ぁああぉがっっ!!』

 

 前腕部の中程に当たったその刃は、あっさりとその腕に弾かれてしまう。

 ありゃりゃ、やっぱ首じゃないと効果がないってことなのか?

 なんせギロチンにヴォーパル―――断頭台と首狩りってな何とも物騒な名前出しって、ん?もしかして………。

 

『あぁがぁぎゃあぁぁっっ!!』

 

 ゴレムの背後でプロメテーラさん達が、僕がダメージを与えた背中部分へとアーツを放って攻撃をしている。そしてグルリと回転。何とも忙しない。

 僕に背中を向けたところで、|ヴァイビートクラップル《アーツ》を放つ。

 今度は2段目まで打ち続ける事ができ、背中の半分近くを剥離させる。

 そしてまたまたグルリと回転してきたところへ、僕は数歩下がって伸ばされてきた手“首”を狙ってギロチンヴォーパルを喰らわせた。

 

『ぎぃやぁぁあああぁ〜〜〜〜〜っっっ!!』

 

 バッキーンと右手首が切断されて宙に放り飛ばされパリンという音と共に光の粒子となって散って行った。やった、思ったとおりだ。

 ゴレムは痛そうにに腕を押さえ叫び悶える。

 

 そこへ畳み掛けるが如く、プロメテーラさん達のアーツがゴレムの背中へと炸裂する。

 ドガガンと激しい音と衝撃にゴレムが仰け反る。


「グッグッグーーーッ!」

 

 そこへウリスケが空を蹴りながらゴレムの後頭部へと体当たり。おおっウリスケ、ナイスっ。

 堪らずゴレムがドンと腕をつく。よし!あともう少しだ。もちろん倒れる前に後退済みだ。

 

「“グランディグ””グランディグ”っ!」

 

 すかさずララが地面に着いた腕へと土魔法を放ち、完全に動きを抑えて混んでしまった。

 僕はアーツを放って減ったMPを補充して再度アーツを放とうと構えると、目の前のゴレムが低く唸り声を上げ言葉を発する。

 

『ぎぃ……ざまらぁ………ごぉ…ろぉー……ずぅうぅ………』

 

 そして額の瞼が徐々に開き始める。

 

「マスター!危険なのですっ!自壊魔法が発動するのですっ!!急いでなのですっ!!」

 

 ララが慌てた様子でそんな事を言ってきた。自壊?って自爆って事か!?

 奴の眼が開き切る前に倒せって事?くっ、やるしかないか。

 

「“ギロチンヴォーパル””ギロチンヴォーパル”!!」

「“ツイィンスラッシュ”」

「“サミダレ突き”!」

「「「うおおおぉお―――――っっ!!!」」」

 

 ララの警告に僕とプロメテーラさん達でアーツを放てるだけ放って行く。

 

『っぎぃやあああぁぁ…………ああっっ!!』

 

 僕のアーツの一撃がゴレムの首を跳ねると、断末魔の叫びを上げてその身体は光の粒子となって消え始める。

  

『ひ……かりぃ……へ……』

 

 そして跳ね飛んだ頭部はレイさんの足元へと落ち何事かを呟く。

 その頭部へレイさんは二言三言を言い放つと、ゴレムはそのまま額の瞼を閉じて、光の粒子となって掻き消えて行った。

 スコールがざぁと降り始める。

 

 そこへSEが鳴ってホロウィンドウが目の前に現れ、戦闘の終了とリザルトが表示される。あ、Lv上がった。終わった。ふぃ〜。

 こうして僕達はなんとか襲撃者達を撃退する事が出来たのだった。

 あ〜しんどかった。

 

 



 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます!ガンガリます (T△T)ゞ (ウォオオー)

お気に登録ありがとうございます!他のもガンガリます! 

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