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148.鎧男と槍猪と石巨人

(ー「ー)ゝ 今回はラギ、ナチュア、レイの一人称でお送りします

      バラけたので

 

 

 

 湿原のぬかるみに足を囚われる事もなく、本当に滑る様にこちらに向かってくる鎧男にまずは一射。

 対人戦は初めてだけど、この手の事は慣れてるので怖気も躊躇いもなく頭へ狙いを定めて矢を放つ。

 だけどその矢は、打ち払われる事もなくひょいと横へスライドして避けられてしまう。

 

「はぁっ!?」

 

 僕はその様に丸く目を見張りながらも、その場から移動して位置を変えて矢を射っていく。

 これもまた右へとスライドして躱されてしまう。その姿はまるで―――

 

「○ムなのですっ!悔しいけど、かっこいーのですっ!!」

 

 ララがうぉおと拳を握りしめ唸るように言葉を漏らす。

 黒い三◯星には2機ほど足りないけど、たしかにあの動きはロボ好きにはたまらんものに違いない。僕もちょっびっとだけ悔しい。

 そしてそのまま僕の方へと突っ込んで来て、肩に担いだ両手剣をそのまま振り下ろしてくる。

 

「おらぁああっっ!死ねっやぁっっ!!」

「どはっ!………とぉわっっ!!」


 その重量と勢いに任せて振り下ろされる両手剣を右横へ飛び込む様になんとか回避する。前転一回、あぶな。

 鎧男はそのまま滑る様に通り過ぎて、ぐるりと弧を描き回り込みながら再度こっちに向かってくる。

 どうやら方向転換はあまり得意ではなさそうだ。

 街道を南へ走り距離を取りながらララに聞く。

 

「ララ、【スキル】と【装備】どっちだと思う?」

 

 立ち止まり軽く位置取りをして今度は鎧の隙間を狙いをつける。

 と言っても全身鎧だけあって狙えるとこがあんまりない。ぬぅっ。

 

「マスター。おそらくなのですが、スキルじゃなく装備アイテムだと思うのです。いくらアクティブスキルでもあんな動きをしてたらすぐにMPが無くなるのです」

 

 ………そうだな、って事はやっぱグリーブが怪しいかな。

 あ、鑑定出来るか?

 弓を構えるのを一旦やめて、鎧男の進路から外れつつグリーブを鑑定する。おおぅ、へぇ。

 

 装備アイテム:クリムゾングライダリア Lv40


        クリムゾン・プランダスが造りし

        魔導防具のひとつ

        起動すると地面を滑走して

        移動する事が可能となるグリーブ

        ただし起動するとDEXが

        50%減少する

 

 鑑定結果を見つつ足元へ向けて一射。

 カィーンと情けない音を立てて矢が弾かれてしまう。

 

「はっはーっ、効くかよっ!そんな枝っ切れがよぉっっ!!」

 

 ブフォン!と音を唸らせ剣が襲い来る。

 僕は横飛びをして前転を数回繰り返して何とか避ける。

 ごろごろごろ―――しばっと片膝をついて後ろを振り返る。

 

「ちぃっ!避けんなよっ!くそエルフがっ!!」


 いや、避けますがな。

 振り下ろした剣を持ち上げて悪態を吐いて通り過ぎる鎧男。DEXが減少してる分、細かい動きが出来ないのかも知れない。

 

「マスター、大丈夫なのですっ?」

「うん、だいじょぶ。やっぱあのグリーブみたいだね」

 

 先に回避したララが僕の元へやって来たので、鎧男を見ながら話をする。

 

「あんなに動き回られてはララの土魔法おはこは意味を為さないのです」

「かぜよける」

 

 ララの土魔法グランディグも、あの速さと地面から浮いてる感じからすると意味を為さないみたいだし、アトリの攻撃もあの鎧に弾かれていた。

 冒険者ギルドの時はあんなの着てなかったと思うだけど、あれも魔導防具の1つなのかな?

 ってことはあのガントレットもそうなのかもだ。なんて厄介な。

 今の僕が出来るのは、遠距離から攻撃をしながら回避をするだけかな。

 

「ララ、アトリ。僕達はちまちま攻撃していこう。レイさんやプロメテーラさん待ちしかないと思う」

「分かったのです!」

「おけ」

 

 鎧男が弧を描きこっちに向かってくるのを睨みつけながら、ララ達に話をする。

 ララは弓を手に取り、アトリは杖を掲げて応えてくる。

 僕は雨笠をしまい、視界を広くして矢を構える。

 おや?そういやウリスケはどこ行ったんだろ?

 

 

 

   *

 

 

 ようやく現れました。

 ロヴィオット一族。

 父様と母様の仇。

 何の証だてもないことは理解っていても、誰がと問うまでもなく皆が知っている事です。

 それは先日の出来事しゅうげきで私は知る事がかないました。

 これはロヴィオット(やつら)の仕業なのであると。

 

 同じ血に列なる者である筈なのに、その性質は私達のそれとはまるで違っていました。

 血の混わりを忌避し、傲慢、不遜。己が唯一の優良種などとほざく愚か者共。

 握る拳に爪が食い込む。

 噛みしめる口に血が滲む。

 許せない。許せない。許せない。ユルセナイ!

 

 あの時、父様と母様を同じ状況に追い込まれて、怒りに血が沸る。

 気を失っていた自分を恥じるが、目覚めた時には全て終わってしまっていました。        

 情けなさに涙が滲むが、礼を失することは許されません。

 

 私達を救ったその方達は、なぜか私達と違う者であると感じました。

 人族とドワーフ族、そしてエルフ族という何とも不思議な組み合わせです。

 そして紅いスピアボーアの幼体を従えるエルフの青年。

 背の高さぐらいで特に目を惹く訳ではないのに、なぜか目に留まった方。

 

 私たち一族にとってモンスターのボーア種という存在ものは、自身の証し立てに必要な神聖な存在です。

 召喚士である私達が召喚する(よびだす)事が出来ることこそが、一族の資格の1つと言ってもいいでしょう。

 もちろん私もティエリアというスピアボーアを召喚する(よびだす)事が叶いました。桃色の美しい娘。

 

 そこに現れたのは、鮮やかな緋の身体の炎のスピアボーア()

 そして主であるエルフの青年に深い信頼と親愛を寄せていました。

 彼らを巻き込む事にひとつの罪悪感はあったけれど、私が奴等に立ち向かい抗うには必要不可欠であると感じ同行を求めました。

 

 結局他の方々の同行は望むべくもありませんでしたが、彼――――ラギさまを邸に招き食事を供する事によって同行を得る事がかない安堵する事が出来ました。(逆に新たな料理を供されてしまったけれど)

 そう。彼には何か………何かは分からないけれどその行動に、その一路を切り開く事が出来る術を期待してしまうそんな空気があったのです。

 そして少人数での帰還の旅は、図らずも私の思惑通りに的を射た形になったのです。

 

 すなわち、この襲撃じょうきょう

 

 お爺様の教育おしえに根を上げ次代の資格を失ったかの者は、卑劣な手段でそれを手にしようと目論みます。

 たとえ私が命を失ったとしても、かの者が資格を得る事はないでしょう。

 もちろん神の慈悲(リタンソール)で1度は死を免れるのですから。あるいは何か手立てがあるのかも知れないとも考えます。(父様も母様も、その時まで1度も命を失った事などなかったのですから)

 いや、まずはこの襲撃を乗り越え撃退するのが先決でしょう。

 私は杖を手にティエリアへと声を掛けます。

 

「ティエリア。行きますよ」

「ボッフッ!」

 

 ティエリアの力強い声を耳にし、私達は湿原へと飛び出します。

 プロメテーラ達は石の巨人を、ラギさまが鎧の無法者を相手にしている間、私は他の者を倒して行きましょう。

 相変わらず本命ほんにんはこそこそと隠れている様ですが、すぐに探しだして暴いてやりましょう。

 ティエリアは湿原を特に何の苦もなく駆け走ります。

 

 ティエリアの持つスキル【駆空】はくうを地を蹴る如く駆ける事が出来るもの。

 ましてやくるぶしまでぬかるむこの地では、その動きに適うものなどそうそういないでしょう。(さすがに無法者には驚かせられましたが)

 目に見える者達から順番に倒しに行くことに致しましょう。

 

 ぬかるみに足を囚われながらやってくる者達へ、ティエリアを向かわせます。

 奇襲を目論んだのでしょうが、いろいろ駄目すぎです。

 こうしてティエリアの体当たりと突き飛ばし、私の杖での叩きこみと払い落しとで次々倒して行きます。

 運が良ければ2度めの生を与えられるでしょう。あとは自己責任です。

 目に見える襲撃者達をあらかた倒し終えた時、背筋にぞわりと悪寒が走りました。

 

「ティエリア!」

「ボッフウッ!」

 

 【駆空】はそれ程の高さを駆ける事は出来ませんが、短い間になら人の背丈ほどの高さを駆ける事は可能です。

 私はその直感に従いティエリアを駆けさせると、背後からスピアボーアが現れ突進してきました。危機一髪です。


 ティエリアを駆けさせながら、件のスピアボーアを見やります。

 かの者はどれだけのモンスターを従えているのでしょうか。

 その能力ちからに少しばかりの口惜しさと畏怖が頭をよぎります。

 いえ、たとえ力があってもその意識が腐っていては意味を成さないのです。

 今の私には1体1体を確実に倒していくのみです。

 

 どちらも止まる事無く駆空を使い動き回り互いを牽制をしながら様子を伺います。

 ティエリアよりも一回りほど大きいそのスピアボーアは毛並みは茶色い一般的なものですが、その頭には2本のスピア(つの)が生えた珍しい種でした。

 あれに貫かれれば私などひとたまりもないでしょう。

 

 緊張に身を強張らせながら互いに攻撃の機会を探っていると、赤い影がスピアボーアへと突進して行くのが見えました。

 

「グッグッグ!」

「ボファアッッ!?」

 

 赤い影からの体当たりを受けたスピアボーアはその体躯を歪ませて吹き飛び転がされてしまう。

 

「……ウリスケ……さま?」

「グッ!」

 

 赤の毛並みをなびかせ前脚を挙げ、てウリスケさまが私達に挨拶をしてきました。でも何故こちらに?

 いえ!今は戦いの最中です。そちらに集中しなくてはなりません。

 私は心強い味方(ウリスケさま)と共に起き上がったスピアボーアへと対峙します。

 

 

   *

 

 

「オオォォオオォォオー………」

 

 ストーンゴレムの、緩やかだけど威力のある振り下ろしの右ストレートをわたしは鉄鞭で打ち払う。

 鉄鞭というよりは刃引きの細長い鉄の板だけど。

 今のわたしはGM(ゲームマスター)ではなく一介の冒険者としてのレイなので、さすがにこのストーンゴレムを倒す事は難しいが、負ける程ではないというLvとステータスではあったりする。

 

 そもそもわたし自身が倒す気はさらさら無いのだ。

 それはわたしの役目ロールではない。他の誰かだ。

 今はその事よりも、わたし自身驚きに満ちていた。

 

 そう。現在この一帯にはある術式プログラムが施されていているのだ。

 

 さすがに無管理ほうりっぱなしという訳には行かないのでログの確認だけはしてたのだけれど、呆れというか半ば感心するばかりであった。

 

 今回のアップデートの際、NPC―――ゼアズに関して個々に歴史じんせいを組み上げると共に、1つの救済措置を与える事にした。

 神の慈悲(リタンソール)と言う一度だけ死に戻りができる仕様にしたのだ。

 PC―――カムナばかりが死に戻る事に不公平を感じた事から導入したのもの。(ゲームだからと言われればそうだけど)

 

 そしてこの一帯に施された術式は、その神の慈悲(リタンソール)無効化キャンセルしてしまうものだ。

 なんとまぁ悪辣なと思わないでもないけど、魔導具と術式を駆使してシステムに介入するなんて、なかなかやれる事じゃ無い。

 一種の情熱。いや情念と言った方が正しいかも知れない。

 AIも突き詰めていけばここまで来るのだろうかと、己の事を棚に上げて感慨深く感じてしまった。

 そもそもわたし自身もララさんの覚醒がなければ、データの海を揺蕩う存在なのだ。あるいは………。

 

「くぅっ!かったいデッスッ!!」

「………っっ!少しづつ削っていくんだ!!」

 

 プロメテーラとヴァーティは、ストーンゴレム相手に攻めあぐねていた。

 ラギくんとララさんの相手とちょっとばかりマッチングミスしてる様な気がした。

 このゴレムなら、ララさんの土魔法で足元を崩して動きを抑制して、ラギくんが拳で攻撃すれば行けると思うんだけど………。


 などど、ゴレムの攻撃をいなし受け払いつつそんな事考えながら、回復と防御を繰り返す。

 わたしが言うのもなんだが、それでも何となくどうにかなる様な気がするのだ。

 

 わたしも大概だな、ははっ。 

 

 


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます! がんがります (T△T)ゞ 

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