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147.襲撃は突然に(でもなかった)

(ー「ー)ゝあけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

 

 

「ララ、派生アーツって何だか分かる?」

 

 こんな時にこそララ先生ってな訳で、僕は聞いてみる事にする。

 つまようじの補充を僕の左肩でやっていたララが、う〜んと首を傾げつつ答えてくる。

 

「確かセットしたスキルによって相性というか相乗効果で生えて来るアーツだったと思うのです。ただ、何と何のスキルにその効果が生えてくるかまでは分からないのです」

 

 アーツについての説明文を読んでいくと、どうやら弓系等のアーツみたいだった。

 

「【糸通し】かな?……」

 

 これはカアンセの街のスキルショップ[クラフターズナゲット]で店員の2人に奨められて買ったものだけど、よもやこんな効果があるとは思わなんだ。

 ちなみに【糸通し】とは裁縫スキルの1つで、針穴に簡単に糸を通せるというただそれだけのスキルだ。

 矢を番えた時に現れた丸の照準が案外それじゃないかと思われる。あくまで思われるだけだけど。

 

 他にあの姉妹ふたりから奨められて買ったのは【鎚均し】【鍬】【種蒔き】がある。

 どういう効果があるのか知らないながら、その言葉に従ってスキルをセットしたのだけど、いい具合に結果に繋がったみたいだ。ありがたやありがたや。

 

 しばらくするとスコールはピタッと止んで、僕達はまた街道を南へと歩き始める。

 今回の陣形は、前をレイさんプロメテーラさん、次にナチュアさん、そして後衛を僕達とヴァーティさんが務める事になった。

 いつの間に決めたのかとも思ったけど、これからが本番という事でこの様な形にしたみたいだ。よく分からないけど。

 

 基本一人(ソロ)?で行動してたので、役割というのは分からない。なのでこういう時は人任せになってしまうのは仕方ない部分はある。要勉強かな、そいうとこは。

 そんな感じで僕達は湿原地帯を進んで行った。

 

 

   *

 

 

 自身の中に多くの魔力が循環するのを意識しながらその時を待つ。

 これが成されれば己の、いや次代の血統は我が一族が担う事となるだろう。

 今代をやっと始末できたと思ったら、先代がしゃしゃり出て来て次代を指名するなどと想定外の事があったが、それも己に課された試練と考えれば否応も全くない。

 あと一人。あの者を亡き者にすれば、それは自身の栄達の道への一路となる。

 

「村の者はどうだ?」

 

 側に仕える配下にここの状況を確認する。

 

「はっ!問題なく全ての村人が陣内へと入っております」

 

 その言葉通りに自身の身体に魔道具を介して魔力ちからが溢れるかの如く流れている。

 それは神かの様に己に全能感を与えてくる。

 配下にこれからの指示を出し部屋を出ると、腹心である執事のエイヴズが頭を垂れて控えていた。

 

「申し訳ありません。存外警戒が強く邸では手出しする事かないませんでした」


 さすがにカアンセの邸で片付ける事は無理があったか。

 どの道あそこでの事は次余の策だ。問題はない。

 先の攻撃で警戒して少人数で行動している分、こちらの方が成功率は大幅に高くなるであろう。

 

「されど、彼の者達が連れているエルフにはご注意を」

 

 エイヴズの進言に記憶を巡らす。ガルデモが赤のボーアに料理を投げつけていた時にやって来た若造か。

 背は高いものの目を前髪で隠した特に目を惹く事もない者だったが、そう言えば我が子も妖精を構いつけていたか。

 ふむ、従魔を2体従えてると考えればそれも頷けるものか。

 

「そいつは俺が相手するぜ。いいだろ?ご当主様よ」

 

 兜のない全身鎧を纏った不遜な男がやって来て話し掛けてくる。エイヴズは微かに眉を顰めるも、すっと後ろに下がり控える。

 ちらとその男――ーガルデモを見やると、不敵に笑い犬歯を見せる。

 

「奴を見た時からムカついてたんだ。ひと思いに潰してやる。湿原(あそこ)なら俺に敵はいねぇ。だから………分かってるよな」

 

 こちらを軽く睨めつけ、言外に要求をしてくる。

 

「もちろん事がなった暁には街衛騎士団の団長に推挙しよう」

 

 もちろん推挙するだけだ。確約などするつもりもない。所詮この場だけの付き合いだ。その気にさせておくだけで充分だろう。夢は見るものなのだ。

 このクレ村は湿原地帯に点在する村の1つで、デヴィデスの街から1/3の位置になる。

 奴等ももうすぐ“そこ”にやってくる頃合いだ。

 仕掛けはすでに済ませてある。

 

 全ての根回しは完了してあるのだ。後は実行すればいいだけの話だ。

 神の慈悲(リタンソール)を失くしているので、実戦はこれが最後となるだろう。

 まずはデヴィテスの街を、やがては全ての街を支配する。

 その野望ゆめを胸に燃やし配下と共に村を後にする。

 

 

   *

 

 

 時たま降りまくるスコールの中を僕達はモンスターを倒しながら進んで行く。

 激しく降り注ぐこの雨にも少しばかりゲンナリというかうんざりとしていたりする。

 しばらくするとぽっかり青空が見えたと思えば、すぐにドザーと2、3分降ってピタリと止むのが繰り返される。

 相変わらず雨が僕達を避けていく不思議現象を目にしながら空を見上げる。 

 

「毎度こんな感じなんですか?」

 

 横のヴァーティさんに尋ねると、同じく空を見上げてう〜んと悩まし気に声を漏らしてから答えてくる。

 

「普段はもう少し、大人しい感じデス。今日はいつもよりちょっと多いデスね」

 

 ふ〜ん……日によって多い少ないがあるのかな。

 

「まず朝、夕に呼び雨(コウルスコール)というのがあるデス。これは決まった時間に降るので、ここの人達は時間の目安にしてるのです」

「………」

 

 お知らせ(コール)雨って感じかな?なんかとても安直な話に聞こえるんだけど、いいのかそれで?

 ちらとレイさんを見やるけど、特に気にした風でもなく前方を見ながら歩いている。

 

「あとは気まぐれ雨(ランダムスコール)というのがあって、降る時間の長さも違っているのデェス。激しく降ったりパラパラ降ったりとまさしく気まぐれなんデス」

 

 そんな会話を交わしながらも、やって来たモンスターをバサッと一閃しているヴァーティさん。

 僕もサンショウウオ相手に拳で戦っていたりする。

 派生アーツってのがどういう状況で出て来るのか分かってないので、検証も兼ねて戦い方を変えてみてるのだ。

 

 正面を避けて横へ回り込んで、しゃがみながら拳を振り落とす。

 動きがそれほど機敏でないサンチョウウオは対応できずにダメージを受ける。

 

「ボエェゥ!」

「んんっ!?」

 

 ヌメリとしたその皮膚は何とも言えない感触を与えてくるけど、それよりも振り落した拳に違和感を感じた。

 まるで拳が勝手に予め決められた動きをする様な感じ。

 でも僕はその変な感じのする動きに逆らわず攻撃していく。すると少しだけダメージ量が上がる気がしたので、その違和感を抑えつつ戦っていく。

 湿原地帯も半分を超えて残り1/3程になって来たところで、気まぐれ雨(ランダムスコール)が盛大に降ってきた。

 今回は今までのそれより激しく、地面に叩き付けられた雨粒は水煙となって地面を隠すほどの勢いとなっている。

 

「皆さん!雨宿り場まで急ぎますっ!」

 

 ナチュアさんが慌てて先を急ぐ様にティエリアを駆けさせ、僕達もそれに倣ってその後を追いかける。

 どうやらこの湿原地帯はこんな感じで進むみたいだ。スコールが止んだ時に進み、降ったら雨宿り場で雨をしのぐ。

 ただ今日はいつもと勝手が違うようで、ナチュアさん、プロメテーラさん、ヴァーティさんは首を傾げている。

 

「こんなスコールは初めてデッス!」

 

 走りながらヴァーティさんも吐き捨てるように言葉を漏らしている。

 雨宿り場はいわゆるセーフティゾーンでもあるので、視界の利かないこんな状況の中では唯一安心できる場所なのだ。

 けぶる大雨の中を走っていると、ようやく雨宿り場が雨の間から見えてきた。


 だけどそこは今までと通って来た雨宿り場と違い、2つ並んで建っていたのだ。

 しかも1つにはすでに先客が何人かいるみたいだった。

 僕達は空いてるもう1つの雨宿り場へ入り、スコールをしのぐ事にする。

 雨具のお陰で雨の影響がないといっても、やっぱり屋根の下に入ると安心する。

 

「ふぅ………凄いねぇーこれ」

「ぱないのです」

「グゥ~ン……」

「あめやー……」

 

 雨の激しさのお陰で辟易して、僕達はそんな言葉をつい漏らす。

 こっちの雨宿り場は腰掛けるものがないので、立ったまま外の様子を伺い見る。

 雨は更に激しさを増していて、すぐに止む気配は見られない。

 

 取り敢えずメニューを出してこの地点を登録しておく。

 一旦ログアウトしてもと思わないでもないけど、僕以外NPC(ゼアズ)と思うと何となく気が引けるので、時間も時間だしまずは食事を摂る事にする。

 

「ララ、何食べる?」

 

 僕はメニューからアイテムの料理欄を開いてララに聞く。(アテスピ団の皆に色々教えて貰い、アイテムをカテゴリーごとに分類する事が出来るようになったのだ。ふふ〜ん)

 

「ララはこれがいーのです!ウリスケさんも同じのがいいそうなのです」

「グッ」

「どう」

 

 ホロウィンドウを指差してララが料理を選ぶ。

 料理は作る度に余分をストックしてあるので、けっこーな量と種類があったりする。

 ララの指示に従い、小っちゃな卓袱台を出しその上に料理を取り出す。

 朝も似た様なもの食べたのにいーのかなぁとは思うけど。

 

「うほーっ!待ってたのです!」

「グッグッ!」

「ごち」

 

 ララが選んだ料理―――チまみ〜バーガー擬きを僕も出して食べようとすると、一方向から視線の圧力を感じた。

 ちらとそっちを見やると、レイさんを筆頭にナチュアさん達がじぃぃ―っとこちらをガン見してきた。

 

「ラ・ギ・く〜ん」

 

 レイさんの眼力がパないです。

 視線の圧力に負けた訳じゃないけど、僕はメニューを出してバーガーを4つ出してそれぞれへと渡していく。

 

「ありがと〜。はぐっ」

「畏れ入ります。ラギさん」

「ありがとデス」

「いただきます」

 

 4人がそれぞれ声を僕に掛けて獲物にかぶりつく。ストックが無くなったけどしょーがないか。

 しばしまったりと(立ったまま)食事をして満腹度を上げて、プロメテーラさんが入れてくれたお茶を頂いて人心地付けた後、周囲を見回しあれ?と思う。

 相変わらずスコールは止む気配を見せず、全開シャワーを続けている。現実リアルだったらどんだけ災害が起きる事やら。

 

 そして隣の気配を探り石造りの雨宿り場を見上げてから、僕は皆を手で呼び寄せてこそりと話をする。

 その言葉に神妙な顔をして皆が頷き、準備をしてその時を待つ。

 やがて雨の勢いが弱まり、次第に空が明るくなってきた。

 ギギシィィという音が雨宿り場から鳴り出し、隣の雨宿り場からNPCが出て来たこちらに移動してくる。

 

「行きます」

 

 その瞬間僕は声を掛けて、皆と一緒に街道へと飛び出して少しだけ南へ街道を移動し振り返り相対する。

 フォーメーションは前にレイさん、プロメテーラさん、ヴァーティさん。

 後ろは僕とナチュアさん、ララとウリスケだ。(アトリは僕の肩に乗っている)

 

「くくっ、待っていたデ〜ス」

「なるなる〜、これかぁ」

「ふっ………」

「ここで悪縁は断ち切ります」

 

 ヴァーティさんが不敵に笑い、レイさんが感心し、プロメテーラさんは剣をスラリと抜き、ナチュアさんは前を睨み対峙する。

 僕は前後左右を見渡して【索敵】で襲撃者を確認していく。

 ホロウィンドウには僕達を包囲する様に黄色のマーカーが10コ程と、前方に赤のマーカーが表示されている。

 

『オォオゴゥオォォー………』

 

 雨宿り場と思っていた石造りのそれは、ギシィギシと跪いていた身体を軋ませて起き上がる。

 鑑定で〔UNKNOWN〕と出たので、試しに識別を掛けたらこれでした。

 

モンスター(召喚):ストーンゴレム Lv40

          何処かの地より召喚されたモンスター

          魔力(MP)が供給される限りその力を発揮する

          動きは緩慢だがそのパワーは強力かつ剛力

          気をつけろ〜

 

 気をつけろ〜と言われたそれ―――ストーンゴレムは、ギシィギギと関節を鳴らしながら完全に立ち上がりその姿を僕達へと魅せつける。

 

「でっかぁ………」

「のです」

「グゥ〜………」

「おおぅ」

 

 全長4mほどの石の人型が、こちらを睥睨す様に見下ろしている。

 四角の石材を組み合わせて作られたその姿に、僕はコクリと喉を鳴らす。倒せんの?こんなの………。

 包囲網が狭まり、僕達と対峙していたNPCが後ろへ下がるとストーンゴレムがズシンと地面を鳴らし前へと出て来る。

 

「なかなか手強そうだな。ふふっ」

「やってやるデェースっ!」

「あ、あたしヒーラーなんで、回復はまっかせて!」

 

 プロテーラさんとヴァーティさんはやる気満々でストーンゴレムに対峙し、レイさんが腰の得物を2つすらと抜いて軽く振り回す。

 言ってる事とやってる事が真逆だ。

 

「マスター!右から来るのです」

 

 ララの声に右へと視線を向けると、1人のNPCが地面を滑る様にすごい勢いでこちらへ突進して来る。

 

「てめぇの相手はこの俺だっ!はっはぁあ――――ーっ!!」

 

 全身鎧を身に纏った下品な顔の男が、でっかい両手剣を肩に担いで中腰の姿勢で叫んでいる。

 まだ離れているので、何言ってんのかよく聞き取れない。

 えーと………確か冒険者ギルドで絡んできた奴だ。

 名前なんだったけかなぁと僕は頭を捻りながら、弓を構え矢を番え狙いをつける。

 

 


  


(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

Ptありがとうございます 励みになります (T△T)ゞ (イヤッフゥー)

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