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143/244

143.デヴィテスの街へ出発します

 


 「どうしたんですか?こんなとこで」

 

 僕の第一声はこんな平凡なものだった。だって他に言い様がないのだ。

 

「ふふ~ん。もっちろんラギくんと一緒に○○(ちょめちょめ)しようと思って!あはっ」

 

 いや、“あはっ”じゃないしそんなとこ伏せ字使わんで欲しい。しかも“ちょめちょめ”とかどこで見聞きしたんだか。

 まぁどうせ僕の方からはどうしようもないと、理解というか諦念している。だって。

 

 GM(かみさま)なんだし。

 

「そうは言っても僕等イベント中ですからちょっと無理だと思うんですけど」

「だいじょーぶ。問題なっしんぐだよ!」

 

 あーさいですかぁ。まぁレイさんがそう言うのなら問題はないんだろう。

 そして程なくしてナチュアさん達が歩いてやってきた。歩いて?

 あれ………。というかナチュアさん、プロメテーラさん、ヴァーティさんの3人しかいなんだけど、他の人はいないんだうか。

 

「お待たせしましたラギさま」

「いえいえ、こちらも今来たところですから」

 

 そう挨拶を交わして再度周囲を見回しても、他には誰もいない。

 

「えっと、他に行く方はいないんでしょうか?」

 

 僕がナチュアさんに尋ねると、ニコッと笑顔を見せ答えてくる。

 

「はい。私達3人だけです。ラギさま、そちらの方は?」

 

 大丈夫なんだろうか?こんな少人数で向かうのって……とちょっとだけ訝しんでると、ナチュアさんの問いに僕でなくレイさんが前へ歩み出て自己紹介を始める。 

 

「はじめまして。わたくしラギさんの友人でレイを申します。差し支えないようでしたら旅のお供に加えて頂きたいと思うのですが、如何でしょうか?」

 

 いつも間にやら友人認定されている。ナチュアさんが真面目な表情で僕を見てきたので、頷きで答えに替える。

 性格や人柄はともかく、身元ははっきりしているので問題はないのだ。

 

「ハイ。よろしくお願いいたしますね、レイさま。私はナチュアと申します」

「レイでいいですよ。ナチュア様」

「あ、僕もラギでいいですから」

 

 レイさんに便乗して僕も呼び方を替えてもらう様に言ってみる。

 

「………ではラギさん、レイさんと呼ばせていただきますね」

 

 この後プロメテーラさんとヴァーティさんとも挨拶を交わして出発することにする。

 

「少しお待ちください」

 

 南門を出てすぐに、ナチュアさん達が立ち止まり街道の脇へと移動する。そして何やら呪文を唱え始める。

 

「“召喚サモン!ティエリア”」

 

 右手を前にかざして声を上げると、ララやウリスケが出現する時の様なピンクに輝く魔法陣が地面に現れ、光のシルエットの後具現化する。

 

「グッ!?」

「わっ!ピンクなのです」

「お〜」 

「おほ〜」 

 

 ウリスケがそれを見てぴょんと飛び跳ねララはその色に驚き、アトリとレイさんが何故か感心していた。

 そこに現れたのは、ピンクのスピアボーアだった。ウリスケと違ってナチュアさんの様な子供なら余裕で乗る事が出来るほどの大きさだ。

 

「ボフフフッ!」

「グッグッグ!」

 

 ウリスケと召喚されたスピアボーアがペコリと頭を下げて、何やら言葉をかわしている。

 

「ご挨拶なのです」

 

 僕の肩に乗ったララが解説をしてくれる。

 

「これが私の召喚獣サモンモンスターのティエリアです。ご挨拶をティエリア」

「ボッフッフッフ!」

「ラギです」

「レイで〜す」

「ララなのです」

「アトリ」

 

 ナチュアさんが召喚獣のティエリアを紹介し、その鳴き声を合図に僕達も名乗りを上げる。ウリスケはさっきやってたみたいだしね。

 

「ナチュアさんは召喚士サモナー何ですか?」

 

 僕はナチュアさんに気になった事を尋ねる。

 

「はい。でヴィテスの一族に列なる者は皆、召喚士となる事が義務付けられています」

 

 へぇ〜そうなんだぁとナチュアさんの話を聞いてると、ティエリアさんの胴を軽く叩いて膝を落とさせて、ひょいとその背に跨がり立ち上がらせる。

 

「私1人で乗るのも申し訳ありませんが、ご了承願います。では参りましょう」

「ボッフ!」

 

 特に気にも止めていない事を頷きを返して了承する。さすがに子供の徒歩ってのは大変だろうし。

 その間プロメテーラさんとヴァーティさんは、レイさんと軽く会話を交わしていた。

 世間話の中にレイさんがどういった人物なのかを、伺い見定めようとしている感じがする。まぁ感じだけどね。

 こうして僕達はデヴィテスの街に向けて歩き始める。

 

 この街道―――南街道というらしい―――はデヴィテスの街へと1本で続いていて間に村が幾つかあるみたいで、夜はそこで泊まる予定らしい。

 さすがに夜は移動を控えるみたいで、その時にログアウトすればいいかと納得する。

 それにしてもこういう日を跨ぐ様なイベントは、普通に勤めている人にしたら無理っぽそうだ。

 レイさんに聞いたら答えてくれるかな?

 

「レイさん、日を跨ぐ様なイベントってよくあるんですか?」

 

 僕たちは前列をナチュアさんを真ん中にプロメテーラさんとヴァ―ティさんが脇をかため、その後列を僕達とレイさんが並んで歩いている。

 なので、こっそり小声で訊いてみた。

 

「のんのんのん!今の私は冒険者のレイさんなのです。そんな事は一切合切知りませ~ん………とは言ってもこれはさ~びすですね」

 

 指を上下に揺らしてフ~テンの何某さんみたいな事をのたまってから、片目ウィンクで話してくれる。

 

時間限定リミットタイプのイベントならPCの都合が合わないと失敗ファンブル扱いになるし、VRのライドシフト活動限界時間もあるから、この手のロングキャンペーンものは、ある程度絞られはするけどないと言う事はないかな」

 

 ふーん、どちらかと言えば珍しいイベントっと事なのかな?

 

「TRPGなんかには日を跨いで続きをやるって事もあるけど、これはMMOだからね、それなりの時間で納める様には努力してるって感じかなぁ」

 

 (テーブルトーク)RPGってあんた幾つなんですか?と思わず突っ込みかけたけど、今の世の中調べようと思えばいくらでも見つけることが出来ると思い出し話を聞いていく。

 

「私はゲームをプレイしている皆とここにいる皆に世界を楽しんで貰いたいって気持ちだから、無意識に色々やってる部分はあるかな」

 

 必ずしもPCを優先するでなく、NPCへのフォローもしてるって事なのだろうか、その話から言ったらまるでこのゲームは別の世界そのものと言外に言ってる気がした。いや気のせいだろうけど。

 

「マスター!モンスターが来たのです」

 

 街道といえども安全ではなく、もちろんモンスターも出現してくる。ゲームだしね。

 この南街道はかなり幅広の石畳で作られていて、馬車が2台並んで通れるくらい広い。

 そして街道の外の景色は乾いた様な大地に低木がまばらに生えていて、僕の腰ほどの背の高い草が生い茂っている。サバンナって言ったほうがいいかも知れない。(行った事ないけど)

 空は雲ひとつなく一面に蒼が広がっている。とても大雨スコールが振るような景色には見受けられないのだ。

 

 え?モンスターはヴァーティさんに瞬殺されました。ハイ。

 僕は初見のモンスターだったので識別をかけようとしたら、ヴァーティさんはタタタンと駆け寄り3体いたモンスターをあっさり倒してしまった。

 僕いらなくね?とも思ったけど、始まったばかりだしね。

 

「ララ、あれはなんてモンスターだったの?」

 

 周囲をちょっとだけ警戒してるララに聞いてみる。

 僕の腰ほどの背丈で、髪の全くない頭に尖った耳。潰れた鼻に小さな赤く濁った目。

 大きく引き裂かれたような口は小さな牙を両端に下から伸ばし、口を開けるとキザキザの鋸の様な歯が見えた。

 腰ミノの様なものと動物の毛皮のベストを身に纏った黄緑の肌で、お腹がポコリと出ている。

 

 そして2本足で歩くモンスター

 カンムリラビット以来の人型のモンスターだった。

 ラビタンズと違ってあんまりかわゆくない。(ラビタンズはモンスターじゃないけどね)

 

「あれはゴゴブリ―というモンスターなのです。武器を使って戦うのですが、あの通りあんまり強くないのです。いわゆるザコモンスターなのです」

 

 ララが何気に酷い事を言いながら説明してくれる。

 

「ゴッブ――――ッッ!!」

 

 話をしながらも現れたゴゴブリーをプロメテーラさんが大剣を振り下ろし圧殺していく。うん、ゴブーって声を上げるんだね。

 そんな中ナチュアさんが僕の横にやって来て話をしてくる。

 

「ラギさん、改めて予定を話しておきます。このまましばらく進むとイジー村に着きます。そこで一泊してから湿地帯を越えてデヴィテスの街へと向かうことになります」

 

 道自体は一本道なので、迷う事はないらしい。

 頷きを返しながら僕は1番気になった事をナチュアさんに聞いてみることにする。

 

「分かりました。それでなぜこの人数なんです?この距離だと馬車に乗って行った方が楽に向かえると思うんですけど………」

 

 僕の足元ではティエリアさんとウリスケがボッフ、グッグと会話を交わしている。

 しばらく目を瞑り黙考していたナチュアさんが口を開く。

 

「ひとつはあの館の人間が信用出来なかった事と、ラギさん以外の冒険者が逆に襲ってくる危険性がある事です」

 

 もしかした派閥争いみたいなもんがあるのかな。

 頷いて先を促す。

 

「ひとつは先日と同様に襲撃される恐れがある為、いえ間違いなくやって来るであろう者たちへの対策です」

 

 ふむふむ、少人数であれば簡単に逃げる事も可能になる。そのあたりの事も考慮に入れた結果なのだろう。

 そして意を決した様に、さらに言葉を続けるナチュアさん。

 

「身内の恥を晒すようでお恥ずかしいのですが、現在お祖父様を頂点にデヴィテスの街を治めています。ですがその下には、お祖父様の弟の息子―――つまり私の伯父と直系である私の2つの派閥で争っている状態なのです」

 

 ええっ、こんな小さい子と派閥争いとか、どういう神経してるのか。

 特権階級とかお金絡むと形振り構わないなんて、歴史を見れば分かりはするけど。………ゲームだよね、これ。

 

「今はお祖父様がおります分表面には出てませんが、伯父は水面下で手を広げている様で、結局今のような有り様になってしまいました」

 

 ほ〜、あの料理人とかあるいは執事長なんかも対抗派閥の人間だったのかも知れない。

 プロメテーラさんが料理を作る訳だ、これりゃ。

 おそらくカアンセの街に行く途中での襲撃も、その伯父とやらの差し金って事なのだろう。

 

「でも一度襲撃に失敗して、また襲うって事あるんですか?」

 

 確かにここでナチュアさんを亡き者にしてしまえば、伯父とやらの地位は盤石なものにはなるだろうとは思うけど、そんな危ない橋を2度も渡るかな。

 

「ええ、間違いなくやってきます。どこで襲ってくるかわ分かりませんが、その証に彼の一子が居る筈のないカアンセの街に滞在していたのですから」

「?」

 

 館の中であったのかな?きっと僕の知らない人間なんだろう。

 

「クレール・ロヴィオット。ラギさんに失礼を働いた子供です」

「!」

 

 あー、あの小憎らくんか!

 

 


 


 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます 感謝です (T△T)ゞ

Ptありがとうございます マジうれしす  (◎△◎)

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