139.たまには童心に返って遊んでみる
「グッ?」
ウリスケが入り口から現れて周囲を見回し首を傾げる。
あれ?そういや気付かない内にいなくなっていたのか。
どうりでグーグー声が聞こえないと思っていたんだ。
さしもの僕も(どこが?)緊張のあまり前後不覚に陥っていたみたいだ。
「おろ?何だ終わったんか。大丈夫か?アーレ」
「あ、ショビッツ様!はい、こちらの方達が助けてくれました」
「ほぅ、やるじゃないかラギ坊。つーか間が悪かったな」
間の良い悪いは人それぞれだと思うけど、まぁこの人達が嫌な思いをしなかったから良しとしとこう。
ピロコリン!
[NPCイベント:“借金取りを追い返せ!”をクリアしました
EXP 500 5000GIN を 手に入れました]
「はぁああっ!?」
「へっ!?何だ、どうしたぁ?ラギ坊!」
「い、いえ、なんでもないです………」
SEと共にホロウィンドウが起ち上がり、イベントクリアを知らせてきた。はぁああ!?
僕がすっとんきょ―な声を上げてしまうと、その声に驚いたショビッツさんが僕に何事かと聞いてくるが、何でもないと軽く笑いながら答える。
とてもまともに答える心境になかったのだ。
イベント開始の通知とかはなかったはずだし、何でじゃろうと首を傾げてると、ショビッツさんと話をしていたアーレさんが僕達の前に来て頭を下げてお礼を言って来た。
「皆様のお陰で何事もなく済ます事が出来ました。本当にありがとうございました」
さっきのこあい笑顔と打って変わった表情に、理由もなくほっとしつつ僕は言葉を返す。
「まぁ袖擦り合うも他生の縁といいますし、こちらも雨具代がチャラになったので、終わり良ければって事で」
「いいえ!バカ兄のせいであんな事になってしまったんです。それ相応のお礼はしなきゃいけません。いいわね!兄さん!」
アーレさんの迫力に心持ち引きながら、自分の非があることを認識している様でアーハンさんは無言で頷くに留める。
「ど~せディレーレに丸め込まれてあんな奴等に付け込まれたんだろうけど。………どっこがいいの?あんな女?」
なんとも辛辣な物言いを兄であるアーハンさんに言い放つ。なんかこあい。
「………あいつはそんなに悪い奴じゃない。それはお前だった知ってるだろう。あいつは騙されてるだけ………」
「あんのぉねぇ~~っ!小さい頃はともかく大人になってこんな事に加担してる時点で、性根が腐ってるって理解できるでしょ~~~う?兄ぃ~~さぁ~ん?」
妹相手に腰を引けつつも反論を試みるアーハンさんだったが、あえなく轟沈してしまう。
まぁ、人の性ってのは経験の積み重ねっていうしなぁ。
さて、話を聞いてるとまた何か巻き込まれそうな気がするので、ここらでお暇しておこう。
お礼参りとか来られても困るしね。
「じゃ、僕らはこれで失礼しますね。それじゃあショビッツさんもまた………」
シュピっと手を挙げアーハンさんアーレさん、そしてショビッツさんに別れの挨拶をして立ち去ろとする。
「あっ!ちょっと待ってくださいっお客様!」
と、アーレさんに呼び止められてしまう。
やっかい事はご勘弁と思いつつ振り返り返事をする。
「何でしょう?アーレさん」
「巻き込んだ上に助けて頂いて手ぶらではお帰しする訳には行きません!店のもので宜しかったらどれだけ、いくらでもお持ちください!!」
「アーレ、お前………」
「バカ兄は黙ってて」
「………………」
アーレさんの物言いに黙っていられずアーハンさんが口を挟むと、アーレさんが笑顔でアーハンさんを睨み付けるという器用な真似をして口を噤ませる。
後ろに鬼夜叉の幻影が………。こあい。
ここで断ってしまうのは角が立ちそうだし、あの笑顔がこちらに向くのはご遠慮したいので、甘んじて受け取る事にする。
「分かりました。それでは有難く頂きます」
僕はアーレさんにそう言って、店内を見回す。
ショビッツさんはさっきの話を聞きつけて、アーハンさんを揶揄っている。………可哀相にアーハンさん。
店の前だけでもたくさんの道具があるので目移りしてしまう。
それに見ただけで用途が分からないものもあるので、何を選んでいいのやら困ってしまう。
「マスター!この箱の中のもの面白そうなのです!」
「グッ?」
そんな中端っこの方に木箱に収められた道具に気づいたララがそれに近づいて声を掛けてくる。
「あ……それは……」
僕達がその木箱に近付くのを見て、ショビッツさんにからかわれていたアーハンさんが声を漏らす。
だけどアーレさんの視線にピクリとなって沈黙する。
ん?なんか拙いのかな?これはダメな奴なのかな。
「あの………これは?」
「ああ、大丈夫ですよ。このバカ兄が思いつくままに作った何に使うか目的の定かでない物ですから見てみて下さい」
「「「「?」」」」
僕とララとウリスケとアトリが揃って首を傾げる。
道具とは本来も何かを為すためという目的の為に作られるものだ。
それが目的も定かでないと言われても、ん?とその不思議に首を傾げてしまう。
僕達がアーハンさんに視線を向ける、ともごもごと口ごもりながら話を始める。
「その木箱にあるのは、俺が夢で見たものを作ってみたものだ。ただ何に使うのかは全く分からなかった………」
何じゃそりゃである。
そして僕が木箱の中を漁って見ると、何とも言えない気分になってきた。
その中には僕が現実で見た事があるものが色々あったからだ。
ブンブンゴマに水鉄砲、竹トンボにけん玉そしてジェ◯ガ迄ある。あと木製のボーリングのピンとボールも………。
「あ、アメリ◯ンクラッカーだ………。懐かぁ」
そう指がある程度入る輪っかに、球体の錘に紐状のものが2つ付けられたヤツ。
振り子の様に揺らしながらカツンカツンと当てて遊ぶものだ。
じーちゃんがこの手のものを持って来ては遊ばせて貰ったのを思い出す。
「何だラギ坊、知ってんのか?」
「遊び道具ですね」
「へぇ、これが?」
ショビッツさんが僕が持っているアメリ◯ンクラッカーを見て、興味を示して尋ねてきたので軽く実践してみる。
うん、重さはそれなりか。僕は右人差し指に輪っかを嵌めてブラリンと球体をぶら下げて上下に揺すっていく。上下運動で振り子現象が起きて球体同士がぶつかり弾けぶつかりを繰り返していく。
リズムよく動かしていくと、カンカンカンと小気味良い音が響き勢いを増していく。
「っ!」
「っ!」
「おお〜っ」
アーハンさんとアーレさんがそれを見て目を剥き、ショビッツさんは目を輝かせる。
そしてある程度勢いが着いたところで、更に激しく揺らしていく。
カカカカカカカカカ――――――ッッ!!
上下でぶつかり合う球体がその勢いを表すような音を響き渡らせる。
「………すごい」
「はわぁ………っ」
「うおおっ!!」
「マスターかっこいーのです!」
「グゥ―――グッグ!」
「おおー」
アーハンさん、アーレさん、ショビッツさんばかりでなく、うちの子達もそれを見て感嘆の声を上げる。
そして少しづつ揺れを緩くしていって、2本の紐を左手でキュッとひと纏めにして終わりにする。
「っと、こうやってお遊ぶものですね」
やりきった顔を見せて3人を見やると、驚きから口をあんぐりと開けてこちらを見ているアーハンさんの姿があった。あまり人様には見せられない顔だ。
「あ、遊び道具だったとは………」
まぁ、ちょい工夫すれば別のことにも使えると思うけどね。
「ラギ坊!あたしにもやらしちくりっ!!」
手を伸ばしてきたショビッツさんにアメリ◯ンクラッカーを渡して軽くレクチャーしていく。
よほど不器用じゃない限り、誰にでも出来るものなのだ。
やがてカツーンカツーンからカカカ―――ッまでショビッツさんは出来る様になって喜色の声を上げている。
「すまないっ!他にもやり方が分かるのなら教えてくれっ!」
「ぜひ、お願いしますっ!」
アーハンさんアーレさんの頼みに、僕は次々に実践していく。
ブンブンゴマの紐を両手で持ってクルクル回転させてから、紐がある程度捻れてきたところで引っ張りと戻すを繰り返す。
やがて回転に伴いコマがブーンブーンと音を立て始める。
「こ、こんな音が………」
「ほえ〜………」
この後はけん玉や竹トンボをやって見せてから、2人にも試して貰い、水鉄砲は口で説明するに留める。
そこでちょっとだけ気になったので、僕はアーハンさんにどんな夢を見てこれ等を作ったのか聞いてみる事にした。
「これ等を作った夢って、どんなものだったんですか?」
少しばかり考えを巡らせるかの様に、顎を擦りながらアーハンさんが答えてくる。
「不思議な話なんだが………、夢の中ではこれ等の1枚絵がいろんな角度から何枚も現れては消えて行ったんだ」
「兄さんは木工職人でもあるんです」
アーハンさんが夢の話をしていくと、フォローするようにアーレさんが補足してくる。怒りは鎮まったみたいだ。
「そうなると妙に気になってしまって、夢の絵を思い出しながら作っては見たもののどう使っていいか全く分からなかった。まさか遊び道具だったとはな………」
けん玉で遊んでいるショビッツさんの方を見ながらそうアーハンさんは呟く。
誰が見せてる夢かと考えれば、やっぱGMあたりなんだろうなと思い浮かぶけど、理由に至っては想像もつかないかな。気まぐれだとかだったら笑えるか。
「なぁなぁラギ坊。これはどうやって遊ぶんだ?」
けん玉と竹トンボを堪能したショビッツさんがたくさんの木片を抱えて聞いてきた。
もちろんジェ〇ガなのだけど、揃える道具がないのでちょっと時間がかかる。
「遊ぶのにちょっと時間がかかるので待って貰えます?」
僕はそう言って木片を受け取り並べ始める。
「ふ~ん、こうやって並べて遊ぶんか?」
「いいえ、並べたものを4つづつ縦横交互に積み重ねていって、それを使って遊ぶんです」
木片4つで四角になるので、それを90°づつ方向を変えて積み合上げていく。
「あ、お茶入れてきますね」
アーレさんが時間が掛かりそうだと、お茶を入れに奥へと向かう。
「そうだ………。夢でもこんな形だった」
僕が木片を積み上げていくと、30cm程のタワーが出来上がった。
その間もララとウリスケは、木箱に身体と頭を突っ込んでごとごとやっている。
「ほぉ、これで完成か?」
「いえ、これから遊ぶんですよ」
そう言いながら僕が積み上げられた木片の1つを抜こうとした時、入口から人が入って来た。思わずピクリと反応してしまう。
「すんませ~ん、ショビッツ様はおられますか?」
のほほ~んとした声の主は、僕と同年代の男性で紺の上下に軽鎧と手甲、そして腰に剣を佩いていた。
「おっせ〜んだよっ、ガディオ!何やってたんだよ、おまーは」
「いやいや、こっちも色々あるんですよ〜。あ、ポーションい〜ですか?」
「ちっ、しゃーねぇなぁー。ついて来な。それ始めんの待ってろよな!」
ショビッツさんがそう言い捨てて、店をガディオと呼ばれた青年と共に出て行った。
「あら、ショビッツ様は?」
「街衛警団のガディオール様と店に行った。すぐに戻ってくると思う………」
香茶を配りながらアーレさんがいなくなったショビッツさんの事をアーハンさんに尋ね、お茶を受け取ったアーハンさんが簡単に説明をする。
街衛警団ねぇ。警察みたいなもんかな?
僕がそんな事を想像しながらお茶を啜ってると、ララが何やら持って飛んできた。あ、ウリスケもだ。
「マスター!ララはこれがいーのです!」
「グッグッグ!!」
ララが持って来たのは、オモチャのような小さな弓に水鉄砲の様な筒が付けられ取っ手部分に弦が付けられているものだった。
「ああ……それは知り合いに頼まれて連発式の弓を作ってくれと言われて、試しに模型を作ったものだ。威力はそれ程無いから失敗作なんだが………」
アーハンさんがララが持って来た弓を見て、説明をしながら起ち上がり棚から束ねられた物を幾つか手に取り戻ってくる。
「これを矢の代わりにその筒に入れて射るものだ。良かったら持って行ってくれ」
「ありがとうなのです。大切に使うのです」
ララがお礼を言って束ねられて物を手の取るって、それ爪楊枝じゃん。爪楊枝あるんかい。ここには………。
「グッグッグーッ!」
そしてウリスケが咥えているのは、くの字型をしたいわゆるブーメランだった。これも夢に出たものなのかな?
僕がアーハンさんを見ると、視線に気付いて頷きを返してくる。やっぱそーかぁ。
僕もその用途の1つをアーハンさんに説明しておく。
「おそらくこれは飛ばして遊ぶものですね。ここじゃちょっと出来そうにないですけど」
アーハンさんはそれを聞いて軽く頷き、ララとウリスケは貰ったものをいじり始める。
「待たせたな、じゃ始めよか」
そこへショビッツさんが戻って来て、ジェ◯ガの前へと陣取る。
「ショビッツ様〜、受領書受け取って下さ〜い。HPポーション100本、MPポーション100本、解毒ポーション100本ですよ〜」
なぬ?どこかで聞いた記憶があるよな。
僕がショビッツさんをジト目で見やると、ついと顔を逸らされてしまう。………やっぱり、まぁいーけどね。
「ど〜も初めまして、自分街衛警団の勤めますガディオール・プレメテスと言います。よろしくお願いします」
僕に向かって青年―――ガディオールさんはビシッと敬礼をして挨拶をしてくる。
「えー僕は――「こいつがラギ坊で、ララ坊ウリ坊アト坊な」………」
僕が自己紹介する前に、ショビッツさんにぶった切られてしまう。
「ラギ………さんですね。よろしく!」
「はい………。よろしくお願いします」
「ほら、ラギ坊、はよ説明!」
互いに自己紹介を終えると、ショビッツさんが急かしてきたよ。あーもう。
僕は積み上げられた真ん中あたりの木片を1つ、指で慎重に動かしながら取っていく。そして外したそれを1番上へと載せる。
「こうやって交替で1本づつ木片を抜いて行って上に載せます。これを繰り返して最後にこれを倒してしまった人の負けになります」
「なるほど………」
「ほあ〜………」
「ふんふん」
「……………」
4人がそれぞれの反応で、僕の説明を聞いている。この手のものはやってみた方が手っ取り早いんだけどね。
「じゃあ、ため「順番はあたし、あーハン、アーレ、ガディオ、ラギ坊な」………」
………狙ってやってるんだろうか、ショビッツさん。
まぁいいやと、僕も皆の輪の中へと加わる事にする。
そういやララとウリスケをと見やると、まだ弓矢とブーメランを持っていじっていた。
「ララ達はやらないの?」
「もうちょっとこれを弄ってるのです」
「グゥ〜ン」
ララが木片を取り出すもの大変そうだし、ウリスケに至っては下手に動かすと崩れかねないかな。
「ほれほれ、ラギ坊の番だぞ!ふぉ〜ドキドキするわ、これ」
「はいはい」
ゲームの中でゲームをやるというのも変な話だけど、たまに童心に返るのも悪くないかな。
僕はそんな事を思いながら木片を抜く事に専念する。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




