137.雨具を買いに行ったらトラブルがやって来た
「あ?雨具ぅ?何だラギ坊、デヴィテスに行くんか」
「ええ、護衛依頼で行くんで雨具を買いに行こうと思って」
ホクホクしながら薬草を片付けているショビッツさんに話をする。
デヴィテスへの街道の天気は良く知られているらしく、雨具と聞いてショビッツさんがそんな事を聞いて来た。
僕もかなりの額のGINをを受け取って懐が温かい。
「そんじゃアーハンのとこに行ってみな。道具卸しだから雨具も色々あるぞ」
「どこにあるんですか?そこ」
長音の位置が1つずれるといけない声になりそうな、そんな名前の人の場所を尋ねる。
「ここの斜め向かいだ。すぐ分かるよ」
なる程、ギルド職員のビルビアさんが教えてくれたところなんだろう。
この後売った薬草の名前やら効能を軽く教えてもらい、ショビッツさんのお店を後にする.
「護衛の仕事が終わったらまた来いよ。色々教えてやっからよ。じゃあなラギ坊」
「ありがとうございましたショビッツさん。その時はよろしくお願いします」
「おう!」
ショビッツさんと玄関口で別れの挨拶を交わし通りに出て家々を眺め見る。
「えーと、斜め向かいと………」
「マスター、あそこなのです」
僕が斜め向かいを確認してると、先に見つけたララがそれを知らせてビューンと飛んでいく。
通りを斜めに横切り店の前へ。ショビッツさんのところと違い前にはなく、すぐ目の前が建物の様だ。
ここもやはり引き戸で、下が板張りで上が障子張りの格子となっている。
柱につけられてる看板には、イーヤン道具店と書かれてある。
………ネタ枠なんだろうか。
「ごめんくださ~い」
店の中が明るいので、人がいると思い声を掛けてみる。
時間的には真夜中に近いと思いうけど、いつ寝てるんだろうか。
などと益体もない事を考えてると返事が聞こえた。
「は~い。少々お待ちくださ~い」
女の人の声が聞こえガララと引き戸が開けられる。
年のころは10代後半で、身長は150あるかないか。肩口で揃えられた明るめの茶髪を生成りのスカーフで纏めている。
明るい藍色の瞳で僕らを見ているその顔は、まぁ可愛いといえる部類に入るんじゃなかろうか。(なんか偉そう)
白のブラウスに何回かにも名膝丈の碧のスカートそして茶色のベストを身に着けた、なんかいかにも街娘さんな彼女に話をする。
「すみません。雨具を買いたいと思って来たんですけど、えっとギルド職員のビルビアさんに紹介されたこちらに来たんですけど………」
「まぁ、そうだったんですか。あ、どうぞお入りください」
店員らしき少女が脇へ移動して店内へと誘う。
僕達はその言葉に従って中へと入っていく。
「うわぁ………」
「道具がいっぱいなのです!」
「グッ!」
「おぉ」
道具卸しの名に違わぬたくさんの道具類の数々が店内に溢れる様に置かれてあった。
それを見て僕達は感嘆の声を上げる。
ここもショビッツさんの店と同様に土間の三和土に少しばかりの段差に板張りの床。そして左右の壁と後ろ壁の1部に様々な衣装や道具が整頓され飾られている。
部屋の真ん中には張台の様な机の前で1人の男性が何やら作業をやってる姿がある。
僕達には頷くだけの挨拶をしてくる。人見知りさん?
いつの間にか僕達を中へと入れた少女店員さんが、幾つかの布の様なものを腕に抱えて戻ってきた。
「こちらが雨具になりますね。これが一体型で、こちらは笠と合羽の揃い物になります」
「……………」
1つはいわゆるフード付きのポンチョって感じだ。少し白く光沢のある表面は確かに水を弾く気がする。
そしてもう1つは――――
襟付きの前合わせで膝丈上のマントのようなもの。あと1つは植物を編んで作られたキノコの傘の様な形をした被るもの。
要は時代劇で見かける道中合羽と三度笠だ。
「かっこいーのです」
「グッグッグッグッグ!!」
「おおぅ」
………カッコイーかは分かんないど、違和感ありまくりな気がしないでもない。
いや……、案外着てみるとしっくり来るんだろうか。
「試着してみても?」
「はい、どうぞ」
少女店員さんに渡されたそれを試しに着てみる事にする。まずはポンチョの方から。
下から被る様に頭を通していく。スポリと頭を出して軽く動いたりフードを被ったりして確かめる。
「ふつー」
ウリスケの頭に飛び移ったアトリが辛辣なひと言を放ってくる。
普通が1番なんだよっ!?何事も波風立てない方がいいんだから。
「マスター!早く次なのですっ!」
ブンブン両手を振って興奮している。何がララを駆り立てるのか。
「はいはい」
ララの言葉に従いポンチョを脱いで三度笠と道中合羽を身につける。
「おっ、これは………なかなか」
軽く動いてみると、特に抵抗を感じる事なく動く事が出来る。視界もそれ程遮られない。へぇ。
「ふおおぉぉっ!かっきーのです!!」
「グッグッグ〜〜〜〜〜ッッ!!」
「こっち」
ララが目を(> <)にして、ウリスケが興奮してピョンピョン、アトリがその上でパタパタ羽ばたいている。
で、ついやってしまうのである。あの名台詞とアクションを。
「お控えなすって!」
中腰になり左手を腰後ろに添え、右手の平を上に向けて前に差し出し言葉を発する。
「にぃひょ〜〜〜っ!かっこいーのですっ!マスターっっ!!」
「グ〜〜〜グッグッグ!!」
「おひけぇ」
大興奮の3人を見てから視線を感じ右を見ると、口をあんぐりと開けて僕を見ている店員さん達の姿があった。
やっべ、忘れてた。恥っず!
すぐに身体を起こし三度笠を外す。少女店員さんがそれを見て笑みを浮かべる。
「ふふっ、どうしますか?」
「えー………、これ下さい」
少女店員さんが聞いて来たので、三度笠と道中合羽を購入する事に決める。いかん顔が熱い。(こんなとこまで再現しなくてもいーものを!)
「ありがとうございます。色はどうしますか?」
「色………」
どうやら色とか柄を変えられるらしいので、見本を見せて貰い決めていく。(もちろんあの柄だ)
「マスター!ララも欲しいのですっ!!」
「グッグゥ〜〜〜ンッッ!」
ララが右拳を掲げてだぁーと叫び、ウリスケが媚びるように足元に縋ってきた。………どこで覚えたんだ?そんな仕草。
ん〜確かにPCだけに状態異常があるとも限らないから、でもこういう時は魔法で対策取るものだよなぁ。
それに従魔用の装備アイテムってあるんだろうか。
「あの……」
「ありますよ子供用の雨具なら」
僕の言葉を先んじて少女店員さんが答えてくる。
まぁやりとり聞いてりゃわかるよね。
「ちょっと待ってて下さいね。兄さん」
「ああ……今作る」
少女店員さんが再び奥へ向かい、男性に声を掛けると(兄妹みたいだ)、男性も奥へと入って行った。
それを聞いたララとウリスケもワクワク顔とピョンピョン跳ねて待っている。
「そういやアトリはいーの?」
ウリスケの頭の上でロデオごっごに興じてるアトリに尋ねる。
「、、のっ、ぷろぶっ、れっ、、アテスっ、ピっ、、れがいっ、、、」
どうやらアテンダントスピリットには影響ないみたいだ。
三角帽子は取りたくないのかな。
程なくして、2人がやってきてそれぞれの雨具を渡して来た。
「着てみるのですっ!」
「グッ!」
ララが僕が渡された原木シイタケ程の大きさの三度笠と、ハンカチほどの大きさお道中合羽を手に取りさっそくに身に付け始める。
このあたりはVRの利点というかフレキシブルな所なんだろう。
メニューから装備できるばかりでなく、実際に身に着ける行動が可能な事はVRならではなのだろう。
僕はウリスケに請われたので、立ち上がった状態で三度笠と道中合羽を着せていく。うん、ぴったりだ。
「ふおぉぉっ!ぴったりなのですっ!」
「グッグ~~~ゥッッ!」
大興奮といった感じで2人は飛び跳ねる。
「おひかえなすってっ!てまえぇしょうごくはぷろろあのまにて―――――」
ララがいきなり僕と同じ様にに口上を述べだす。やめてっ!恥ずいっ!
ウリスケは胡坐をかいてそれを頷き聞いている。………どこの親分なんだか。
その様子をお店の2人は微笑ましそうに見ている。なんかいたたまれない………。
だけどその空気をうち破る様に激しく引き戸が開けられ、だみ声が後ろから響いてくる。
「おらっ!アーハン!!金は用意できたかっ!!」
その声にぎょっとして入り口を振り向き見ると、そこにはいかにもチンピラですといった風体の男がズカズカ入って来ていた。
「へっへっへ、期限は今日までだ。さぁ耳を揃えて払って貰おうか、アーハンよ」
チンピラの後ろからその兄貴の様ないかにもスジものといった男が入ってくる。なんなの?これ………。
「ふおおっ………。よもや間近で見れようとは驚きなのです」
ララが目をキラキラさせてそんな事を小さく囁く。
そういやと思い返すと、工房での作業中にBGMとして時代劇のアーカイブを流していたのを思い出す。
ララは言うに及ばず、ウリロボに入っていたウリスケもそれらを見ていた気がする………。
とは言えホロウィンドウも出ないしイベントではなさそうなので、僕達には関係ないものなんだけど………。
しばらく様子を見てるしかないのかな?
「に、兄さん、どうしてっ!?」
そう言ってアーハンと呼ばれた男性に詰め寄る少女店員。
「すまない………。知らず知らずのうちに負けが込んで、つい………」
おおっ、すっげー………本当にお約束の展開だ。ちょっとドキドキしてきた。
「ここの品を全~部売っぱらっても足りねぇかもしれねぇ。あるいはそこの娘っ子をうちで引き取ってやるぜ!なぁアーハンよ、この借用書に書いてある通りにな!」
そう言いながら兄貴分の男が、懐から何やら紙を取り出し勝ち誇る様にアーハンさんへと見せびらかす。
「馬鹿なっ!俺はそんな事書いてないっ!アーレは絶対渡さないっ!!」
アーハンさんが少女店員――――アーレさんを庇う様に前に出る。
きっと縮緬問屋の御隠居さんか貧乏旗本の三男坊、はたまた遊び人の御奉行様が現れるはずっ!
僕は思わず握った拳に力を入れる。
「あれぇ?この証文おかしいのです」
僕がちょっぴり期待に胸を膨らませて入口を見ていると、ララがそんな事を言っていた。
「な、何だっ手前ぇはっ!?」
僕たちの存在に気付いた男達が焦ったように声を上げる。
ちぇ~、やっぱ現れないか。
「通りすがりのものなのです。それにしてもこれ、ゼロが後から1つ付け加えられてるのです。それに署名のインクと条件の文言のインクも別物なので、これも後で書き加えられたものなのです。この証文は無効なのです」
いかにもな三下悪役がやりそうな手口が、ララによって暴かれていった。
さしもの2人も思わず後退る。
「関係のねぇ奴ぁ引っ込んでいやがれっ!」
そして憤ったチンピラがララを捕まえようと手を伸ばすが、それをひょいと躱してさらに話を続ける。
「おおかた言葉巧みにアーハンさんを誘って賭け事に興じさせ借金を作らさせたのです。やってる事は見え見えなのです」
ばばーん!ララが見得を切って言い放つ。
うんまぁ、王道だよね。時代劇の。
目的は店自体か、アーレさんかは分からないけど。
「ちぃっ、な、何を言ってるか分からねぇなっ!借金は借金だっ!!」
図星を指されたのか、動揺を隠しつつ兄貴分が怒鳴り散らす。
「賭け事で100万なんてあり得ないのですっ!」
チンピラが捕まえようとジャンプするが、ララは微妙に届かないところで浮かんで声を上げる。
「俺が借りたのは10万だ!100万なんて大金は借りてないっ!」
金額に驚いたアーハンさんが声を荒らげ否定する。
「借りた金には利子が付くんだよっ!常識だろうがっ!!」
「ほほほのホーなのです。日付も書かれてない借用書に利子が付くなんてちゃんちゃらへっへーなのです」
兄貴分が唾を飛ばして言葉を叫び、ララが見下す様に論破していく。日付ぐらい書きなよ。どんだけ杜撰なんだ。
「のりのりだな〜ララ………」
その様子を見ながらつい僕は呟く。
「ふぉっふぉっふぉっ。妖精とは珍しいのぉ。かかか!」
そこへ新たな人物が店の中へと入って来た。
どっちだ?悪か正義か?
僕も少しばかりノリノリになっていた。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅううございます
ブクマありがとうございます 感謝です!(T△T)ゞ
Ptありがとうございます うれしー Σ(T人T)




