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136.ショビッツさんは跪く

 

 

 

 HPポーションを皮切りにMPポーション、解毒ポーションをそれぞれ100本。

 昼に一旦ログアウトしてお昼を摂ってから、またログインして2時前には全部作り上げる事が出来た。

 

 MPポーションは前にも作った事があったので大丈夫だったんだけど、解毒ポーションは作り方が全く分からなかったので、ちょっと困ってしまった。

 何故か知っていたララに、材料と作り方を教わりなんとか全てを作り終えることが出来た。いやー、ここいいわー。

 

 薬草も揃ってるし、機材もあるし至れり尽くせりだ。

 まぁ、ララとウリスケがいなきゃ、こんなに簡単には行かなかったろう。

 そのおかげか【調薬】のLvもサクサク上がった。加工を覚えてさらに効率よくポーションを作り上げることが出来たのだ。

 

「むふー」

 

 出来上がったものを種類ごとに分けて並べる。

 成果を眺めるのは何とも気分がいいものだ。

 そこへショビッツさんがやって来た。

 

「ラギ坊やってるか〜って、終わってんのかよっ!?」

 

 三度跪くショビッツさん。この人感情の起伏が激しすぎる気がするんだけど、大丈夫かなぁ。

 

「大丈夫ですか?ショビッツさん」

「大丈夫でし。ちょっと自分の常識がちょびっと崩れかけてるだけでし」

 

 僕が尋ねると、口調まで変わってしまっている。何も悪い事はやってないんだけど、申し訳ない気分になってくる。

 

「ショビッツさんメンタル弱いのです」

「グゥ………」

「よわ」

 

 うちの子達はちょっと酷いかも。でもこの調薬くらいならPC(プレイヤー)なら出来ると思う。だって僕がやれてるんだし。

 

「じゃあ、作業場ここ使わせて貰いますね」

 

 跪いてるショビッツさんは放置して、自分達の分のポーション作りに取り掛かることにする。

 

「はっ!そ、そうだ。ほら、これおやつな、おやつ!スヘルンとっから貰ってきた。後お茶持って来たから飲みな!」

 

 ガバッと起き上がってから手にしていた山と積まれたお菓子が載った皿を僕達の前に置き、お茶を配ってくる。そしてその後また奥へと行ってしまう。

 落ち込むのも早いけど、回復するのもやたら早い。

 ある意味いい性格をしている。僕とは真逆だ。

 湯呑み茶碗に入れられたお茶―――スーッとした清涼感溢れる香りを嗅ぎつつひと口啜る。

 

「はへ〜っ………」

 

 少しばかり根を詰めていたので、ちょっとほっこりする。

 

「マスター!これサクもち甘〜ンなのです!!」

「グッグッグゥ〜〜ン」

「サクもちうま」

 

 僕がお茶を飲んで一服してる間に、ララ達はショビッツさんがスヘルンさんから貰ったというお菓子に舌鼓を打っていた。

 どれどれと僕もそのお菓子を手に取る。

 大きさは一辺が5cmの四角で、厚さが2cm程のものだ。

 

 見た時は最中っぽいなぁと思ったけど、手に取るとその感触からどちらかというと堅く焼かれたクッキーの様な堅さを感じる。(確かゴーフレットだっけ?クリームを間に挟んだお菓子を思い出す。食べだすと止まらないんだよなぁ、あれ)

 ひと口齧ると、サクリと割れ崩れる感触と中のもちっとした食感が口の中に訪れる。

 咀嚼していくと、サクサクもちもちとが口の中で合わさっていく。面白い。

 

 齧った断面を見てみると、四角に型どったゴーフレットの間に信◯もちの様な透明な物体が入っている。

 さらに食べ進めていくと、中央部分にハチミツなのか口の中に甘さが広がる。うん、確かにサクもち甘〜ンだ。

 ララの表現に納得しながら2個目を取ると、皿にたくさん載っていたお菓子は無くなっていた。

 あんなにあったのに、皆食べ過ぎだよ………。

 用足しに行っていたショビッツさんが唖然と皿を見てひと言漏らす。

 

「あれ………?あたしの分……」

「………………」

「………………」

「………………」

 

 ララとウリスケ、アトリがクルと身体を背けてお茶を飲んでいる。

 さすがにこの状況で食べれる程僕も鬼じゃないので、手に持ったお菓子をショビッツさんへ渡す事にする。

 

「………どうぞ」


 涙目でそれを見たショビッツさんは、痩せ我慢する様にかぶりを振って答える。

 

「そいつはラギ坊のもんだ。あたしは後で別のもんを食べるから……ぐす……いいよ」

 

 そう言われたのでじゃあ遠慮無くと食べようとすると、眉尻を下げ目を見開きショビッツさんが僕の方を見ている。

 ………食えないよっ!

 

「あーお腹いっぱいだからも〜い〜や〜」

 

 仕方ないので棒読み混じりにそう言って、持っていたお菓子を皿へと戻す。

 それを見たショビッツさんが、ぱあっと表情を明るくしてお菓子に手を伸ばそうととした瞬間、お菓子が消えてなくなった。

 

「なっ!はえっ!?」

 

 唖然としながら声を漏らすショビッツさん。

 

「グ?」

 

 うん、犯人はウリスケだ。僕が皿に置いたのに気づくと、横から掻っ攫いひと口でパクリと食べてしまった。

 

「あ、……あぅ……」

 

 ショビッツさんの頬に涙が1つポロリと落ちる。そして―――

 

「酷いでしっ、あんまりでし〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 泣きながら作業場をショビッツさんは飛び出して行ってしまった。ありゃ〜。

 

「ウリスケ………」

「グッ?」

 

 なぁに?って感じで口をモゴモゴさせながら首を傾げるウリスケを見て、自覚無しかと溜め息を僕は吐く。

 

「ふっふっふ。これくらいは当然なのです。マスターにこ~んな無茶ぶりをしたのですっ」

 

 ウリスケをけしかけたらしい張本人ララが、黒い笑みを浮かべてシュビッツさんが去って行った方向を見ている。

 どうやらララは少しばかり怒っていたみたいだ。まぁ半分は不可抗力で、もう半分は意趣返しってとこか。

 

「もういぢっちゃダメだよ、みんな。これで充分だろ?」

「分かったのです、マスター」

「やむなし」

「グゥ?」

 

 ララとアトリは片手を上げ了承し、ウリスケは分かってない感じで声を上げる。

 まぁ、ポーション100本作れとかいきなり言われれば、普通は怒ったり文句言ったりするもんだからなぁと思い返し、再度溜め息を吐く。あー………幸せが逃げて行く。

 

 パチンと頬をひと叩きし気分を切り替えて、本来の目的である自分用のポーションを作る事にする。

 メニューを出して以前に採取(癒やしの原で)した薬草類を出して取り敢えず分類していく。

 

「うわぁ………。けっこーあるなぁ」

「貪るように採ったのです」

 

 アテスビ団(あの3にん)と夢中になって採りにとって採取した成果が目の前に山積みとなって存在している。

 取り敢えずポーション1個分の量を手に取り………あ、容器いれものってどうしたらいいんだろうか………。

 ………んーショビッツさんに売って貰う事は出来るのかな?

 まぁそれは後でショビッツさんに聞けばいいかと、ナフナ草やらシラ草と種類ごとに区分けして行く。

 

 鑑定しながら薬草類を仕分けしていく。(後でメニューからソートかければいいと気付くが後の祭りだった)

 鑑定はこんな感じで表示されていた。

 

 素材アイテム:ナフナ草 Lv3

        HPポーションの素材

 

 素材アイテム:シラ草 Lv4

        HPポーションの素材

 

 素材アイテム:ヘゲレの実 Lv3

        MPポーションの素材

 

 素材アイテム:ルルーの花弁 Lv2

        MPポーションの素材

 

 素材アイテム:ジュゲ草 Lv3

        MPポーションの素材

 

 んー、あんまり詳しくは分からないみたいだ。それにヤマトでプレイした時と表示が変わってる気がする。

 鑑定のLvが高くないから当たり前なんだけど。それを考えると【鑑識】ってとんでもなかったんだなぁと理解させられる。 

 どこにいるんだろうね……、バロンさん。 

 他に用途が分からないもの(???表示のもの)も幾つかあったけど、それぞれ100個づつ位になっている。まさに貪り採った結果だろう。

 さて、それじゃあショビッツさんに容器についてお願いしに行く事にしよう。

 

「ちょっとショビッツさんに頼みに行ってくるね」

「了解なのです」

「グッグ!」

「おけ」

 

 ララがビシと敬礼し、ウリスケとアトリが薬草の絞りカスを前に匂い………いや、口をもぐもぐさせてるから食べてるのか?

 あんまり美味しくなさ気なんだけど………まぁいーや。

 空になった皿を手に僕は作業場を出て奥へと向かう。

 

 飴色に磨かれた板張りの廊下を少し進むと左側に扉が少し開いた部屋からえぐえぐ言ってる声が聞こえる。

 

「ショビッツさ~ん………?」

 

 扉を少し開けて中を窺いながら声を掛けると、本棚や机が置かれた書斎――――と言うより勉強部屋っぽい部屋の中、机の下で三角座りをしているショビッツさんを発見した。

 

「あうぅ………」

 

 こっちを半目で胡乱げな表情で見てくる。いや、僕がやった訳じゃ………まぁ従魔のやった事は僕の責任でもあるか。

 仕方ない。僕は机の前に正座して、ショビッツさんと相対する。

 なんか近所で見かけるノラ猫のミーちゃんと対峙してる気分になって来る。 

 やっぱりそういう時は餌付けが1番かな。

 

 という訳でメニューから冒険者ギルドで買ったチィズ小丸玉を幾つか出して、ショビッツさんの前へと置く。

 

「おやつ全部食べちゃいましたんで、良かったらこれ食べません?」

 

 そもそもおやつ付きの依頼なので食べてしまったとしても謝る理由にはならない、なのでその辺りはスルーして話題の転換を試みる。

 

「お、チィコマか………。いいんか?」

 

 死んだ魚の目の様だった眼が復活し、チィズ小丸玉を凝視してからこちらを窺うように尋ねる。

 

「どうぞ」

「へっへっへ、悪いなラギ坊」

 

 泣いたカラスがナントヤラで、のそのそと机の下から這い出て来たショビッツさんが、チィズ小丸玉を手に取り食べ始める。

 

「んめ〜」

 

 1つ食べると止まらなくなったのか、次々とチィコマを口にしていく。

 皿に載せた分を全部食べて、部屋にあった水差しから湯呑みに水を注いてそれを飲み干して、ショビッツさんが確認するように聞いてくる。

 

「本当にこの街の秘密を知りたくないんか?ラギ坊」

 

 静謐な揺るぎない湖面の様に落ち着いた瞳でこちらを見やる。

 おそらくはこの街にあるイベントかなんかのキーフラグ―――ララが言ってたヤツ―――なんだろう。

 だから、ポーション100本なんて無茶ぶりでPC(こちら)を試すような事をしてるんじゃないかなと思ってる。

 

 ただ何らかのイベントがあるにせよ、先にナチュアさんの護衛という任務クエストを請けてるので、フラグを立てる訳にも行かない。

 やっかいな。間違いなくギルド職員(あのひと)の差し金だ。

 腹黒そうだもんなぁ、あの人。

 

「知りたくないかと言われれば知りたい気持ちはありますけど、ここにはとある依頼の準備の為に来たんで、今はそっちを優先したいんですよね」 

 

 どっちつかずな感じで建て前を出して、なるべくフラグを立てない様に答える。

 

「それにそう言うのって自分で見つけた方が面白くありません?」

 

 ゲームをプレイしてい(やって)る人間らしからぬ発言を茶目っ気混じりでショビッツさんへとする。

 それを聞いたショビッツさんは俯いて肩を震わせた後、豪快に声を上げてパンパンと膝を叩いて笑う。

 

「ふっ、はっはっはははっ!いいな!ラギ坊!そう言うのあたしも好きだぜっ!あっはっはっはっはっ!!で、あたしに何か用があったんだろ?」

 

 笑い終えると、ニカリとショビッツさんがニヒルに聞いてきたので、ポーション用の容器を幾つか売って欲しいとお願いする。

 

「えと、ポーション用の容器を幾つか売って貰いたいんですが、自分用のポーション作るのに必要なんで」

「おう、ってかお代はチィコマごちになったからいいよ。ちょっと待ってな、あるだけ出してやるよ」

 

 いや、そんなにいりません。

  

 


「なんじゃこりゃあっ!?」

 

 作業場にやって来たショビッツさんが開口一番そんな声を上げる。

 仕訳された薬草類、その中でも鑑定が出来なかったものの所へとドダダっと駆け寄り次々と手に取って確かめる様にそれを見ていく。

 

「ニミーガの葉にレオペロの房、オンドーロの実までっ………!!」

 

 そして僕の方へジャンピング土下座してお願いしてきた。

 

「ラギ坊っ!いや、ラギさん!是非、これを売って下さいましっ!」

 

 ははーっとどこぞの副将軍に相対した様にかしずくショビッツさん。

 どうやら鑑定できなかったヤツは希少なものらしく、なかなか手にいれられないものの様だ。

 

「ふっふっふーっ。ど・う・し・よ・う・なのです」

「グッ・グッ・グ!」

「わるよの~」

 

 悪代官のような顔をして、腕を組んだララがそんな事を言っている。

 ウリスケも真似しない。

 ララ達を軽く窘めショビッツさんに薬草類を快く売り渡す。

 

 その後は自分用のHPポーションとMPポーションを作り上げて、ショビッツさんのお店をお暇して雨具を買いに行く事にする。

 

 

 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます 感謝です(T△T)ゞ (ガンガリマス) 

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