135.作って作って作ります
僕達は冒険者ギルドを出てそのまま歩道を東へと進んで行く。
メモはアイテムとしてしまってメニューから呼び出すと、ホロウィンドウが現れ地図を表示する。
どうやら目的の薬店と雨具を扱っている店は近くにある様で、通り1本間に挟んだ斜め向かいにあるみたいだ。
「マスターここから入るのです」
先を進んでいたララに追いつくと、歩道の左側に奥へと続く路地が1本あった。
もしかしてプロロアーノ商店街みたいなパターンなのだろうか。
幅は車1台分が十分通れるほどで、それ程狭いという感じはしない。
そこを通り抜けると、僕の予測は外れ1本通りはあるもののさほど人気のない所へ辿り着く。
ちょっと見た印象は時代劇でよく見かける長屋が思い浮かぶ。
木造の平屋の建物が、向こう側まで並んでいる。
その1軒1軒に看板の様なものが壁に掛けられていた。
商店街というよりは、問屋街とか卸問屋の店って感じがする。
僕達はそのまま奥へと歩を進め、1軒の建物の前で足を止める。
「ここなのです」
ララがそう言って看板を指差す。
壁からぶら下がってる看板を見ると、確かにフェルフェア薬店と書かれてある。
ただ格子戸の表門の奥に建物があるので店というよりは一般の家にしか見えない。
特に呼び鈴らしきものも無いので、仕方なしに格子戸をガラガラと引き門を潜り中へと入る。
「おじゃましま〜す」
飛び石が敷かれ家へと続く道を少し進み玄関へと向かう。
小振りな庭といった感じのそこには、様々な薬草が植えられていた。(鑑定かけて分かった)
「確かに薬を扱うところみたいだけど………」
一抹の不安はあるものの、ここまで来たのだから後には退けない。
家は木造の平屋建ての様で、本当に普通の家にしか見えない。
玄関は上部分が障子張りで下部分が板張りの引き戸になっていて、上部分には薬の一字を丸で囲んだものが書かれていた。
世界観大丈夫なんだろうか?
壁にぶら下がっている板と木槌があったので、これを2度ほど叩いて声をかける。
「ごめんくださ~~い」
「はぁ~い。開いてましよ〜」
すぐに返事があったが、何か声が幼い感じだ。
その声に従い引き戸を引いて中へと僕達は入って行った。
「らしゃいませ~~。………お兄ちゃん、ご用はなんでしか?」
1人の少女(10歳くらいの銀色の前髪を眉の上あたりでぱっつんにしてる)がダブダブのローブを纏って室内なのにフードを被って床の上でこちらを窺っている。
室内は入り口が土の地面、いわゆる三和土になっていてそこから先は石の土台の上に木で作られた板張りの床が広がっている。まんま日本家屋だ。
10畳ほどの部屋の中はカウンターと壁に棚が作り付けられて、そこには壺やら薬草の束が入れられていた。いかにも薬種問屋っぽいね。
僕は少女の問いに少ししゃがんで目線を合わせて答える。
「冒険者ギルドの依頼でこちらに来ました。あ、これを渡せば分かるって言われたんですけど」
僕はそう言って少女に木札を渡す。
少女はしばらく木札を見てそれを懐にしまう
「分かったでし!聞いてくるでし〜」
そう言って少女はてててと奥へと走って行った。
「グゥ?」
「マスター、どうしたあの方に木札を渡したのです?」
「ん〜、なんとなく………かな」
子供に渡すのではなく、店の主や他の大人を呼んで貰えばとララは言ってるんだと思うけど、多分あの子がこの店の主人なんじゃなかろうかと僕は思ってる。
こちら―――僕の方をじっと見つめるその眼は、まるでこちらの全てを見透かすかの様に、或いは試すかの様な色をその紫の瞳に宿していたのだ。
そう、まるでじーちゃんやガモウさんの様ないろんな経験を経てきた人間の、それに似たような感じをあの子から僕は受けたのだった。これゲームだよね?
「もしかしてロリば―――」
「言わせねぇよっ!!」
ララの言葉を遮る様にさっきの少女が現れ口を挟んできた。
どうやら隠れてこちらの様子を覗っていたみたいだな。
「ちっ、そうだよ。あたしが店主のショビッツだ。調薬補助依頼だよな。ほら、こっち来な」
態度をガラリ180度変えた店主―――ショビッツさんは、フードをバサリと外すとそのまま奥へと行ってしまう。笹葉の形の耳が目に入る。エルフの人か。
ご同輩だね。でも格は相当上って感じだ。
僕はブーツを脱いで(この辺りはメニューからでも直でもやれると姉に教えられた)ショビッツさんの後を追う。
ララはどこからか出した布でウリスケの足を綺麗にしていた。………うんまぁ、たしかに当たり前っちゃ当たり前なんだけど。ねぇ。
部屋を1つ隔てた所で待っていたショビッツさんに追いつくと、入るように顎をしゃくり指示してくる。相当アクが強そうな人だなぁ。
中に入るとそこは作業場の様で、薬を作るのに必要な器材が幾つも置かれてあった。おぉっ。
「すごいのです」
「グッ!」
「おー」
「そんじゃ、まずはHPポーション100本作ってもらおか」
「え?」
調薬補助じゃないの?てっきり薬草の区分けとか、加工の手伝いだと思ってたんだけど………。
「そういや名前聞いてなかったね、教えな?」
矢継ぎ早に会話を繰り出してくるので、少しばかり困惑してしまう。………そういや名乗ってなかったか。
「あ、僕はラギ〜」
「うん、ラギ坊な」
「ララなのです。こちらはウリスケさんなのです」
「アトリ、よろ」
全部名乗る前にバッサリ切られ、その後ララ達が挨拶をする。坊って何か久しぶりに言われた。
「ララ坊にウリ坊とアト坊だな。よし、ほらラギ坊とっとと始めな」
はぁ〜、アクが強すぎる。それにこういう人に逆らってもあまりいー結果にならないことは経験上知っているので、言う通りにHPポーションを作る事にする。
とは言え【調薬】は全然やってないからLv1なんだよなぁ………。大丈夫かな。
「そこにある素材は使っていいからしっかりな。あたしはちょっと出て来るから」
ショビッツさんはそう言い捨てて奥の方へと行ってしまった。何だかなぁだ。
「さて、んじゃやろうかな。ララ、ウリスケ手伝ってね」
「もちろんなのです」
「グッグッグ」
板張り床の隅に積んであった座布団を借りて器材を目の前に置いて、材料をララ達に運んで来て貰い作業を始める。
作り方はヤマトと時に覚えたけど、VRだとまた違ったりするんだろうか。
「ララ、HPポーションの作り方って――――」
「同じなので問題ないのです」
エスパーララのお言葉にちょっとだけ安堵して作業に取り掛かる。
とは言ってもコントローラーでグリグリやる訳じゃないので、ある意味初体験になるのかな。
薬草をそれぞれ細かくすり潰していくんだけど、ミニゲームと違って勝手が違うのでとちょっとばかし要領を得ないところがある。
「えーと、2種類の薬草をすり潰して水を入れて濾すんだったっけかな?」
「なのです。シラ草とナフナ草なのです」
脇にに置かれた箱の中には、ウリスケが運んでくれた乾燥した薬草の束が山になっていた。
「おっ、サンキューなウリスケ。とりあえずそれ位でいーよ」
「グッ」
棚にあった薬草を運んでいたウリスケにお礼を言いがてら、一旦運び込むのを止めて貰う。必要になったらまた頼む事にしよう。
手の平ほどの大きさの乳鉢に薬草を入れようとして、しばし手を止める。
ミニゲームならともかく、乾燥してるとは言え束のまんまの薬草をこのまますり潰すのは大変そうだ。
という訳でまず薬草を細かく千切って入れていく事にする。
ダメだったらダメでやり直せばいーのだから問題ないだろう。
細かく千切った2種類の薬草を乳鉢へ適量(ララに指示して貰い)入れて、すりこぎ棒でゴリゴリすり潰していく。
「おっけーなのです」
ララの合図でゴリゴリを止めて、右脇にあった取っ手のついた水瓶を手に取り、乳鉢に水を流し入れるとやがて濃い目の抹茶色になって行く。
「そこなのです」
ララの声で水を流し入れるのを止める。この後は攪拌棒で掻き混ぜていく。
ミニゲームの時と違ってガイドというか指標がないので、なかなかに骨が折れそうだ。ララがいなかったら失敗してるかもしれない。
いや、最初から上手くいくってのも面白みはないかな?
ぐるぐるとかき回してると、乳鉢にに変化――――気持ちほんの少しだけ―――が起こる。ま、一瞬光っただけだけど。
「いーのです」
ララの声がする直前にかき回すのを止めて、正面にあるコーヒードリッパーの様なものが乗っている魔法陣が描かれた容器へと注いでいく。
液体がすべて下に落ちると、ピコンという音とともに[COMPLETE]の文字が現れる。
「かんせーなのです!」
「ふぅー」
ララのその言葉に僕は安堵の息を吐く。何事も初めては緊張するものなのだ。
「グッグッグ」
ウリスケがいくつもの小さな容器が入った箱を持って、僕の目の前にやってきた。何だこれ?
「それに出来たHPポーションを入れてなのです」
ふむふむ、ミニゲームの時と違って容器は別に必要になるって訳だ。
ララの指示に従って濾し器部分を外し、ウリスケが持ってきた小容器へできたHPポーションを流し入れる。おお、ぴったりだ。
「出来たのです!」
「グッグッグ~ッ!」
「おめ」
濃い抹茶色だった液体は明るいライムグリーンへと変わっていた。一緒に置いてあったコルク状のフタをキュッとつけて本当の出来上がりだ。
鑑定してみるとこんな感じになる。
アイテム:HPポーション Lv2
HPを30ポイント回復する
「よし、この調子でどんどん作って行こう」
「ガンガンなのです!」
「グッグッグ」
「お〜」
始めは1つ1つ丁寧に作って行き、Lvが上がりアーツが使える様になるとまとめて作る事が出来る様になって作業が捗ってくる。
薬草の刻む大きさや順番などを変えたりして、なるべく良い物にしようと工夫を凝らしていく。(あんまり上手く行かなかった。当たり前か)
こうして一心不乱にHPポーションを作っていると、いつの間にか100本を作り終えていた。
「マスター、100本作り終わったのです」
「えっ?そう!?」
どうやら夢中になって作っていて気が付かなかった。ふぅ、やれやれだ。
木箱には25個の小容器の入った箱が4つ縦に重ね置かれていた。
そして【調薬】のLvは8になっていた。これはこれでラッキーか。
さて、これからどうしようかと思っていたところに、ショビッツさんがやって来た。
「たくっ、あの野郎。のらりくらりと………。おっ、どうした?嫌んなったら帰っていーぞ」
僕の方を見て何とも厭らしく笑ってそんな事を言って来た。
僕はしれっとそれをスルーしてへろっと告げる。
「あ、HPポーション100本作り終えました」
「そうかそうか……って、はあっ?終わっただぁあ!?」
「はい、終わりましたよ。それが何か?」
「何か?なのです」
「グゥウ?」
「にか?」
「………うぐぐっ」
僕がショビッツさんにそう言い返してララ達も同じ様に真似をする。
それを悔しそうに歯ぎしりしてから、気を取り直してニヤリと笑う。
「そうれじゃ出来たもんを見せて貰おうか。出来たもんをな!」
う〜ん、なんか目の敵にされてる感じだけど、誰かに何か嫌な事をやられた記憶でもあるんだろうか。ちょっとだけ心配になってくる。
「マスター、大丈夫なのです。最低ラインは全部クリアしてるのです」
「そっか。んじゃ問題ないよな、うん」
小声でララのお墨付きを貰って少しだけ安心する。でもイチャモン付ける人は付けるんだよなぁ。
ショビッツさんは箱を持ち上げつつ小容器を眺め見やる。
どうやら鑑定を使って中身を確かめてるみたいだ。
「うぐぐぅ………やるじゃねぇか。一応全部使えるヤツだ」
4箱全部を確認した後、項垂れるように跪いてシュビッツさんが言ってくる。ん〜訳が分からない。
この人は一体何を求めてるんだろう。
そしてガバッと身体を起こして、声を凄ませてシュビッツさんが僕に尋ねる。
「よしっ!それでラギ坊、お前は何が知りたいんだ?」
「?」
僕とララとウリスケは、何言ってんだ?この人って感じで首を傾げる。
「いえ、特になにか知りたいとかは………。あ、自分の分のポーション作りたいんでこの場所貸して貰えますか?」
知りたいと言うか、お願いしたい事があったので聞いてみた。
「え?あたしの事知ってて来たんじゃねぇの?この街の秘密についてとかよ」
何とも不穏な事を言ってくるが、僕は正直にここに来た経緯について話をする。
「作業場を借りようと思ったら、ギルドの職員さんにここの依頼を請けて場所を使わせて貰えばいいよって言われて来ただけですけど………」
「はぁああっっ!?」
目を見開いたシュビッツさんが大声で叫んで、再度跪く。何なんでしょ。
「シュビッツさんは何やら勘違いの上、空回ったみたいなのです。おそらくここはこの街のイベントのキーフラグか何かなのです」
「グゥ〜」
「からま」
ちょっとだけ可哀相な人を見る目でシュビッツさんを見てると、再度起き上がり何事もなかったかの如くの顔で、僕に向かって言い放つ。
「ふっ、分かってたぜ場所借りたいってのはよ。いいぜ!貸してやるよ。代わりに後HPポーション100本とMPポーション100本、解毒ポーション100本作ってくれ。よろしくな!」
ほんとに何事も無かった様に振る舞いつつも、顔を真っ赤にしているので成功しているとは言い難く、無茶な条件を言って奥へと去って行ってしまった。
「無茶ぶりなのです」
「グゥ」
ララが今の僕の心境を明確に口にしてくる。
「まぁ、いいさ。材料はあるしLvも上がるから文句も言えないしね。頑張ろか」
「はいなのです」
「グッグッグ」
「おー」
こうして僕達は再びショビッツさんが戻ってくるまで、作って作って作ったのであった。
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