132.キラくんを行動を観察する その25
工房へ入り隠し部屋の中へ入って、HMVRDをかぶってライドシフト。
VRルームから会議室へと移動する。
さてさて、何から取り掛かろうか。
まずは掲示板関係から拾い上げていこうか。
そこへ光の玉がやって来て弾けると、ララちゃんが現れてくる。
「サキさまお手伝いするのです」
キラくんに頼まれたらしいララちゃんが、そう言って申し出てきた。
さらっと見ただけでもかなりの量があったので、正直ありがたい。そうだレリーも呼んどこう。
「レリー!」
「はい、あるじ様」
レリーは忍者の様に音もなくシュビっとあたしの目の前に現れる。慣れたもので驚く事はない。
「レリーもちょっと手伝ってくれる?NPC絡みのイベントの事を掲示板から抽出したいの」
「畏まりました」
レリーは丁寧に頷きホロウィンドウを出して目を閉じる。
「サキさま。分類はどう分けるのです?」
「んーとね、第1,第2,第3サークルエリアと、各街ごとに分けてくれる」
「はいなのです」
「畏まりました。あるじ様」
こうしてあたし達は、NPC絡みのイベントの抽出作業を始める。
途中ミラと秘書ちゃんがやって来て作業に加わるが、結局あまりの量に音を上げ次の日に作業を再開する事にして一旦切り上げる事にする。
こんな事で根を詰めてもあまり良い結果は生まれないのだ。
ララちゃんとレリーにお礼を言って別れ、ライドシフトして現実へ戻る。
HMVRDを外して軽く伸びをし、椅子の背凭れを倒して仮眠を取る。
この椅子は寝心地がいーのだ。くかー。
『あるじ様、おはようございます』
「ん………はよ〜」
レリーの呼び掛けに寸の間鈍く反応、そしてパチリと目を開ける。
背凭れを倒したまま腕を伸ばし、背を反らせて伸びをする。
これで身体に血が巡り、意識が浮上してくる。
「ん、がああ〜っ」
息を大きく吸い吐き出す。よしっ、起きた。
ホロウィドウを出して軽く昨夜の成果を眺め見る。
とは言え全体の詳細も分からず、かなりの数のイベントを見るとちょっとばかり辟易してしまう。
まぁこればっかに関わってる訳にも行かないけど、今日はミラん会社に寄ってある程度話を詰めつつ、後はバンゲさんとこに顔出しと仕事場の整理をやろうかな。
頭の中で予定を組み立ててから、工房を出てキラくんの部屋へと普通に入る。
早朝なので、いくらあたしでも思い切りドアを開けたりはしないのだ。
調子っぱずれのキラくんの鼻唄を聞きつつ、居間に入り腰を下ろしてテレビをオン。
仕事の方にも腰を据えなきゃと思い、ミニPCを開いて場の流れを確認する。
もちろん海外の取引も範囲に入ってるので、朝早くても作業に困ることはない。
年明けなので、可もなく不可もなくと言ったところか。
そうしているとキラくんが朝ゴハンを手に居間に入ってきた。
おおう!今日はキラくん謹製フレンチトーストだ。
2つ折りにした食パンの間にハムやチーズ、タマサラなんかを挟んで卵液に浸して、揚げ焼きするのがキラくん仕様のフレンチトーストだ。
キラくんはこの手のものはひと捻りしないと気が済まない性質なので、何気にガッツリ系になる事が多い。
もちろん、あたし的には何の文句もない。
ミニPCを片付けてさっそく食事に取り掛かる。
表面カリカリ中しっとりのパンに、挟まれたチーズがいい具合にとろけてハムと相性ピッタリだ。パンに染みた卵とミルクも、甘みと程良い塩っけが味わい深い。うまうま。
手が汚れるのを気に留める事なく、コーヒーを啜りつつ次から次へとフレンチトーストに手を伸ばす。
ちと食べ過ぎたかも知れないけど、これでエネルギー充填120%ってことで満足して食べ終える。
キラくんに今日の予定を聞いて、後で連絡する旨を告げてアパートを出て愛車に乗り込みミラの会社へと向かう。
あ、また忘れた。う〜ん、後でメールしとこ。
ミラのとこで進捗状況を互いに確認しつつ、掲示板だけでなくログの確認もした方が良かろうという事でで、一旦話を締めつつ今度はバンゲさんのとこへと向かう。
軽く皆と挨拶を交わし、仕事場で幾つかの懸案事項をこなし、あっと思い出したので慌ててキラくんにメールを送る。
「ラビタンズネストでゴハン作ってね。と送〜信」
午後から予定がないって言ってたから大丈夫だと思うけど、ダメだったらレイちゃんには少し待って貰えばいい。
軽く近所で昼ゴハンを食べて、誰も来ない様にドアプレートを【不在】に返して仕事場に戻りドアをロック。
スツールに腰掛けて、HMVRDを被りライドシフトする。
そしてゲームへログイン。行き先はラビタンズネスト!
お昼(目玉焼きナポリタン大盛り粉チーマシマシ)をガッツリ頂いてまたこっちで食べる事になるのだが、VRでのものはまた別腹なので問題ないのだ。ふっふ〜ん。
広場から細道を抜け集会所へと入る。
中ではすでにラミィとアンリが来ていて、アンリはちみっ子相手に西に行った話をしており、ラミィはテーブルの前でうつ伏せになり項垂れていた。
「まるでしたいのようだ」
「死んでねぇわっ!勝手に殺すなっ!」
「冗談よ冗談。おちゃめジョークじゃない」
「おめーが言うと冗談に聞こえねぇんだよ」
あたしがぼそっとひと言告げると、うつろな目に光が戻りガバッと起き上がり抗議してきた。だってねぇ。
互いに進捗状況を話し合う。集めるだけでもひと苦労だったのだ。
アンリは自分がいかにサーベルサーバルや、ピンクの大っきなカバを倒したのかを捏造してちっみ子達に話し聞かせている。
まぁ実害もないし、確かめる術もない事なのだからほっとく事にする。
2人でグダグダやってると、キラくんがやって来てさっそく台所へ向かい料理の仕度を始めてくれる。
あたしがお礼を兼ねて飛びつこうとした時、扉がズバガァンと勢い良く開けられると同時に大きな声が響き渡る。
「こんにちわ――――ーっ!お邪魔しま―――――すっ!!」
くっ!悩みのタネがやって来た。ってか何てかっこしてんのかこの人はっ!
短パンに絶対領域のブーツとか、思いっきり狙ってやってるとしか思えない。やれやれと力の抜けたあたしはテーブルに突っ伏す。
レイちゃんの挨拶に力なく答え、目を丸くしてるキラくんにレイちゃんが近づき挨拶をしてる。こらっ、なに手ぇ握ってんのっ!むぅ。そして謎自己紹介をされてキラくんが目を回す。
うん、そんな事言われても分かんないよね?あたしも分かんなかったし。………そういやなんか忘れてる気が………。
「ラギくんの料理をごちそうになりに来ました!」
あっそうか!それ言うの忘れてたんだ。
キラくんが更に目を丸くしてあたしの方を見てくる。(髪で隠れてても仕種で分かるのだ)
てへぺろって謝ると、はぁと肩を落として呆れた顔をしてる。
悪かったわよ!
ラミィにも突っ込まれるけど、用件はちゃんと伝えたもん。
キラくんにこれまでの事を軽く説明して、レイちゃんが条件にキラくんの料理を所望してきた事を伝えると、難しそうな顔をしたキラくんが思い出したように声を上げ、メニューを開き料理を出してきた。
最初にそれを見た時みそ田楽かなと思ったけど、よく見ると棒が刺されたお好み焼きの様だった。
キラくんのどうぞの言葉に皆が声を揃えて手に取り食べる。っ!ニンニクの強い香りが口いっぱいに広がり、お好み焼き特有の食感が何ともこ気味いい。
この味って昨日食べたペペロン焼きそばに似てるかな。なる、これ食べてニンニク料理作りたくなったのかも。
パクパクと数口で食べてしまうと、食べ足りなさに手に持つ棒をつい見つめてしまう。いや、見たって戻りゃしないんだけど。
そこへウリスちゃんがやって来て、料理をテーブルへと置いていく。
「「「おおおっっ!!」」」
皆で思わず歓声を上げてその料理を見やる。
パンケーキだっ!しかもめちゃブ厚っ!!
上に掛けられた甘いソースの香りが食欲を誘う。ごきゅ。
あたしを含め皆が貪るようにパンケーキを頬張っていく。
表がパリで、中はふんわり。まさに理想のパンケーキ!
キラくんがあたし達が食べてる最中に、アトリちゃんが眠りっぱなしなのでどうしたのかラミィに聞いてるが、パンケーキに集中してて(もちろん知らないこともあるが)レイちゃんを見て丸投げする。
丸投げされた本人は、それをサムズアップしてスルーする。
分かっててやってるのか、分からないのか。ちょっと判断し難い。
あたしもパンケーキに意識を集中してたので、そこまで気が回らなかった。
パンケーキを食べ終えお茶を飲みながら、これで条件はクリアだからレイちゃんに詳細を聞けると思っていたら、そうは問屋が卸さなかった。
レイちゃんがこれでは量が足りなくて不充分だとのたまい、現実の食材を山程テーブルの上にドカンと置いて来たのだ。
………あんた、何やっちゃってんの!?
味覚野エンジンに関しては基本、酸味、苦味、甘味、塩味、辛味、旨味をデータ化したものを運用してる。
その肝となるのが、実在する食品の味覚データとなる。
VRが開発されてからこちら、この手のデータは企業の切り札となる事から部外秘となる事がほとんどだ。
特に有名どころのブランド肉や、野菜などは厳重に保管されてるはずなのだ。
そして、醤油に味噌と言った調味料類。
キラくんが味見して目を瞠っているのを見ると、相当いーところのものなのかも。
おそらくどこかの研究所からちょっぱって来たモノなんだろう。
ラミィが涙目になってる。
あたしの思った通り笑いながら借りパクしたと言ってるが、パクと言ってる時点で借りてない。
ここだけの事という話にして、皆に口を噤む様にに指示しておく。
ちみっ子達は訳が分からず首を傾げてる。あ、アンリがそれを見て悶えてる。
キラくんがこれらの食材を見て、バーベキューでいいですかとレイちゃんに尋ねると、めちゃいー笑顔で頷く。
キラくんが食材をしまい、広場で料理を作ると言うと、ちみっ子を引き連れて集会所を出て行く。
「さて、NPC関連のイベントですよね。じゃあ、これで――――すっ!」
レイちゃんがいきなり幾つもの幌ウィンドウを、あたし達の目の前に出してきた。
「これがNPC関連のイベント全部ですね。全て記録用のサーバーに送っておきました。これから起こるものも随時送りたいと思います」
「「「……………」」」
あたし達は唖然、呆然とそれらをアホみたいに眺めていた。
すでに各サークルエリアと街、そして希少度ランクで分類されていて、しかも分り易く検索機能まで付けられていた。
他にPCからのクレームや、その対応結果などが事細かく記載されている。
「昨日からのあーし等のやった事って………」
「無駄でしたね………」
「はぁ………」
ラミィ、アンリ、あたしは一気に疲労感を感じ肩を落とす。
後は人海戦術で確認作業をするだけなので、軽くホロウィンドウを眺め見る。
が、不思議なことにチェーンイベントらしきものが1つも見当たらない。
だけどここで要らぬちょっかいをかけるとラミィが泣きそうになるので、一旦スルーしとこう。
レイちゃんが意味あり気にこっち見てるし。
で、後はキラくんの料理を堪能するのみだ。
集会所を出てあたし達は広場に行くと、すでに大人数の ラビタンズがせっせと串焼肉を焼く作業をしていた。はふん、いー匂い〜。
キラくんといえば、大きな鍋で何やら汁物を作っていた。
この醤油の香りとあたしの経験則から言えば、豚汁あたりだろうか。
すかさず抱きつくあたしを如才なくやり過ごすと(むぅ)、レイちゃんに申し訳なさそうに僕の作った料理だけじゃないと謝罪する。
でもレイちゃんはそれをさほど気にする風でもなく、大喜びで声を上げている。あめ〜じんぐ。
レイちゃんが食べていいかと尋ねると、キラくんは笑顔で了承する。
すると皆が手に手に串焼肉を手に取り、いただきますをしてから食べ始める。もちろんあたしも両手に1本づつ確保済みだ。
ラビタンズが焼き上げたという串焼肉は、程よい焼き加減でいくらでも食べられそうな美味しさだ。
ラミィとレイちゃんもあまり人様には見せられないような姿で、串焼肉にがっつき頬張っている。
アンリはラビタンズから渡されたそれを、涙を流して食べていた。
ララちゃんとウリスちゃんはキラくんを手伝いつつ、自分たちの分の串焼肉をすでに確保していた。やるにゃ。
さささと串焼肉を食べ終えたあたしは、すぐにキラくんの前へと1番に並ぶ。
手渡されたお椀をしっかと手に掴み箸を受け取りすぐに移動、手近にあった椅子に座りさっそく手に取ったブツを口にする。
まずはお汁をズズッと啜る。ふほぉっ!
醤油ばかりでなく、少しばかりの味噌が入ったハイブリット?なお味で美味しい。
豚汁のようでありながら、鳥も牛も入っていて野菜も見知ったものがたくさん入ってる。
これ豚汁と言っていーんだろうか。ん〜まいっか。
何度かおかわりして全ての料理を平らげ皆が満足そうにしてると、更にもっとと言ってキラくんに料理を作らせた後レイちゃんは笑顔で帰って行った。
またとか言っちゃてるし………。ってか、これっきりじゃなかったんかい。
とりあえず今日はここまでという事にして、あたしはキラくんを誘って焼肉屋に行く事に決める。
これだけのものを堪能して、現実で普通の食事をするのもちょい哀しい気がするからだ。(もちろんキラくんの料理に不満などもっての外だし、あまつさえこれから作って貰うのも申し訳ない)
ラミィが何か言ってたけど、気にしな~い。仕事して。
ログアウト、ライドシフトしてから仕事場を後にし、駅でキラくんと待ち合わせをしてそのまま目的の焼肉屋へと向かう。
前もって予約してなかったんだけど、ちょうどキャンセルがあった様で待つ事もなく席へと案内される。ありがたや。
車で来てないのでとり生と定番セット4人前を頼み、先付をバリシャリ食べながらキラくんと会話を楽しむ。
何やら分からないうちにゼミの助手をやる事になったらしい。
どうやら卒業後は助手と工房の二束の草鞋を履くことになるみたいだ。
他にはウサギロボの進捗状況やバイトの話などを聞き、やって来たビールと焼肉を堪能する。特製ダレのかかったお肉は、いーお値段だけあってとても美味しい。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、たらふく焼き肉を頂いたあたし達は店を出て駅へ向けて歩き出す。(その際は酔ったふりしてキラくんにもたれる作戦を決行)
そしてあたし達の運命というか呪われた何かがあるのか、楽しい事とかいつもの違う事をするとトラブルが向こうからやって来るのだ。
10mほど先に美女2人を両脇に抱えた男が、こちらを見て口元を緩め目を眇める。はぁ~やだやだ!
案の定、すれ違う瞬間にあたしに向かって手を伸ばしてきた。
相手も見ずにキラくんと一緒に1歩分横へずれる。
男の手は見事にスカり、あたし達はそのままそそくさと進もうとしたが、イラついたらしい男が再びあたしに手を伸ばして来た。
その手をあたしを庇いながら、キラくんがガシッと掴む。ひょほ~かっこいー。
キラくんが男に注意をすると、返事もせずに蹴りが飛んできた。
キラくんはひょいとそれを躱す。ぬぅ、何じゃこいつ!
さらに回し蹴りを繰り出した足をキラくんが掴んんだ時に、頭に来たあたしは奴の腹に掌底を軽く叩き込む。
技は奇麗だけど体幹が整ってないので、案外軽く崩れる。
たまにこういう手合いの人間がいる。恵まれた肉体と才能に溺れろくに学びもせずに技をかじった程度ですべてを知った気になる輩。
そしてその手の輩は得てして性格が酷い。という訳でもう1発、捻りと螺旋を加え両手で掌底を食らわせて昏倒させる。あーばっちぃ。
あたし達は迅速にその場を立ち去る。キラくんとの幸せタイムを台無しにしやがって!もうっ!!
んで翌日からまた面倒な話になってしまった。
どうやらあの男はどこぞの会社のオーナーらしく、顧問弁護士を名乗る男が仕事場にやって来たのだ。
名誉毀損やら損害賠償やら仕事干すぞとか脅してきたので、正当防衛である事とやれるものならどうぞと言ったら睨みつけてきた。
だがそのすぐ後にかかってきた電話に慌てて帰って行ってしまう。何故かといえばその男の悪事が報道されたのだ。さぞ大変な事になってるだろう。
もちろんあたしは何もしていない。あたしは。
そんなのが立て続けに何件もやって来て辟易した(どんだけいるんだ顧問弁護士)あたしはキラくん成分を補充するのと愚痴を吐く為、キラくんにアパートに会いに行く。
居間でHMVRDを付け座椅子に胡座をかいてるキラくんに、これ幸いと足を枕に横になる。
うつ伏せと仰向けを繰り返し息を吸う。これまでの厭な気持ちが徐々に霧散していく。は〜いやされるぅ〜。
その体勢でうとうとしてると、ライドシフトしたキラくんがHMVRDを外したのに気づいて、あたしは少しばかりの鬱憤を晴らす為、寝惚けながらスキンシップを始める。
キラくんに宥められ身体を起こすと、疲れてるのが分かったのか食べるものをリクエストされたので、前々から食べたかったものをキッチンから持って来てお願いする。(隠してるのが見え見えだったので気になってたのだ)
牛坦麺&チャーハンを食べながら、今日あった事をキラくんに愚痴っていく。
美味しい食事とキラくんのお陰で、マイナスだったバイオリズムがプラスへと上昇していった。
帰りがけにもう1度キラくん成分を充填して、アパートを出る。いー夢が見れそうだ。
朝起きて寝ぼけ眼でリビングでテレビをつけると、朝のニュース番組では例の弁護士ズの話題で持ちきりであった。
いやぁ、奴等はほんっと酷いものだった。
仕事場に来た時点で調査を始めると、横領、収賄、恐喝強要etc、etc。
有名企業の顧問弁護士の名を使いその酷い事と言ったらもう。
どうやら顧問弁護士として契約していた会社が謝罪会見をしてるみたいだ。
奴等以外ちょっかいを掛けてきてないので、あの件は終わったと思いたい。
ってか本人が来ないで外野が来たのってどうなの?って話だ。
カップ麺をずるずる啜り朝食を終え(牛坦麺うまかった)、今日はこっちで仕事をやる事にする。
HMVRDを被りライドシフトしてVRルームへ。
「……………」
何故かそこには寛いでテレビを見てるレイちゃんの姿があった。
「どうも〜サキさん」
停止していた思考が回り出し、あたしは挨拶をするレイちゃんに尋ねる。
「で、何か用事でもあるの?」
まぁあるから来てるんだろうけど。
「はい。お願いがあってお邪魔しに来ました」
お願いねぇ………、よく分からないけど、聞くだけは聞いとこう。
でも何でジャージ着てるんだろうか。
「CPを1、………2台ほど融通して頂きたいんです」
「理由を聞いても?」
サーバーCPのAIがCPを欲しがるとは、いったいどういう訳なのやら。
「今は保険の為としか言えませんね。出来れば【OHZEKI】クラスのものだと嬉しいんですが」
【OHZEKI】クラスとは、とある企業が販売しているCPのクラスで(ワークステーションの上位機)、上から2番目のスペックのものでお値段もそれなりにするのだが、レイちゃんの頼みとあればあたし自身否やはない。
ただ理由も聞かずにってのはちょっと違うんじゃないかと思うのだ。
あたしの躊躇を見て取ったレイちゃんが話を続ける。
「もちろん、それ対する見返りも用意してます。はい」
パチンと指を鳴らすと、テレビ画面にキラ―――ラギくんの姿が映し出される。
「おおうっ!キラくんっ!」
あたしは思わずテレビにかぶりつく。どっかのお屋敷の部屋で食事をしてる映像が流れてる。
そしてVRルーム内にホロウィンドウが6つ現れ、それぞれに違う角度からのキラくんが映し出されていた。
「ふおおおぅっ!!」
もう目は画面に釘付けである。特にキラくんのアップは垂涎モノだ。
「キラさん行動観察装置です。メギエスさんばかりに任せてるのも大変でしょう?これがあればいつでもキラさんの勇姿が好きなだけ見れるのです!」
「うぐぐぐぅ………」
ここで頷いてしまうとなんか負けた気がするんだけど、これを前にしてあたし自身は頷かざるを得ないと本能で理解してしまっている。
「あとサービスでこれもつけちゃいますっ!はいっ!!」
レイちゃんが手を叩いてそう言うと、VRルームが一瞬に変化しキラくんの姿が目の前に現れて来た。
厨房らしき場所で、何やら料理を作る姿が手に取れるような位置で映し出されていたのだ。
「………わかったです」
もちろん少しばかりの敗北感と共に、あたしは呆気無く頷いたのだった。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます 感謝です! (T△T)ゞ




