13.キラくんの行動を観察する その3
いつもよりかなり長くなりました。ブクマありがとうございます
VRルームに戻り、ライドシフトが終わる前に電話をいれる事にする。今の時間なら開発室か。
『TEL。開発室』
『イエス。マム』
数秒の呼び出し音の後、誰かが電話に出る。
『あい。かいはつしつ』
『ササザキだけど。しゃちょうはいる?』
『だれ?しらねぇーよしゃちょうなんて』
何だこいつは?まるで応対がなってないうえ横柄な態度。しばらく顔出ししてないうちに質が低下したのか?
『そこには他に誰もいないんですか?』
『いねぇーよ。俺がココのせきにんしゃだよ!』
何か馬鹿っぽいこいつ。相手するのも面倒だ。
『では、そのせきにんしゃの名前を教えて貰えますか?』
『俺か?おれはコウデラだ。コウデラヒロシだ。おぼえておけ』
『どうも』
ガチャンと回線を切り目を閉じる。噛み付いてくる奴にはてってー的に相手になるが、馬鹿は相手するだけ時間の無駄だ。
ライドシフトを終えて、HMVRDを頭からはずすとそれを鞄に仕舞い、ミニPCを操作して、AIのデータを専用ソフトに変換してパッキングしてから送信。これだけでも何らかの足掛りにはなるだろう。
部屋を出て所長室へと向かう。途中男2人が突っ掛かってきそうになるが、ネームプレートを見て慌てて通り過ぎる。私の事が周知てってーされてて何よりだ。
所長室をノック。返事を待たずにドアを開け中へは入らず帰る事を伝える。
「キザキ、用が出来たから私帰るね。後時間があるようなら送ったファイルでも見て暇つぶしなさい。じゃ」
「え、先輩?」
言葉を返さずにその場を立ち去ると建物を出て、愛車へ乗り込み発進。目的地に着く前に、ペン型端末を取り出し電話を掛ける。
呼び出し音の後、プツツと回線が繋がるとメッセージが流れてくる。
『ただいま、電源が切れているか、電波の届かない場所におります。御用の方はぺ―――と音の鳴った後―――――』
「しゃち………。ミラ、今どこ?」
『む、………自宅だ。私のウィズダムリングタイムを邪魔する事はたとえサキでも容赦はしない。開発室にアポを取って―――――』
「その開発室でコウ何とかって“せきにんしゃ”から、そんなの知らんって応対受けたのだけど?あんな人間が“せきにんしゃ”だと言うのなら私とあなたの会社の関係も遠からず切れていくでしょうね」
冗談を話し出したミラに、私は鋭い舌鋒を持って切り返す。結構腹にムカって来てるのだ。
『ン?……何の事だ?』
「説明もしたくないから。会話ログを送るわ」
先程の会話ログを送る。私の声音に何かを感じたミラは、しばし沈黙し声を出す。
『これは………酷いな――――。誰だ?こいつ』
「私が知る訳ないでしょう。あなたの会社よ」
『こいつは至急調べる。用件はこいつの事?』
「違う。ちょいマジヤバっぽい事が【A・W】であるのよ」
『?何だそれは』
「直で話したほうがいいから、自宅?会社?どっちがいい?」
『分かった。会社で会おう。30分後、先に着いてたら待っててくれ』
「了解」
電話を切ってシートに寄りかかる。あなたが関わってないと良いけどね。そう思いながら愛車を走らせる。
30分後、会社の小会議室でコーヒーを飲みながら私が待ってると、ドアから女性が入ってきた。身長は180cmに及ぶ長身。豪奢な金髪をミツアミとピンで後ろにコンパクトに纏めて、つり目気味の碧の瞳は強く前を見据え、白磁の肌を持つ卵顔に紅のルージュが映える。紺のレイディーススーツに身を包んだスタイルはまさにボンキュッボンである。
彼女こそが【アトラティ-ス・ワンダラー】の開発と運営を担っている社長の御厨 未来 その人だった。
「で、何の話なんだ?サキ」
「その前に“かいはつせきにんしゃ”のこと教えてくれる?」
秘書と共に私に対面に座り話を聞こうとする彼女に、別の話題を振る。
「あ?ああ、そいつは最近〇〇銀行の△△支店長からコネで捩じ込まれた支店長の息子らしい。重役が頼まれて入れたらしいが………」
〇〇銀行ね―――――。私は端末を取り出し電話を掛ける。相手が出ると冷めた声を乗せて話をする。
「こんな時間にスミマセンねハサバさん。実は△△支店長の子供さんが礼儀も知らないのに私の大事な会社に入り込んでるみたいなの。あ、会話ログ送りますね。でね…こんな礼儀を知らない人の親がそちらの一翼を担ってるのであれば、今後の取引をどうしようかと思っているのですけど………。どうしようかしら?」
青褪めた声で平謝りしながら、すぐに対処しますの声に優しい声でお願いしますと言って電話を切る。
「……行のとーどり。こわっ」
ジロリとミラを睨み、そっちの対応を聞く。
「そっちはどうすんの?」
「言わずもがなだな。すぐさま辞めてもらう」
自分の住処に土足で入り込む奴を許すほど、人間出来てないと眦をつり上げながらミラが言った。
「本題ね。まずはこれを見てくれる」
ひと息ついて、コーヒーを一口飲んだあと本題に入った。
ミニPCを開き、コマンドを打ち込んでミラのPCに送る。
それを見て驚きを現すミラと秘書。
「あなたじゃないわよね」
「ンな訳あるか!馬鹿にするな!!」
少しだけホッとする。友達を疑うのはやはり骨が折れる。
「おそらく、この状態でキルされるとアカも消えちゃってゲーム自体出来なくなると思うんだけど………苦情とか入ってる?」
私の問いに、秘書がPCを使い確認を取り教えてくれる。
「現在で30件、その様な報告があります。プレイパペットが突然フリーズしてブラックアウト。VRルームに戻されたとあります」
頷いて先を促す。
「以降ゲームが起動せず、アカウントが取り消されたとのメッセージが出て来るのみで、ゲームが出来なくなったようです」
「対処はどうしてる?」
「HMVRDを無償提供して、ゲーム内マネーを多めに渡して全ての方に了承して頂いています」
カスタマー対応としては、そんなところか。訴える人間とかいなくて何よりだ。一体型ゲームソフトの痛いところを突かれた形だ。
「泣き寝入りの分も調べて対応してもらえる?」
「かしこまりました」
取りあえず補足しておく分を頼んでおく。
「原因の調査とかやってんのか?」
「いえ、機械の不具合とのことで解決しているみたいです」
ミラの強めの口調の質問にスラスラ答える秘書。
「つかえねぇー」
「ま、対応は悪くなかったから良しとしましょう。最悪当方では、関知しませんなんて言ってたら、裁判沙汰で済まなくなってたし」
「おっかねぇこと言うなよサキ!」
「それに機械を調べてもアカがないんじゃ行動ログも無いからどうしようもないし、サーバー調べるのは面倒いしね」
溜め息を吐いて苦笑する。終わった事はどうでもいいのだ。
これ以上キラくん観察タイムを減らされない為にも対策を講じねばならない。
「で、ミラ。これからの対策なんだけど。どうするの?」
試すような物言いをする。本来、私は外部の人間であって、こんなとこまで干渉することはない。友人だからこそのお節介だ。
「NPCに関してはイベントの事もあるから変更は出来ない。プレイヤネームをベースに修正ファイルを追加していく」
しーごーとーが増えるぅ。と肩を落とし呟くミラ。秘書がポンポンと宥めるように肩を叩く。
「で――――ぇ。犯人とかどうしよっか〜?開発室の人間だとお―――も―――う―――けど―――?」
「もちろん!30台ブラスα分の機械の代金とGINの分キッチリ返済して貰うため、働かせてやるさ。なぁ?」
この部屋の管理カメラから盗み見しているであろう人間に聞かせるように話をする。
「刑事告訴とどっちがいいかしら?」
「証拠隠滅しても無駄だからな。カゲヤマ」
「え!?カゲヤマ主任!?」
秘書が驚いて声を上げる。いい年をして金に汚く、やたらとプライドが高い。けれどエンジニアとして優秀で仕事が出来るという頭の痛い人物だ。この手の裏ファイルで小銭を稼いでいるのを知っているので犯人扱いしているだけだ。
「ま、ここだけの話だ。そうじゃないかと疑っただけだよ」
「あ、PKの方はどうしよっか?」
「今後使用した時点でアカウント抹消だ」
「文句言ってきたら?」
「それこそ顧問弁護士の出番だな。そっちの方は任せるつもり。もう面倒い」
持って来た缶コーヒーをグイっと煽る。ブレスブラック〜スリープキラーここに在り〜よくあんな濃いヤツ飲めるもんだ。
「じゃ、ちょっとプレイブース借りるわね」
「いいけど。何?」
「ちょっとテストプレイヤーの監督みたいなの?」
「あ〜、モニターヴューソフトをVRソフトにコンバートしたあれか?」
「そうそう。じゃあね」
「キーくんは元気か?」
「うん!元気だよ!!今日もテストプ――――あっ!!」
くっ!うまいことカマ掛けられた。ミラめ!油断ならん。
ニヤニヤ笑いながら送り出すミラ。
「ま、せいぜい楽しみなサキ。キーくんによろしくな」
なんか悔しい気分を抑え手をヒラヒラさせて小会議室を出て、プレイブースへと向かう。
鍵を掛け、鞄からHMVRDを出してセッティング。装着してライドシフト後VRルームへ。焦れてる時ほど長く感じる。ログインしようとするとヴィジフォンのコールメッセあーんもー。
『なに?』
ヴィジフォンに出るとすぐに言葉を返す。こういう時に限って色々出てくる。
『ああ、カゲヤマが出て来たが……どうする?』
『しゃちょうに任せる………。グチグチ言ってるとアンタのコレクション潰すわよカゲヤマ!!』
ミラに全て丸投げして、後ろでグダってる男に脅しを掛ける。潰すとは物理的にも電子的にも抹消するという事だ。男は青褪めて俯き黙りこむ。
『わかった。じゃあな』
ミラのニヤニヤ笑う顔を最後に回線が切れる。おにょれ―――ミラめ〜。気を取り直してログインする。
場所は森の中でなく、建物の中のようだ。冒険者ギルドの作業場かな。
広い空間にはキラくん達以外誰もおらず、隅っこのほうで作業をしている。隅っこ好きだよねキラくん。
昔は集られ防止でなるべく広い所で行動してたけど、今は落ち着いたせいか隅っこにいく様になってた。
どうやら件のNPC共に何もされてなかったみたいだ。確認だけしておくか。
―――あら、IDが見つからない。ってことはキラくんが倒したんだろうか?けどアレを貼られるとラグるみたいだし、抵抗らしい抵抗は出来ないと思うけど……。ダメだ、考えても仕方ない。これは本人に聞くしかないだろう。
キラくんは、調薬キットを使ってポーションを作ってるみたいだ。地味な作業だけど、今後はかなり重要なスキルになる。
この前のアップデートでテコ入れしたって開発責任者が言ってたし。
始めは失敗と成功を繰り返していたのに、今は全てに成功しだしている。って、え、おかしくない?これ。 (こればっか……)
作業に滞りが全然ない。まるでオートメーションマシンのように………。まさかAIが?けど、そんな実装はしてない。あぁああ〜〜〜〜もういい。今は観察と記録をして考察と検証はあとにする。これで行こう。うん!
ララちゃんは作業机にペタコンと座り、楽しそうに作業を見ている。
そこへ出入口から2人のプレイヤーが顔を出す。辺りを見回して舌打ちをする。態度悪いなー。今日はこんな奴ばっかに会う。
キラくんへ近付き怒鳴るように声を掛けるが、無視されて声を荒らげ掴みかかろうとする。
『“他のプレイヤーへの干渉は警告の対象になります。”』
ララちゃんの言葉に手を止めて、周囲を警戒しながら舌打ちしながら立ち去っていく。
よほど後ろ暗いことがあるのか、あっさり退いていった。
ララちゃん。グッジョブ!
その後、ピリコロリン、ピリコロリンと成功音を聞きながら様子を見てると、リアルからのメールの着信が来る。
キラくんからのメールだ。見てみると。
《ギョーザ つくった あとで たべてね》
ウヒョーッ!キラくんのギョーザ!!羽根付きパリパリの肉汁ジョワーのギョーザ!た、食べたい!!
はれ?って事は今までギョーザを作ってたということは、ここでポーション作ってる彼はどーいう事なんですか?
謎が謎を呼びなぞってる。頭をハテナマークで埋めながらう〜んう〜ん唸ってると、キラくんが作業を止めて立ち上がる。
調薬キットを片付けて、ララちゃんと少し話をしてから光りに包まれ消えていった。。同時にララちゃんも消えていく。
あとには【ログアウト】のメッセージ。
今日は終わりみたいだ。時間も11時を過ぎている。
これから色々やることがありすぎて、思考が追いつかない。
とりあえず、明日はアパートへアサイチで行くことを決めて、あたしもログアウトする。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます