128.意外で以外とそれ以外
いつもより少し長めです(―「―)ゝ
ホロウィンドウを閉じてハーブティーを飲んでいると、カチャリとドアが開きコックコートを着た人物がこちらにやってくる。
その意外な姿に、僕はあんぐりと口を開けてしまう。
「料理は如何でしたでしょうか?」
「プロメテーラさんっ!?」
「びっくりなのです!」
「グッウ!?」
「おー」
いつもの鎧姿でないのだけど、妙にそのコックコートに対してあまり違和感がないというか、しっくり来てるというか。何とも不思議な感じだ。
「プロメは元々デヴィテスの館で副料理長を務めていましたのですけど、私が街々を巡る事になった時、今の様な職についてくれる事になったんです。彼女には感謝してもしきれません」
「姫様の行動が姫様の意志である様に、私の行動も私の意志なのです。お気になさらないで下さい」
軽く頭を下げてプロメテーラさんがナチュアさんに己の有り様を告げている。
ナチュアさんは困った様な、それでいて嬉しいと言った感じでプロメテーラさんを見ていた。
おっと、料理の感想を聞かれてたんだった。主従の醸し出す空気を壊すのはしのびないけど、コホンと1つ咳払いをしてプロメテーラさんへと答える。
「どの料理もとても美味しかったです。満喫させていただきました」
惜しむらくはもう少しのんびりゆったり食べたかったくらいかな。
人とペースを合わせるのってちょっと苦手かも。
ある意味社会人失格な発言だけど、まだ学生ということでご容赦願っとこう。
「とても美味しかったのです」
「グッ!」
「うま」
ララ達も僕と同様に美味しかったことをプロメテーラさんへと伝えている。
プロメテーラさんもその言葉にはにかみながら笑顔をを見せる。
「でもマスターのほうが美味しいのです」
「グッグッグ~~~~ッ」
「マスタ。うえ」
君達何言っちゃてんのぉ~~~っ!!」
ララ達がいきなり場を荒らすような爆弾発言をぼそりと付け足す。
横を向いて小さく呟いた(それくらいの分別はさすがにある)声を聞き留めたプロメテーラさんが口元を引き攣らせる。あーあ。
「ほほう。ラギ殿がそれ程の腕の持ち主とは思いませんでした。では私が作った料理に不備はありませんでしたか?」
目が笑ってないよー。プロメテーラさん。
「いいえっ!そんなものは全くありません、とても美味しかったです!!」
葉野菜はも少し大振りに切るといいかなとか、油通しをしたら切り身の食感にメリハリがついたかなとか、スープが凄すぎて全体のバランスがどうかなとか、すりおろしたアポゥに酸味がも少しあったらとか、肉がもうちょい熟成されてたら良かったのになどとか、口に出してはいけないのだ。
実際にちょー美味かったんだから文句なんてつけちゃダメなのだ。
そうデザートはキンキンに冷やしてあったらなぁなんて言っちゃダメなのだ。
「マスター思考がだだ漏れなのです」
「うぐ………」
いや〜ん、つい口から漏れ出てしまったらしい。
あくまでこれは僕の私見なので、それに人様が作った料理に文句を言っちゃいけないのだ。(言っちゃったけど)
「ぜひ1度ラギ殿の料理を頂きたいものですね」
くぅ、何で言っちゃったかなぁ僕。プロメテーラさんの眉間に縦筋が入っちゃってるよ。
「いえいえ、僕の料理なんか頂いた料理に比べるべくも有りませんから、とてもとても」
手を激しくフリフリ頭を垂れる。時たまこういうポカを僕はやってしまう。
なんか気づかず思ったことを口走っちゃうみたいだ。自覚がないのが我ながら怖ろしい。
「フゥリィズ」
ちょっと空気が険悪になりかけた時、ナチュアさんが魔法を使い目の前の果物を冷やしていく。
そしておもむろにその1つをフォークで刺して食べていく。
「あらまぁ!プロメあなたも食べてごらんなさい」
ナチュアさんがそう言ってフォークに刺した果実をプロメテーラさんへあ〜んしてくる。
「………いただきます」
色々言いたいことがありそうな顔をかろうじて抑え、フォークの果実を歯で咥えて少し下がってから顔の下に手を当てて咀嚼する。
「っ!」
プロメテーラさんは寸の間目を見開き、そしてすぐ目を閉じて確認するように口を動かす。
食べ終えるとプロメテーラさんは目を開いて僕を見る。
そしていかにも(主に少年漫画にありがち)な事を提案してきた。
「ラギ殿!ぜひあなたの腕前を見せて欲しいので、料理を一品作って貰えないだろうか」
あちゃー、やっぱりそう来ちゃったか。でも僕になんのメリットもないし、美味しいもの食べた後だからやる気も無いんだけどなぁ。
「それはおも………素敵だわ!ラギさん、ぜひお願いします!」
これ幸いとナチュアさんがプロメテーラさんの提案に乗っかってきた。
見た目と違いやってることが大人顔負けで、僕は思わず舌を巻く。
そして何気に黒い。面白そうって言おうとしたよね、今。
ピロコリン!
イベントNa−02:お嬢様へ料理を作ろう!
お嬢様の要望で料理を作ることに
厨房の器材を使ってひと品作って下さい
ただし………
はりゃ〜、こんな事でもイベントが発生するのか。しかも意味深な文章だなぁ。
………仕方ない。ララが煽って僕がポロッと口にしたせいだし、何か作れば納得してくれるだろう。
「………分かりました。でも味の保証はしませんよ。不味くても勘弁してくださいね」
僕が答えると、イベント画面が了承を確認して消えていく。
「ええ!もちろんですわ」
ナチュアさんがそう言って手元の呼び鈴をチリリと鳴らすと、メイドさんが扉を開けてやってくる。
「お呼びデしょうか」
「ええ、これからラギ様に料理を作って頂けることになったので、厨房に案内をして差し上げて」
「畏まりました。こちらへどうぞ」
メイドさんが僕の方を見て、案内のため先へと歩き始める。
「プロメ。明日の予定を少し詰めましょう」
「はい。姫様」
ナチュアさんとプロメテーラさんが話し合いを始め、僕達はプロメテーラさんが入って来た扉から部屋を出る。
その先には左へと通路が伸びていて、メイドさんがそちらへと進んでいく。
「で、なんでそんな恰好してるんですか?ヴァーティさん」
ビクンと肩をちょっと揺らして、1秒ほど間が空いた後クルリとこちらに身体を向けて首を傾げる。
「何を言ってるのデしょうか?私はただのメイドデス」
そう言ってまた身体の向きを変え通路を歩き出す。
「あの口調とちっぱいはヴァーティさんなのです!」
「グゥ~?」
「ちぱい、ちぱ~い」
ララが小声で話しているのを聞き留め耳が反応するが、ヴァーティさんはスルーして歩き続ける。
君等ちょっと酷いぞ。
「人様の身体の事をあんまり言っちゃだめだよ。その事で涙を流したり逆恨みしたりなんて事あるんだから」
僕が小声でララに注意をしてると、ヴァーティさんが顔をこちらに向けてキッと睨みつけすぐに戻すと、早歩きで行ってしまった。む、いかん聞こえてたか。
「マスターも何気にキツイのです」
ララがやれやれといった感じで肩を竦める。確かに否定できない。すみませんヴァーティさん。
「ちょっと!あなた何やってるデスかっ!厨房を使うと知らせが言ってるはずデスっ!」
「そんなこたぁ聞いてねぇ。それに俺の雇い主はあの小娘じゃねぇ。話を聞く理由がねぇな。ひっひーっ」
通路の先の開いてる扉からそんな会話が耳に入ってくる。
「馬鹿がいるのです」
「ばか」
「グ?」
ウリスケは分かってないようで、何?っていう風に2本足で歩きながら首を傾げる。
4本足で歩けばいーのに、何かこだわりがあるんだろうか。
しかし今の会話を聞いただけで、ヴァーティさんの話し相手の頭の具合が何となく分かってしまう。
たとえ雇い主でなくても、それに連なる相手ならばその指示に従うのは普通当たり前だからだ。
ひょいと扉から顔を出して中を覗くと、メイドさんと30代くらいの魔族男性が対峙した言い争っていた。
「後継のお嬢様に対して言っていい言葉じゃないデスね。そんなに職を失いたいのデスか?」
「はっ、後継かどうかはお館様が決める事だろ。ここは俺の厨房で、これは俺の食材だ。余所者がいちいち口を挟むんじゃねぇよっ!デカ女に使わせてやっただけありがたく思えやっ!!」
うわぁ………、雇われてる人間なのに俺の厨房とか言ってるぅ。
変にプライドが肥大すると人間思い切り勘違いしちゃうってとこかな。僕なんかとてもそんな風に思ったり考えたりもしない。てか出来ないな。
「分かりました。ではお館様に連絡して貴方の去就を伺いたいと思います。よろしいデスね」
ヴァーティさんの視線(見えない)に気圧された男は、負け犬の遠吠えばりに捨て台詞を吐いて反対側の扉から去って行った。
「は、はんっ、やれるもんならやってみればいい。俺には……、ゴホン、デカ女の残り物とゴミでも使って料理すればいい。ひっひっひーっ!!」
………もしかしてこの屋敷ってナチュアさんにとって敵地なんだろうか。
だからこそプロメテーラさんが食事を担当することになったのか。あるいはあの男がなんで俺が作らなきゃならないと駄々を捏ねたのか。
………なんか後者のような気がしてきた。
あの手の輩はどこにでもいるものだけど、まさかゲームの中にまでいようとは。
………とよく考えてみたら金ピカ鎧とか小僧くんとかヤマトに襲い掛かって来たPCとか、いる事はいるか。
とは言え食材が無いという事は、食材以外のものを使って料理しなきゃいけないということになる。
どうしましょ。
「えーと………、メイドさん?」
僕達が厨房に入ると、ギリギリと歯軋りをして男が去った扉を睨みつけ拳を握りしめ身体を震わせているヴァーティさんの姿があった。
僕が声を掛けると、ハッとこちらに身体を向けて一礼してやって来る。
「申し訳ありません。緊急事態が発生したのデ、お嬢様に知らせに行ってくるデス」
「あのー………」
「ではデス」
僕の呼び掛けをスルーしてメイドさんは急いで部屋を出て行ってしまった。
食料庫らしき部屋の扉は鍵が掛けられてあるようでビクともしない。やれやれ、どうしましょーか、これ。
「マスター、どうするのです?」
「どうしよっか………」
「グッグ!」
ちょっとばかりどうしようかと逡巡してると、ウリスケがシンクに上がりピョンピョン跳ねて声を上げる。
「どうしたの?ウリスケ」
「グッ!」
シンクの上には木製のバットが置いてあり、中には山になった野菜クズとか魚の鱗とか、さっきの料理で使われたらしい材料のあまりというか、ようは廃棄物ってやつだ。
ただ現実みたいにゴミ袋や三角コーナーに捨てられているという訳ではないので、汚いという印象はない。
どちらかというと取り分けて置いてあるという感じだ。
PCがモンスターを倒せばドロップアイテムとして肉なんかの素材が出てくるけど、こういうのがあるってのはどういう事なんだろう。
取り敢えず鑑定してみる。
素材アイテム:岩鱗セイアナのウロコ Lv4
岩鱗セイアナから剥がしたウロコ
その表面は硬く、そのままでは食べられた
ものではなく、主に防具の素材に利用
されている (HP 5 満腹度2%)
「…………」
これ食べれるんだ―………。
直径5cmぐらいで厚さ2mm程の岩の様な質感を持ったそのウロコは、とても食べれるような物には見えない。
そのままとあるので、何らかの作業を行う事によって食べる事が出来るのかも知れない。
「ポテチみたいなのです」
「あげ?」
「グッ!?」
ララがいきなり突拍子もないことを言ってくる。そこに被り気味にアトリが口を挟んできた。
ウリスケはこれ食べれる!?って感じで首を捻る。
食材以外で使えるのはこのバットにあるものしか無い。あとは鍋に例の凝縮スープが少しあるだけだ。
ものは試しでやってみるか。だってこれしか無いんだから、怒られたら謝ればいいだけの話だ。
僕はシンク周りと器具やコンロを確認して、作業を始める事にする。
「それじゃ、始めよっか」
「はいなのです」
「グッ!」
「おけ」
まずは鍋に水を入れて、コンロに載せて火を着ける。
蛇口はこっちで初めて見るけど、現実と同じなのでやり易い。
次にボウルとザルを取り出し、重ねたの中にウロコをザララと入れて、っと塩どれだ?
調味料は棚の上に置かれた小振りの壺に入ってるけど、特に何も書かれた無いのでどれがどれだかさっぱりだ。
「ララ、塩お願い」
「はいなのです」
味見や鑑定で見てみいーけど、時間もあるしララに丸投げだ。
ピューと飛んで棚から壺を抱えて持って来た。あ、ごめん。
「ありがとらら。教えてくれるだけで良かったんだよ」
「大丈夫なのです。これぐらいならお茶の子よゆ〜なのです」
ララの身体と同じ大きさの壺を持って来てもらうのは、さすがに気が引ける。
「左からコショウ、酢、砂糖、ハーブとよくわかんないモノがあるのです」
よく分かんないってのは、デヴィテス独特の調味料なのかな。
まぁ今は知ってるヤツだけで作っていこう。
まずはウロコを軽く水洗いしてから、塩をドバっと入れ揉み込む様にすり込んで、臭みとゴミを落としていく。
いやぁ、ほんとこれ固いね。食べれるんだろうか。
何事も試してみなけりゃ分からないし、料理は実験と。
揉み込んだ後水を流して綺麗にすすいで綺麗にすると、お湯が沸き出した鍋へとウロコを投入。
泡立つ鍋の中でウロコが踊る。8ビート8ビート。
「ララ、どう?」
「ばっちぐーなのです。でも少し時間が掛かりそうなのです」
ならばと【時間短縮】を1/3掛けて、煮こむ時間を省略する。Lvは下がるけど、この位ならいーだろう。
「ララ、鍋の方お願いね」
「はいなのです。まかせてなのです」
ララに鍋を任せて、僕はフライパンを取り出してオリーブ油の様なものを流し入れ2cm位までフライパンを満たしていって、そしてコンロに火を着ける。
「マスター、やっぱりまだしばらく掛かりそうなのです」
なかなかの曲者みたいだな。ウロコが踊る鍋の中は茶色く濁り、表面には灰汁がごってり出ていて、ララがていやーとスプーンを抱えて灰汁を掬っていた。
本来なら水を変えて煮直したいんだけど、仕方ないのでもう1度【時間短縮】1/3を掛ける。今回は食べれるかどうかなので、味は二の次だ。
この時の僕はイベントの事などド忘れしていて、このウロコをどう料理しようかと頭の中で試行錯誤していた。
揚げるのは決まりとして、味付けをどうすればいいのか。
「グッグゥ」
いつの間にか木製のバットの中の野菜クズを、ウリスケがもぐもぐ食べていた。お行儀悪いなぁ、もう。
どうやらそれは例の?凝縮スープを作った時に濾した後に残ったいわゆる搾りカスの様で、ちょうど鑑定するとこんなん出ました。
素材アイテム:魔菜と魔物の肉を濾した後の搾りカス Lv3
このままではコッコとピヨのエサにしかならない
搾りカスと書いてありながら素材アイテムとはと少しばかり文句を言いたくもあるけど、“このまま”という文を見れば“このまま”以外にすればいいという事なのだろうかと推測する。
「マスター、おっけーなのです」
ん〜とちょっとばかり考えこんでるとララが声を掛けてきたので、まずはこっちの処理を先にやる事にする。
コンロの火を止め、鍋の取っ手を掴んでそのままザルの中へウロコごとお湯を流し入れていく。
ザザーっという音と大量の湯気が目の前に吹き上がるのを避けて、蛇口から水を出してウロコを軽く洗っていく。
色が抜け落ちクリーム色になったウロコは、気持ち柔らかくなった感じがする。
それを手元にあった布巾に水を吸わせて水気を切った後、しばらく置いておく。
そしてフライパンの油の温度が上がってきたところへ、試しに2、3枚ウロコを入れて揚げてみることにする。
ジュワーっっとひと際激しい音を立ててパチパチパチと油が弾ける。さすがに全部の水気は取れなかったか。
「おおっと」
「避難なのですっ!」
「グッウ?」
僕とララは1歩下がってそれを避け、ウリスケはまだ食べていた。
「ウリスケ、ストップ。それ使うから、もう食べないで」
「グッ!」
1/3程を食べて満足したのか、ひと声鳴いて調理台へと移動する。食べ過ぎだよ、ウリスケ………。
何に使えばいーのかまだ決めてないけど、確保しといた方が良さそうだ。
「マスター、揚がるのです」
ララの声に僕はフライパンの前に移動して、一旦小皿へとウロコを移し熱を冷ます調理台へ置く。
ララとウリスケとアトリが皿の周りに集まる。
1枚手に取り両手で持ってウロコを割ってみる。パキリと音がしてあっさりウロコが半分に綺麗に割れる。
半分をララに渡し、もう半分を僕が手に取り先の方を試しに齧ってみる。
ポリポリっと噛むたびに音を立てるウロコは、ちゃんと食べれるものになっていた。ほんとまんまポテチだな、これ。
ポリポリパリパリと口の中でかみ砕きながらゴクリと嚥下する。
「まぁまぁなのです。でももうひと味欲しいのです」
「いまひと」
「グッ」
試食をおえたララ達が口々に感想を言ってくる。
塩をかけても悪くないと思うけど、何かもうひと工夫あるといいかな。でもなんか癖になる味だ。
「グッグッグ!」
ウリスケがシンク前に移動して、ウロコに野菜クズを和えて食べていた。もー、食べないでって………。
「おぉーっっ!その手があったかっ!!」
僕はすぐに思いついた事を実行に移す事にして、まずはウロコをフライパンに入れて火を着ける。
だいぶ水気切れたようで激しい音は立てず、ウロコがシュワーと泡を出して浮かんでくる。
次に野菜クズをまな板に載せて、包丁で細かくさらに刻んでいく。
それをいったんそのままに、ウロコを煮た鍋をコンロにかけて、麦粉を入れて乾煎りする。
サラサラになってきたら、残っていたスープを入れてトロトロにしていって、刻んだ野菜クズを入れてかき混ぜていく。
ちょいと摘まんで味見をして、塩コショウで味を調える。
ペースト状になったところで、火を止め深皿へと移していく。
深皿を調理台で横たわってるウリスケの前に置いて、起き上がってきたウリスケにすりこ木棒を渡して頼む。
「ウリスケ、この中のものをこれで練ってくれる?ウロコにつけるディップにするから」
「グッグッグ!」
任せとけという風にポンと胸?を叩いて、すりこ木棒でディップを練り始める。
後はウロコが揚がるのを待つだけだな。
何度か裏返したりして、ウロコがキツネ色になりいい感じに揚がって来た頃に、ナチュアさん達が厨房に入って来た。
「ラギ様!申し訳ありません!!この様な―――……えっ?」
何か他の事をやっていたらしく慌ててやって来て僕に謝罪をしようとして、料理を作っている僕を見て目を丸くする。
「あの………」
「マスター、おっけーなのです」
「あ、ちょっと待って貰っていいですか?すぐ出来ますので」
「はぁ………」
ララが揚がったのを知らせて来たのでナチュアさんの言葉を遮り、カリカリになったウロコを布巾を敷いた大皿と小皿へ載せていく。
そして塩をバラリと振り掛ける。
「グッ!」
ウリスケがひと声鳴いて、こっちも出来上がりを知らせて来た。
ちょっと摘んで口に入れる。うん、オッケーかな。
「ブロメテーラさん。ご注文の料理です。良かったらどうぞ」
僕は手を大皿に乗ったウロコチップに向けて、プロメテーラさんへ話し掛ける。
「食料庫は鍵がかかっていたのデス!どうやってこれを!?」
ヴァーティさんが素のまま僕に聞いてきたので、シンクの上のバットを指差して説明する。
「そこにあった食材を使わせてもらいました」
「えっ!?いや、それは使いさしのもので、処分するものだったのだが………」
ですよねぇ〜。でも食べれるんだから問題ない。と思う。
「マスター、このでぃっぷ美味しいのです!
「グゥ〜〜ッ!」
「パリうま」
「まさか………」
「鱗デスよね?」
プロメテーラさん達が躊躇している中、ナチュアさんがウロコを1つ手に取りディップをひと掬いしてパクリと囓る。そしてパリパリと咀嚼していく。
やがてカッと目を瞠ると、次から次へとディップをつけて鱗を食べ出す。
「………止まらないですね、これっ!」
ムシャムシャ食べながら、ナチュアさんがそんな事を呟く。
その声に押されたのか、プロメテーラさんとヴァーティさんもウロコを手に取りディップをつけて口にする。
パリとウロコを囓り、2人はすぐに目を見開く。
しばらく止められない止まらないタイムが続いて、大皿が空になって終了となる。あっ、僕食べてない………。
僕がガクリと肩を落としている中、他の皆は満足そうな顔をしてほっこりしている。くっ。
「まさかあの鱗にこの様な食べ方があったとは………」
「恐ろしいデス!1度食べると止まらなくなるデス………」
プロメテーラさんが呆然としてそんな呟きを漏らし、ヴァーティさんはメイド姿で自分の指を見て慄いている。
いや、そんな大層なものでも無いんだけど………。
「プロメ、セイアナは湖でよく捕れますよね?」
「これ程の大物は多くありませんが、中型はそれなりに揚がりますね」
ナチュアさんが僕の方をギラリンと見つめて、前のめり気味に話し始める。
「ラギ様。ぜひこの料理のレシピをお教え願えませんでしょうか!もちろん失礼な事とは承知しておりますが、対価はお支払いします!ぜひっっ!!」
「いいですよ。まぁ怪我の功名ってやつですけどね」
ナチュアさんが深く頭を下げる前に僕はそう答える。
時間はかかるが、そう面倒な工程もない。工夫次第でもっと美味しくなる可能性もあるかも知れない。
「ラギ殿。よろしいのか?本当に………」
「ええ、いいですよ」
なんだかよく分かんないけど、本当にいいと思っているのでしれっと答える。
プロメテーラさんは呆れと諦念の混じった様な力の無い笑いをハハと浮かべる。
「プロメテーラの負けデスね」
ヴァーティさんがプロメテーラさんの腕を叩いてそう言うと、やるせなさ気に両手をOh!Noと掲げる。
「マスターのしょーりなのです」
「グッ!」
「おー」
ララ達が小声でそう言ってガッツポーズをこっそり取ってる。
さすがにこれ以上煽る気はないようだ。実際面倒いしなぁ。
そこでイベントクリアのSEが鳴り、リザルト画面が表示される。
あ、Lv上がった。ラッキー。
この後プロメテーラさんにレシピを教えて今日はお開きとなった。
馬車で中央公園まで送って貰い、僕はベンチでひと休みする。
まずは姉達に連絡しようと思ったのだけど、確か外部にメールか何かで連絡出来たと思ったのだんだけど。
僕はメニューを開きフレンド欄を出してみるけど、姉やミラさん、アンリさんはログインしてないので、名前は灰色で表示されている。
さて、どうしよか。
「ララ、外部に連絡――メールか何かやれる方法ってある?今回のイベントに参加できるか確認したいんだけど」
いちいちログアウトしてVRルームからライドシフトしてまた確認してまた戻るのも大変だし、正直面倒なので何か方法がないか聞いてみると。
「メニューの中にコンタクトノートの欄があるのです。それを選んでメールすれば出来るのです。サキさま達は登録済みなのです」
いたれりつくせりである。コンタクトノート――ー連絡帳ね。それを選ぶとメールフォームが現れ音声入力とキーボード入力が出来るようで、僕は音声入力を使ってメールを送る。“この前断ったイベントに参加できる?”だ
すぐに姉から返事が帰ってきて、答えは“ごめーん、無理”だ。他の2人も同じ様な答えが返ってくる。
はぁ、やっぱり僕達だけでイベントに参加することになりそうだ。それ以外に選択肢がないという話だけど。
何とも嫌な予感がヒシヒシとしてくるけど、乗りかかった船だと思い直しメニューからイベント参加を了承する。
なるべく早いほうがいいしね。
慌ただしくも軽く公園内を回ってからログアウトをする。
現実に戻ると家の中の細々とした事をちょろとやって早々に寝ることにする。
普段と違って慣れない事(フルコース料理とか)をやって精神的に疲弊したので、そのまま布団に潜り込む。
明日は特に予定もないし、早めにログインしてみよう……。ぐぅ………。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます




