125.スキルショップ【クラフターズナゲット】
ぐる~っと中を見てみると、プロロアの街とマルオー村と同じで、どこからどう見てもト〇カショップにしか見えない。
あっちと違うところは、プレイ用のブースがない事ぐらいかな。
そういや、またあそこで大会があるから参加してって言われてるんだった。
前もってスターターセットとブースターパック10セットが貰えるって言ってたっけ。
今回乙女ゲー縛りって言ってたけど、僕よく分かんないんだよねぇ、と〇メモは知ってるけど。(ん?ちがうか)
デッキ組みに関してはララに丸投げしとこう。
「ララ――――」
「まかせてなのです!今回は“ゆうラブ”“はるあな”“よろメル”“キラ☆くら”からデッキ組みするのです。腕が鳴るのです!!」
店の中と僕の予定から先読みしてララが答えてくる。
何言ってるのかよく分かんなかったけど、ゲームの名前なんだろう。
ララの説明を聞いていると、各キャラクター(美形男子)の愛の言葉が数値化されてて、プレイヤーキャラの愛を6個全部なくなるか、キャラクターが無くなった方が負けらしい。
………良く分かんない。ってか、これ男の僕がやるんだろうか。
もしやフの付く女子のゲームじゃ………、いやバイトだし大佐になってるから大丈夫………かな、多分………。
「あんちゃん。見ぃへんの?」
僕がぼへーっと店内を眺めていると、店員さんの1人が声をかけてきた。お、いかんいかん。
「あんちゃんは何見に来たん?」
先に話してきたのが髪がオレンジのポニーテールの女の子。
背は小っちゃくてそこはかとなくずんぐりむっくりしてる。まぁ、気になる程じゃない。
んで後に話しかけてきた子は、やはりちょい濃いめのオレンジ髪のツインテールで顔立ちは少し幼く感じるが、ポニテの子とよく似ている。さっきおねぇちゃんと言ってた子だ。
そういやラミィさんもこんな感じの体格だったっけ。
てゆー事は………。
「もしかしてドワーフ族の人?」
「もしかしなくてもそうやん。見て分かるやろ?」
「やで」
おお、そういや挨拶してなかったな。僕はペコリと一礼して挨拶を始める。
「あ、僕ラギって言います。よろしく」
「ララなのです。こちらはウリスケさんなのです」
「グ!」
「アトリ、よろ」
僕達が挨拶をすると2人はニヤリと笑って。
「うちはロロや。この店の看板娘なんばー1や」
「うちはレレや。この店の看板娘ナンバー1やで」
「何言うてんのや!うちがなんばー1や!」
「おねぇちゃんこそ何言うてんの!売上うちのが多いで!」
「はぁあ?近所の子供に【ゴミ拾い】売りつけてるだけやん?安物しか売らんくせに何言うてんのやっ!」
挨拶を始めだした途端、いきなり口論?を2人が始めた。
しかも何ともくっだら無い事で。
でも【ゴミ拾い】なんてスキルがあるんだ。面白そ―。
2人だけの世界に入ってるんで、僕達は勝手に店の中を見る事にする。
この店は棚に置いて飾られてる訳でなく、木で出来たカードスリットのようなものに入れられて上2/3が顔を出している。
それが壁一面に設置されていて広さはプロロアの店よりかなり広く、ほんとにどう見てもト◯カショップにしか見えない。
「へぇ〜、いろいろあるなぁ」
きちんと系統ごとに分類整理されていて、見やすく判りやすくなってるのは好感が持てる。
【調理】スキルにもいろんなスキルがあって見てるだけでワクワクしてくる。
「桂剥きとか千六本とか意味あるのかな?」
「普段やらない行動に関しての補正があるのです」
僕の呟きにララが答えてくれる。でもこんなにあったらスキルスロットがいくつあっても足りなさそうだ。
右から左へと移動しながらスキルを見てると、見慣れないものが書かれていた。
「この★は何だろか………」
スキル名の横に★が1つ付いている。
「それは上位スキルの印やね」
なんじゃらほいと首を傾げていると、口論が終わったらしいロロさんが教えてくれる。上位スキル?
「上位スキル、ですか?」
「せや、基本スキルをLv30とか50迄上げると☆がつくねん。そこにこの上位スキルを買うてセットすると、使えるようになるんや」
なる程、スキルは“買う”ものな訳だ。
値段と言えば………たっかっ!
上位スキルってのは軒並み80,000G以上だ。
買えないこともないけど、どのスキルにも☆1つ付いてない僕には買っても意味ないし、今回はやめとくって事で。
「そんで、あんちゃんは何買いに来たん?うちん店生産専門やで」
うん、歌ってたから知ってる。首を傾げつつレレさんが聞いてくる。(さっきも聞かれたけど)
どうやら僕の格好を見て不思議に思って聞いてきたみたいだ。
これだけの数のスキルの中を探すもの大変そうだし、聞いたほうが手っ取り早そうだ。
「えーと、【鑑定】スキルを買いに来たんだけど………」
「ほい【鑑定】な。ちょい待ってな」
そう言ってレレさんが動いてスキルが飾ってあるところへ迷う事なく移動していく。
「あんちゃん生産スキルて何持っとるん?」
ロロさんが僕の腕や腰のものを眺めながら聞いてくる。
「ん―【調理】スキルかな」
僕がそう言うと、うむうむと納得したように腕を組みながら頷いている。
「うんうん、セットしたけど使わへんってクチやね。Lvも上がってないんやろ?」
したり顔でそんな事を言ってくる。どのくらいが適正なのか分からなかったので、はぐらかすように適当に答える。
「まぁ、そんな様なもんですね」
「いるんよねぇ〜、てきとーにスキルセットして使わんてことしよるん人。あんちゃんもそのくちやろねぇ」
ふふ〜んと訳知り顔の半目で僕を見やるロロさん。
調薬に関してはその通りなのでぐぅの音も出ない。
僕なんかはこの手のことでプライドを刺激される事もないので気にしなかったのだが、ララは違ってたみたいだ。
「ロロさん、その思い込みはちゃんちゃらへっへ〜なのです。なんとマスターの【調理】スキルはLv28なのです。玄人がよく陥る落とし穴にハマっちゃってるのです」
「に、にじゅうはちてっ!?んなアホなっ!!」
目を瞠りロロさんが声を上げる。あ〜あ、言っちゃった。
そう、レイさんが持って来ていた食材で料理を作った結果Lvが幾つも上がったのだ。
ん―、でもロロさんの驚きようでは【鑑定】スキル無しじゃあんまりLvが上がらないって顔だ。
「せやって食材のLv高ぉもん使わんと【調理】なんて上がるもんやないやん。それ知らんとLv上がるゆうんはありえへんっ!!」
説明有り難うございますロロさん。でも上がったもんはしょーがないと思う。
「ふふ~んなのです。だから玄人の落とし穴なのです。食材Lvが一定ならそこで調理をすればLvは上がるのです」
ちっちっちと指を立てフリフリしながらロロさんを窘める。あ~、これどうしよか………。でもロロ、レレって名前はララに似てるなぁ。同じラ行だからかな。リリさんとかルルさんとかいるんだろうか。
僕が現実逃避してる一方で、レレさんはウリスケが興味を持ったスキルについて説明をしていた。
「おっ、あんたなかなかの目利きやな。それは【ゴミ浚い】や。川や側溝なんかのゴミを浚うのにバッチシやで」
「グッグッ!」
あっちはなんか和気藹々と話をしている。
「ほんでこれが【草むしり】でな。近所のおっちゃんなんか通っただけでペンペン草もあっちゅー間に毟ってまうもんや!」
「グゥ~~ッ!」
ウリスケがレレさんの話を聞いてピョンピョン跳ねて興奮している。どこに琴線が触れたのかさっぱり分からない。
「まぁそりゃある程度食材Lv分らんでも上げられんちゅー事は無いねんけど、上限間近までいくゆうんはありえへん思うんやけど………」
え?そうなんだ。て事は僕は運が良かったって事だね!
別に自分の中の何かを誤魔化そうとかは思っていない。思ってないのだっ!!
まぁ多分………おやっさんのとこでいろいろ作業をした結果というのが大きな要因だと思う。
プレイヤースキルがないとは言えないと思うけど、やっぱりゲームであればそれなりの地道なものは必要になるんじゃないかな。
逆に何でも出来て進めても何も面白く感じないと思う。
それは現実でもVR同じなんだろうと考える。
まぁそうでない人間もいると思うが、きっとそれは僕とは違う人種なのだ。
「NPC達だってやってる事なのです。冒険者は依頼があれば何でもやるのです。もちろんお店の手伝いもなのです」
「あ………、ああっ!」
ロロさんが腑に落ちたような声を上げて手をポンと叩く。
「そやねー。そこまで頭まわらへんかったわ。かんにんな、あんちゃん」
堪忍も何も鑑定持ってないで調理持ってたのを侮られ、ララがそれにカチンと来てLvを言っただけなので特に気にする事はないのだ。
だけどここは理解ある人間のフリをしてなぁなぁで済ませる事にする。
「気にしないでいーですよ。それが事実なんだろうし。あとララはあんまり個人情報を漏らしちゃダメだからね」
「………さよか、あんがとさんな」
「マスターごめんなさいなのです」
ロロさんが頭をペチリと叩き、ララがペコペコと謝る。
ま、この話はこれでおしまいということで話をまとめようとしたところに、レレさんが話し掛けてきた。
「あんちゃんあんちゃん、【鑑定】と使えそうなスキル見繕ったで」
そう言って数枚のスキルを僕の目の前に差し出してきた。
いや、鑑定だけでいーんだけど………。
見てみるとどう見ても僕とあんまり関係のなさそうなスキルばかりだった。
【鍛冶】と【裁縫】に【石工】の類のスキルらしいけど、用途が今ひとつ分からないものばかりだった。
「鑑定はいいんだけど、他のって元になるスキルがないと使えないんじゃないの?」
例えば鍛冶系統なら【鍛冶】スキルを持ってなきゃ使えないので意味ないと思うのだ。
「ふっふっふ〜ん。あんちゃんそう思うやろ?でもなぁ、中にはその系統のものやなくても使えるちゅーもんがあるんやわ。ほれ、これなんかは石工系統やけど、あんちゃんの【手甲】と相性バッチシやで」
ピッと1枚差し出した【目打ち】というスキルを見せられる。
そこには“物の目を打ち割れ易くする”と説明文が書いてあるけど、やっぱよく分からない。
確かに説明文が曖昧すげてどちらかというと石工系統なのかも分からない。
他のスキルの説明文も似たようなものばかりだ。
「えーと、基本的な質問で悪いけど、これが【石工】スキルだってなんで分かるの?」
僕は差し出されたカードを眺めながら疑問に思ったことを2人に尋ねる。
「あんちゃん分かってなさそうやもんなー。大雑把に言うと、攻撃が赤、防御が緑、補助系が黄、そんで生産が茶ってことやね。ほれカードの左上にマークがあるやろ?それがスキルの系統元になるんや。系統元を基本スキル、それ以外を補足スキル言うねん」
レレさんが示したところを見ると、石のような四角に金槌のピクトグラムが描かれている。
ほんとまんまト〇カだね。ふぅ………。
「てなわけや。どうや?これらはそれ程高ぉないしええやろ?全部合わせて28,000や。お買い得やでぇ~」
ニヤリと笑い僕を見るレレさん。ちょっと怖い。
「えー、でも鑑定以外は特に欲しく………」
空いてるスキルスロットもそれ程ある訳じゃないので、そんなにスキルがあっても困るのだ。
「えーやん、えーやん。ぜぇ~~ったいあんちゃんの役に立つものなんやで、これっ!!」
「な~~ぁ~、え~やろ!あんちゃあ~~んっっ!!」
上目遣いでぐいぐいこちらに迫ってくる2人。
うっ、こういう手口の強引さには僕けっこー弱いのだ。
強硬に迫ってくる相手には逃げればいいんだけど、逃げ場のない室内で懇願してくる姿は正直困ってしまうのだ。{だから訪問販売には居留守をよく使う)
「お2人ともストッ――プなのです!お客さんの為と思って薦めてるのは分かるのです。けどそのやり方では押し売りと同じなのです。お客様に笑顔でお店を出てもらうのが正しい商売の姿なのです。だから落ち着いてなのです」
「グッグッグッ!」
「「うっっ!!………」」
僕が困っているとララとウリスケが2人との間に入り両手を広げて仁王立ちをして、ララが窘める様に2人に注意をする。
その姿にレレさんとロロさんが息を呑み後退ると、しょぼんと肩を落として謝ってきた。
「あんちゃん、堪忍な………。うちら思い込むとつい周りが見えんでこんなんなってまうのや」
「気ぃ付けてんけど、こんなんやってお客よう逃げんてんの分っとんのやけど、ついやってまうんや………ごめんなぁ」
レレさん、ロロさんが2人して謝るのを見てると、なんか可哀相になってきた。
営業努力をしてもそれが空回りしてしまうってのは、よく聞く話だ。
本人がどんなに頑張ってもベクトルが変な方向に向かってしまうことは往々にしてある。(多分)
はぁ~、しゃーないあなぁ。反省してるみたいだし、せっかく僕の為に選んでくれたものなんだろうから買う事にしよう。
「えっと、幾らだっけ?」
「あ、【鑑定】は25,000や」
レレさんが鑑定スキルを差し出しそう言う。
「持ってるスキル全部下さい」
僕がそう言うと2人は目を丸くしてロロさんが聞いてくる。
「ええんの?ほんまに?」
「いいよ。僕の為に選んでくれたんでしょ?」
「「えへへっ、ほな28,000や」」
にへらっと笑顔を見せてスキルを渡してくる。
「マスターは甘々なのです」
「グッ!」
「あま、」
「まぁ、いーじゃん」
そんな訳で、僕は【鑑定】スキルとその他4枚のスキルを購入した。ってか他の奴安。
だけど、よもやこのスキル達が本当に役に立つ事になろうとは、この時の僕には全く分からなかったのである。
「「ほな、あんちゃん達毎度おおきにっ!また来たってやっ!!」」
深々と頭を下げてお辞儀をしてくるレレさんとロロさんに挨拶をして店を出る。
「っ!」
「お待ちしてたデス!お嬢様がお話ししたいと言ってるデース」
店の前にはヴァーティさんが笑顔で待ち構えていた。
いやーん、ストーカーです。お巡りさーん。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます!がんがります (T△T)ゞ




