124.揉め事はどこ【の世界】でも起こるらしい
「こんにちは。奇遇ですね」
僕も彼女と同じ様な挨拶をする。えーと………名前聞いたんだけど、ド忘れしてしまった。
「ナチュアです、ラギさん。今日はクエストを請けに来られたのですか?」
そうそうナチュアさんだった。昨日から色々あり過ぎて忘れちゃってた。大変すみません。
「えーと、ちょっと行きたいところがあったんで、場所を教えて貰ってたんです」
「そうなんですか………」
以前着ていた服と違って目立たないブラウンベージュのワンピースを身につけたナチュアさんは、ニコニコ顔でこちらを見ている。
そこへ鎧姿のプロメテーラさんとラフな格好をしたヴァーティさんがやって来た。
「ひ………お嬢様、勝手に屋敷を出て行かれては困ります!」
面当てを上げてプロメテーラさんが注意をナチュアさんにしている。
ナチュアさんはプロメテーラさんにもニコリと笑顔で返し、なんて事はないという風に答えを返す。
「いつもここに来てるのが分かってるんですもの、問題ないでしょう?それに今日は特に目立たない格好で来てるのですから、襲われる心配もありませんわ」
目深に被ったキャスケット帽を押さえながら安心させる様な口調でプロメテーラさんへと告げる。
なんか物騒な事を言ったような………。
「それはそうですが、ならば私かヴァーティを供につけてください」
「あら、あなた達を供につけたら逆に目立ってしまいますわ」
ヴァーティさんはともかく、プロメテーラさんは確かに目立つかも知れない。
そもそもこの人達はデヴィテスの街に帰ったんじゃなかったんだろうか。
一瞬聞こうかなと思ったけど何かヤな予感がしたのでスルーしておこうと考えた時、ヴァーティさんから声を掛けられる。
「こんにちはデス。昨日はいなかったようデスが、今日は依頼を請けたのデスか?」
ナチュアさんと同じ事を聞いてくるヴァーティさん。どうやら僕達を探しに冒険者ギルドに来たみたいだ。
外堀を埋められる気分なので、ひと言挨拶して退散しよう。
「いえ、ちょっと行くとこがあったんで場所を聞いてたんですよ、じゃあ―――」
「マスター!」
僕が手を上げて立ち去ろうとすると、そこへララが声を掛けて来た。
「ん?何ララ」
「ウリスケさんがいないのです。まだギルドの中にいるみたいなのです」
足元を見回すと確かにウリスケの姿がない。
ありゃ?と思い入り口からギルドの中を見ると喫茶スペースが何やら騒がしい。
「見てくるのです」
ピューとララがそっちに向かうと、「やめてなのです!」と言うララの叫び声がする。
僕が慌ててそちらに向かうと逃げるララと飛び上がって捕まえようとする10歳位の男の子と、食べ物をウリスケに投げつけてゲラゲラ笑っている男達の姿あった。
「ララ、ウリスケ」
僕が2人に声を掛けると、ララがビュンと僕の方へやって来て後ろへ隠れ、ウリスケは?と首を傾げながらこちらに戻って来た。
「ちっ、主人がいたのか。つまらんな」
そう言ってその魔族らしい男の子は席へ戻り食事を始める。態度と喋り方が何とも憎ったらしい。こんなの小僧(笑)呼びでいいや。
「おいおいおいおいおいよ――――っ!こっちは食い物を分けてやったんだぜっ!礼くらい言えなぇのかよぉ―――ーっ!今時のご主人様はよ〜〜〜〜〜っ!!」
ゲラゲラと笑いながらそう言って来たやはり魔族の男は、赤髪を逆立てて顎髭を綺麗に調えた見た目チン◯ラっぽい感じだ。
足に膝上まである銀ピカのグリープを装着し、腕にはやっぱり銀ピカのガントレットを付け、腰にバスタードソードを履いている。側には従魔なのか大きなワイルボーアが伏せをしている。
いや、食い物分けてたっていうよりかは、投げつけて笑っていたようにしか見えなかったけど。
ウリスケはそれを器用に蹴っったり弾いたりして、口に入れてたみたいだ。
「それは大変失礼しました。ありがとう――――」
「5000だ」
僕の言葉を遮るように数字を赤髪が言ってきた。はぁ?
「何です?それ」
「そいつが食った食い物の代金だよ。俺等が食おうと思ってたのに食われちまったんだからな。ひっひっひっひ!」
グビリとジョッキをあおる赤髪。マーカーは黄色なのでNPCみたいだけど、ほんと色んなNPCがいるもんだ。
まぁ、これも勉強代と思って僕は5000GINを取り出しテーブルに置く。もちろん皮肉を付け足しながら。
「投げつけた物を拾って食べるつもりだったんですね。それはうちの従魔が失礼しました。でも正規の値段の10倍で請求するって人間腐ってませんか?あ、人間じゃなかったのかな?」
「ああっ!?てんめぇ、喧嘩売ってんのかぁっっ!!」
僕にそう言われながらテーブルに置かれたお金を懐にしまいつつ、こちらを睨みつけ恫喝してきた。
売って来たのはそっちだろうに。
そこへ食事を終えた小僧(笑)が口を挟んできた。
「その妖精を私に渡せ、デヴィテスの街に列なる一族のクレール・ロヴィオットにな。それなりの金はやろう」
ふふふ―――――っ、こんにゃろう共!金ピカ鎧も酷かったけど、こいつ等も相当だなー。
街中でもめるのは愚策だろうけど、ここまでやられたら相手になるしかないだろう。
僕は半分投げやりになりながら(頭に来ていたともいう)メニューを出してPvPの申請をしようとすると、後ろから嘲笑に近い笑い声が聞こえた。
「フフフフゥ――――ッ!いつからあなたは列なる一族の1員になったのからぁ?分家の分家の外れ子が何をほざいているのかしら。フフフフッ!」
ナチュアさんがまるで悪役令嬢の如き口調で、偉そうな小僧(笑)を睨め付ける。
「きっ、貴様はナチュア!何故ここにいるっ!?」
「上位の家の人間を呼び捨ての上、貴様呼ばわりとは。………はぁ、あなたの御父上はどの様な教育をされてきたのでしょうね。もちろんこの事は御祖父様に報告させていただきますわね」
ニコリと小僧(笑)に向かって笑顔を見せるナチュアさん。
その威圧を受けて顔色を青褪めさせつつ、ひっと小さな悲鳴を上げて立ち上がりその場から立ち去ろうとする小僧(笑)。
「ちっ、いくぞ貴様達。覚えているよっ!きさっ……」
「ナチュア様、ですよわね?」
ナチュアさんが目を細め小僧(笑)を眇め見る。
「くっ、な………ナチュア…さま……」
その小僧(笑)は逃げる様に去っていった。と同時に赤髪と他の2人も立ち上がり渋々とそれに続く。
だけど入口前で立ち止まりプロメテーラさんと対峙する。
「よ〜う頑鎧。お前ぇも先行きを見誤ったようだな。ひっひっひ」
舐め回すようにプレメテーラさんを首を上下に動かして見るが、彼女は特にその視線に反応することなくひと言告げる。
「ガルデモ。貴様こそこんな事ばかりやってると底が知れた者になってしまうぞ。取り返せる内にどうにかするが良いだろう」
その辛辣な物言いに歯噛みしながら僕の方に何かを投げつける。かなりの速さで飛んできたそれは、僕の手前でカチーンと弾かれ上へと跳ねる。
落ちてきたそれを掴むと1000GIN硬貨だった。
「ちっ、ワンダラーか。そいつはサービスだ!あばよっ!」
そう言い捨ててその赤髪は去って行った。
ん〜主従揃って碌でもないな、ありゃ。
「ラギ様申し訳ありません。分家とは言え一族の者が大変不埒な真似をいたしました」
「気にしないでいいですよ。ナチュアさんが悪い訳じゃないですから」
ナチュアさんがそう言いながら一礼してくる。が彼女のせいではないので謝られる筋合いはないのだけど、彼女にとって一族括りでそいういうものなんだろう。
それよりもあっちの方が僕としては気になってしまう。
僕は知り合いらしいプロメテーラさんに赤髪の事について尋ねる。
「プロメテーラさん、あの赤髪の男は何者なんですか?あの男の子の護衛かなんかみたいでしたけど……」
「あの男はガルデモと言いまして、2つ名をスピードスターと称します。あの魔導防具のグリーブでかなりの速さで動き、魔導防具のガントレットでバスタードソードを振り回すという男です。以前はあの様な男では無っかたのですが、ギルドランクがBになってから態度がガラリと変わってあの様な姿になってしまったのです。そして―――」
「あのボンボン達がお嬢様襲撃犯の第1候補デス」
おーっと、いきなり聞いちゃダメポな話が入って来ました。
「あっすみません!僕、用事があるんでこれで失礼しますね!ララ、ウリスケ!行くよっ!!」
話が始める前に退散することにする。
「あっ!ラギ様っ!」
すたこらさっさ〜っと冒険者ギルドを抜け出し歩道を東へ移動する。
さっき地図で場所を確認したので場所は覚えている。
このカアンセの街は四角を十字の大通りで区分けしてさらにそのブロック毎に縦横に3〜4つの通りで区分けしている。
見た感じとしては碁盤のマスの様な形をしている。見た目的には京都っぽいのかも知れない。
「えーと、ここから2番目の通りに入って―と」
思い出しながら道を進んでいると、ララがウリスケを宥めている声が聞こえる。
「ですから次から気をつければいいのです。マスターもウリスケさんにはそれ程怒ってないのです」
ララは良く見ている。むしろウリスケは被害者と言っていいだろう。
食べ物を投げつけるなんてウリスケだから対処できたけど、そうでなかったらダメージを受けてたかも知れない。
あ、街中だからそれはないのか?
それにしても“あんな”のがギルドランクBとか。だから誰も注意しなかったのかなぁ………。あの時PvPしなくて良かったかも知れないけど、ナチュアさんが間に入らなければどの道やってたろう。(何度負けても多分)
「グゥ………」
「従魔さんが良い方でも主人が良い人とは限らないのです。それにあの人達はマスターの敵認定なのです。次にあったら殲滅の虐滅なのです!」
ウリスケに話し掛けながらララがジャブとストレートを繰り出す。
うぉ………。ララも何気に怒っていたみたいだ。
僕もあの人等は敵認定にしていいだろう。
どの道ナチュアさん絡みで対峙するだろうという予感もひしひし感じるのだ。
「で、1つ目の通りを横切って2つ目の手前ぇーと」
その通りは大通りに比べればそれほど広いという感じはしない。
馬車1台が交互に行き交う事が出来るぐらいの幅だ。
「あった」
壁にぶら下がっている看板に【スキルショップ クラフターズナゲット】と書かれてある。
通りの反対側じゃなくて良かった。渡るの面倒だし。
ドアを引き(引き戸)中へ入ろうとすると、ドアベルがジリリリンと鳴って客の来店を告げる。
「いらっしゃぁぁ~~~~い」
「いらっしゃぁぁ~~~~い」
「「スゥ~キルショォ~~ップ、クラフターズナゲェットぉ~~へ~~よぉ~~うこぉ~~そぉ~~~!!」」
ジャジャーンと音楽が聞こえそうな感じで、2人の店員さんが歌い踊り(ミュージカル風に)出迎えてくれた。2人の店員さんも見た目10歳位の女の子達だ。
今日は子供に結構出会うなーとしみじみ思ってると、2人が僕達の前にやって来て再度歌いだす。
「こぉ~~ちぃ~~らの~~スぅ~キルショぉップは~~~ぁ」
「生ぃ~産~~~スぅキぃぃ~~ルぅ~~~専門でぇ~~す~~~ぅ」
「「ご希望ぅ~~のぉ~おおおおお品がぁ~~あ~~れぇ~~ばぁ~~~・う~~ががぁ~~い~~まぁ~~す」」
ビシっとシンメリトリカルに背中合わせになって、片手を前にもう片方を後ろに反らせたポーズをとってこちらを仰ぎ見る。正直………。
「めんどくさいのです………」
「グゥ………」
「マジ、むり」
アトリが何気に辛辣だ。
ララ達の感想を耳にして、ちょっと肩を竦めて2人が話を始めだす。
「おねぇちゃん。あんま反応良くないんやけど………」
「せやな……。ええ思たんやけどな~。まぁいいや、また考えよ」
「「らっしゃ~い。よかったら見てってや」」
いきなり態度を変えてユニゾンでそう言ってきた。なんともガクッと力が抜ける。
おかげでさっきまでのささくれだった気分も消えて行った気がする。
少しだけ苦笑しながら気を取り直して、僕は改めて中を見させて貰う事にする。
(-「-)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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