１２２．ＢＢＱとトリウシ豚汁
何のことはない豚汁なんだけど。せっかく現実の野菜なんかがあるのだから、この機会に味わわないのはもったいない。
広場へと向かう道すがら、ララとウリスケには作る料理について軽く説明をしておく。
「マスター、ＢＢＱの串はどうするのです？」
「オイエンさんあたりに頼んで作ってもらおかなって思ってる」
オイエンさんとはラビタンズネストの木工職人さんだ。
家具は言うに及ばず、食器やら小物なんかも作る凄腕職人さんだ。
僕も色々恩恵に与っている。ありがたい事です。
「それならオイエンさんにお願いに行ってくるのです」
「うん。よろしく」
「はいなのです」
ピシッと敬礼をしてピュ―――――っと飛んでいくララ。
「グッ?」
ウリスケが自分は?的に聞いてきたけど、今のところ他に頼む事もないので一緒に行こうと伝える。
「特に思いつかないから、僕と一緒に向かうことにしよ」
「グッグ」
僕の言葉にウリスケは嬉しそうに２本足でスキップを始める。
よく考えたらウリスケと２人（アトリは寝てるので）になったのって初めてじゃないだろうか。
まぁ、こんな時間があってもいいかも知れないな。
しばらく歩いて、広場に到着する。
ちびラビタンズが連絡をちゃんとしてくれてた様で、竈やら作業台やらがすでに用意されてすぐに作業に入れる状態になっていた。
「王よ、用意はすんでますのじゃ。いったい何をはじめなさるので？」
ちびラビタンズには簡単にしか説明していなかったのでさてと思ったが、どう説明したらいいのかと少しばかり逡巡してしまう。
ＧＭさまがやって来て料理を食べさせろと言ってきたので、が実際の話なんだけど。それを言う訳にもいかない。
しばし考えを巡らせて、それなりに言い訳めいた話にはなるがと思いつつ村長に説明を始める。
「実は知り合いからこちらではなかなか食べられない食材をたくさん貰ったんで、皆と一緒に食べられたらと思ってちびちゃんたちに頼んだ次第です」
「ほぅ、それはありがたいですな。手伝いはいりますかな？」
「そうですね、何人か手伝いをお願い出来ますか？」
「もちろん！おまかせあれ」
ふぉっふぉっふぉとご機嫌に笑ってサギューさんが立ち去っていく。
さて、こっちはこっちで下拵えをしなくては。
以前料理をふるまった時と同じく、作業台に水のたっぷり入った樽と竈にはすでに火がくべられていた。そしてタッパー替わりの桶が何個か。
「さて、じゃあ始めますか」
メニューを開き作業だの上に食材を次々と置いていく。
「おお、すご～い」
「いやはや、見たことのないものですな」
「じゅるり」
話を聞きつけてきたラビタンズ達がやって来て、口々にそんな会話をしている。
いつもの事なので皆に軽く説明をしながら、まずは肉を切り分ける作業に取り掛かる。
現実であればありえない豚肉の塊であるけど、ゲームにそんな事を突っ込んでも意味はないので、心の中だけに押し留めておく。
包丁を取り出して、まずは肉の塊を半分に切り分ける。
包丁が肉よりもかなり短いので手で押し広げながら切っていく。
マグロ解体用の包丁でもあれば楽に出来るのになぁと思いつつ切っていき、その半分をさらに１／４づつ切り分けていく。けっこー大変だ。
まずは豚汁用の肉を切っていく事にする。
３０×３０の１０ｃｍ厚さの肉をまずは縦に半分に切って、そこから薄切りにして行く。
その前に【料理】スキルから“行程省略”を呼び出して登録を選ぶ。
これは登録した作業行程を省略してくれるという、大量に材料を切るときにはマジ便利な技だ。
現実でもあればとっても便利だと思うけど、まぁ現実ではそこまで大量に料理を作る事も滅多にないので、どうしても必要という訳でもない。
数枚を薄く切って登録を完了すると、あーら不思議ぃ、肉が次々と薄切りにされていきます。便利だー。
こうして薄切り肉を量産していると、ウリスケがトリ肉と牛肉をペチペチ叩いて鳴いてきた。
「グッグッ！」
「どうしたウリスケ？」
「グッ」
どうやら豚汁に鶏肉と牛肉も入れろと言ってるようだ。んー味的にどうなんだろうか？モノは試しと言うこともあるし、いー機会だからやってみよう。味がケンカしないといーけど。こうなるともはや豚汁じゃないが、まーいいや。
牛肉は豚肉よりも小さめの薄切りにし、鶏肉はひと口サイズの大きさに切って同様に行程省略を掛けて切っていく。
その間にお手伝いのラビタンズ達には野菜類の切り分け作業をお願いする。
大根、ニンジンはイチョウ切りにタマネギは輪切りにと、豚汁用とＢＢＱ用に分けて作業をしてもらう。
切ったものはオイエンさん謹製の桶に入れてもらう。（さすがにタッパーはねぇ……）
ウリスケにはキノコ類を裂き分ける作業を頼む。
「グッ！」
ウリスケが嬉々としてキノコがあるところへ行って、作業に取り掛かる。
おっと、大鍋出さなきゃ。
ウリスケが作業台の上でキノコを裂き始めたので、慌てて大鍋を出してここに入れるように頼む。
「ウリスケ。裂いたキノコはこことこれに入れて、あとこれとこれはこっちの桶に入れてね」
「グッ！」
「は〜〜い、おうさま〜」
ウリスケがひと鳴きして了承して大鍋と桶にキノコを入れていき、樽から汲んだ水を入れた桶を置いて大根とニンジンを入れる様にお手伝いラビタンズに指示する。
豚汁用の下拵えの後は、ＢＢＱ用の下拵えへと取り掛かろうとしたところでララが戻ってきた。
「マスター、お待たせなのです」
ララが串をまとめた束をぶら下げてフラフラと目の前に飛んできたのを、僕は受け止め串の束を手に取る。
「ごくろうさま。どのくらい作ってもらったの？」
「とりあえず２００本お願いしたのです。オイエンさんがすぐに残りを持ってくるのです」
量が量なもんでかなりの数をお願いしたみたいだ。
こりゃあ僕もとっとと取り掛からないとといけないな。
僕は受け取った串を確認しつつ、肉の切り分け作業に戻る事にする。
串は３０ｃｍほどの長さで、先端を尖らせた平たいものになっている。見た目は長くなった先の鋭いアイスの棒って感じだ。
串を使う前に先にＢＢＱ用の肉の切り分け作業をしなくちゃな。
よし、ちゃっちゃとやって行こう。
豚肉、牛肉は手の平より少し小さいブロック状に切っていき、トリ肉は同じ大きさでブツ切りにしていく。
切り分けた肉はそれぞれ別々に桶に入れていく。そして塩を振りかけ軽く塩揉みをしていく。
「おうさま。注文のしなをもってきたぞ」
「ありがとうございます、オイエンさん。助かりました」
ＢＢＱをやると言いつつ何の用意もしてなかったので、正直大助かりだった。オイエンさんまじかっけー。
箸とか茶碗とかこっちじゃ訳分からんもんをいろいろ作って貰っていた。
文化革命とも文明破壊とも言われかねないけど、僕達がラビタンズネストの情報を漏らす気はないので他に情報が漏れる事はないと思う。(自分で言うのもなんだけど、さすがにワイルラビット１００体とカンムリラビットを倒そうなんて奇特な人はいないだろう）
そしてお手伝いラビタンズ達にＢＢＱの説明をする。
と言っても肉と野菜を順繰りに刺していくだけなんだけど。
「お手伝いに来てくれた皆さん。皆さんにはこの串に肉、野菜、肉、野菜の順に刺していって下さい。刺し終えたものはこっちの桶に入れていって下さい。じゃあお願いしまーす」
「「「「は〜〜〜い」」」」
お手伝いラビタンズの皆にＢＢＱの方をお願いして、僕は豚汁の方へと取り掛かる。
「マスターお野菜の方は大鍋で煮始めてるのです」
ラビタンズの皆に説明している間に、ララとウリスケで大鍋を竈に設置して野菜を入れて煮始めていた。おーナイスフォロー。
「ありがとララ、ウリスケ。じゃあ軽く焼いてから肉を入れていこう」
「はいなのです」
「グッグッグ」
空いてる竈にフライパンを置いて、うす切りにした豚と牛、小口に切ったトリ肉を軽く焼いて大鍋へと次々と入れていく。
煮込んでいくと現実と同様に灰汁が出てくる。
「はいやーっ！はいやーっ！ていやっ!!」
「グッ、グッ、グゥ――――ゥ！」
ララとウリスケがスプーンを駆使して（ララが灰汁を取り、ウリスケがお椀でそれをキャッチ）灰汁を取り除いていく。
こんなとこまで現実に添わんでもよかろうにと思いつつ肉を焼いていく。
「おうさま〜〜。おわりました〜」
お手伝いラビタンズの１人が、串刺しを終えたことを知らせに来た。桶の中は山盛りだ。
「じゃあ刺し終わった串を鉄板の上に置いて焼いてくださ〜い」
「「「「「「は〜〜〜〜いっ！」」」」」」
何故か増えてるお手伝いラビタンズ達が熱くなった鉄板の上に串焼肉を次々と並べていく。
ジュワ〜〜〜という音が幾つも連なり、さながら輪唱を奏でるような感じがする。（言い過ぎか）
「しばらくしたら裏返してね」
「「「「「「「は〜〜〜〜〜いっ」」」」」」」
「マスター、ちょっと見てなのです」
豚汁担当のララが声を掛けてきたので、ＢＢＱはラビタンズ達にお任せして大鍋へと向かう。
くつくつと音を出し具材が踊っている様子を見てから、野菜をお玉で掬い煮え具合を見てみると、まだちょいと硬いので時間短縮をちょびっと掛けて柔らかくする。
「ララ、しょーゆの量見てくれる？ミソも入れるから薄めで」
「はいなのです！カッチリキッカリ見るのです」
ララが大鍋に近寄り、僕の方をみて頷きを返してくる。さすがにこれだけの大量の豚汁になると調味料の加減は僕にはさっぱりなのでララに丸投げしている。
しょーゆの瓶からお玉で何杯かを大鍋へと注げ入れていく。
「ストップなのです。マスター、味を見てなのです」
ララの言葉に入れるのをやめて、大鍋をグルグルかき混ぜて味を馴染ませてからスプーンで掬ってひと口舐める。ララとウリスケにもご相伴。
「ん！」
「おいしいのです」
「グッ」
味的にはちょい薄口ではあるけど、野菜とキノコと肉から出たエキス？のお陰か充分に美味しい。（この鍋の大きさでだいたいこの量と。よしチックしとこ）
お玉を軽く水洗いして、味噌の瓶からお玉半分を掬って大鍋の中へ箸を使って溶かし入れていく。
「マスター、後もうちょっと入れてなのです」
全部を溶かしこんだ後にララが指示をしてきたので、またミソをお玉１／３掬って溶かしていく。
「おっけーなのです。味見してなのです」
本当にちょっとだったみたいでお玉の中半分ほどが溶けた時点でララが止めてきた。残りを瓶に戻し再度掻き回して味見をしてみる。
香りもそれなりで悪くない。ズズッと啜ると、しょーゆとミソがケンカしないで馴染んでいる。
トリと牛と豚の旨味もケンカせずに纏まってるみたいだ。
ふつーに美味しいと思う。
ララとウリスケにも味見して貰う。
「ん～、バッチぐーなのですマスター！」
「グッグッグ～～～ゥ！」
ララが笑顔でウリスケが右前足をピシッと挙げて答えてきた。
ちなみに完成した料理はこんなのだ。
トリウシ豚汁：異界の食材と調味料を駆使し具材たっぷり
の旨味あふれるスープにしたひと品 Ｌｖ ８
本来あり得ない異界の豚、牛、トリ肉とキノコ類、大根、ニンジン
、長ネギと一緒に煮込み、醤油と味噌という異界の調味料で味付け
されたスープは全ての素材が融和し調和され
食べる者への口福感をもたらすであろう
生きてる内に１度だけでも食べたい一品 （ＨＰ Ｍａｘ 満福度 １００％）
いろいろ突っ込みどころ満載だけど………。他のお肉も入ってるのに豚汁なんだとか、時間短縮かけまくり工程省略かけまくりなのにレベル高いとか、ＨＰ・Ｍａｘとか満”福”度１００％とか………。
いや……、何も言うまい。でもゲーム内ではいつも思ってるけど、つい口に出てしまう言葉はしょーがないだろう。だけど言わない、言わない………。言ーわーなーいー。
「なんでやねん！」
言ってしまった。突っ込む相方もいないのに右手をつい平にして横へと振ってしまう。
「マスター、ここだけの話なのです。ノープロブレムなのです」
ララが右人差し指を口元に持ってきてそんな事を言って来る。あぁ、うん、そうねぇー。
ララの言う通り、今宵限りの大判振る舞いと割り切って行くしかないんだろうな。
この手の事であんまり裏事情とか聞きたくなかったんだけど、姉がいる時点でそれは無理か。
「よしっ」
僕は声を上げて気合を入れて、気持ちを切り替えてＢＢＱの方を確認する。
竈に載せられた鉄板の上には串焼肉がジュージューと音を立て油を弾き焼かれている。
お手伝いラビタンズ達は焼け具合を見ながら、次々と器用に裏返していた。
こっちは問題ないみたいだ。
さて、豚汁もできたし、あとはレイさん達を呼べばおっけーだなと思い、ララに皆を呼んで貰おうとしたところ、姉達が集会所の方から現れてきた。
「肉、肉、おっにっく～～～～っ」
「腹減った～～～………」
「ラっギく～～～んっ！」
「はいはい、皆さん一緒に食べましょうね♪」
レイさん、ラミィさん、姉、アンリさんが相変わらず（レイさん除く）の言葉を漏らして僕達の方へと向かってくる。
ぎゅむ〜と抱きついてくる姉を軽くやり過ごして（最近慣れた）、レイさんに少しばかりの謝罪をする。
「すみませんレイさん。僕の料理って言われたんですけど、いろいろラビタンズに手伝って貰っちゃたんですよ」
とぉ―ってもだらしない顔で串焼肉を見ていたレイさんは、僕の言葉にサムズアップしてニカっと笑って答えてくる。
「問題なっしんぐです！素晴らしーです！あめぃじんぐです！食べていいですかっ！！」
レイさんが焼き上がった串焼肉を手に持って聞いてきた。
「………どうぞ」
『『『『『『『いっただきま―――――すっっ！！！』』』』』』』
僕が了承すると、その場にいた全員が声を上げて串焼肉を食べ始める。
まぁいつもの事なので気にせず豚汁の配膳に回る事にする。
「こっちで豚汁振る舞いまーす。皆並んで〜」
僕の声に姉達を先頭に皆がわらわらと集まってくる。
そしてこれもオイエンさん謹製の大振りのお椀に豚汁とよそって次々に渡していく。
「おにくびろびろ〜」「うまうま〜」「………はぐはぐっ」
姉とレイさんとラミィさんはガツガツと豚汁を貪り、アンリさんはちびラビタンズ達へ食べさせている。いつもの光景だ。
ひとまず全員に配り終えたので、僕も豚汁と串焼肉を頂くことにする。
まずは豚汁をズズッと啜る。はぁ〜安心する味だ。
ただ、いろんな肉を入れて作ったので豚汁とはもはや言えなくなっている。
肉ももーちょい小さく切れば良かったかも、これはこれで嫌いじゃないけど。んぐんぐ。
串焼肉の方はラビタンズに丸投げしたのと、説明が不充分だったせいで、豚・豚・牛とかトリ・牛・豚とかバラバラに串に刺されていて、統一感のないものになってしまっている。
これは見た目の問題だけで、味に影響は全くないので特に気にならない。タレ作ればよかったかも、うまうま。
こうして豚汁と串焼肉を全員で平らげてからも、もっとと言ってきたレイさんの要望に応えて焼きバスタ（しょーゆ味）やお好み焼きもどきを鉄板で作る羽目になった。
しっかしよく食うなぁ〜。
「満足しました。またお願いしますね、ラギさんっ！」
「え？今回限りじゃないんですか？」
レイさんの言葉に速攻で僕が問い返すが、レイさんは満面の笑みを浮かべ大事な事なのでと言った感じで繰り返し言って消えて行った。
「またお願いしまーす」
「……………」
結局話し合いはどうなったのかとか、一切そんな事も言わずにレイさんはいなくなってしまった。
まぁ姉にでも聞けばいいか。
「もーこんなの食べたら現実でも食べないとダメじゃん！ラギくん！このあと焼肉屋に行くよっ！！」
姉は僕にそう言い放ってログアウトしてしまった。現実って事は僕も行くことになるんだよなぁ、やっぱ。
「あ、あーしも………」
「ダメですよ。この後スタッフ集めてデータの取り纏めやるんですから！はい、行きますよ」
焼肉屋に反応したラミィさんが付いて行こうとしたが、アンリさんに窘められて消えて行った。
僕もラビタンズ達に暇を告げてログアウトをする。やれやれ。
でもゲームで食べて現実で食事って案外“あるある”なのかな。
（ー「ー）ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます （Ｔ△Ｔ）ゞ
