120.GM参上
決まった(多分?)事は仕方ないとして、来年度からではあるけども特に今やらなきゃいけない用事も無いので、ゼミ室の片付けをやる事する。
『そのファイルは1番のA−3のところにしまってデガス』
「了解」
ゼミ生に指示し慣れてるらしいフーちゃん3号が、書類とファイルを確認しながら的確に所定の場所を指示してくれる。
勝手知ったるナントヤラではあるが、僕としては大変有難い。
「へぇー。中はけっこう単純にしてんだな………」
センセーはすでに白ウサを分解して中を検めている。
中はオートバランサーとマイクロサーボが数個とマイクとスピーカーがあるだけの物なので、構造はかなりシンプルめに組んである。
肝はプログラムの方にあるからだ。
ネットからフリーソフトを適当に漁ってウィルス《よごれ》を確認してから組み入れたもので、後は容量との兼ね合いとなってくる訳だ。
ロボ吉の性とは言え、分解すなら作者のいないところでやって欲しい。作り手としてはちょっとせつない。
そこへ学長さんから連絡が入って来る。
ホロウィンドウに映ったその姿は、両手をパンと合わせ頭を下げていた。
『すまん!ちょっと臨時職員では無理みたいだった』
室内の片付けをやりながら、その声を聞いて僕は心の中でほくそ笑む。
ふっふっふ、やっぱりね。週1、2の勤務であまつさえバイトもやるなんて、ある意味わがままな勤務形態を半民半官のこのガッコーが認めるとは思えなかったのだ。
やはりというか案の定こういう事になりましたよ。ふぅ。
『なので教授個人採用の枠扱いでの採用に変更した。オマエ個人の助手、秘書扱いで費用はこっちで出すから、金額はちょい安くなるが後はオマエの方でフォローしてくれ。では』
………あれ?なんか逆に逃げ道を塞がれた感じがする。
ちょっとだけ肩を落としつつ、書類の整理を続けてると、分解した白ウサを組み立て直したセンセーが声を掛けてくる。
「なーササザキぃ~。これ作った3Ⅾプリンターってどこのヤツ?」
「EⅮOGAのⅩ−2です。いいですよねぇ、あれ」
センセーの質問に僕はつい素のまま答える。答えてしまった。
「へぇ~、すげぇな。オマエん家って金持ちなん?」
ですよねぇ~。迂闊だった。つい素直に言ってから気づいた。でも白ウサの出来を見れば気づくよなぁ。
「ドウナンデショーネェ………。比べた事ないんでよく分かりませんが………」
なんとも曖昧感たっぷりな回答ではあるけど、しょーがない。
僕もよもやひと晩のうちに工房が建つなんて思ってもみなかったんだから。
「僕アパート暮らしなんで、親とは住んでないんで来てもしょーがないですよ」
「うぐ………」
家庭訪問とか言い出しかねないので、予め釘を差しておく。
実際この年で家庭訪問なんて恥ずかしい事この上ない。
ましてや突発的にやってくる姉に対処する必要が出てくるので、面倒事はなるべく避けたい。
「あと、工房見たいってのもお断りします。一応僕以外にも使ってる人がいるんで、そっちの許可取らないとダメですから。それに出来たばかりで何にも無いですから」
「えぇ〜〜〜〜〜っ」
姉よ、ダシにしてスミマセン。でもこの手の人は予防線張らないと際限ないんです。なんせ講義ほっぽって海外の研究発表見に行っちゃったりする人だから。
「うぐぐぅ………」
センセーは返す言葉もなく唸っている。講義といえばセンセー出てるんだろうか。VR環境が整ったことで大概の研究機関にはVRで対応出来るようになったみたいだけど、そうでないところもある筈だ。
「フーちゃん3号。センセーちゃんと講義やってんの?」
僕は小声でセンセーに聞こえない様フーちゃん3号へと尋ねる。
『以前に比べて大分減ったのデガスが、やっぱり研究発表があるデガスと休講して行ってしまうデガス』
ホロウィンドウのフーちゃん3号が器用に肩を竦めながら溜め息をつく。らぶりー。
まぁ、いくらVR環境が整備されてるとしてもやっぱ無理があったんだなぁ。
ロボに関しては好奇心丸出しのセンセーであれば、それも致し方無しと言ったところか。
センセーはともかく学生が単位は取れてもせっかくの講義を受けれないんじゃ、やっぱり残念だなぁと思わずにはおれない。
なんちゃって助手だけど、少しだけでも力になりたいとは思う。
「フーちゃん3号が代わりに補講とかするのってどかな?」
『無茶言わないデガス。ただのAIにそんな資格はないデガス』
やれやれという風に僕の方を見てフーちゃん3号が言う。
そっかな〜。受講生いっぱい集まりそうだけど。
どうせ今期はどうしようもないし、センセーも大人しくしていると(希望)思うので、あとで考えればいいか。
僕が思いつくのは、VRによる遠隔講義ぐらいだけど。
フーちゃん3号にさりげなくそれを話すと、おーっと口を開けてコクコク頷きを返してくれる。うっ………らぶりー。
僕に◯リコンの気は無いはずなんだけど、何故か心が揺り動かされてしまう。
いやこれって◯リじゃなく◯ボになるんだろうか………。◯ボコン?……。
などと少しばかりくだらない事を考えつつ、昼前にセンセーの要望で昼ゴハンを作り(今回はパスタのペペロンチーノを作り、いつの間にやって来た学長さんとセンセーが争奪戦を繰り広げる)その後アバートへ戻るのだった。
「じじゅ〜ちょー、それでどーなったの?」
「はい。サーベルサーバルというモンスターを私達で倒したんですよ。あなた達でも充分に倒せる者達でした」
「………………」
はい。ラビタンズネストの場所の集会所の中でちびラビタンズと楽しく会話しているアンリさんの姿があった。
何故か話を捏造しているアンリさんを横目に、僕は料理の下拵えをする。
テーブルには死屍累々といった感じで横たわる姉とラミィさん。
「くぅ………。何であんなにイべが増えてんだ。人が認識できる数じゃねぇだろうが………」
「そりゃーPCが10万人もいれば、それなりの数にはなるんじゃない?しかもNPC絡みのイベぱっかり」
姉とラミィさんが項垂れながら漏らしたのは、僕達が遭遇したイベントから小さいものは子供NPCのお使いイペントまで。
軽く調べただけでも、相当数のイベントが確認報告されたのだった。
しかも運営が設定したものでないものが。
よく分からないけどGMという人が、これらのイベントを仕掛けたみたいなんだけど話を聞こうとしても要領を得ないみたいだ。
何故これだけの全く異なるイベントを仕掛けたのかを問い質そうにも、本人は暖簾に腕押し、柳に風といった感じでのらりくらりと躱していたそうな。
どんな人かは知らないが、それじゃ運営としたは困るんじゃないかと思って聞いてみたら、眉間にシワを寄せつつ目を瞑りラミィさんが唸る様に答えてくれる。
「あ゛〜〜〜、いろいろ突っ込みどころはあるんだが特にクレームも問題にもなってないし、ついこの間問題解決に尽力してもらった手前強くも言えねぇんだわこれが」
どこか言い淀むような様子を見てると、一体どんな人なんだろうかとうつい考えてしまう。
ガッコーでゴハンを作ってる時に姉からメールが入って来て、『ラビタンズネストに来てなんか料理作って♪』と。
何だかよく分からなかったけど姉の言うとおりにアパートに戻ってから、HMVRDを被りライドシフトしてVRルームからログイン。
カアンセに到着してもラビタンズネストに向かうという、ある意味ゲームを進める気が無いような行動に少しだけ笑ってしまう。
これが自由度の高いMMORPGと言うものなんだろうなと、なんとなく思ってしまう。
ゲームというのは本来先に進むのが常道であり、それを楽しむのがそもそもの在り方だ。
進む。物語を楽しむ。スコアを刻む。彼女を攻略する。
〝クリア”する事がゲームの定義と思っていたけど何となく違って、いや、変化していったのだと思うのだ。
ただの多様化の一つなのかもしれない。でもVRの導入に伴いもう1つの指標が見えてきたりするのかも知れない。
ある意味もうひとつの人生で生活する。そんな夢のような話。
攻略するのではなく、存在する。それを目的として日々を嚙み締め生きて行く。
仮初めであっても肉体を持つからこそあり得る現実。
今のところ僕のただの妄想でしかない。いつかそんな未来があればいーなぁというただの願望でしかない。
正直、生活するのは何とも大変だ。とくに己の立場を曲解した人間の傲慢な姿勢には、ある意味辟易してしまう。
まぁ、それも人の在り様なのかも知れない。
いろんな経験をしてきた僕にも、絶望とはいかないまでも諦念というものは少しはあるのだ。
ただそれに比するくらい、あるいはそれを超えるだけの愛情を受けていたおかげで、これまで過ごしてこれたのだと思う。
まぁ、そんな独りよがりな考えはとりあえず棚に上げて、姉から頼まれた料理に集中することにする。
料理を作って、とは言われたものの材料を買ってきてなかったので、手元にあるものを見て作れるものにと決めて作業へと入っていく。
プロロアの街からログインしていれば、いろいろ手に入れてこれたんだけど、特に考えもせずにそのままラビタンズネストへログインしたので、少しばかり材料が心許ないものがあったけど………。
とりあえず手元にあるものを見て作れるものを考えた結果、ホット………もといパンケーキを作ることにした。
麦粉とワイルコッコの卵とハチミツ、あとは果物が何種類か。
ララとウリスケに手伝いを頼み、アトリはログインした時から眠たそうにしてたので、僕の頭の上でzzzと眠っている。
AIなのにとか考えちゃダメなんだろう。まぁその辺は気にせず好きにさせておくことにする。
そうして麦粉を水と卵で溶きつつ、焼く用意をしていたところへ―――――
ズダバーンとドアを叩きつけるが如く開けて件の人物がやってきた。
「こんにちは―――――っ、おっ邪魔しま――――――っすっ!!」
その声に振り向くと、1人の女性が入口に立っていた。
その女性は、背は170ちょいの高さで、ホルターネックタイプの上着に金属製の胸当てを装備してショートパンツに紺の膝上のブーツと剣帯の左右に細身の剣を2本佩いている。背には腰ほどまでの紺色のマントをつけている。
そして腰ほどまである髪は僕みたいに緩く3つ編みを1本編んで後ろに流していて、澄んだ蒼色が目に映える。
10人が10人、通り過ぎざまに振り返ってしまうような美人さんだ。
「サキさん、ラミィさん!今日はよろしく!」
「よろ~」
「まぁ、おお手柔らかに頼んます」
どうやらこの女性がGMといわれる人物みたいだ。
じろじろ見ちゃいけないと思うけど、ついまじまじと見てしまった。
だってマーカーが黄色だ。って事はこの人はNPCってことになる。
ん?NPCがゲームの管理ってどういう事だ?
僕が呆然としてると、その人が僕の前にやって来て挨拶をしてきた。
「はじめまして。私、ウガジン レイといいます。このゲームのサーバーCPの管理AIです。レイって呼んでください。よろしくね、ラギくん!」
はぁ?へっ………はぁあ?
一瞬、その挨拶が理解というか頭に入ってこなくてフリーズしたけど、管理AIってどゆこと?
………とは言え、挨拶を受けたのであれば人としてキチンと返さねばと意識を取り戻し、僕も挨拶を返す。
「はじめまして。僕はラギ……え?あ、ラギカサジアスです……。よろしくお願いします」
何故僕の名前を知っていたか不思議に思ったが、姉達から聞いたのかと納得して名を名乗り一礼する。
そしてレイさん?は僕の手を取り、ギュッと握手してニコリと笑う。
「っ!?」
触れ合い許可申請もなくこんな事が出来るってことは、やっぱり管理AIという権限を持つある意味神と言っていい存在なのだと理解した。僕の名なんか知ってて当然だ。
僕の顔と様子を見てその事に理解したと気付いたレイさんは、目を細め口元を緩めてこう続ける。
「ラギくんの料理を御馳走になりに来ました」ニッコリ。
え?どういう話なの?
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
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