118.カアンセの街に到着
ピロコリン!コングラッチュレーション!
[イベント09:お嬢様をまもれ]を クリアしました
EXP 3000
GIN 12000
スキルスロット を 1つ 手に入れました
おおー、スキルスロットが手に入った。これはありがたい。
リザルト画面を確認してから姉達と合流して、鎧さんの元へと向かう。
どうやら気がついたお嬢様と話をしていたらしく、僕達を見ると立ち上がり面当てを上げてお礼を言ってきた。
「此度はご助力いたみいる。おかげで助かった」
なんともかた………礼儀正しくこちらに一礼してくる。
皆の視線が僕に向かっているので、代表して僕が発言する。
「皆さんがご無事で何よりです。でも、こんなところで何故襲われていたんですか?」
踏み込み過ぎかと思いながら、話の流れで少しだけ聞いてみる。まぁ答えてくれなくてもいいんだけどね。
「アイツ等いきなり裏切りやがったんデス」
鎧さんでなく、お嬢様を守っていたNPCが答えてきた。
なーんか聞いたら後戻りできなさそうな話に姉達を見るが、皆興味津々と言った表情で彼女達を見ている。はぁ〜やれやれ。
「裏切った………ですか。どういう事ですか?」
変な口調のNPCに尋ねると、少女―――お嬢様が前に進み出て話し始める。
「わたくしから話したく思います。まずわたくし達の危機をお救いいただき感謝いたします。わたくしはデヴィテスの街を収める一族に列なる者でナチュア・デヴィテスと申します」
お嬢様―――ナチュアさんがスカートをつまみつつペコリと一礼。
おー、まさしくお嬢様というやつだ。へー。
でも幼いのに礼儀正しく、そしてそこはかとなく気品を感じさせる。
「所用でルウ―ジ村へおもむき、その帰り道にわたくしは侍女であったローラに何かを嗅がされそのまま今に至るという訳です」
それじゃ分かりません。
「ワタシとプロメの姐さんが馬車の外で警護してると、いきなり街道を逸れて速度を上げて草原の方へ向かっていったのデス。慌てて追い掛けようとしたら、同じ警護をしていたヤツ等がオメ-等には恨みはねぇがと襲いかかってきたのデス。なんとか奴等を倒して気を失っているお嬢様の元へ向かうと、あのモンスターたちが襲ってきたのデス」
説明補足有り難うございます。
「君達が来てくれなければ、私達はモンスターに殺されていたと思う。本当に感謝する」
そう言って鎧さんが手を差し出してきた。そしてホロウィンドウが現れ、触れ合い許可申請のテキストが表示される。
あれ?さっきポーション渡した時は普通に渡せたと思うんだけど何でだろう。
「マスター、さっきはイベント中だったので問題なかったのです。イベントが終了したので、通常の状態に戻ったのです」
ララが耳元に来て小声でそう説明をしてくれる。
そっかー、なる程ねぇ。差し出された手を無視するのは僕的にマナーに反する行為だ。なので〈Yes〉の代わりに行動で示すことにする。
「いえ、こちらこそカバーして貰って助かりました」
そう言って僕も右手を出してギュッと握手する。
「私はプロメテーラと言う。冒険者《ワンダラ-》を生業としている」
「ワタシはヴァーティと言うデス。よろしくデス」
ピロコリンとSEが鳴ってプロメテーラ[NPC]との触れ合い申請を許可したとホロウィンドウに表示される。はー、NPCの冒険者ってヤマト以外にもいたんだ。
「僕はラギカサジウスといいます。よろしくお願いします」
僕の挨拶を皮切りに姉達とアテンダントスピリットの皆が名前を名乗り始める。
3人は興味深そうにそれを聞いていた。
自己紹介も終わったので、では街道に戻ろうと別れの挨拶をしようとすると、先にナチュアさんがこちらに話し掛けてきた。
「あの……もしよろしければなのですけど、このままデヴィテスの街まで護衛をお願いできませんでしょうか。プロメテーラとヴァーティも腕利きとはいえ、2人だけでは心許ありませんので………」
肩で切り揃えた蒼みがかった銀髪が風に揺れ、薄いアメジストの瞳がこちらを射抜くように見つめてくる。
確かにこのままだと夜間帯に入ることになり、小さな子供を連れて街道を移動するのは厳しいかも知れない。
そんな事を思っていると、またホロウィンドウが現れイベントクエストの発生を知らせて来た。
「えっ!?」
「まじか………」
姉とラミィさんが声を上げるのを横で聞きつつ、イベントクエストの内容を見る。
[イベント09‐a:お嬢様の護衛任務]
お嬢様をカアンセの街を経由して
デヴィテスの街まで護衛してください
〈Yes〉 〈N o〉
どうやらこれは続きのあるチェーンクエストみたいだった。
一定の条件をクリアすることによって、次々とイベントが繋がるヤツだ。
おつかいクエストなんかもこれの部類に入ると思う。
行ったり来たりと面倒いのが特徴だけど。
「えー………。ちょっと待って下さいね」
僕は一先ずそう言って姉達と相談することにする。
それにログアウトする時間も気になっているので、確認することもある。
「で、どうしよっか、これ?」
僕がそう切り出すと、ラミィさんが渋い表情で首を横に振りつつ答えてくる。
「本来なら襲撃イベントは単発でおわる筈なんだが、なんでかリンククエが出来てる。今迄だったらあり得ない話なんだが………」
「どうやらレイちゃんがいろいろやってるみたいよね、これ」
「はぁ………」
どうもこのイベントの発生で運営で想定外の事が起きてると察したらしい姉とラミィさんが口々にそんな事を話している。
アンリさんはやる気なさそうに溜め息を吐いている。
「ちょっとあーしは調べたい事が出来たんでカアンセまで行ったらログアウトしたいんで、悪ぃけど断って欲しいな」
「そうね……この手のイベがどれだけ発生してるのか調べないと」
[イベント関連スレもいくつか立ってますね………うわぁ~……」
「くっ、前もって教えとけってんだ、GMめぇ~………」
開発者さんとGMの間の意思疎通がなされてなかったみたいで、そんな恨み節みたいな言葉がラミィさんから漏れている。
そしてアンリさんはゲーム内の掲示板を見て呆れていた。というかゲンナリしている。
どうやら方針が決まったみたいなので、僕はナチュアさんの方へと顔を向けて護衛依頼を断る事にする。
「申し訳ありませんがこの後用事がありますので、その依頼を請けることは出来ません。お力になれずすみません」
僕がペコリと頭を少し下げると、姉達も一緒に頭を下げる。ララはともかくウリスケは立ってまでやらなくていいんだよ。
僕の言葉に反応して、ホロウィンドウの中の〈N o〉が点滅して画面が消えていく。
「そうですか………仕方ありませんね。………ではもしこれからカアンセの街へ向かうのでしたら、その間同行することは叶いますでしょうか?」
まぁ、それくらいならと皆を見ると頷きを返して了承してくる。それを受けてナチュアさんへ返事をする。
「いいですよ。ではカアンセの街まで一緒に行きましょう。歩きで大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。もちろん大丈夫です」
僕の言葉に顔を綻ばせながらナチュアさんがそう言ってくる。
「よろしく頼む」
「ヨロシクなのデス」
ナチュアさんの後にプロメテーラさんとヴァーティさんもそう言ってきた。ヴァーティさんはともかくプロメテーラさんの実力なら、この辺のモンスターなら問題ないと思うんだけど、或いは又サモナーとかが襲ってくることもあり得るか。
ナチュアさんがどういう立場の人かは分からないけど、態度やその仕草を見るに相当上の人なのではなかろうかと思われる。
ナチュアさんを横目でちらと見ながらそんな事を考える。
話が纏まったことで、南西へ向けて出発する。
下手に南に向かって街道に行くよりは、モンスター寄せのアイテムもあると考えてあえて避ける意味も含めてフィールドを斜めに進む事にする。
先頭をプロメテーラさんがつとめ次に僕と姉とナチュアさんが、そして後方にはラミィさんとアンリさん、ヴァーティさんが周囲を警戒しつつ進んで行く。
先程のエンカウント高めの時と全く違って、現れるのは単発のモンスターばかりで、プロメテーラさんがあっさりと倒していく。
………特に僕達と一緒に行く必要って無いんじゃないかと思ったけど、やっぱりサモナーを警戒しているようでナチュアさんが隣を歩きながら説明してくれる。
何やら懐かれた?みたいで、僕の方を見て話し掛けて来ている。
ナチュアさんを真ん中に左右に僕と姉がいる配置となっている。
どうやらお喋り好きの様で、デヴィテスの街の事とか自分の事なんかを楽しげに話していたりする。
しばらくするとようやく西街道にに辿り着き、そのまま真っすぐ西へと進む。
どうやらこの辺りにはモンスター寄せのアイテムは置かれておらす、街道には何もなかったので少しだけ安心する。
夜の帳が下りてきて、辺りが灰闇に包まれてから30分程歩くと目の前に巨大な壁が見えてきた。
「あれがカアンセの街です」
ナチュアさんがそう言って喜びの声を上げる。
灯り玉があったとは言え、灰闇包まれたフィールドを歩くのはやはり怖かったのだろう。その歩調もやや足早になっていた。
カアンセの街に近付くに連れ、その巨大さが否応なく認識させられる。
プロロアの時も凄いなぁと思ったけど、こちらはそれを軽く超えるほどの大きさであったのだ。
街壁の高さを見ただけでも、その規模の大きさは垣間見ることが出来た。
「ようこそ!カアンセの街へ」
門に立つ衛兵も特に誰何することもなく僕達を通してくれる。
僕はキョロキョロとその巨大な門の中を見回しながら歩いて行く。どうやらお上りさん状態の僕に生暖かい視線を向けてたらしい事には僕は気付いてなかった。
10m程中を進み門を抜けると、僕は思わず声を上げてしまう。
「うわぁー………。すごぉ………」
建物の造りなんかはプロロアの街と似てはいるが、その規模が全く違っていた。
1/144◯クと1/100◯クほどの差があった。(あれ?意味合いが違うか?)
そして1番特徴的なのがその言葉だった。PC、NPCが行き交う喧騒の中で聞こえてくる会話が―――ー
「儲かりまっか」
「ぼちぼちでんな」
「ほなまた〜」
「まいど〜」
思いっきり関西圏の言葉遣いだったのである。テレビ以外で初めて聞いたよ。
「今日は本当にありがとうございました。後日改めてお礼を致したいと思いますのでよしなに願います」
「ではまた」
「失礼しますデス」
ナチュアさんがスカートを掴み一礼し、プロメテーラさんとヴァーティさんは軽く手を上げ挨拶をして大通りをそのまま西へ去っていった。
「んじゃあ、あーし達もログアウトするわ。また後で連絡すっから、じゃ」
「失礼します」
「ラギくん、ゴハンよろ」
ラミィさん、アンリさんがそう言ってログアウトして、姉も手を振りつつ消えて行った。
これからいろいろやる事がありそうなので大変そうだ。
僕も姉に催促されたので夕ゴハン作りにログアウトしなきゃだけど、ちょっとだけ街の中を見させて貰う事にする。
「ちょっとだけ街の中を見てみようか」
「グッグ―――――ッ!」
「れつ、ごー」
石畳で整備された大通りは、馬車の通る真ん中の道と歩道に区分けされていて、現実の道路の様になっている。
その中を西へと歩道を歩き、お上りさんよろしくキョロキョロと街を見ながら進んでいく。
そんな事をやっていても悪目立ちはしなかった。
他にも同じ様な事をやってるPCが何人もいたからだ。
こうして街を20分ほど歩いて中心部分に辿り着く。
そこは4つの角それぞれが大きな公園になっており、その4ヶ所にに4体の獣をモチーフにしたオブジェが飾られているらしい。
僕はその公園の1つに入ってログアウトする事に決める。
鬱蒼と繁った樹々の間を抜けると、中央に3m程の鳥の様なオブジェが飾られた広場に出る。
そこにはいくつかのベンチやテーブルと屋台が数軒立ち並んでいて、PCやNPCが思い思いの姿で過ごしていた。
「グッグ―――――ゥッ!」」
「あっ、ウリスケ」
さっそくウリスケが1つの屋台に向かって突進して行き、慌てて僕等もそれに続く。
屋台で料理を買ってベンチに座り料理を堪能した後、僕はログアウトする。
「じゃあな、ララ、ウリスケ、アトリ」
「またなのです」
「グッ!」
「あでゅー」
3人にそう挨拶を交わしてログアウト、VRルームへと戻りそのままライドシフトして現実へと戻る。
HMVRDを外して、息をひとつ吐いてから立ち上がりキッチンへと向かう。
時間は7時ちょっと過ぎ。姉は出て来ないので何かやってるんだろう。
キッチンで冷蔵庫を開けて、中を確認しながら必要な材料を取り出していく。
『マスター、何を作るのです?』
アパート担当が僕の様子を見て聞いてきた。
「んーとね、ペペロンチーノっぽい焼きそばかな?」
さっきウリスケが突進して行った屋台で売っていたのが、串に長方形のお好み焼きの様なものに仕上げにニンニクやトウガラシ、キノコなんかをオリーブオイルで漬けたもので焼き揚げたものだ。
ひと口齧ると表面がカリリとした食感で中がふんわりとしたもので、ニンニクの香りとトウガラシの辛みがなんとも言えぬハーモニーを口の中で奏でていた。味的にはペペロンチーノって感じで素直に美味いといえる。
どうやらPCの人が店主らしく、僕達が貪り食べる姿をはっはーと笑って見ていた。
結局ウリスケが3本、ララとアトリが2本づつ平らげて行った。
僕は1本で済ますことが出来た。でもストック用に10本ほど追加に頼む事になったけど………。
VRでニンニクの香りに刺激されたので、つい食べたくなったのだ。
ご近所でカレーの香りが漂うと無性に食べたくなる感覚に近い。ん?違うか。
パスタでもいーんだけど、中華麺もあることだし奇をてらってみても面白いかなと焼きそばに決めた。
まずは鶏肉と豚肉を少しだけ細切り気味に切っていき、軽く塩コショウをしていく。
次に茹で済み中華麺3玉を袋を破り少しだけ水を入れてレンジで3分程。
そしてフライパンにオリーブオイルをちょい多めに流し入れ、そこにニンニクチップとチューブタイプのおろしニンニクと輪切りにした鷹の爪を入れて火をつけ炒める。
オリーブオイルにニンニクの香りが移ったのを見てから、刻んだ鶏肉、豚肉を投入。気持ちカリカリになるまで炒めていく。
その後レンジで温めた中華麺をフライパンに入れて、焼き目を少し付けてからさらにかき混ぜながら炒めていく。そして塩コショウで味を調整する。ちょい薄めで。
そこへとろけるチーズと粉チーズを入れてフライパンを動かして麺を返しながら炒めていく。
最後に醤油をフライパンのふちへ流し入れて香りづけして出来上がり。
深皿にトングを使ってよそい上に刻み海苔をパラリと掛けて行く。
僕が焼きそばを持って居間に入ると、姉がすでにスタンパっていてテレビを観ていた。
………いつの間に。まぁ呼ぶ手間が省けたのでいいかと気を取り直して焼きそばと箸、取皿を卓袱台に置く。
「キラくん!ゴハンもお願い!」
「はいはい、待っててね。ビール飲む?」
「んにゃ、これからやることあるから飲まない〜」
そういやイベント発生の何やらを調べるって言ってたから、姉も駆り出されたのだろう。
ならばと茶碗にゴハンを山盛りにして、マグカップを取り出しコーンスープの素を入れてお湯を注いでかき混ぜるっと。
居間に戻ると姉はすでに食べ始めていて、口をモゴモゴさせて何か言っている。
「イぁグッ、おっえ、もいひ〜」
食べるか喋るかどっちかにして欲しいものだ。
「はいはい、ゴハンとスープね」
姉の前に茶碗とマグカップを置いて、僕も対面に座り焼きそばを取り分け食べ始める。
ひと口食べると、ニンニクの香りと鷹の爪のぴりっとした刺激が口の中に広がり、おコゲのある麺がカリふわといった食感を与えてくれる。
屋台の料理には敵わないけど、それなりに食べられる。ベーコン替わりの肉もカリカリしてて美味い。うんうん。
姉が2/3を平らげ、残りを僕が戴いて皿にあった焼きそばはキレイに空となる。有難いことだ。
そしてカップスープをこくこく飲んでる姉に今日はどうするのか聞いてみる。
「これからなんか作業するんでしょ?会社に行くの?」
「ん〜にゃ。ライドシフトしてVRで作業するよん。あ、工房貸してね」
そう言って姉はバッグを抱えて工房へ向かって行った。
なんか大変そうなので、ララにお手伝いを頼む事にする。
「ララ、サキちゃんのサポートやってもらえる?ちょっと聞いてみて」
『分かったのです。任せてなのです』
食器を洗い終えて、寝る時間まで少し間が空いたのでちょっとゲームをやる事にする。
ウリスケの昇◯拳が頭に残ってる。カードを機体にスロットイン。そして電源をスライド。
テレビにゲームのオープニングが表示される。ちなみに僕は赤道着の人を使っている。
どうも脇役?の方に目が向くタイプみたいなのだ僕は。
(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます
ブクマありがとうございます (T△T)ゞ




