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116.エンカウント高めの西街道

 

 

 さすがに全力疾走はきつくて、僕はつい膝に手をかけて息を整える。

 ここまでリアル準拠しなくてもいーだろうに。

 横をちらりと見るとラミィさんが大の字になって喘いている。

 そして今まで通り抜けた橋を見ると、河に戻りそこねた1体のリヴァトットが息も絶え絶えにバタバタと暴れていた。

 ついでに識別っと。

 

モンスター:リヴァトット Lv8

      主に川や河にいる水棲モンスター

      川面や橋の袂に立つと

      そこに向かって飛び込む習性がある

      その全てを受け止めて(ダメージ判定有り)

 

ピロコリン

[【識別】 が Lv3 になりました]

 

 おー、相変わらずテキスト文は何だかなぁな感じだけど、いろいろ識別していたおかげかLvが上がったみたいだ。

 この調子で識別をかけていけば、それなりに上げる事が出来るかな?

 苦しみ喘ぎながら消えていくリヴァトットを見ながらそんな事を考えていると、姉が声を掛けてくる。

 

「ラギく~~ん。行っくよ~」

「マスター。この先にセーフティースポットがあるのです」

「グッ」

 

 すでに回復したらしいラミィさん、姉、アンリさんが西街道を先に進め始めていた。おっと。

 僕は後を追いかけるように小走りに姉達の元へ向かう。

 100m程歩くと、街道の左側に皆が立って何かをしていた。

 高さ2m幅90㎝程の10cmの厚みの黒い板(オブジェ)が宙に回転しながら浮かんでいた。

 いかにもセーブポイントっぽいものを見て分かっちゃいるけど、とりあえず聞いてみる事にする。

 

「セーフティスポットのログ登録オブジェなのです。ここでログアウトすると、ログインの時にここに出てこれるのです」

 

 はい、聞く前にララが説明してくれます。やっぱりお約束ですな。ってか初めて見たなこんなオブジェ()

 よくよく考えてみると街や村でログアウトはしたけど、フィールドではやった事なかったから当たり前か。

 ララの説明にふむふむ頷きつつメニューを出してログアウトを選ぶと、このポイントを登録しますか?のメッセージが表示される。

 〈Yes〉を選びログアウトを中断して皆を見ると、何やら3人で話し合いをしているのが目に入ってくる。

 

「どうしたの?」

 

 僕が3人の輪の中に入って尋ねると、ラミィさんが僕の問いに答えてくれる。

 

「んー、このままカアンセに進むか、ログアウトするか話し合ってたんだよ。時間がびみょーだかならぁ」

 

 確かに今はリアル時間だと午後4時を少しまわったところだ。

 あと2時間もすれば、夜間帯になるし、夜はモンスターの強さも一段上がることは理解し(わかっ)ているので、僕としてはこのままカアンセの街まで行ってしまった方がいいんじゃないかと思うのだが、何かあるんだろうか。

 

「このままカアンセの街に向かうんじゃダメなの?」

 

 3人3様に腕を組みつつ首を傾げる。

 

「こっからカアンセまでの間に必ず1回はイベントが起こんだよ。だからイベントによっては1時間で済まない場合があっからどうすっかって話なんだよなぁ~」

 

 ラミィさんがそんな感じで僕に説明をしてくれる。ほほー、いわゆる強制イベントってヤツですか。

 ちょっとワクワクしてくるな、これは。

 イベントが長引けば夜間帯に入り難易度も上がるとは思うけど、僕が1番Lvが低いのだけど、この4人であればそれ程時間も掛からずにクリア出来るんじゃなかろうかと思ったけど、3人が腕を組んで悩んでいるのであれば面倒なイベントなのだろうかと考え聞いてみる事にする。

 

「そんなに時間がかかったり、難しいイベントだったりするの?」

「まぁ、大抵はお助けイベントってやつだから問題ないんだけど………中にいくつか面倒そうなのがあったりするんでどうしよっかって話してた訳なの」

 

 すると姉からそんな答えが返ってきた。

 おー、身内ネタっぽい。いや、どっちかというと掲示板ネタってやつかな。

 難易度と時間が掛かりそうだからと考慮すれば、明日ここからやり始めるのもアリなのかも知れない。

 

 僕としてはどっちでも構わないかな。

 現実リアルでやることと言えば、バイトもないし夕ごはん作りとロボ作製ぐらいだし、後はまぁ、レトロゲーで遊ぶくらいかなぁ。


「ラギくんはどっちがいーい?あたしは正直どっちでも構わないんだけど、ラミィとアンリがちょっと慎重になってんのよねぇ」

「だってよ〜、大型アプデ後のイベで、あのGM(ひと)が仕切ってんだぞ?マジちょっと怖くね?」

「えー私はラビタンズネストに戻りたいのでなる早の方がいいんですが………」

 

 ラミィさんが怖れるあの人が何かはよく分からん。

 アンリさんは変わらずブレてない。どんだけ好きなんだろうこの人は。

 さて弱ったなぁと思いつつ、ちょっと卑怯臭いとは思ったけどララ達に丸投げしてみる事にする。

 

「ララはどっちがいーと思う?」

「ララはもう少しマスターと一緒がい(あそびた)いのです」

「グッグッグゥ!」

 

 少し困り顔で遠慮がちにララがそう言い、ウリスケは2人足で立ち上がりシュピッと右前足を上げる。

 

「アネ様はエレレが守るのですっ!」

「プクップクゥ〜」

 

 エレレがピョンピョン跳ねてそう主張し、コンドォ―さんはピッとサムズアップ。

 

「あるじ様の思うままに」

「のーぷろぶれ」

 

 レリーはそう言ってカーテシー。アトリはピゥとひと鳴きしてから、そんな事を言ってくる。

 

「エレレぇっ!お前ってやつはなんてか〜い〜んだっ!」

 

 感極まったラミィさんが、手に載せたエレレを頬擦りしている。

 アンリさんはコンドォ―さんを見て目を丸く見開いている。

 何か驚くことでもあったんだろうか。

 姉もレリーと仲良く話をしてる。

 

 仲良きことは美しきぃーってな訳でこのまま進む事になった様なので、皆に声を掛けて出発する事にする。

 

「話もまとまったみたいだし、行こ?」

「おうっ!今ならあーしは何でもやれるっ!行くぞ!」

 

 テンションアゲアゲのラミィさんが声を上げると、アテンダントスピリットの皆がおーっと声を上げてそれに応える。

 もちろんララとウリスケも。

 まぁ、これだけ人数がいれば何とかなるでしょう。

 こうして僕達はカアンセの街へ向けて歩き始めた。

 

 

 

 何とかなるだろうなどと始めの頃は思っていました。

 確かにセーフティスポットで登録して気が緩んでいた事もあると思います。

 でも次から次へと矢継ぎ早にモンスターがやって来るというのは、なんなんだと文句を言いたい気分です。

 

「なんっじゃ、っこりゃ~~~~~~~っっ!!」

 

 開発者ラミィさんが文句を言っています。

 それはそれでどうなんだと思うけど、僕としては楽しいんで問題ない。……うん。

 だけどゲームバランスおかしくね?と思わずにはおれない。

 

 レトロゲームなんかでも何故か戦闘が終わって、さて1歩なんて状態でエンカウントすることが何度もあったりして、フラストレーション溜まりまくりなんて事はあるだろうけど、日々データを更新してるだろう現代いまにこういうことってある事なんだろうか?

 

 僕が首を捻っている間も、モンスターが次々と湧くが如くやってくる。

 この辺りも周囲は草原の様でところどころに雑木林やあと大きな岩とか灌木があり、下手に近づこうものならいきなり現れバッサリとかやられそうだ。

 

 さすがに新しいエリアのせいか、モンスターも様変わりしている。

 黄色の暴れ馬(タイランサラヴレ)やドーベルマンみたいなワイドルドベル。でっかい鷹のバトイーグレ。(識別済み)

 そんなモンスターが街道を進む僕達に襲いかかってきてるのだ。

 

 辛うじて1体とか2体で襲って来てるので対処は出来てるけど、これ以上湧いてくると、やばい気がしないでもない。

 

「サキちゃん、ここら辺てこんなにモンスター現れるもんなの?どりゃ」

「んなっ、訳、なっいっでしょっ!こんっな、っ事、今まっでな、かったも、んっ!」

 

 僕と会話としながら姉が2体のワイドルドベルをズバンズババと剣で斬り伏せていく。

 へー、今までなかったって事は、何か変化あがあったって事なんだろうか。う〜ん、分からん。

 

 僕はそんな風に考えことをしつつ、空から襲ってくるバトイーグレを弓で狙い射て何とか倒す。矢が心許なくなってきた。

 程なく何とかモンスターを全部倒してひと息つく。

 

 どうやら一段落したようで、さっきまで続々やってきていたモンスターは鳴りを潜めたように現れてこない。

 

「どうやら嵐は去ったみたいだね」

 

 索敵をかけても周囲にモンスターのモの字もないので休憩を取るを提案する。

 

「ちょっと休憩しない?満腹度のこともあるし」

「だな」「さんせー」「わかりました」

 

 ラミィさん、姉、アンリさんが声を揃えて頷いてくる。さすがにしんどかったみたいだ。

 僕達は街道を少し逸れた所に腰を下ろし一休みする。

 僕はメニューを開き、簡易テーブルというよりは四角い卓袱台といった方が良さげなもの(これはプロローの商店街のお店で衝動買いしてしまったものだ)を出して、そこにに作り置きしていたバゲットサンドを人数分置いていく。(もちろんアテンダントスピリットとララ達の分も)

 

 さっきまで散々モンスターと戦った場所とこでこんな事をするのも何なんだけど、大丈夫そうなのでまぁいっかと棚上げしとく。


「いただきますなのです」

「グ〜〜グッ!」

「ん〜〜ふぅ〜〜〜っっ!」

「んめぇっ!はぐはぐっ、んめぇっ!」

「くっ………」

 

 いや、バゲットサンド食べてこっちを悔しそうな顔で睨まないで欲しいんだけど、アンリさん。

 その視線をスルーしてハーブティーを入れて渡していく。

 どこに入るのは分からないけど、ペロリとバゲットサンドを平らげたララ達を眺めつつ僕も急いで食べていく。


 このバゲットサンドのパンは北大通りにあるパン屋さんのもので、全粒粉の様な歯ごたえと噛みごたえのあるものだ。そこに焼いたワイルブモーの肉と野菜を挟んだ簡単なもの。

 僕なんかは柔いのも堅いのも特にこだわりがないので、どっちもイケる口だ。

 僕がもぐもぐ咀嚼しながら景色を見てると、街道の先の方に何やら小さなものが置かれているのが目に入って来た。

 

 なんじゃらほいと思い識別を掛けてみると[UN KNOWN]の文字と、アイテム類は識別できませんと注意文が表示される。

 そういやアイテムは鑑定ってのがいるんだったっけ。ん?アイテム!?

 

 こういうのはララに聞くのが手っ取り早い。

 

「ララ。街道の先に四角いなんかが置いてあるんだけど………あれって何?」

 

 僕がそう聞くとララが傍までやって来て手をかざし眺め見る。

 

「四角い何かなのです?どこなのです?」

「あそこ。ほら10mくらい先にある小っさい箱みたいなの」 

 

 僕が街道の先を指でさし示す。 

 

「っ!あれはモンスター寄せのアイテムなのです!大変なのです、サキさま、ラミィさま、アンリさま!」

 

 ララが不穏なアイテム名を告げると、慌てた様にまったりしてる姉達の元へピューと飛んで行った。

 

「モンスター寄せがあったって事は、今までのエンカウントが高かったのってあれのせいなんだろうなぁ、きっと………」 

 

 ララが3人に説明を始めそれぞれ街道を眺めてるのを見て僕は呟く。

 どう見ても足止めか、妨害の類。人為的になされたものだと分かるからだ。しかも性質たちの悪い。

 姉とラミィさんとアンリさんが視線を交わして、同じ言葉を紡ぎだす。

 

「「「襲撃イベント!?」」」


 「こんなとこで?」とか「いや、ありえねぇー?」とか「街の近くでならあるいは………」とか聞こえてるけど、何の事かは僕にはさっぱり分からない。

 かとって下手にモンスター寄せとやらに近付くのも何やら危険な香りが漂ってくるのでやめた方がいい気がする。

 

 なので暇潰しとLv上げを兼ねて周囲に索敵をかけまくる。

 東、何もなし。

 西、何もなし。

 北、何もなし。ピロコリンとSEが鳴る。あ、Lvが上がった。

 南、………およ、索敵範囲の端っこに反応が現れてきた。

 赤のマーカーが幾つかと黄色?のマーカーが2つ、いや3つか。

 

「ねぇ、サキちゃん。NPCってフィールドにいたりするの?」

 

 僕はちょっと不思議に思ったので、軽い気持ちで姉に聞いてみる。

 

「えっ!どこ?、どこどこっ!?」

 

 姉が驚きを表して周囲を見回す。つられてラミィさんとアンリさんも。


「えっと、ここから南の方。索敵範囲の端っこに赤と黄色のマーカーがあるんだけど………」

 

 僕は手を目の上にかざし南の方を見ながらそう答える。

 んーなんかいるかなって豆粒みたいなのが何とか見える。

 

「あっ!NPC(ひと)がモンスターに襲われてるのです!」


 ララが指差して焦るように声を上げる。目ぇいーな―ララ。 

 3人が顔を見合わせうなずいた後、一斉に走り出す。

 そして置き去りにされる僕。

 

「え、な何っ?」

「ほらっ、ラギくんも急いでっ!はりぃはりぃ!!」

 

 こちらを振り向き足踏みしながら姉が声を上げてくる。

 僕も慌てて駆け出し、姉と一緒に並んで走る。

 

「いったい何があんの?」

 

 並走しながら姉に尋ねると、笑顔を見せて答えてくる。

 

「襲撃イベントだよっ!しゅ〜〜う〜〜げぇ〜〜きぃ〜〜〜!!」

 

 あはは――――って笑いながらスピードを上げ走る姉の後に僕は続く。

 どうやらラミィさんが言ってたイベントってヤツらしい。

 姉の様子を見てると、よっぽど美味しいイベント(ヤツ)なのだろう。

 あれだけ慎重にとか言ってたラミィさんも楽し気だ。

 

 しかし今日はよく走る日だなぁと思いつつ、僕達は一路南へ向かって走り続ける。

 

 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

おそくなりました……Orz

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