115.西街道をれつごー
姉に急かされた形でルウージ村を出てしまったので、結局買い物も登録もやらずじまいで西街道を進む。
「結局何も買わずに出てきちゃったね」
「う゛っ………」
僕の言葉に後ろめたそうに姉が口篭る。いやまぁあの状況を見ればしょーがないとは思うけど、つい口から出てしまった。フォローせねば。
「あ、でもあの状況じゃしょーがないよね、ってかあの村っていつもあんな状態なの?」
誰にともなく西街道を歩きながら尋ねてみる。
あの顔立ちを見るとマルオー村の5人姉妹のような感じでルウ―ジ村で働いていると考えられる。
ただ、のべつまくなしでナンパしてたんじゃ、仕事にならないような気がしてくるんだけど。
「ん―そんな事ねぇと思うんだけどなぁ。はじめの時はちゃんと持ち場で仕事してたと思うんだけど………なぁ?サキ」
苦笑しながら頭を掻きつつそう言って、ラミィさんが姉に話を振っている。
ん?姉がなにかやったんだろうか。ラミィさんの問いに姉がふぃと顔を背ける。そしてララもフ、フフ〜ンと言いながら目を逸らす。
はは〜んなる程。これって僕がヤマトでプレイした時の話かな。NPCのAIに関する話なのだろう。
なら僕が突っ込んでいー話でもなさそうなので、ちゃっちゃと話題を変えることにする。
「まぁ、あの村のことは置いといて。僕よく分かってないんだけど西街道ってどこに向かっているの?時間とかどれぐらい掛かるか教えてくれると助かるんだけど」
どちらかというとプロロアの街とラビタンズネストぐらいしか行き来しておらず、何とも行き当りばったりなプレイをしているので、予備知識などは全く皆無なのだ。
僕が考えていたのはエリアボスや円門を通過すればフラグが立って、その辺りの情報が手に入ると思ったんだけど、特のそんな情報は聞いた事がない。
いや、こっちで聞かないとダメだったんだろうか…………。
僕がそんな事を考えつつ聞いてみると、代表してララが答えてくれた。
「この西街道の先には人族の街カアンセがあるのです。そしてその街の北にドワーフ族の街、南には魔人族の街があるのです」
なる程。で反対に東には人族とエルフ族と獣人族の街があるという事か。
そういや種族限定のクエストがそれぞれの種族の街にあるって聞いた記憶がある。
なら僕と姉はともかく、ドワーフ族であるラミィさんは種族クエストを請けてたんだろうか。
「ラミィは種族クエストって請けたことあるの?」
西街道はまっすぐ西へ続き、周囲は遥か先まで草原が広がっている。
今のところモンスターが現れる様子もない。警戒はその都度索敵してるから問題ないので、ちょっと気になったので聞いてみる。
「んあ?あーちょびっとばっかな。んでもよぉ〜自分で作っといてなんだけど、ドワーフの種族クエストって採掘とか鍛冶関係半分近くなんだよなぁ。あーし生産系スキル取ってねぇしなぁ」
じゃあ何でドワーフ選んだの?って話なんだけど………。
ちらとラミィさんを見やると、ラミィさんがちらと姉とアンリさんを見やる。
………なる。本人の意志じゃなく、周囲が勝手にキャラメイクしたって事か………。
「……大変でしたね」
僕は思わず労いの言葉をラミィさんへしみじみと言っていた。
「あ、いやっ。あーしは気に入ってんから問題ねぇんだ。本当だぞ?」
僕の言葉に慌てて手を振りフォロ-に入る真っ赤な顔のラミィさんを見て、思わずうんうんと頷いてしまう。
こんな風に照れる姿を見られるのも、VRだからこそであると言えよう。
「やだぁー、照れてますわよ。アンリさん」
「ですねぇ~、ふふ。どーでもいいですけどぉ………」
「アネ様、てれてれなのです」
姉とアンリさんはからかい気味に、エレレは見たままをそのまま呟いている。
さて、どっちがダメージでかいのやら。
俯いて顔を隠しながら逃げる様に先頭へ移動するラミィさんを見て、さすがに悪いと思ったので話を戻すことにする。
「ところで、そのカアンセの街にはどのくらいで到着するの?あんまり時間が掛かっちゃうと、途中でログアウトってことになっちゃうよね?」
そういやフィールドでログアウトするとどうなるんだろう。
僕の問い掛けに、それを察した姉が説明を始めてくれる。
「カアンセの街まではだいたい2時間ちょいってとこかな。あと途中に何ヶ所かセーフティスポットがあって、そこでログアウト出来るようになってるから大丈夫だよ。えっへん」
自慢気に姉が胸を張って言ってくるの聞いて、だよねぇと思わず納得する。その後追加として更に説明をしてくる。
「そんでフィールドでログアウトすると、10分間そのままでログインする時登録した街に現れるから気を付けてね」
中身のないPCが10分放置、なんて恐ろしい。気をつけよう。
白と赤のゲーム機のソフトで、後半ダンジョンに入るとボスを倒すまでセーブ出来ない、電源入れっぱの状態でプレイするという、今では考えられない逸話を思えばさもありなんと言ったところか。
んが、脱線してしまった。
リアルの時間が3時ちょい過ぎだから、うまくいけば5時頃には一旦ログアウト出来るかな。
そんな皮算用をしていると、索敵に反応が現れた。
「マスター!右前方からモンスターが飛んでくるのです」
飛んで来る。索敵では3つのマーカーがこっちに向かって来るのは分かる、けどそこまでは分からない。
「ピュロロ~~~ッ」「ピュロロロ――――――ゥ」「ピュローッ」
モンスターの鳴き声が響きすぐに姿が見えてきた。
「ステップピヒョローなのです!」
ララがモンスターを特定すると、僕達は戦闘態勢に入る。
確か麦刈りの時に現れたらしいモンスターで、ヤマトが戦っていたので僕は知らなかったけど、まんまトンビだよな、あれ。
迫って来るステップピヒョローに向けて矢を番えて待ち構える間そんなことを思っていると、ピヒョローとひと鳴きしてV字編隊で飛んでいた3体が、くるりくるりと回転しながら急降下して来た。
時間差で襲い掛かって来るステップピヒョローの先頭の1体へ狙いを定めて矢を放つ。
「っ!」
シュパーンと放たれた矢をひょいと躱し、落下するかの様にこちらに向かって迫り来る。
距離がありすぎたか、もしくは弓のスキルLvはそれなりだと思ってたけど相手するには低かったか。
気を取り直して、また矢を番え狙いをつけて放つ。
どの道躱されても問題ない。当たれば御の字、どちらかといえば牽制の目的の方が大きい。
「ストンバレットッ!」
「ファイヤバレット」
「ウィンドカッタ」
ララとアンリさん、そしてアトリが次々と魔法を発動して放っている。
「ピヒョッ!」「ヒョロロッ!?」「ピヒョロロ!」
魔法が命中して3体のステップピヒョローが声を上げるが、ダメージはそれ程でも無いようで、墜落せずに態勢を直すように急旋回して空へと上昇していく。
「ひきょーもの―――――っ!降りて来――――――いっっ!!」
攻撃を躱され焦れた姉が、剣を振り振り句をモンスターへ言っている。
たぶん持ってるのが近接戦闘スキルだけなので空へ飛ぶ敵に対しては何も攻撃できないからか、うがーと姉が吠えている。
さすがにプロロアの街周辺のモンスターと違い、この辺りはLvが高い様でなかなか手古摺りそうだ。
ま、そうでなくちゃ面白くない。
上空へ舞い上がったステップピヒョローはくるくる旋回してからまた急降下を始める。
今度はさっきの時間差同方向からでなく、3方向に分かれて攻撃してきた。
なかなかの賢さだ。
でもそれが楽しい!
僕たちは互いに背中を預ける形で輪になり、僕、姉、ラミィさんとアンリさんが1体づつ対峙する。
落下速度を加え勢いをつけて迫って来るステップピヒョローに、僕は矢を番えアーツを放つ。
「ツインシュートッ」
2つに分離した矢が躱す間もなく、ステップピヒョローに命中する。
「ピィヒョッ!」
翼を射られたステップピヒョローが声を上げ失速しくるくる回りながら落下する。ダメージは然程もないがこれで充分だ。
「グッ!」
そこに自分の出番と言わんばかりにウリスケがストトトと飛び出し、落ちてくるステップピヒョローにタイミングよく体当たり。
ドガッ!「ピヒョヒョッ!」
ドガッ!「ピィ〜〜ッ!」
ドガガッ!!「ピヒャッ………」
ウリスケが体当たり、ジャンプ体当たりを繰り返し翻弄されたステップピヒョローは末期の声を上げ光の粒子となって消えていった。
「ウリスケ!グッじょぷっ!」
「グッグッグッ!
僕がサムズアップでウリスケを称えると、クルッと振り向き右前足をシュピっと上げ応えてくる。
「うにゃあぁ〜〜〜っ!どろぼ―――――っっ!!」
後ろで姉が再び喚いている。口調が低年齢化してる気がしないでもないが、と振り向くと攻撃をスカった姉と上昇して行くステップピヒョローの姿が目に入って来た。
「ステップピヒョローは攻撃の前に必ずPCのお金やアイテムを“掠め盗る”のです。多分サキさまは何かを盗られたのだと思うのです」
姉の様子を見てララがすぐさま解説をしてくれる。
一方ラミィさんとアンリさんの方は、鞭で巻きつけたステップピヒョローを右に左に振り回しながら地面に叩きつけている。何気に酷い。
「こっのっ!金の無ぇ時ばっか来やがってっっ!どりゃどりゃぁぁ―――っっ!!」
どうやらウリスケと同様に何やらやられた過去があるようで、何気に力がこもっている感じがする。
ステップピヒョローが光となって消えていくのを、ぶふぅと鼻息荒く息を吐き満足そうにラミィさんが腕を組む。
アンリさんはそれを見て肩を竦めている。
ピヒョーと空から鳴き声がしたので、僕は姉へと加勢しようと向かおうとすると、姉がこちらを見て手を差し出して止めてくる。
「手出し無用!」
ありゃま、意地になってるよ。こうなった時の姉には何を言っても無駄なのだ。
まぁレリーもいる事だし大丈夫だとは思う。
僕は上空をくるくる旋回しているステップピヒョローに識別を掛けてみる。
モンスター:ステップピヒョロー Lv15
草原を住処にしている空飛ぶモンスター
光り物と麦が大好物
格下と見ると相手のものをかすめ盗ろうとする
懐に気をつけて
「……………」
テキスト文を見ると、姉はどうやら格下認定されてるみたいだ。
それに何気にプロロアと違ってLvが高い。
手出し無用と姉に言われたし、後は見守るしか無いだろう。
周囲を索敵しながら警戒をしつつ、ララにこの辺りの事を聞いてみる。
「ここって………まだ第1サークルエリアってとこなの?ララ」
「そうなのです。この先に大っきな河があって、そこを渡ると第2サークルエリアになるのです」
ステップピヒョロ―がヒョロ―ピョロロ〜と姉をからかう様に旋回しながら鳴いている。
姉はぐぎぎと歯切りしながら、それを睨み付けている。
「くる」
「グ〜〜………」
アトリは僕の頭の上でそう呟く。ウリスケはいつもの格好で大の字だ。
僕とラミィさんとアンリさんは少し離れたところで様子を伺う。
ちょっとヒマかも。
旋回からくるリと回転して3度ステップピヒョロ―が降下してくる。
「へっへへー、次も掠め盗ってやるぜ」(僕イメージ)な態度でステップピヒョロ―が姉へ襲い掛かってくる。
その姿に姉がニヤリと笑う。
「バカめっ!あたしが飛び道具を持ってないと思ったか!レリ―!!」
「はい!あるじ様」
姉の隣にいたレリーが、どこからか取り出したナイフを両手に1本づつ構えてアーツを放った。
「スナイプスロー!」
下手から投げられたナイフが、吸い込まれるようにステップピヒョロ―の首元と胸へとトストスと突き刺さる。
「ピッヒョヒョ!?」
ナイフの重さと痛みに声を上げバランスを崩して、くるくる回りながらステップピヒョロ―が落下を始める。
バタバタと翼を動かし落下するステップピヒョロ―の真下へ姉がが走り直前でジャンプ。
「往生せいやっ!」
ズバッと剣を振り下ろすと、声を上げる間もなくステップピヒョローが消えて行った。
スタっと着地すると、右手を掲げて雄叫びを上げる。
「だっしゃああぁぁっっ!!やったよ!ラギくんっ!!」
大人気ないその姿に哀愁を誘い僕は肩を竦める。
ほら、後ろで口元をニヤニヤさせている2人が手ぐすね引いて待っている。後で恥ずかしさで後悔しないことを祈ろう。
実際うきゅーと言って転がっていた。
しばらく転がっていた姉がようやく落ち着いたので、西街道をさらに進んでいくと、前の方で水の流れるごうという音が聞こえてきた。
「ふぅおお………すっごー…………」
辿り着いたのは300mほどの幅のある大っきな河だった。
そして街道に沿う様に石の土台と木の板で出来た幅5m程の橋が向こうまで続いていた。
河は北から南へとかなりの勢いでごうごうと音を立てて流れている。
落ちたらひとたまりも無いだろう。
あまつさえ手摺りも無いので、端に立つとけっこー危ないかもしれない。
僕がそんな事を河の手前まで来て想像してると、ララがこの河について教えてくれる。
「この河はナンガーラ河といって、北の山脈から続いてるのです。東の方にもツィークマ河というのが流れていて、南の大河まで繋がっているのです」
ララの話を聞いて、どうやらここが第1サークルエリアと第2サークルエリアの境目だという事に気づく。
ようやっとかと感慨深く思っていると、何でか皆が屈伸とかして準備運動を始めだした。
「サキちゃん、なんでそんな事やってんの?」
「この橋を全力疾走で駆け抜ける為の準備運動?」
「なんで?」
なぜ全力疾走しなきゃならないのか全然分からなかったので首を傾げつつ聞き返すと、ラミィさんが簡潔に説明してくれた。
「この橋を渡ろうとすっと河からモンスターが飛び出て襲って来るんだよ。んで、下手に戦闘すっと河に落ちる恐れがあっからここは走り抜けるのがベストなんだよ」
なんだかよく分からないけど、とにかく全力で走り抜けた方がいいと理解した。
全員が橋の端に並んで立ち足を踏みしめると、ラミィさんが合図の掛け声を発する。
「んじゃ行くぞっ!「れつごー」あうぇっ!?」
と思ったらアトリが先に合図を言ってラミィさんは変な声を上げる。すみません。
全員が一斉に(いやラミィさんが少し遅れ)橋へと突入。
木の板をだがだか音を立て駆け走る。
先頭は姉、次にアンリさんそして僕と続き、後ろにラミィさんと列をなす。
5mほど走ると、橋の左右からザバァンザバザバッと水が弾ける音があちこちから聞こえ、そして空から何かが降って来た。
「うおっ!え、何ぃ!?」
不測の事態に驚き走りながら思わず後ろを振り向くと、何体ものでっかい金魚が橋の上でバッタンバタバタ息も絶え絶えに暴れまわっていた。
しばらくバタンバタバタ暴れまわり跳ね回ると、端っこにいたヤツはそのまま河へ戻り、そうでないヤツはそのまま事切れて消えて行った。
「何なのっ!あれぇ――――――っっ!!」
僕は駆け走りながら声を上げてしまう。その間にも河から飛び出して橋の上へとモンスターが降り注いてくる。
「あれはリヴァトットなのです。PCやNPCが橋を渡ろうとすると、こうして飛び降って歓迎?してくるのです」
やな歓迎だなぁ、とララの説明を聞きながらなんとか橋の上を走り続け、向こう岸まで辿り着く事が出来た。はぁ、やれやれ。
(-「-)ゝ お読みいただきうれしゅうございます
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