114.ルウ―ジ村と5兄弟
ラビタンズネストを出て南西エリアを西街道に入らず、そのまま進んでプロロアの森へと僕達は向かって行った。
「何で西街道から行かないの?」
森を進もうと言い出したラミィさんに、僕が何故かを尋ねてみる。
「とくに意味ねー。あえて言えば面白そうだから?」
なんてアバウトな………。まぁ、ゲームだからそこまで気にかける事でもないか。
特に不満もなかったので指示に従う事にして、時たま現れるモンスターを倒してプロロアの森へ。
そのまま中へと入り突き進む。
Lv的には皆ソロでも充分戦えるので、この機会にスキルLvの低いヤツを鍛えることにする。
主に【索敵】と【識別】、あと【水魔法】。
索敵と識別はララやアトリがすぐ知らせてくれるので特に気にもしなかった事もあり、何よりヤマトの時と違ってVRではその都度使わないとLv上がらなかったからだ。
水魔法はそこそこ使ってたけど、風魔法の頻度に比べるとやっぱり低い。呪文もある程度増やしておきたい。
そんな事を森の中を進みながら話し合って、僕と姉とラミィさんで前衛を交替しながらモンスターを倒して西へと進んでいく
ワイルビーとビッグスパローはその都度索敵をしながらこっちにやってきたのを、弓や魔法でサクサク倒していく。(むふー)
ビッグアンタは姉の剣とラミィさんの鞭でこっちもサクサク倒していく。
その中で僕が目を惹いたのは、ラミィさんの鞭技だった。
現実であれば振り回す勢いで威力を出すもので、障害物が多々ある場所ではあまり使いどころが無い様に思われたのだけど、現実とは違いゲームにはアーツというものがあり、それが鞭の力を新たに引き出す事となる。
そのひとつが“ウィップスピア”。
新たに目の前にビッグアンタが3体現れ、顎をカチカチ鳴らして襲ってきた。
1体に姉が飛び込み斬りつけ、もう1体にウリスケがストトトと接近しドガンと体当たりで突き飛ばす。
「キギャッ」「キャグッ」
残りの1体を僕が矢を番え放とうとした時、ラミィさんがアーツを放つ。
「ウィップスピア!」
ラミィさんがアンダースローで鞭を振ると、丸められていた鞭がくるくると解けながらまっすぐ突き進み鞭先がビッグアンタの頭を貫いてしまう。
そして腕を引き戻すと、逆再生のように鞭が戻っていく。
すごっ。吹くと丸まっていた紙のテープが膨らみ伸びるオモチャを思い出す。でも鞭じゃなくね?とか思ってしまう。
さらに2撃、3撃と繰り出し、ダメージを受けたビッグアンタは消えて行った。
鞭の特性を考えれば、振り下ろしと振り払いだけと思ってたけど、ゲームならではの鞭使いと言ったところか。
僕が弓を下ろして感心してると、僕の視線に気付いたラミィさんがニヤリと笑い言ってくる。
「かっこいーだろ。へへ~ん」
「うん。かっこいー」
「なっはっはっはーっ」
僕の返事を聞いて、声を上げてラミィさんが笑いどや顔で胸を張る。
「む~っ、ほら行くよっ!ラギくんっ」
「はい、はい」
姉が頬を膨らませ先に行くのを、僕は追うように歩を進める。
出番の無かったアンリさんは、後ろで僕等の様子を見てやれやれと肩を竦めながら後に続く。
さらに森を進んでいくと、今迄と違うモンスターが現れてきた。
さっそく識別をかけるとこんな風に表示される。
モンスター:ビッグバタフ LV3
音もなく近寄りMPを吸っていく
鱗粉を吸うとマヒ状態になる
そう、あなたの後ろにも!
「っ!」
表示されたテキストを読んで、ふぃに悪寒が走り後ろを振り向くと、ふぁさっと羽根をはためかせたでっかいアゲハ蝶が背後から口吻を出していた。
「おわわっっ!」
「あぶ」
僕とアトリが声を上げ慌てて後退して拳を構えるが、動きを止めたビッグバタフが身体を震わせると羽根が淡く怪しく光りだす。
何だ?いや、分かってる。これはお約束の鱗粉か。
ぬっ、迂闊に近寄れない。どうしようかと逡巡していると、横合いからバシュンと鞭が振るわれる。
ビッグバタフがその1撃で消えていった。
「大丈夫かー。ラギー」
「ラギくん大丈夫?」
「う、うん。だいじょぶ」
あ~、びっくりしたー。
「マスターごめんなさいなのです。気付かなかったのです」
ララが申し訳なさげに頭を下げて謝ってきた。つーかモンスターがいるのにぼさーと識別掛けてた僕が悪いのだ。
「ララのせいじゃないよ、僕が半分油断してたんだ。気にしないでいーよ」
「マスタ。ごめ」
アトリも頭の上から謝ってきた。僕の側にいるのだから仕方ないか。
「アトリも気にしない。そういう事もあるさ。さき進も、ほらほら」
「はいなのです」
「わか」
僕の言葉に了解して頷き返事を返してくる。次に気を付ければいいのだ。
「まぁ、暗殺蝶っていうぐらいだし、ちょい警戒しつつ進むからな」
「了解」
「わかったー」
「分かりました」
僕、姉、アンリさんがラミィさんの言葉に頷きながら返事をして森の中をさらに進み行く。
周囲を警戒しつつ、現れた蜂と蝶とスズメを倒しながら進んで行くと、木々の間隔が開いてきて次第に疎らになりようやく森を抜け出ることが出来た。
昼間帯とは言え、やはり森の中は生い繁った樹々のおかげで少しばかり薄暗かった景色が明るさを取り戻す。
「ふぅー」
「けっこー面白かったな」
「まぁまぁね」
「そーですねー」
僕が安堵の息を吐きラミィさんがニシシと笑って感想を言うのに姉が頷き、アンリさんはどーでも良さ気に返事している。きっと心はラビタンズネストにいるのだろう。
さすがにこのまま西を目指す訳にもいかないので、進路を少し北へと少しづつ斜めに移動して西街道を目指す。
こっちのフィールドも東街道と同様に豚、牛、時々羊が現れてきた。
その都度僕、姉、ラミィさんとで倒していった。羊に関してはすぐにウリスケが反応して突き飛ばし、蹴り飛ばし体当たりで倒してしまった。けっこー根に持つタイプみたいだなウリスケ。笑う様に「グッ」と鳴いてたのがちょっと黒かった。
西街道に入り、途中円門をくぐりしばらく進むと木々の連なりが目に入ってきた。
また森の中に入るのかなと思ってよく見てみると、高さ2mちょい位の樹々が均等に植えられている事に気づいた。そして果実独特の甘い香りが周囲に漂っている。
どうやら果樹畑?みたいだ。
おそらくマルオー村が麦畑なのに対して、ルウ―ジ村は果樹畑で果物を育てている設定だろう。
樹々にはすでに果実が生っており、色とりどりの色彩で僕達を迎えていた。
「これはこれで見事なもんだねぇ」
「なのです!美味しそうなのです!」
「グッぐッ!」
「じゅる」
僕達がそれぞれ感想を述べてる(ほとんど食い気だけど)と、アンリさんが簡単に説明をしてくれる。
「ルウ―ジ村は果物を特産としていますので、収穫作業とかそちら方面の依頼が多いですね。………あとは行って見ての―――ーという事で………」
後ろの方を口篭るのを首を傾げつつ、行って見れば分かるというのであれば行ってみてのお楽しみという事にしておく。
「では、レッツゴーなのです」
「グッグッグ――――――ッ!」
「ごー」
ララとウリスケがそう言ってばびゅーんすととと先へと街道を進んで行った。
果樹畑の風景を眺めながらしばらく歩くと板塀とその向こうにいくつかの建物が見えてきた。
「到着なのです!」
「グ――――――ッ!」
村の入り口でララが振り返り手をフリフリし、ウリスケが2本足でピョンコピョンコとび跳ねている。
「元気だなぁ~」
僕はそう呟き村の入り口へと辿り着くと、改めて中を眺め見る。
村の様子はマルオー村と似た様な作りで、西街道を中央にその中心に噴水広場があり、その両脇に平屋の建物が並び建っていた。
ただマルオー村と違っているのは、村の中にPCが多くいて賑わっている事だった。
ん〜5人姉妹は元気でやってるんだろうか。
PCが多くいるという事は、アテンダントスピリットと従魔2人を連れている僕が注目を浴びない訳がなく、様々な視線と囁き声が飛び交う。
チラチラはともかくジロジロはさすがに気分は良くない、がそんな事で文句を言う訳にも行かないのが辛い所だ。
さすがに金ピカ鎧の様なPCはいない様なのでちょっと安心する。
「果物屋さんに行きたいのです」
ララが周囲の視線を気にする事もなく村の中を進みながら、そんな事を言ってくる。
「うん、果物は買ってくけど、後はすぐに通り抜けま〜す」
ララの希望を了解し、そのまま通り過ぎることを姉が宣言する。
まぁ、悪目立ちしてるしなぁと僕が納得しかけてた時、前から声が掛けられる。
「マドモワゼル僕にあなたのひと時を頂けませんか?」
1人の男性NPCが僕達にそう話し掛けて来た。いや、僕達にじゃなく姉に向かってだ。
その男性NPCは服装こそ生成りのシャツに茶色のズボンを履いた(ベストだけは白地に赤の刺繡が全体に施されている派手なもの)ものを身に纏っていたけど、見目は金髪碧眼、鼻梁はすっと筋が通り涼し気な目元はキラキラと輝き姉を見据えている。
前髪がひと房動くとふわりと揺れる。動きも艶やかだ。
パーツひとつひとつを見ればイケメンと言ってもいいかも知れない。
顔と身体が丸くなければ――――ー
「ダメだよアンディ兄さん。そんな物言いだと誰にも相手されないよ。ね、セニョリータ」
アンディと呼ばれた彼の後ろから同じ顔の人物(ただし、左目脇にホクロがあり、赤地に金の刺繍のベスト)がやって来て姉にウィンクを1つ。
姉は変なものを踏んだか、不味い物を食べた時の様なイッヤーッ!な顔をして、スススと後ろへと移動する。
「HAHAHAHAHAHAッ!ダンディ、お前こそダメじゃないか!HAHAHAHAッ!それよりもLady俺はランディ。君の名前を是非教えてくれないか?その後お茶でもどうだい?オーケー?」
道の反対側から豪快に笑いながら話しかけて来る同じ顔の人物(口元左下にホクロでピンク地に銀で刺繍されたベスト)。その視線の先にはラミィさんがいた。
ラミィさんも青汁を飲み終わった時の様なうぇ〜っていう顔をしている。
「僕はインディと言います。あなたの様な方を探していました。おお、フロインライン」
甘い言葉を囁くような声を出し、片膝をつきながらアンリさんに手を差し伸べているやはり同じ顔の人物(口元右下にホクロで紫地の銅で刺繍されたベスト)。
「………何じゃこれ」
姉達3人が3人共目の前に表示されたホロウィンドウをひたすら連打している。
それにしてもNPCもナンパなんてするんだ。身長もそれなりにあるし、話し方ともそれ程気に障るものでもない。うざいけど。
惜しむらくは………本当に惜しむらくは、顔と身体が丸い事だけだった。
「ララ、サキちゃん達って何やってんの?あれ」
連打連打連打連打。男性NPCが話し掛ける度にホロウィンドウを押しまくっている。
「あれはPC同士のフレンド登録と同じなのです。NPCに対しても互いに接触許可申請が必要なのです」
ある意味必要な措置なんだろう。
下手にNPCに触れたり出来ると、良からぬことを考える輩がいないとも限らないしなぁ。
匿名性の闇というか傍若無人というか。
ある意味“人”というものの業みたいなもんか。(素性が知れてもやる奴はいるけどね)
3人がだんだん苛立っているのが見て分かる。
このままだとNoからYesに変えて殴りかねない。
その前に3人を止めようと1歩踏みだそうとした時、鈴の音が鳴るような可愛らしい声が響き渡る。
「兄さん達!仕事ほっぽって何やってんのよっ!バカぁっっ!!」
声のした方へ顔を向けると、そこにはゴスロリ衣装にエプロンを付けたNPCが眦を上げて立っていた。
そしてその声に姉たち3人にアプローチしていた男性NPC4人がビクッと肩を震わせ声の人物を見やる。
一瞬の沈黙の後、4人が慌ててその人物の元へと駆け寄り何やら弁明を始める。
「おっ、おとぉ、っ!………シンディ。仕方がないんだ。美しい存在には引き寄せられてしまう。僕達の使命であり運命なんだ」
「HAHAHAッ!そうだぞシンディ。これは俺の存在意義であり自己証明なのだ!HAHAHAッッ!」
「そうだとも、これこそ僕等の義務なんだ。あまねくフロイラインは愛を囁く存在なのだから」
「もちろん仕事はちゃんとやってるさ。シンディに迷惑をかけない範囲で愛を求めてるだけさ。もちろん分かるだろ?」
ある意味言い訳にもならない弁明にゴスロリNPCは青スジを立てて、4人に低く唸る様な声音で話し始める。
「ほぉおお~?仕事そっちのけで自分の趣味に走ってその挙句人様に迷惑をかけてるのに、兄さん達はそんな事しか言えないんだ~~~~………へぇぇえ゛え゛え゛っっ!!」
「ひっ!」「OHッッ!」「やっ」「まっ」
4人が両手を前に掲げて、何かを押し留める様に横に手を振り出す。
「さっさと仕事に戻ってっ!お客さんが待ってるんだからっっ!!」
「「「「はい―――――――っっ!!」」」」
ゴスロリNPCがビシッと建物を指し示すと、4人は慌てて自分の店?へと戻っていった。
後には僕達と周りを囲むようにやじ馬が残るのみ。目立ってる~。
そのやじ馬もことが終わったと見て散らばっていった。
周囲が元の静けさを取り戻すと、姉たちのところへゴスロリNPCがやって来て深々と頭を下げて謝ってきた。
「兄達が本当に申し訳ありませんでした。普段はとてもいい兄達なんですけど、色恋沙汰になると仕事そっちのけで目がイっちゃうんです。本当にすみませんでした」
先の4人と同じような顔で、ただし卵型の輪郭とすらっとしたスレンダーなスタイルは美形と言わざるを得ない。
毒気に中てられた姉達は、呆けたように口を開けてそれを見ていた。
いち早く復帰した姉が謝罪を受け入れ、その場が収まりやれやれと思っていたのだけど、僕を見たゴスロリNPCがさささと僕の目にやって来て挨拶を始める。
「こんにちは。あの、私シンディって言います。あの、良かったらお名前伺ってもいいですか?」
胸の前で手を組み祈るような仕種でこちらを上目遣いで見ながらシンディさんがそう言うと、僕の前にホロウィンドウが現れる。
触れ合い許可申請:許可しますか?
〈Yes〉 〈N о〉
んー、特に拒否する理由もないし、許可しても構わないかなと思い〈Yes〉を押そうとすると、何故か指が動かない。
はて?と思い手を見ると、姉が僕の腕を掴んでそのまま動かし〈N о〉を押してしまう。へ?何で?
「ごっめんね~シンディちゃん。あたし達急ぐから、それじゃあね!ほら、行くよっ」
姉がそう言って、僕を引っ張りながらすたすたたーと逃げる様に移動を開始する。
仕方ないので僕も引き連られながら後について行く。そしてラミィさんとアンリさんもそれに続く。何故かニヤニヤ笑っている。
「あぁ~~~~~っっ」
釣り上げた魚をばらして逃がした様な声が後ろから聞こえたけど、僕達は振り返らずにルウージ村を後にした。
なる程、アンリさんが口籠っていた理由は、こう言う事だったのかと僕は後になって気付いたのだった。
*
また兄達がいつもの悪癖で仕事をほっぽり出しているのに気付いて注意すべく表に出る。
宿を出て人だかりがある方へ向かうと、やはり兄達が3人の女性へ愛の言葉をかけていた。
相も変わらず懲りないことだ。でもあんなんでも1部の女性には何故かモテている。不思議だ。
相手の女性達を見てみると美少女2人と美女が1人。兄達の何気に趣味の良さに舌を巻きつつ様子を見ていると、3人が今にもキレそうな顔をしているのが目に入って来た。やっばっ。
兄達を怒鳴りつけ仕事場へと戻し、相手の女性達に謝罪をして許しを乞うてホッとした時、私は王子様を見つけてしまった。
エルフ族らしい彼は、長い髪を緩い三つ編みで纏め後ろに流し弓と矢筒を腰ベルトに収めていた。
灰色の見慣れない服がとても似合っている。
私はすぐに彼に近寄り名前を聞こうとしたが、邪魔が入って彼はこの場から去ってしまった。
私は熱に浮かされた様に、彼の姿を見えなくなるまで追い続けた。頬が熱い。
そして私は決意する。
彼の後を追う為、冒険者になることを。
その為にはまず兄達を説得しなければならない。
私はどうやって納得させようかと、頭の中で考えながら宿へと戻っていった。
そうだ。まずはギルドで登録をしよう。
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