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113.駄々こね(1名)の後出発

 

 

 VRルームで体を馴染ませてからライドシフトをして現実に戻る。HMVRDを外して軽く伸びをして立ち上がり、買い出しの準備をする。

 とは言っても、冷蔵庫の中を確認して何が要るのか考えるだけなんだけど。

 あれとあれ、ん、あれもかと冷蔵庫の中を見回して必要なものを頭の中へ記憶していく。

 あとはトイレットペーパーと洗剤とかかな。後は丸チューで見てその都度決めるとしよう。

 冷蔵庫のドアを閉めて、ディバッグを手にして出掛けることにする。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるね」

『行ってらっしゃいなのです』

 

 アパート担当(ララ)に声を掛けて、アパートを出てチャリに跨がり丸チューへ。

 

『残念ながら今日はFベジは入荷してないのです』

 

 端末のララがチャリをこぐ僕にそう声を掛けてくる。

 そっかー。まぁ、あればラッキーというだけの話だし、あればあったで競争激しいからならぁ。

 

 丸チューに到着すると、目的のものを買って他に気になったものもついでに買っておく。この時期はあまり新製品は出て来ないので、ある程度定番ものばかりになる。

 そこら辺もいくつか買って会計をして店を出ることにする。

 

 こうして買い出しを済ませて、帰ろうかと思い店を出て駐輪場に向かう途中で移動販売車を見かける。

 

「あ、チまみ〜バーガー屋だ」

 

 丸チューの駐車場の一角に見慣れた移動販売車ものがあった。

 これは買わないといけないでしょう!

 僕はきびすを返してそちらへと向かう。そしてカウンターに向かい声を掛ける。

 

「こんにちはー。やってますか?」

「らしゃ〜い〜。やってますよ〜」

 

 相も変わらずの店長さんが顔を出して話しかけてくる。

 

「ほんじゃ、セット3つお願いします。持ち帰りで」

「はいは〜い。少々お待ちを〜」

 

 僕が注文すると、さっそく店長さんがパテを焼き始める。

 じゅあ〜と肉の焼ける音が聞こえ、しばらくすると焼ける肉の香ばしい匂いが僕の鼻孔を擽ってくる。おふー。

 口に広がる唾液を飲み込んでいると、箱に収められたバーガーセットが目の前に現れる。どうやら肉の香りでトリップしていたようだ。慌てて代金を払い箱を受け取る。

 

「まいど〜。ってあっ、いつもありがとう〜よく会うねぇ〜」

「はい。僕こっちに住んでるんで。あっちは姉が住んでるんですよ。こっちにはよく来るんですか?」

 

 どうやら僕の事を覚えていた様で、店長さんがそんな風に声を掛けてきたので質問を交えて答える。

 

「いんや〜、今日初めてだよ〜。知り合いがこのスーパーにいて空いてる駐車場ところ使っていーよって言われたんでね〜」

 

 へぇ~そうなんだーと何とはなしに感心してると、店長さんが名刺サイズの紙のカードを出してきた。

 

「これポイントカード〜。20コ貯まったら1セット無料だから〜」

 

 渡されたカードには3つのスタンプが押されていた。金額じゃなくセット1つに付きスタンプ1コみたいだ。

 ってか端末じゃなく紙でのポイントカードってけっこー珍しいと思う。

 今はデータ採りも兼ねてメールでとかWebサイトで会員登録してからってのが通常だからだ。

 少しだけ他愛無い会話をしてから、箱を胸元に抱えて駐輪場へ向かいチャリに乗ってアパートへと向かう。

 いー買い物をした。お昼はチまみ〜バーガーだ。んふふ〜〜。

 

 

「はふー。美味かった―………」


 あれからすぐアパートに戻って買った物を冷蔵庫や収納スペースにしまった後、少しばかり早かったけど、お昼を食べる事にしてチまみ〜バーガーをいただいた。

 

 相変わらずの絶品ぶりであったけど、前と比べて少し味が変わっていた気がした。

 何が違うのかと言われてもほんのちょっとの変化なので、これだと言えるようなものじゃなかった。

 ただ以前より(むふー)美味しく感じ(むほー)たので、日々研鑚を店長のはーしているのだろうという事が分かったくらいだった(く、もう1……いや、これは―――ー)

 

 僕が追加で食べようかどうしようかと、懊悩して手を出したり引っ込めたりしてると、ドバガンッとドアが開けられる。もちろん誰かと問われれば姉しかいないのだが。

 

「キっラっく〜〜〜んっ!ごっは〜〜〜〜〜んっっ!!」

 

 ガクリ。

 今日に限って朝だけでなく昼もやって来るとは………。いや、3日に1度はやってくるのだけど、よもや今日に限ってやって来るとは予想出来なかった。くっ。

 

「のひょ~~っ!!キラくん、キラくんっ!これってチまみ~だよねっ!チまみチまみ~~っっ!!」

 

 聞きようによっては物騒な台詞に聞こえるフレーズを姉が繰り返す。やっぱネーミングよくないよね………これ。

 

 そんな訳でぺろりと2セット食べた姉と一緒にHMVRDを被りライドシフトしてログイン。(もちろん部屋は別々だ)

 僕がラビタンズネストに出現すると、併せてララとウリスケ、アトリが現れてきて挨拶をしてると、何やら言い争う声が聞こえてきた。

 

「ですから私はここに残りますと言ってるじゃありませんか!」

「いや、パーティープレイなんだから、おめぇいねーと困るじゃんかよ」

「いいえ!皆さんならきっと問題なく第3サークルエリアまで余裕で行けますっ!!私はここで健闘をお祈りしていますから」(ニコッ)

「いや、祈るなよ」

 

 広場でラミィさんとメイド姿(!)のアンリさんが、行く行かないと言い合っていた。

 僕に気付いた姉は、処置なしといった風に肩を竦めている。

 

「サキちゃん、どうしたのこれ?なんか揉めてるみたいだけど………」

 

 何となく分かっちゃいるのだけど、一応姉に聞いてみる。

 

「アンリがラビタンズネスト(ここ)から出たくないって駄々こねてるのよ」

 

 ありや~やっぱそうか。まぁ侍従長になるぐらい?だから仕方ないのかもしれない。

 別に行きたくなければそれでいーと思うんだけど、ラミィさんとしては魔法使いの火力は必要と思ってるんだろう。 

 

 僕が2人に声を掛けようとすると、ちびラビタンズが声を掛けてくる。

 

「おうさま。おでかけする〜〜ぅ?」

 

 白毛のスモックを来たちみっ子が首を傾げて聞いてきた。

 僕はしゃがみつつ目線を合わせてちみっ子に答える。

 

「うん。ちょっとしばらくの間、西の方へ行くことにしたんだ。いっぱいお土産とお話するからね」

 

 ちびラビタンズの3人がおーっと目を輝かせ声を上げる。それから嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。

 

「グッグッグ!」

 

 ウリスケが2本足で立ち上がり、身振り手振りで側にいるラビタンズに何やら話をしている。

 

「おおぅ、ウリスケどの。たのみましたぞ」

 

 ラビタンズの1人がそう言ってウリスケと手と前足とをパチンと叩き合っている。

 何を話し合ってるのかはよく分からないけど、仲良さそ~だなぁとは思う。

 

「おうさま〜。じじゅーちょーぷんぷんしてるのなぜぇ?」

 

 垂れ耳のちびラビタンズが僕の袖をクイクイしてラミィさんとアンリさんの方を見て聞いてくる。

 

「んー。アンリさんがここから出たくないって言ってるんだ。本来なら僕達と一緒に行く予定だったから、ラミィとちょっと話し合ってるんだ」

 

 おーっと納得した様なちびラビタンズが手をポポンと叩く。そして3人のちびラビタンズが集まってこしょこしょ話をしたかと思うとアンリさんたちの方へ行って話を始める。

 

「じじゅーちょー、おねがいー」

「おねがい〜」「おねがい〜」

「はいはい、何ですかぁ〜皆さん」

 

 アンリさんはレミィさんとの会話をぶった斬り、しゃがんでちびラビタンズへと話し掛ける。

 ………これは重症だ。

 

「おうさまとぼーけんいったら、おはなしきかせて?」

「はぐっ!」

 

 その言葉を聞いてダメージを受けたように仰け反り胸を押さえる。

 アレはクリティカルヒットってやつだな。

 

「おねがいー」「おねがい〜」「おねー」

 

 ちびラビタンズがそう言いながらピョンピョン跳ねる。

 

「おおっ!じじゅうちょうが、おうさまについてくださるならあんしんだ」

 

 数人のラビタンズがわらわらアンリさんに群がりそう言っている。

 跪きながら僕を涙目できっと睨んで、すぐに目を逸らす。

 いや、僕のせいじゃないので、睨まれても困る。すぐ目を逸らしたのは、姉が冷たい視線をアンリさんへ向け睥睨してるのが見えたからだろう。

 

「サキちゃん」

「ふ―――――んっ」

 

 僕が注意すると、いつの間にか抱き上げていたラビタンズをモフモフしていた。

 

「まーしゃあねぇけどなー。かぁーいーからな―こいつ等」

 

 頭に1人乗せもう1人のラビタンズを腕に抱えたラミィさんが、アンリさんの様子を呆れ気味に見ながら僕等の方に来てそう言ってくる。

 その間もアンリさんは顔を俯かせ、葛藤するようにフルフル身体を震わせている。

 

「おねがい~、だめぇ~~ぇ?」「だめ?」「だ~めぇ~?」

 

 つぶらな瞳でそんな台詞を吐かれた日には、僕でも陥落してしまうだろう。ましてやアンリさんでは。………恐るべし、ちびラビタンズ。

 

「………。………く、分かりました」

 

 最後とどめの一撃に覚悟を決めた様にアンリさんが顔を上げ立ち上がり宣言する。

 

「侍従長である私は……くっ。皆様の言葉に従い、王様と一緒に西へ向かいます!くぅ………」

 

 悔しそうに本当に悔しそうに宣言していた。

 だけど、こんなキャラ(ひと)だったんだろうか、アンリさんって………。

 ちびラビタンズをモフモフしてるアンリさんを見て僕は思わず独りごちる。

 まぁ、本人が行くといったのだからいいんじゃないかなと本人の気持ちとは裏腹ではあるがと、そう納得させる。

  それに村や街に行けば転移ゲートを使ってプロロアに戻れると思うので、そこまで悲観する事はないと僕なんかは思ってる。

 

 でも出発前からこんな風にもめるのもちょっとばかりヤな感じがしないでもない。

 うん!これはきっともっとこのあたりでLv上げをしろと言う神様うんえいの思し召しなのではないかなどと妄想をしてると、僕の考えを読んだ様に姉が否定をしてくる。

 

「ぶっぶーっ。誰もそんな事は思ってい~ま~セ~ん~っ。だいたいLv10~15で次のエリアに行くのがふつ―なんだから、踏破率は別としてLv上がり難くなるんだからね」

 

 ラビタンズの背中に頬をスリスリしながら、姉がそう言う。

 んー、何も言ってないのにララと言い姉と言い先回りして言われるのは、ララはともかく姉までとなると考えると、僕って顔に出易いんだろうか?

 僕が自分の顔をさすりほっぺをムニムニしてると、アンリさんがこっちにやって来た。

 

「お待たせしました。では行きましょう」

 

 顔が無表情なのは不本意であるとの意思表示なのか、メイド姿のアンリさんが話しかけて来た。

 

「その格好で行くんですか?目立ちません?それ」

 

 僕はその姿を見てつい聞いてしまう。

 アンリさんの姿はいわゆる伝統的な足元まであるロングスカートにパフスリーブの袖、頭にはフリル付きのプリムを付けている。

 メイド喫茶とは別次元のオーソドックスなメイド服だったのだ。

 

「問題ありません。目立つと言われてもラギさんに比べれば、それ程目立つものでもありませんから」

 

 アンリさんがしれっとそんな台詞を吐いてくる。棘あるなー。

 僕目立ってるかなぁーと周りを見回すとララにウリスケ頭にアトリと、ある意味他のPCと一線を画していると理解できてしまった。

 

「それにその灰色の服も他のPC(かた)と趣が違うので、充分目立っていると思いますが?

 

 くっ、痛いところを突いてきた。自分の放った言葉がぐるりと返ってくる。まさにブーメラン。

 

「んだなー、ラギ。どうーしたん、それ?」


 ラミィさんも気付いた様に興味を示してきた。

 

「知り合いのPC(プレイヤー)に作って貰ったんだ。着てたのを見てカッコイーなって思って」

 

 へっへーっと笑うが、皆の表情を見るとあんまり評判は良く無さ気だ。

 

「作務衣っぽいよな。世界観ぶっ壊してるけど」

「見た目地味なのに浮いてますよね、それ」

 

 酷い言い草だが本人が気に入ってるので、気にしない。ふーん気にしないもーん。

 2人がそんなぶっちゃけをしてるのを聞いてると袖をクイクイと姉がしてくる。

 

「ラギくん、ラギくん。後でそのPC(ひと)紹介してね。注文するから」

 

 こそっと小声で姉が頼んできた。おおう、さすが姉は分かっている。

 

「うん、分かった。連絡してみるね」

「うん。へへ〜〜っ。ラギくんとおっ揃い〜〜☆」

 

 ………そっちか。まぁ1人より2人にならば浮く事もそれ程なくなるかも知れない。多分………。

 広めるつもりは無いけれど、やっぱ1人じゃ悪目立ちするもんなぁ。

 

 アンリさんがラビタンズ達との別れを惜しみつつ、僕達はラビタンズネストを出てそのまま西へと進む事にする。

 

 

 

(ー「ー)ゝ お読みいただき嬉しゅうございます

 

ブクマありがとうございます (T△T)ゞ (ガンバリマッス)

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