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11.キラくんの行動を観察する その1

姉回です。長くなりそうなので区切ります。

ブクマありがとうございます。

 

 

 ササザキ キラは私の弟である。あたしが初めて会ったのは、彼が5才私が10歳の時だ。

 母方の血筋なのか、光りの加減によってキラリと輝く茶色の髪。幼いながらも何か魅惑するような蕩ける甘いマスク。

 男というモノに忌避を持つ私でも認めざるを得ない紅顔の美少年というものだった。

 人見知りするタイプらしく自己紹介の時も、義父の腰を掴みながら上目使いで挨拶をする。


「ささざき きらです」


 何このカワイイ生き物は!将来獣欲に塗れるであろう人間であるにも拘らず、それを忘れさせるような琥珀の瞳。

 止めは私の名前を問い返したときの表情だ。


「サキちゃん?」


ズギュ-ンとスナイパーライフルで心の柔らかな部分を打ち抜かれる感覚を受ける。この年で男というものに嫌悪感しかもちえていなかった私をして受けるこの衝撃。

 まずいっ!もし道を誤れば“たらし”や“こまし”になってしまう未来しか見えない。

 あたしがこの子を守り、教育しなければ!!その時そう決意したものだった。

 

 |HMVRD《ヘッドマウントVRデバイス》を頭にかぶり、脳波とバイタルを電子変換する3分間にそんな取り留めのない昔のことを思い出す。

 様々なチぇックを経て、カウントダウンが始まる。


『3…2…1――RIDE SHIFT』


 そう機械音声が喋りスゥーッと身体の力が抜けて、また戻ってくる。


『RIDE SHIFT:COMPLETE ようこそ VRマイルームへ』


 その部屋には8畳ほどのスペースで、中央に私が座っている1人掛けのソファと四面の壁全てに設置された収納棚、そして中に納められている大量の文庫本の様なモノで占められていた。


「アトラティース・ワンダラー」


 あたしがそう言うと棚に納められていたものがひとつ、宙に浮かび目の前にやってくる。

 そのアトラティース・ワンダラーというゲームソフトのパッケージが描かれている。それを指でタップ。

 するとログインしますか?の文字が出てくる。すかさずタップ。『いってらっしゃいませ』の声が響きゲームソフトのアイコンが壁一面に拡大して、あたしを呑み込むように迫ってくる。あたしはただそれを見ている。そして呑み込まれる。


『ようこそ。アトラティース・ワンダラーへ』


 気がつくと石畳と古そうな石造りの街並みが目のの前にある。

 最初の街プロロアだ。初めてのプレイヤーは種族問わず、まずこの街でゲームを始めることになる。

 そして、マップを埋めていく度に種族ごとのイベントが起こるようになる。

 そこら辺は、冒険者ギルドの初級クエストを受ければ理解できる。 (いわゆるチュートリアルの様なものだ) 

 その後は、パーティーを組んだり、生産活動に励んだり自由に自分の好きなように遊ぶ訳だ。

 さて、キラくんは何処にいるかなっと。

 時計台広場と見回しキラくんがいないかを上空から探す。

 今の私は、羽翼小虎ホーリィンティガルにまたがる白銀の鎧をまとった小妖精ヴァルキュアの姿をしている。

 開発者特権のプレイパペットだ。不可視化にして周囲に見えないように行動できる優れモノだ。

 んーダメだ。さっぱり分からない。仕方ないので、ウィンドウを出し、プレイヤーIDから検索する。いた。

 大通りを人に何かを聞きながら走っている。道具屋に飛び込んですぐに出てくる。何を急いでるんだろう。

 時計台広場の草むらに向かうと、そこで何やら操作をしてるようだ。

 あ、思い出した。ゲームに初めてログインした者に与えられるシークレットイベント。

 アテンダントスピリットの取得イベント。このゲームのプレイヤーの1%も手に入れていないアイテム。

 手に入れられれば、ゲーム内のナビゲートや命令すれば戦闘にも参加する小ズルなモノ。

 開発責任者しゃちょうにこんなん配って大丈夫なの?と聞くと腹黒い笑顔で宣った。


「大丈夫、大丈夫!みんな絶対見殺しにするから。よほど慈愛の人やお人好しでもない限りクリアなんかは出来っこないって」


 そんな事を言ってたのにも関わらず、3ケタに迫る数の人間がイベントをクリアしていた。

 「いやぁ、私も認識を改めなきゃね!」と笑って言っていたがそりゃ分母が大きくなればなる程、パーセンテージが0でなければ、数字が増えるのは当たり前である。

 はたしてキラくんはどうなのか――――――クリアしちゃいました。さすが私のキラくん。

 

 そして、アテンダントスピリットに気づいたプレイヤー達がざわめき出す。

 その様子にキラくんは、いきなり走り出す。大通りを奴等と反対方向に駆け出す。それを見て思わず追い掛ける人間達バカども

 あれは条件反射だ。今迄の人生の経験則で、集団に集れるとろくな目にしか合わないと認識しているが故の反射行動だ。半分はあたしのせいの様だが、もう半分はキラくん自身のせいだ。

 目立たぬように、髪で目を隠したりダサい格好をさせていたにもかかわらず、素顔を晒したりして“フ”のつく女子に目敏くロックオンされたりするのだ。あのBがつくものとか、ショとかいうものが大好物の女子達が!その度に私が………ブツブツ。

 いや、それはともかくキラくんを追い掛けなければ。

 

 危険を察知したキラくんが、大通りから脇道へと方向を変える。このプロロアは大通りが単調な分、脇道は迷路のようにようになっている。プレイヤー達にメイズストリートと呼ばれる所以だ。

 網目のような路地をキラくんはスイスイ進んでいく。右に左にジャンプと脇道を中程まで進んでいくと、下卑た笑いを浮かべた奴らはキラくんを見失い諦めて大通りへ戻ろうと今来た道を聞き返す。

 

 あたしがそんなことを許すはずあろうもない。奴等のマップメモリープログラムを記録しても1分後に掻き消えるように期限付きで変更する。しばらくはイベントも進めず立ち往生するだろう。

 キラくんを恐れさせたバツだ。甘んじて受けるがいい。ふふっ。

 

 さてキラくんといえば、十字路でただ突っ立ていた。

 どうやらどちらに進めばいいか迷っているみたいだ。来た道を戻るのは愚策だし、進んでも通りに出れるのかと考えているのだろう。ふむん。ここはあたしがひと肌脱ぐとしよう。


『さぁ、行くわよメギエス』

『ガ―――――ゥ』


 ホーリィンティガルがふわりと浮かび上がり、路地へヒューと進んでいく。キラくんが手に入れた小妖精をチラと見やる。気づいた小妖精はキラくんを促して後ろから付いてくる。


『マスター。こっちなのです』


 マップを取り出し全体図が見えるように縮小表示させる。ってか、ここ本当に道がグチャグチャになってるわね。開発責任者しゃちょうは、お遊びなのでてってー的に作り込みましたとかアホなことを言っていたが作り込み過ぎだ。このゲームは、プレイヤーの気付かないイベントを盛り込み過ぎだと思う。

 

 マップを見ながら袋小路を避け障害物を飛び越え路地を突き進む。これだけでプレイヤースキル (マスクデータになってる)のLvがガンガン上がりそうな感じだ。キラくんガンバ!

 やがて、路地の向こうに景色が見えてくる。あと少し、と後ろを見ると小妖精が先頭になりキラくんを振り返りながら、こっちに向かっている。ん、もう大丈夫だろう。

 

 あたし達はそもまま上空へと上って行く。それを見ていた小妖精はペコリとお辞儀をする。ん?あれ?アテンダントスピリットってあんなこと出来たかしら。確かキーアクティブタイプのAIしか積んでない筈よねこのゲーム。

 

 ………ふふっ、相変わらずキラくんの周りは面白いことが起こるわよね。あたしは雑木林へ向かって行ったキラくん達を見ながら笑みを漏らす。






(ー「ー)ゝ 読んできただき嬉しゅうございます

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